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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第六章「教導者時代:諸国編」

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第四十六話「鬼人族の影」

 十二月五日。


 アクィラの山の調査から三ヶ月が過ぎた。

 その間、リッカデールから討伐依頼を受けて何度か山に入っているが、十月に入るとそれまでのような魔物の激しい攻撃はなくなり、頻発していた冒険者の未帰還も激減する。


 十月に入った頃から何度もアクィラの奥地に入っているが、行方不明者の情報はおろか、大魔(グレーターデーモン)の姿も見ていない。


 そして十一月に入ると、魔物自体が極端に減り、拍子抜けするほどアクィラの山は静かになった。

 冒険者ギルドも行方不明になった冒険者のことは気になるようだが、終息宣言を出すしかなく、十一月半ばには正式に終息したという発表がなされている。


 十二月に入り、標高が高いリッカデールでは気温が一気に下がっている。

 防寒対策をして森に入るが、そろそろ雪が積もるようになるということなので、一度故郷ラスモア村に戻ってもいいのではないかと思い始めている。


 それでも俺たちはリッカデールに残っていた。大魔の問題が解決したわけではなく、神々の敵、つまりルナに害を成す存在である可能性が残っているからだ。


 ただ無報酬で山に入るばかりではない。

 今日もリッカデール周辺で魔物の討伐依頼を受けている。受けた依頼は大鬼(オーガ)五体の討伐だ。

 オーガの討伐を受けるのは魔族との関係を懸念してのことで、鬼人族と呼ばれる種族のうち、大鬼族がオーガを使役するためだ。


 また、オーガやオークなどの鬼系の魔物の討伐は他の冒険者たちに敬遠されやすいということもある。だから、俺たちが率先して依頼を受けているのだ。


 敬遠される理由だが、鬼系の魔物は素材となるものを残さないことが大きい。

 獣系や昆虫系なら皮や甲殻などの素材を残すため、それが副収入となる。特に四級以上の魔物の素材は常に品薄で高値で買い取ってもらえるため、討伐の報酬より多くなることもあるほどだ。

 しかし、鬼系の魔物は同じ危険度でも副収入が入らない。当然、旨味のある別の魔物の討伐の方が人気が出るということだ。


 他にも鬼系の魔物が嫌われる理由がある。それは繁殖力の強さだ。

 オーガや丘鬼(トロール)牛鬼(ミノタウルス)のような大型の鬼系魔物の場合は、さすがに爆発的に増えることはないが、小鬼(ゴブリン)犬鬼(コボルト)中鬼(オーク)などは月単位で数が増えていく。

 そのため、短期間放っておくだけでも危険度は一気に上昇する。実際に鬼系の討伐の場合、依頼にある数より増えていることが圧倒的に多く、それがリスクとなる。


 また、他の上級の魔物は滅多に群れを作らないが、鬼系の魔物は群れを作る。ゴブリンやコボルトなどは言うに及ばず、三級相当のオーガやトロールでも三十体近い数の群れとなる。それだけの数を相手にするのは俺たちでもしんどい。


 もちろん、今回の依頼のオーガ五体程度ならまったく苦にならない。仮に十体が相手でも、別の魔物が乱入するなどの不測の事態さえ起きなければ無傷で倒せると思っている。

 唯一面倒なのは相手を探すことだが、オーガの場合、近くに行けば女性の匂いに気づいて勝手に近づいてきてくれるため割と楽だ。このことをリディたちに言うと露骨に嫌な顔をするので言ってはいないが。



 今日の依頼はリッカデールから北東に五キロメートルくらいの場所で、オーガの群れの足跡を見つけたという情報があり、それを討伐に行くというものだ。

 最近ではこの辺りの森にも慣れたので、半日程度で終えられる簡単な依頼だ。


 順調に森の中を進み、情報にあった場所に到着する。斥候役は俺かリディだが、オーガが相手であるため、俺が先行して周囲を探る。

 足跡はすぐに見つかり、情報通り五体程度であることが分かった。比較的新しい足跡で、この辺りを縄張りにしている感じだ。足跡は北に向かって続いていた。


 更に調べていくと、思わず声が出そうになるほど違和感のある物を見つけた。

 それはちょうど顔を上げたタイミングで見つけたもので、高さは二メートル強。そこに刃物で払われた木の枝があったのだ。


「こんな高さの枝を払う必要があるのか……」


 そして更に調べると、何箇所か枝が払われており、すべて比較的高い場所だった。他にも二メートルほどのところに小さな布らしき物が引っ掛かっていた。布は比較的新しく、帆布のような頑丈なものだった。


