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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第四章「冒険者時代:ラスモア村編」

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第八十一話「孤独」

今回はルナの視点です。

 また冬がやってきた。私がここに来て一年と少し、その間、いろいろなことがあったわ。


 最初にこの村に来た時に感じたのは、幸せそうな楽園のような場所だということ。私が育ったティセク村では考えられないくらい、村の人たちは幸せそうに見えた。

 村の人たちの幸せそうな笑顔を見た時、私は理不尽な怒りを感じたわ。

 私の生まれた村は貧しく、生きていくために必死だった。五歳の子供が仕事を手伝うことは当たり前だった。

 父も母もほとんど笑うことなく、必死に生きていた。その努力も魔物の襲撃によって無残に散らされた。

 私もそうだった。生まれた村では笑う余裕なんてなかった。

 でも、ここの人たちには笑顔を見せる余裕がある。それがとても不公平な気がした。だから、怒りを覚えたのだと思っている。


 ここに来た後、私を助けてくれたザックさんたちと一緒に暮らすようになった。

 ザックさんは忙しいのか、最初のうちはあまり顔を合わせることがなかったけど、メルさんとシャロンさんは私のことをいつも気にかけてくれた。

 でも、その頃の私は何もかもが嫌で、自分だけが不幸なのだと思って引き篭っていた。ううん、今もほとんど引き篭っているから、過去形でいうのはおかしいかもしれない。


 ここに来てから一年くらい経った頃、そう、ティセク村が襲われた時と同じ季節に、この村も襲われた。

 最初は大したことがないってロザリー様やアンジーさんが言っていたけど、そんなことはないことは分かっていた。

 昼も夜も訓練とは違う声が聞こえていたし、いつもは屋敷にいるウォルトさんとモリーさんがいなかったから。


 それでもロザリー様は無理やり笑顔を作って私を励ましてくれた。


「大丈夫ですわよ、ルナさん。この村の人たちは本当に強いのよ。この辺りは辺境だからこんなことは頻繁にあるの。今回はちょっと長引いているみたいですけど、そろそろ終わると夫が言っていましたから……」


 その時の私は外のことに無関心だった。

 魔物に殺されてもいいって思っていたから。死んだら大っ嫌いなこの世界から消えることができる。それに、もしかしたら日本に帰れるかもしれないとも考えていた。


 それでも戦いの音が聞こえると、一年前のことを思い出してしまう。村の人たちの無残な遺体が目に浮かんでくる。だから、私は小さな子供のように耳を塞いでいることしかできなかった。



 でも、時々顔を見せてくれたメルさんの話を聞いて、少し考えが変わった。

 メルさんは私が何も答えないから、いつも自分の思っていることを独り言のように話している。


「もうすぐ戦いが終わるわ。そうしたらザック様と一緒にいられる……私はそれだけでいいの。それだけで楽しいから……ルナさんにもすぐに楽しいことが見つかると思うわ。何となくだけど……」


 その時は“いつもと同じだわ”と思っていた。メルさんは本当にザックさんのことが好きで、いつも楽しいって話していたから。


「今度ね、ザック様に新しい料理を食べてもらうの。ふふふ、お酒のつまみじゃないわよ。本格的な料理。と言ってもザック様に教えてもらった料理なんだけどね」


 そう言って舌をペロッと出す。外では時々男の人が緊迫した声で叫んでいるのに、別の世界のことのようだった。


「今度一緒に作りましょう。料理は楽しいわよ。ここには普通の家にはない材料も揃っているし、シャロンがいれば温めたり、冷やしたりも簡単にできるし……」


 料理を作るという話を聞いて、不意に日本にいた頃のことを思い出した。

 私はお菓子を作るのが好きだった。ケーキやクッキーを焼いたり、ホイップした生クリームで飾り付けをしたり……そんなことが唐突に頭に浮かんだ。


(そう言えば、昔からやりたいことがなかったわ。弓道もそんなに好きじゃなかったし、友達とおしゃべりしたり、カラオケに行ったりするのも、何となく流されていただけのような気がする……でも、お菓子作りは楽しかった……)


