震える手を隠して
これからは毎日一話ずつの投稿になります!
翌日、ページは依頼のための準備を進めていた。
薄暗いアジトの窓から、スラム特有の煤けた昼の光が斜めに差し込んでいる。
部屋の中には、微かに安物の火薬の匂いが漂っていた。
「これ、本当に使うの……?」
作業台の前で、コグが怯えと戸惑いを隠せない声を出した。
彼の手元にあるのは、小型爆弾のパーツだ。
普段のページなら、直接的な殺傷能力の高い武器を要求することはない。だからこそ、コグの丸っこい顔には明らかな恐怖が張り付いていた。
ページはコグの不安に答えなかった。フリントが不在であることに話題をすり替える。
「フリントの奴は今日も西区をほっつき歩いてるのか。あいつがいないと静かで助かる」
あくまでこれは、面倒な火種の『掃除』という仕事上の準備だ。
子供たちに動揺を悟られるわけにはいかなかった。
「でも、ページにぃ……」
カチャ……。
コグが爆弾の金属パーツを調整する、冷たい金属音が響いた。
同時に、鼻腔を深く突く火薬の匂い。
――それが、致命的なトリガーだった。
『――さあ、素晴らしい未来を創ろうじゃないか』
視界がいきなり反転する。
冷たい金属音は、かつて自分が実験台に縛り付けられた拘束具の音へとすり替わる。
薄暗いアジトの光が、許容量を超えた術式が暴発した際に放つ、青鈍色の燐光へと変わる。
悪臭。
視界いっぱいに広がる、見下ろしてくる狂気を孕んだ目。
生身の肉体に魔術回路を無理やり刻み込まれる、焼き印を押し当てられたような激痛。
己の魔力が根こそぎ奪われていく、圧倒的な底冷えの感覚。
それらがダイレクトにフラッシュバックし、ページを真っ向から殴りつけた。
「ッ……!」
魔力喪失の激痛と底冷えの悪寒が全身を駆け巡る。
急激に呼吸が浅くなる。
心ここにあらずの状態で、無意識に手にしていたスパナが、じっとりと湧き出た冷や汗で滑った。
ガチャン!
硬い音が作業台に響き、スパナが床へと転がり落ちた。
浅い呼吸が止まらない。冷たい汗が背筋を伝い、周囲の音が酷く遠く聞こえる。
「ちょっとあんた、大丈夫?顔色、ひどいわよ」
不意に、ベルの静かな声が降ってきた。
彼女の鋭い観察眼が、ページという男のらしくないミスと隙を確実に見抜いていた。
「それに今の……手、震えてるじゃない。何かヤバい仕事でも請けたわけ?」
その決定的な一言で、ページは急激に現実へと引き戻された。
ビクッと肩を揺らし、咄嗟に己の震える手を隠すように、乱暴な手つきで床のスパナを拾い上げる。
情けない。
ただの長期的な損益計算として片付ける仕事のはずだった。
自分を、上手く騙せていたはずだった。
「……徹夜明けでちょっと、な。……大した仕事じゃない、面倒な火種の『掃除』に行くだけだ」
声が上ずらないように、低く押し殺す。
「あんな欠陥技術が三流組織に渡れば、いずれこっちに火の粉が飛んでくるからな」
言い訳のように言葉を重ねる。誰に向けて言っているのか、自分でも分からなかった。
「……コグ、そこ代われ。残りは俺がやる」
強引にコグを退け、ページは作業台の前に立った。
冷たい金属に触れ、配線に目を落とす。
コグの戸惑い。
ベルの追及。
そしてなにより、どうしても隠しきれない自身の身体の震え。
それらが、冷酷な現実をページに突きつけていた。
これは仕事なんかじゃない。過去の亡霊への、個人的な執着だ。
もう、自分への言い訳は通用しない。
ページはスパナを握りしめた。
手は、まだ微かに震えている。
後戻りできない重苦しい決意だけが、胃の腑の底へとずしりと沈んでいった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
小説投稿はまだまだ初心者なので、読みづらい部分もあるかもしれませんが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
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今後も少しずつ更新していく予定なので、よろしくお願いします。