 そこで全員を呼び、見つけたものを説明する。


「オーガが刃物を使うという話はあまり聞きませんね」とシャロンがいい、


「こいつは魔族かもしれないね」とベアトリスが呟く。


「どうしますか? このまま足跡を追いますか?」とメルが確認してきた。


 俺もその点を悩んでいる。

 その足跡は比較的新しく、見た感じでは二日ほどしか経っていない。普通のオーガなら縄張りの中から大きく出ることはないが、大鬼族が使役している場合には当てはまらない可能性が高い。

 歩幅が大きいオーガや大鬼族なら歩きにくい森でもそれほど苦にしないから、本格的に追うならそれなりに準備をした方がいい。


「一度戻ってギルドに情報を入れた方がいいわ」とリディが提案する。


「あたしもリディアに賛成だね」とベアトリスが言ったことで方針は決まった。



 それから周囲に注意しながらリッカデールに戻る。

 冒険者ギルドのリッカデール支部に入ると、すぐに状況を報告した。

 受付の職員は「刃物で枝を払った跡ですか」とあまり緊張感がない。


「誰かが剣を振っていたんじゃないですか。顔の辺りにあったらうっとうしいからと」


「そんな無駄なことをするでしょうか」と疑問を口にするが、


「どこからも魔族の情報は入っていないですからね。まあ、九月の話は未解決ですけど」


 職員もそれだけの情報では動けないようだ。


「分かりました。でも念のため、支部長に話を通しておいてください。支部長の判断次第ですけど、総本部にも連絡を入れた方がいいと思います」


 二級冒険者である俺からの提案であり無下にはできないと考え、「分かりました。支部長には話しておきます」とすぐに了承してくれた。


 結局それ以上の話はできなかったが、ここにいる冒険者たちには情報を流しておいた。



 翌日、再びオーガの足跡のあった場所に向かう。できる限り痕跡を追い、何をしようとしているのか突き止めるつもりだ。


 足跡はまだ残っており、追跡自体は可能だった。しかし、空は厚い雲に覆われ、雪が降る恐れがあった。


「雪が降ったらそこで諦めるが、追えるところまで追う。三ヶ月も間が空いているから関係ないかもしれないが、どうしても気になる」


「そうだね。調べること自体は悪いことじゃない。ただ追い切れるかっていうのが気になるね」


 ベアトリスの言葉に「この先に村や町がないからか?」と確認する。


「ここから北に向かっても山に入るだけなんだ。北西に向かえばラクス王国だが、フォンス街道まで出ないと町や村はほとんどないから、あたしらもそうそう追いかけられないしね」


 彼女の言う通り、リッカデールの北はアクィラ山脈が張り出しており、町や村はない。魔族がどこかを目指しているとして、追いつけなければ、目的地の目途すら付けられない。そうなると漠然とした報告にならざるを得ず、ギルドとしても扱いに困るだろう。


 それでも近くに拠点を作っている可能性は否定できない。リッカデールからペリクリトルの周辺だけでもできるだけ調査をして、ルナの障害にならないようにするつもりだ。


 足跡は北に向かって進んでいた。フラフラとしている感じがなく、獲物を探しているとは思えなかった。

 その日は十キロほど北上したところで夜を迎えた。

 土属性魔法で簡易拠点を作り、そこで野営し、翌日に備える。


 食事を摂りながら今日の追跡について話し合った。


「どう考えても不自然だ。餌を漁る感じがまったくない」と俺が言うと、四人も同意するように頷く。


 これは追跡の途中で気づいたことで、五体のオーガが餌を食うなら大物の獣が必要になる。

 餌となった大型の鹿の骨が埋められており、餌を食べていないわけではないが、仕留めた時や貪るように食べた血の跡などが見つからなかったのだ。


「休憩を取った場所も不自然だったわ。オーガが大人しく座って休憩するなんておかしいわよ」


 リディが言う通り、何箇所かで休憩を取った形跡があった。倒木に座る形で休んでおり、粗野な魔物という感じがしない。


「やはり大鬼族でしょうか?」とシャロンが聞いてきた。


「可能性は高いな。枝を払った跡も相変わらずある」


「でも、オークでも剣を使うことがあったと思うんですけど」とメルが言ってきた。


 確かにルナの出身地ティセク村を襲ったオークは剣を持っていたし、操り手(テイマー)らしき魔族の姿はなかった。


「確かにそうだが、オークの場合、人間用の武器が使えるが、オーガには人間用は小さすぎて使えない」


「そうね」とリディが頷く。


 人間の倍の大きさの持つオーガが人間用の武器を使うとは考えにくい。両手用の剣や斧ならまだ分からないでもないが、長剣などの片手武器では小さすぎて使いづらすぎる。人間並みに器用ならともかく、魔物に過ぎないオーガがそんな器用なことをするとはとても思えないのだ。


