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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第五章「教導者時代:帝国編」

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第九十二話「ウェルバーン出立」

第五章の最終話です。

 四月二十日。

 ウェルバーンで当初予定していた用事は全て済み、今日ラスモア村に向けて出発する。

 キルナレックと周辺の三つの村の譲渡についても問題なく手続きを終えた。辺境伯との協議に際し、ロックハート家の方針を伝えている。


「キルナレックについては当面、現状通りの自治を許すつもりです。バルドック、ウーズリー、シフェレスの各村については、定期的に騎士を派遣しながら様子を見るつもりです……」


 城塞都市であるキルナレック市はアウレラを盟主とする都市国家連合に加盟している。但し、ラズウェル辺境伯家の領地でもあるため、自治権を得る代わりに租税額に上乗せした上納金を支払っている。


 キルナレック市の人口は約三千五百人、約九百世帯だ。人頭税や所得税などで市民の収入の五十パーセントほどが税収となっており、二百万クローナ、二十億円ほどになる。また、入市税によって三十万クローナ以上の税収がある。


 当然のことながら、そのすべてがラズウェル家に入ってくるわけではなく、市の運営に必要な経費を除いた分になる。その金額はおよそ五十万クローナだ。

 これに都市国家連合からの上納金五十万クローナが加わり、百万クローナがラズウェル家に一旦入る。但し、このうち、帝国政府に半分を入れなければならず、実際には五十万クローナ、五億円がラズウェル家の取り分となる。

 一方、ロックハート家は納税の義務を免除されており、百万クローナが丸々懐に入る。


 バルドック、シフェレス、ウーズリー村だが、合わせると人口は千五百人弱で、ラスモア村のおよそ倍だ。

 これらの村は開拓村ということで、税はほとんど免除されている。その代わり、何かあっても帝国およびラズウェル辺境伯家は兵士を派遣することはなく、防衛の義務を履行していない。祖父が来る前のラスモア村とほぼ同じ状態だ。

 これまではキルナレック市が収税を代行していたが、三つの村を合わせても納められる税は五万クローナほどしかなかったそうだ。


 但し、これは三つの村とキルナレックが上手くやっていたためだ。ラスモア村でスコッチを作り始めた際、これらの村からも麦を買うようになった。また、家臣であるニコラス・ガーランドが農業指導を行い、生産量も飛躍的に上がっているため、本来なら五倍以上の税収があったと推定される。

 この事実には辺境伯も「確認しなかった儂のミスじゃな」と苦笑いするしかなかった。


 三つの村については二つの方針を選ばせる予定だ。

 適正な納税を行うか、ラスモア村並みの自警団を育てるかという選択だ。つまり、租税か兵役かという選択肢を与えることになる。

 これはラスモア村との公平性の観点から決めたものだ。


 ラスモア村の税は非常に安い。農家の場合、緊急時の備蓄分を納めればよく、税率に換算すると五パーセント程度しかないはずだ。これは元々ロックハート家が現金をあまり必要としなかったことが大きいが、自警団への参加が義務付けられていることも大きな理由だ。

 つまり、ラスモア村並みの税率を希望するなら、同等の兵役の義務を果たせということだ。それが嫌なら適正な税を納めろということになる。


 言い方はきついが、反発は少ないと考えている。

 今考えている税率は三割程度で、帝国の平均である五割を大きく下回る予定だ。また、農業指導と安定的な買い付けによって充分な現金収入もあり、三割程度の税負担で困窮することは考えられない。


 それ以前にロックハート家の人気は絶大であり、問題は起こりえないだろう。

 三つの村もロックハート領に加わることを名誉に思っていると言っているし、実際、ロックハート領になれば今より安全になることは間違いない。


 現在、アクィラ山脈から下りてくる魔物はロックハート家によって殲滅されている。そのため、三つの村に行くことは稀だ。

 しかし、北にあるカルシュ峠や東にある小さな山、シェハリオン山から魔物が流れ込むことがある。三つの村では近くに魔物が出た場合、キルナレックの冒険者ギルドに依頼を出して退治してもらっている。


 シェハリオン山はラスモア村の自警団が定期的に魔物を間引いているため、比較的弱い魔物しか下りていかないが、北のカルシュ峠からは稀にオーガのような大物が迷い込むことがあり、今でも十年に一回程度、大きな被害に見舞われている。


