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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第五章「教導者時代:帝国編」

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第五十話「帝都プリムス」

ようやく主役登場です。

 二月七日。

 シーウェルでやるべきことはすべて終え、帝都プリムスに向けて出発した。


 蒸留所建設については建設予定地の決定、生産計画、販売戦略などを検討し、計画の骨格はでき上がった。あとはシーウェル侯爵家の文官たちだけで詳細を詰めていくため、俺がすべきことはすべて終わった。


 シーウェルワインの品質向上と販売戦略についても話し合っており、こちらの方も大きな問題はない。



 二月二日にボトル詰めしたムーラン村のワインだが、予想通り、いや、予想以上に化けた。

 三年分の熟成となる翌日に試飲したが、荒々しさが取れ、やや酸味は強いものの芳醇な香りとビロードのような舌ざわり、しっかりとしたブドウの旨みが感じられる最高のワインに変わっていたのだ。


 ブドウのタイプでいえば予想通りカベルネ・ソーヴィニヨンに近く、シーウェル侯爵、ラドフォード子爵らだけでなく、ある程度予想していた俺ですら絶句してしまうほどの衝撃を受けた。

 強い衝撃を受けたラドフォード子爵はうなされているような感じで独り言を呟く。


「こ、これほどのワインを私は飲んだことがない……これがあのムーラン村のワインなのか……私はこれほど自分の舌が信じられないと思ったことはない……」


 俺も一年間樽で熟成させたワインを飲ませてもらったが、子爵の言う通り、全くの別物だった。


「これほどの味になるなら、このブドウを増やすべきだ。確かにこれは我がシーウェルワインに革命をもたらす……」


 侯爵も恍惚としたまま、グラスを置くことができないとでも言うように何度も口をつけていた。


 更に翌日、翌々日と熟成を進めるが、味は衰えるどころか丸みを帯び、前の世界の高級ワインに匹敵すると思えるほどの味となった。

 そのため、赤ワイン好きのベアトリスが「あたしの分はちゃんと確保しておいておくれよ」と懇願してくるほどだった。


 懸念材料だったシーウェルで作られたボトルとコルクだが、やはり長期熟成には耐えられなかった。三年までは何とかなったものの、五年以上となると漏れ出るものが出始め、ワインが劣化することが分かったのだ。


 これについてはシーウェルの魔術師を指導し、効率化と均一化を図っている。

 指導といっても大したことはやっていない。

 ボトルについては魔法のイメージの仕方のコツを伝え、更に大きさを均一にするための道具を作った程度だ。

 ちなみに道具といっても木で作った型紙のようなもので、魔法を掛けた後にその型紙に当て、寸法通りか確認するだけのものだ。


 コルクについてはコツを掴むために植物の細胞の話をし、その細胞壁を柔らかくするイメージでやるように伝え、直接指導も行っている。


 シーウェル家が雇った魔術師は二十五歳程度で、レベルは二十を超えたくらいだった。更に魔力制御が苦手なようで、精霊の力が均一に伝わっていなかった。

 魔力保有量も少なく、二時間ほど練習するだけで魔力が切れ、何度も休憩を挟むため時間が掛かった。


 それでも何とかやり遂げ、三日目には満足いく物ができている。

 ただ、「さすがはラスペード先生の愛弟子だ。指導の厳しさが全く同じだ」と零されたが、俺は教授ほど厳しくはないと思っている。

 酒に関することなので、もちろん妥協はしていないが。



 プリムスへはシーウェル侯爵夫妻だけでなく、ラドフォード子爵夫妻も同行する。母ターニャは元々下町の仕立屋の娘ということで数日間の付け焼刃程度の指導では不味いという結論に達し、母の社交界デビューには二人掛かりでフォローすることになったためだ。