 そんなことを考えていると、料理ができないと思ったのか、メルさんが私の顔を覗き込んだ。


「今度、私が教えてあげるわ」


 メルさんの顔が姉の顔と重なって見えた。

 私には姉がいた。もちろん、日本での話なんだけど。

 歳は三つ離れていたから、私が高校に入る時には遠くの大学にいってしまっていなかったけど、中学生の頃にはお菓子の作り方をよく教えてもらった。


 そんなことを考えていると、メルさんの顔がなぜか滲んでいた。それは私が涙を流していたから。

 それに気づいたメルさんは跪いて、私を抱きしめてくれた。

 メルさんは鎧を着ていたから少し痛かったけど、本当に姉さんがいる気がした。


「今度一緒に作りましょうね。楽しいことだけを考えましょう……苦しいことは忘れて楽しいことだけ……」


 いつもの子守唄のような優しい声だった。

 不意に抱きしめる力が緩んだ。


「そろそろ、私の出番だし、行ってくるわ」


 そう言ってメルさんは立ち上がる。

 私は小さな声で「気をつけて」ということしかできなかったけど、しっかり聞こえていたみたい。


「ええ、気を付けるわ。じゃ、また後で」


 その姿を見て、ここの人たちは絶対に負けないって思った。



 そして四日目の深夜、丘の下の方から大きな歓声が聞こえてきた。

 メルさんを見て思った通り、ここの人たちが勝った。

 その時、この村の人たちがどうして笑顔でいられるのか、何となく分かった。

 この村の人たちはロックハート家の人たちと強い絆で結ばれている。みんなで心を一つにして乗り越えたんだと思う。


 ティセク村にはそれがなかった。

 まとめる人がいなかったこともあるけど、私の母のように他所から来た人には冷たく、排他的な感じだったから。

 貧し過ぎて食べ物のことで揉めることが多かったから、仕方ないのかもしれないけど。



 その後、物凄くたくさんの人が助けに来てくれたみたい。私は奥方様やロザリー様に連れられて後ろから見ていただけだけど、何千人という人が来たみたい。

 特にドワーフ族が多かったのには驚いたわ。春のお祭りでもたくさんのドワーフの人たちを見たけど、今回は全世界のドワーフが集まったのかと思うほど。


 そして、ドワーフが来ると決まってお祭りになる。

 そのお祭りなんだけどビックリすることばかりだった。人数とかお酒の量にもビックリしたけど、一番驚いたのはザックさんの結婚式が行われたこと。


 それもリディアさんとベアトリスさんの二人といっぺんに……。


 リディアさんはエルフなんだけど、本当にきれいな人。透き通るような白い肌に黄金色の髪、翡翠色の瞳で、日本にいる時も含めて、今まで見た中で一番の美人。

 獣人のベアトリスさんは大きな身体に目が行ってしまうけど、クールな感じでモデルかと思うような美人だけど、とても優しい人。


 そう言えば、ここには映画の中かと思うくらい美男美女ばかりいる。

 御館様は如何にも騎士っていう感じだし、奥方様はロッド様という二十歳くらいの子供がいるのに二十代にしか見えないから、明るい感じの女優さんみたいに感じる。


 そのロッド様も背が高くてかっこいいし、奥さんのロザリー様は本物のお姫様。

 メルさんは元気なアイドルって感じだし、シャロンさんも日焼けしていない白い肌とブルーの大きな瞳で深窓のお嬢様って感じ。

 そして、ザックさんも……。


 私がいた村の人たちは、男の人は髭が濃くて髪の毛はぎっとりとしていたし、女の人もばさばさの髪に酷い日焼けで、きれいな人なんてほとんどいなかった。母は色が白くて整った顔立ちだったけど、いつも薄汚れた感じがしていた。

