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ピギーバンク来襲

 ――ガァァァンッ!!


 鼓膜を揺らす破壊音と共に、石造りの壁が内側から爆ぜた。

 つい先刻までアワユキの傷を包んでいた穏やかな空気は、吹き込んできた爆風と土煙によって一瞬で霧散する。


「……っ!」


 ページは反射的にアワユキを背に庇い、飛び散る破片を一瞬だけでもコートで遮りながら、ページは裏地に固定されたガジェットが入ったベルトポーチをぶちぶちと引き千切る。

 

 もうもうと立ち込める灰色の煙。

 その向こうから、場違いに軽い、どこか楽しげな男の声が響いた。


「――うっわー。えらい派手にやったなぁ、ボタン。そんなんやったら、せっかくの『標的』まで壊れてまうで?」


 土煙がゆっくりと晴れていく。

 崩れ落ちた瓦礫の頂点に、ひょいと腰掛ける一人の男の影が浮き上がった。

 

 着流しのようにだぼついた東洋風の奇妙な外套に、煤けたスラムには不似合いなほど派手な柄のシャツを着崩した細身の男。

 常に笑っているように弧を描く糸目からは、感情の底が全く読めない。

 指先で数枚の絵が付いた札を弄びながら、男は糸目の奥で冷たい光を瞬かせてページたちを見下ろした。


「ワイらは、ピギーバンク。賞金稼ぎのザックや」


 続いて、男の背後からもう一つの影がぬっと現れた。

 

 自分の体躯ほどもある巨大な魔道ハンマーをプッシューと音を立て、右腕の義手に担いで現れたのは、ひどく小柄な少女だった。

 だが、ただの無邪気な少女ではない。

 無造作な髪の間からは歪な赤い二本の角が突き出し、身にまとった服の裾からは爬虫類を思わせる太い尻尾が機嫌よく揺れている。

 

 人間。

 そう呼ぶには、余計なものが多すぎた。


 愛らしい容姿と異形の部位。そのアンバランスさが、どうしようもないほどの暴力の気配を垂れ流していた。

 

「同じく、ピギーバンクのボタンでーす! パワー担当!」


 そのふざけた自己紹介を聞いた瞬間、ページは苦い顔をした。


「……ピギーバンクか」


 運び屋としてスラムの泥を啜る者なら、その名を知らぬ者はいない。

 逃げた債務者、盗まれた魔道具、あるいは上層絡みの噂まで――報酬さえ積まれれば、どんな泥の底からでも確実に標的を仕留める二人組。

 

 貯金箱という冗談のような名に反して、その成功率は決して冗談では済まされないことを、ページは嫌というほど理解していた。


「……嵌められたか」


 吐き捨てた言葉は、冷たい戦慄と共に喉を焼いた。

 ヘラルドは『上層の連中は近寄れない』と言った。

 確かに嘘ではない。

 だが、奴は最初からこの『下層の凶犬』を放つ準備を整えていたのだ。

 ここは安全圏などではない。ただの、狩り場だ。


「おっ、ええ顔するなぁ。話が早くて助かるわ」


 ザックが指先で札を一枚、空中に弾いた。

 瞬間、風の術式が火花を散らして展開され、出口の扉とわずかな窓、そしてページの計算にあった逃走経路のすべてが、不可視の風の刃によって完全に封鎖された。


「ザックン、見て見て! あの子すごーい! 銀色、キラキラしてる!」


 ボタンが、アワユキの銀色の魔力に反応して角の生えた頭を揺らし、太い尻尾をバタバタと振る。

 その目は、新しい玩具を見つけた子供のような、純粋で残酷な無邪気さに満ちていた。


「うずうずしてきちゃった……ザックン、もうやっていい?」


「ああ。査定は済んだ。盤面ここごと、壊してまえ」


「了ぉ解っ!」


 ボタンが巨大なハンマーを天高く掲げた。魔導回路が赤熱し、凄まじい圧力が逃げ場のない部屋に充満する。

 

 標的は。


 ――柱。


「痛い思いはさせないから。一撃でやっちゃうから、ね?」


 無邪気な微笑みと共に、ハンマーが振り下ろされた。


 ドゴォォォォォンッ!!


 物理的な衝撃波が空気を殴りつけ、床がクモの巣状に砕け散る。

 直下には、廃炭鉱の巨大な空洞が真っ黒な口を開けていた。


「――アワユキ!」


 足場が完全に消失する。

 ページは咄嗟にアワユキの細い腕を強く掴み、崩落する瓦礫の雨と共に、真っ逆さまに奈落の底へと落下していった。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

小説投稿はまだまだ初心者なので、読みづらい部分もあるかもしれませんが、楽しんでもらえたら嬉しいです。

評価・ブックマーク・感想などいただけると、かなりモチベになります。

今後も少しずつ更新していく予定なので、よろしくお願いします。

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