 ロックハート領になれば、三キロメートルほどしか離れていないキルナレックにいる警備隊が動くことができるので、相当大きな群れでもない限り、安全は確保できる。そう考えると、ラスモア村並の自警団を作ることなく、税を払う方を選ぶのではないかと思っている。


 キルナレック市だが、自治権は与えるものの、警備隊の指揮権はロックハート家が握る予定だ。これについてはアンデッドの大群のような事態が起きた場合に、ロックハート家の指揮官がいないという状況を作りたくないという理由がある。もっともキルナレック市側からも要請されており、問題になることはない。

 現状では元傭兵のバイロン・シードルフを警備隊長に当てる予定だ。



 蒸留所の建設についてだが、マッケラン村の他に三ヶ所の候補地を見つけており、それぞれ二から三の蒸留所が作れる。これでウェルバーン市周辺の蒸留所は十以上作ることが可能だ。

 また、候補地を回った感じではウェルバーン周辺はスコッチの生産に向いた土地であることが分かっており、更に発展する可能性が高いと鍛冶師ギルドに報告してある。

 将来、アルス周辺と並んで一大産地になる可能性は高い。


 この他にはシム・マーロンとアンジェリカ・コールリッジの結婚の話があるが、こちらは問題なく認められた。

 シムは兄と一緒に魔物と盗賊の掃討作戦に参加するため、その間にこちらで結婚式を挙げ、ラスモア村に戻ってから改めてもう一度結婚式を挙げる予定になっている。


 その掃討作戦だが、残るのは兄とシム、ロザリーとアンジーの四人となった。アンジーは結婚のことがあるためだが、ロザリーは兄と共に作戦に参加したいと申し出たためだ。


「私が先頭に立てば、騎士団は奮い立ってくれると思います。士気を上げるための策としては良い考えではないでしょうか」


 父と辺境伯にそう言って直談判し、二人もその有効性を認め、残ることを承認した。

 実際、姫騎士と呼ばれ、騎士団だけでなく、ウェルバーン市民に絶大な人気があるロザリーが兄と共に戦場に立てば、騎士団のやる気は上がり、成果は大いに上がるだろう。また、盗賊たちもやる気に満ちた騎士団を見れば危機感を募らせ、容易に戻ってこられないはずだ。

 そう考えるといい案なのだが、脳筋になりつつある兄嫁が怪我をしないか心配になる。

 兄たちは掃討作戦に参加するため、既にウェルバーンを離れている。


 そして、ウェルバーンに着いて最初に感じた辺境伯たちの精神状態だが、ここ数日で見違えるほどよくなっている。

 緻密でありながらも豪放な政治家である辺境伯が不安に苛まれていることで、周囲は更に不安に思っていたらしい。そのため、辺境伯が元通りになったことで、北部総督府の役人や騎士団の兵士たちの不安も払拭され、城全体に明るさが戻っていた。


 これには鍛冶師ギルドが大きく貢献した。

 蒸留所建設予定地視察の際の話を積極的に広めたことから、市民たちも半信半疑ながらも北部がいい方向に向かっていると思えるようになった。更に辺境伯が城から出ることが多くなり、実際に明るい表情を見せるようになったことから一気にその話が広まった。


 その陰にバーバラ・ハーディング侍女長の活躍があったが、それは城に勤める者以外に知られることはなかった。



 午前九時頃、ウェルバーン城から出発するため、兄たちを除くロックハート家全員が並んでいた。


「大してお力になれず、心苦しいですが、我らはこれにて領地に戻ります。苦しい時期はすぐに終わるはずです。平穏な時が戻ることを我らも心より祈っております」


 父のあいさつに辺境伯がしっかりとした口調で答える。


「儂の不安を取り除いてくれたこと、騎士団や市民たちに明るさが戻ったことは卿らのお陰だ。それにロドリックを借りることができたことは今の儂には本当に心強い」


 そこで父の肩を軽く叩き、


「旅の安全を祈っておる」


 俺のところで足を止めると、


「今回も卿には世話になった」


「いえ、今回はハーディング侍女長のお力だと思います」


「うむ。確かにその通りだが、デズモンドに授けてくれた策のこともある。あれを見て気が楽になったことも事実だ」


 今後のことについて、デズモンド・ゲートスケル准男爵に方針を示したものを渡している。シャロンと現状で考えうるあらゆる状況に対応できるよう考えたものだが、内容的には大したことはない。