 もっとも子爵夫人のヴィクトリアには別の目的もあった。彼女が提案したダンを守る策、ラドフォード子爵令嬢フェリシアとの婚約の偽装を行うためだ。


 この他にもエザリントン公爵令嬢ローレンシアとプリムローズも一緒にプリムスに向かう。

 ローレンシアとも気楽に話せるようになっていたが、それ以上に懐いたのがプリムローズだった。

 彼女は俺が作ったチョコレートに魅了され、チョコレートやココアなどを使った甘味(スイーツ)にも嵌っている。


「本当にザカライアス様は天才ですわ。このチョコレートはジェラートを凌ぐ甘味です。すぐに帝都で評判になりますわ。私が保証します」


 出会った当初はおっとりした娘だと思ったが、今では積極的な女性だと評価を変えている。

 それ以上に驚いているのが、甘味に対する執着心だ。

 安易に妥協せず、どれほど時間が掛かろうと、完成まで待ち続ける姿に“甘味狩人(スイーツハンター)”という二つ名を密かに贈っている。


 一方のローレンシアは出会った当時の好戦的な感じは全くなくなり、公爵令嬢とは思えないほど気さくな女性という印象に変わっている。

 もっともその所作は洗練されており、さすがは公爵令嬢と思う機会は何度もあったが。



 出発前にシーウェル侯爵領の文官たちが見送りに来てくれた。

 その代表格であるレドリー・サザーランドとバーナード・ダルントンはここ数日で見違えるほど自信に満ちた顔になっていた。


「ザカライアス卿にはいろいろとお世話になりました。ここまでご指導いただきましたので、あとは我々だけでも大丈夫です。必ず成功させてみせます」


「期待しております。私が涙を流して感動するようなワインを、ぜひとも作ってください」


 俺の軽口に「い、いや、それは」と困惑の表情で口篭るが、すぐに自信に満ちた顔に戻る。


「何年掛かるかは分かりませんが、貴殿が感動するワインを、そしてブランデーを必ず作り上げてみせます」


 ここに来た当時の仕事の多さに落胆する姿は一切なかった。


(この人たちなら良いワインと良いブランデーを作り上げるだろうな。何年先かは神のみぞ知るという感じだが……それ以前に俺が生きて飲むことができるかも神のみぞ知る、いや、神々の敵のみぞ知るという感じか……)


 サザーランドたちと別れの挨拶を行った後、出発した。



 シーウェルから帝都プリムスまでは約百三十キロ。ラングトン街道から中央街道と主要街道を使うため、四日で移動する予定だ。


 天候も安定しており、大きなトラブルもなく、予定通り二月十日に無事到着した。


 途中でいろいろと情報を収集してみたが、第二軍団と第四軍団がルークスに出征するという噂があった程度で、帝都でもルークスの戦争でも、大きな動きがあったという話はなかった。


 帝都に向かう道は帝国最大の街道である中央街道であり交通量が非常に多い。

 北門には帝都に入ろうとする人や馬車の列が数百メートルにわたって続いている。


 帝都の北門だが、門は三つある。一つが貴族と軍専用で、残り二つが平民用で入城用の南行きと出城用の北行き、すなわち一方通行の出入口ということだ。

 そのため、混乱は起きにくいのだが、人の数が多すぎてどうしても渋滞になるそうだ。


 もっとも俺たちは貴族専用の門を使うため、渋滞に会うことなくスムーズに帝都に入ることができた。


 市内に入ると、凱旋通と呼ばれる大通りになる。幅二十メートルほどある広い道路で、帝国軍のパレードなどにも使われるそうだ。


 ちなみに“凱旋通”という名の由来は、勝利した軍が凱旋する時に使うことから付いているらしい。敗戦の場合には北門ではなく、他の門を使うためだが、実際は敗戦であっても不敗(・・)の帝国軍に敗戦という事実は認められないため、北門以外から帰還したことはない。



 と、ここまでは順調だったが、やはりというか、彼らの出迎えがあった。

 言わなくても分かると思うが、数百人のドワーフが凱旋通に溢れかえっていたのだ。


「よく来た! 待っておったぞ!」という声が響く。


 声の主は鍛冶師ギルドのプリムス支部長ギュンター・フィンクだ。

 他にも見知った鍛冶師たちが「よく来た!」とか、「歓迎するぞ!」という声が響いている。中には「宴じゃ!」という声もあり、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「歓迎に感謝する!」と馬を下りた父が代表してギュンターと握手をする。その後ろには俺と兄も付き従っており、次々と握手をしていった。

 父が俺に目配せを行い、この場を収拾するように訴えてきた。


「ここでは他の方たちに迷惑が掛かる。明日にでも支部に顔を出すつもりだから、今日のところは解散してほしいんだが」


 実際のところ、他の貴族の通行の邪魔になっており、貴族用の門にまで行列ができ始めている。さすがにシーウェル侯爵家の当主がいるため、苦情は出ていないが、それでも問題であることには変わりない。


「そうじゃな。皆の者、聞いたな! 明日はロックハートを歓迎する宴じゃ!」


 その言葉にドワーフたちの「「オウ!」」という銅鑼声が応える。


「相変わらず凄いものだな」と、いつの間にか馬車を降りていたシーウェル侯が笑っている。


「邪魔をしたな! だが、どうしても顔を見たかったのでな!」


 それだけ言うと後ろを向き、


「それでは帰るぞ!」と言って何度も俺たちに手を振りながら、凱旋通から離れていった。


「それでは我らも出発しよう」とシーウェル侯がいい、俺たちはプリムスの街に本格的に入っていく。



 街に入ると、凱旋通の両側に多くの店が並んでいた。

 店と言っても小さな店は一つもない。どちらかというと大手商会の本社が並んでいる感じだ。

 ここ凱旋通に出店できるのは大手の商会だけであり、店を構えるだけで信用度が違うといわれるほどらしい。


 その中に一際目立つ看板があった。

 この世界では珍しいポップな感じの文字を使ったもので、パステル調のピンクと青で“βρ(BR)”と書いてある。Bには“3”、Rには“0”と読めるように色を変えてある。