 お風呂なんてないし、水で濡らしたゴワゴワの布で身体を拭くだけだから仕方がないんだけど。


 私もそう。肌は少し白くなったけど、顔は日本にいる時とそんなに変わっていない。だから、この中ではとても浮いてしまう。

 と言っても自分の顔をきちんと見たのはここに来てから。ティセク村には鏡なんてなかった。だから、水面に映る姿しか見たことがなかったわ。

 痩せていて貧相な感じだから、同じ年のセラさんと自分を比べる気にもならない。あの子もすごくきれいだから。



 話が逸れたけど、メルさんとシャロンさんもザックさんと婚約した。

 歳は今の私より五歳くらい上だから、日本ならまだ高校生くらいのはず。私がこの世界に来る前と同じくらいかしら。

 日本にいた時、高校生の自分が結婚するなんて考えたことがなかったから、余計に驚いたのかもしれない。

 それを言ったらザックさんも同じなんだけど、あの人は何となく落ち着いているからあまり気にならなかった。



 お祭りは縁日と結婚披露宴が一緒になったような不思議な感じだった。

 陽気な歌声と料理のいい香り、どこからともなく聞こえてくる楽器の音。

 それなのにザックさんたちは結婚衣装で、きれいな馬車に乗ってお披露目をしていた。


 本当に別の世界だと思った。

 確かに日本とは違う別の世界だけど、そう言う意味じゃないわ。

 私はこの村とティセク村しか知らないけど、全然違うからそう思っただけ。


 メルさんは本当に幸せそうだった。

 姉が結婚するみたいで嬉しいような、それでいて寂しいような感じがした。それにザックさんの幸せそうな顔を見ると、少しだけ胸が痛かった。



 お祭りが終わると、メルさんは約束通り私に料理を教えてくれた。

 この世界には電子レンジやガスコンロなんて便利な物はない。それにレシピ本もないし、秤《はかり》も理科の授業で使ったような天秤みたいな物しかない。

 私が不思議そうに見ていると、私が知らないと思ったのか、メルさんがいろいろ教えてくれた。


「面白いでしょ。これで重さを量るの。こうやって片一方に量りたい物を載せて……これはドクトゥスで買った物なのよ。ザック様があった方がいいとおっしゃったから。本当のこというと、普通の家では量ったりしないのよ。でも、ザック様はそのことを知らなくてね。ああ、ザック様でも知らないことがあるんだって思ったわ……フフフ……」


 その後、一緒に豚肉と野菜の炒め物を作った。割と簡単だからだと思う。

 簡単に作り方を教えてもらった後、「やってみたら。楽しいわよ」と言われた。

 私が首を横に振ると、メルさんは横にいたシャロンさんに話しかける。


「失敗したら私たちが食べるから大丈夫。ねぇ、シャロン?」


「うん。私も五年前はよく失敗したから慣れているわ」


 シャロンさんは私に切った肉と野菜の入ったボウルを渡してきた。


「塩とコショウはこれとこれね。他にも干した小魚の粉を隠し味にできるけど、最初は塩とコショウだけで作った方がいいわ」


 そう言いながらフライパンに油を引いていく。


 仕方なく私は料理を作り始めた。

 日本にいる頃には作ったことがあるけど、ガスコンロじゃないから火加減が難しい。薪の場所を変えたり、フライパンの距離を変えたりしてちょうどいい火加減を狙うんだけど、それが難しい。それにフッ素加工もしていないから、すぐに焦げ付いてしまう。でも、それが楽しかった。