 そのため、その点についても注意を促しておく。


「このようなことは充分にお分かりかと思いますが、ゲートスケル卿にお渡しした策については参考程度とお考えください。私が考えうる限りは状況の変化に対応できるものですが、あくまで私とシャロンが想定したものに過ぎません」


「分かっておるよ。だが、あれほどの計画書を見せられたら期待したくなるのは仕方がなかろう」


 辺境伯の言葉にオールダム男爵も頷いている。


「まさか三日ほどで三十ページにも及ぶ計画案を出されるとは思いませんでしたぞ。それに数字も具体的でしたからな」


 男爵が言うとおり、計画案は三十ページを超えるもので、一ヶ月間の掃討作戦の内容と想定される事態への対応方針、傭兵たちが去った後の治安維持方針、北部総督府軍が帰還した後の再討伐作戦の概要、商業ギルドとの交渉方針などだ。

 特に商業ギルドとの交渉方針については、アウレラ街道の治安回復に関し、ギルド側からどの程度譲歩を引き出すかなど、具体的な話が多く書かれている。


 といっても、辺境伯に言った通り、あくまで現状で考えうることしか書けていない。特に掃討作戦については未知数な部分が多く、失敗とは言わないものの、俺の考えどおりに行かない可能性は高い。

 そうなった場合、前提が崩れるため、辺境伯たちは残された資金の中でどうするか考えなくてはならない。

 その点を指摘するが、


「それは仕方がなかろう。計画通りにいくことなどほとんどないのだからな。だが、計画の修正案までついておるのだ。それを上手く使えば、半年程度なら何とでもできる……」


 楽観しすぎている感はあるが、悲観的すぎるよりいいと思うことにした。


 バーバラからも別れの言葉を受ける。


「ありがとうございました。ザカライアス様がいらっしゃらなかったら、御館様もお元気にはなられなかったと思います」


「それは違います。バーバラ様がお支えしてくださったお陰だと思っています」


 これは俺の本心だ。

 俺がいろいろと方針を考えたが、頭で理解できても不安はなかなか解消できない。心の持ちようという言葉もあるとおり、同じ情報でもプラス思考(ポジティブ)にもマイナス思考(ネガティブ)にもなる。


 彼女が否定しようと口を開こうとしたが、それに先んじて話を進める。


「これからも総督閣下をお支えください。北部域の、いえ、帝国の平和は閣下に大きく掛かっているのです。よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げる。

 俺が頭を下げている間に沈黙が流れるが、顔を上げると清々しい笑顔を浮かべたバーバラの姿があった。


「はい。ザカライアス様のご期待に沿えるよう努めさせていただきます」


 それだけ言うと、頭を下げてリディたちにあいさつに向かった。


(元々芯の強い人だと思っていたが、この状況であの笑顔を見せられるならラズウェル家もいい方向にいく気がするな……)


 俺がそんなことを考えていると、バーバラとの別れの挨拶を終えたリディが寄ってきた。


「あの子も吹っ切れたみたいね」


 どういう意味で言っているのか確信が持てず、「ああ」とだけ答えておく。


「あなたが頭を下げている時のあの子の顔を見たら……いいえ、これでよかったのよ。お互いに……」


 意味深な言葉を言うだけでそれ以上は教えてくれなかった。

 ただ、言いたいことは何となく分かっている。

 恐らく俺に対する思慕の念を吹っ切ったと言いたいのだろう。

 魅力的な女性であることは間違いない。別の時代に別の形であっていたらと思わないこともない。しかし、今はこれでよかったというリディの意見に賛成だ。


 その後、オールダム男爵らと言葉を交わし、ロックハート家は懐かしい故郷、ラスモア村に向けて出発した。

若干中途半端な感じですが、第五章「教導者時代:帝国編」はこれにて完結です。

九十二話も使い、なぜかワインの品質向上や新しい蒸留酒の話ばかりに……ドワーフ・ライフですから仕方ないですよね(笑)。

第六章は「教導者時代:諸国編」となり、最終章となる予定です。

(もしかしたら、最終章「放浪者時代:諸国編」が入るかもしれませんが)

ルナの話だけでなく、本編「トリニータス・ムンドゥス」とのリンクが更に強くなる予定です。ご期待下さい!


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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