「そう考えると、魔族が関与している可能性が高いんだが……ただ証拠としては弱いって感じだな。明日以降で何か見つかればいいんだが……」


「そうですね。でも、明日は雪になりそうですし……」


 そう言ってブルッと震える。

 その言葉通り、翌日の十二月七日は朝から雪が舞っていた。そのため、俺たちはリッカデールに戻ることにした。


 その日の夜にリッカデールに到着し、その足でギルドの支部に報告にいく。


「オーガの群れは北に向かっていました。ただ気になるのは刃物を使っていること、オーガにしては理性的であることです」


「刃物ですか……まあ、オークやゴブリンも使いますからありえないわけではないですから。北に十km(キメル)も離れたのでしたら、討伐は不要です。この依頼は完了として扱いましょう」


「総本部への報告はどうなりましたか」と聞くと、


「念のため情報は送ってあります」


 支部長も俺たちが二級冒険者ということで念のため、総本部に情報を送ったようだ。


「この件はどうなるんですか」とシャロンが聞くと、


「今回の結果も報告しますよ。ザックさんたちのパーティが見つけた話ですから放置するわけにはいきませんので。ですが、総本部も何もできないと思います。この時期ですし、まだリッカデール(ここ)に二級冒険者が戻り切っていませんから」


 真冬の森に大規模な調査隊を送るには証拠が弱すぎることと九月の大規模な調査で二級冒険者たちがペリクリトルに引き上げており、未だに二組のパーティしか戻っておらず、質的にも大々的に調査を行うことは難しい。


 雪が止んだ後、再び森に入って調査を行ったが、オーガの痕跡はなかった。


 一度、ペリクリトルに戻り、総本部に報告に行ったが、証拠が弱いということで取り合ってもらえなかった。

 もっとも俺もこの情報でギルドが動く可能性は低いと思っていたので意外ではなかった。別の情報を得ている可能性に期待しただけなのだ。


 結局、俺にできることはなく、再びリッカデールに戻った。


■■■


 ザカライアスたちが追ったオーガの一団には彼の予想通り、大鬼族の操り手(テイマー)がいた。

 テイマーは眷属のオーガ四体と翼魔族と呼ばれる魔族の女二人と共に北上していた。


 彼らはザカライアスたちの僅か二日前にその場を通過している。もしそのタイミングが遅ければ上空を飛ぶ翼魔族がザカライアスらに発見された可能性が高い。そうなった場合、ザカライアスたちは執拗に追い続けただろう。


 そして、大鬼族のテイマー一名、翼魔族の呪術師一名、見習い一名、オーガ四体ではザカライアスのパーティに対抗することはできず、捕えられるか殲滅されたことだろう。その場合、目的を達成することはできなかった可能性が高い。

 彼らは気づいていなかったが、僅かな時間のずれという幸運に助けられたのだ。


 テイマーはラクス王国の辺境で冬を過ごしながら眷属を増やしていく。更に呪術師は転移の魔法陣を設置し、別の仲間を呼び寄せた。

 その仲間は中鬼族のテイマーたちで、呪術師の協力の下、眷属であるオークを召喚していく。


 半年後、テイマーは増やした眷属と、翼魔族が召喚した翼魔や小魔と共に、ある砦を襲った。

 それがトリア歴三〇二五年における魔族の侵攻の号砲となった。


 しかし、アクィラの西側に入り込んだ魔族は彼らだけではなかった。

 冒険者ギルドやザカライアスが予想した通り、アクィラの山の中である儀式が行われていたのだ。

 その儀式は凄惨なもので再びアクィラが揺れ始めた。文字通り山が揺らいだのだ。

今年最後の投稿となりました。

今年中に終わらせるつもりでしたが、なかなか予定通りにはいきませんでした。

来年こそは完結させますので、これからも応援よろしくお願いします。


それでは少し早いですが、よいお年を!

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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