 この看板の店は俺からジェラートの製法を買い取ったロビンス商会だ。この看板も遊び心を刺激された俺が提案したものだ。


 この世界のアルファベットはギリシャ文字に似ているため、若干おもむきが違うので商標上も問題ないだろう。もっとも地球の商標法は適用されないから、完全にパクっても問題になりようがないのだが。


「ここがロビンス商会の本店ですわ。帝都にたくさん支店があるのですが、ここが一番いろいろとあるのですよ……」


 同じ馬車に乗っているプリムローズが説明してくれる。

 ロビンス商会は貴族街にも支店を出しており、貴婦人や令嬢たちが足しげく通っているらしい。



 商業ギルドのプリムス支部などを見ながら、二つ目の門に到着した。

 プリムスは三重の城壁に囲まれた都市で、一番内側が皇宮、その外側が貴族街と帝国軍本部、最外郭が一般市民の住む街だ。

 そのため、シーウェル侯爵家の屋敷に行くためには二つ目の城門を通る必要がある。


 二つ目の城門は街に入る門よりも華美であるものの、警戒は更に厳重だった。侯爵家の馬車に対しても確認が行われており、ロックハート家の荷馬車は樽を叩いて中身が入っていることまで確認されている。


 貴族街の城門をくぐるとすぐ目の前に帝国軍本部の重厚な建物が目に入る。

 第二の城門が突破された際にここで敵を食い止めるためか、役所というより重厚な城を思わせる石造りの四階建ての建物だ。一階には窓はなく、二階以上にだけ窓がある作りとなっている。


 城門を抜けた場所は広場になっており、正面に軍本部、左右に道が延びるが、その道にも門が備えられており、城門を突破した敵を遮蔽物のない広場に誘い込み、軍本部の窓から弓で迎撃する設計らしい。


 軍本部には帝国軍の制服である青を基調とした騎士服を着た武人が何人も出入りしている。

 帝国軍は地球でいうところの近代軍に近く、平時の制服が正式装備として定められていた。他にも身分に関係なく、階級により指揮権が決まっていたり、戦闘部隊と支援部隊に分けた編成が組まれていたりと、他国の軍制とは一線を画している。


 他にも一度だけ、飛竜が飛び立つ姿が見え、帝国の精鋭、飛竜騎士団を間近で見ることができた。


(凄いものだ。人の大きさと比べるとセスナより大きいくらいか。あれが数百騎いるなら、いろいろなことに使えそうだな……)


 飛竜騎士団は帝都の東の丘の上に駐屯地があるそうで、伝令などに使われるごく少数の部隊だけが帝都にいるらしい。



 そんな風景を窓から見ながらシーウェル侯爵家の屋敷に向かった。侯爵家ということで皇宮に近い内側に屋敷は構えられている。

 貴族街は内側から上級貴族の屋敷が並び、外側、つまり平民街側は子爵以下の下級貴族の住居となっている。あえて住居という言い方をしたのは、男爵や騎士爵は四階建ての集合住宅に居を構えている者が多いためだ。


 名門シーウェル家の屋敷は幅百メートルほどある敷地に立つ三階建ての白亜の舘だ。中庭には回遊式の庭園という感じで、名門らしい品のよさがにじみ出ていた。


 屋敷に到着したところで、ローレンシアたちと別れる。

 ローレンシアたちはシーウェル侯や父たちに次々とあいさつを行っていく。そして、俺の前に立った。


「本当に楽しかったですわ。帝都にいらっしゃる間に遊びに来ていただけるとうれしいのですが」


 ローレンシアがそう言って、スカートの端を持ち、きれいなおじぎをする。


「私もザカライアス様といろいろと街を見て回りたいです」


 プリムローズがはにかむような笑顔で同じように軽く頭を下げる。


「私の方こそ、楽しかったです。帝都には二十日ほど滞在する予定ですので、機会がございましたら、ご一緒させてください」


 彼女たちはこのままエザリントン公爵家の屋敷に向かうことになっている。

 屋敷は隣だそうで、いつでも会えそうな気がするが、彼女たちは帝国高等学術院の学生であることから、明日以降は宿舎に戻るそうだ。

 高等学術院も貴族街にあるが、最も南側にあるため、ここからは数キロ離れている。


 二人がいなくなると何となく寂しいような感じになる。さすがに半月以上一緒にいたため、いるのが当たり前という感じになっていたからだ。


 二人を見送った後、屋敷に入ると、そこにはやや緊張した面持ちのダンとシャロンが待っていた。

主役が登場すると話が締まりますね。もちろん、主役はザックのことですよ。分かっていますよね(笑)。


新作を投稿しております。

書き出し祭に出品した「宇宙海賊王の秘宝〜何でも屋ジャックと仲間たち〜(仮)」です。

古き良き時代のスペースオペラをイメージした作品ですので、興味がございましたら、覗いてみてください。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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