 私は周りのことを気にせず、フライパンを振っていた。ふと気づくと、メルさんとシャロンさんが驚いていた。


「上手じゃない! 私より上手かも」


 メルさんに褒められ、少し嬉しかった。

 料理ができた後、フライパンを渡すと、少し味見をして更に驚かれた。


「本当に上手……」


 シャロンさんが一口食べてそう呟いていた。


「いい香りだな。炒め物か。どれどれ」と言ってザックさんが厨房に入ってきた。


 ひとくち口に入れると、


「美味いな! うん? いつものシャロンの味じゃないな。メルが作ったのか?」


 メルさんは「違いますよ。それ、ルナさんが作ったんです」とニコッと笑って説明した。


 ザックさんは少し驚いたような表情を見せた後、私の頭を軽く撫でた。


「美味いよ。塩とコショウの味付けも、炒め加減もちょうどいい。これ以上炒めると肉が硬くなるし、野菜から水が出過ぎて水っぽくなる。本当に美味いよ」


 そう言われてなぜか嬉しかった。

 後で一人になって考えると本当に他愛のないことなんだけど、その時はこういう暮らしもいいなって思えた。


 それから少しずつザックさんと話すようになった。


「この間の炒め物、本当に美味かったよ。あれとキリッと冷やしたラガーは最高に合う。また作ってほしいな」


 私は小さく頷くことしかできなかった。


 別の日にも話し掛けてもらった。

 その時は発泡ワインの仕込みをしているみたいで、離れの厨房の隅で魔法を使っていた。


「こうやってボトルの首のところを凍らせるんだ。それから澱をゆっくりと抜いていく……で、コルクをこの道具で差し込むんだ……後は針金を使って固定する。面白いだろ?」


 そう言うんだけど、私にはさっぱり分からなかった。でも、物凄く楽しそうに話しているので、何となく私も楽しい気になっていた。


 ザックさんとリディアさん、ベアトリスさんの三人は夕食の時によくお酒を飲む。その時もザックさんは私によく話し掛けてくれる。


「この赤ワインの色は美しいだろ」


 そう言って灯りの魔道具にかざす。私の方からはよく見えないと思ったのか、突然席を立って私の横に来た。そして、私の顔の横に自分の顔を近づけ、


「この色なんだ。紅玉《ルビー》みたいだろ。少し紫も入っているからまだ若いんだ」


 ルビーみたいな色って言われても普通の田舎の子には分からないと思う。私だってテレビや本で見たことがあるくらいで、本物なんてほとんど見たことはないんだから。

 そんなことを考えていると、ベアトリスさんが私の気持ちを代弁してくれた。


「ルビーなんて貴族じゃなきゃ、普通は見ることなんてないぞ。あたしだってメルの指輪で初めて見たくらいなんだからな」


 ベアトリスさんたちはみんな、宝石のついた指輪を持っている。詳しくは知らないけど、四人とも違う宝石で、髪の色や瞳の色に合わせたものらしい。以前、お祭りの時に見せてもらったことがあるけど、あまり覚えていない。


「そうだな。色の表現は難しいな。まあ、味の表現はもっと難しいんだけど……」


 こういう時にいつも思うことがある。

 この人たちは何をしている人なんだろうって。

 もちろん、ロックハート家という貴族の家の人だということは知っている。でも、私を助けてくれた時には冒険者だったし、ザックさんとリディアさんは治癒師、つまりお医者さん。

 そんな人たちが料理やお酒の話で楽しそうに笑っている。

 本当に不思議な人たち……。


 そんな人たちが私に優しくしてくれる。なぜかはよく分からない。一人になった時、よく考えるんだけど、私に同情しているくらいしか思い付かない。


 でも、一つだけ感じていることがある。

 それは、私はこの人たちの家族じゃないってこと。

 ザックさんと二人の奥さん、二人の婚約者は家族だし、もう一人のダンさんも家族同然。でも、私は違う。この人たちとは違うといつも思ってしまう。


 それは当然のことだと思う。

 だって、私は別の世界から来た異邦人だから。この世界の人とは違うから……。

 いつか私もこの人たちみたいな家族ができるのかしら。

 多分、無理ね。

 私のことを本当に理解できる人なんて、この世界にはいないんだから……。

これで第四章「冒険者時代:ラスモア編」が終わります。

81話、53万文字強ですが、改めて確認すると、酒&ドワーフの話が半分くらいあり、思わず苦笑いしてしまいました(笑)。


次の第5章は前話でもお伝えした通り、「教導者時代:帝国編」になります。

(教導者という意味は読んで字のごとく。もうお分かりですね)


話としては本編「トリニータス・ムンドゥス」のキーとなるキャラクター、ルナの話が主となるはずです。

もちろん、帝都に行ったり、アルスに行ったりするはずなので、お酒の話は必然的に入ってくると思いますが。


全体プロットから行くと、第5章は7合目あたりで、その次の第6章で完結することになるはずです。

(当初のプロットから話の流れは変わっていないのですが、余分な話が多いため、6章で終わるかは微妙な気も……)

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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