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――ガンッ!!!! アスファルトに叩きつけられ、全身の骨と臓器が弾け飛ぶ凄まじい激痛。 その痛みを呪いのように魂に刻みつけながら、私の意識は、再び深いタイムリープの闇の中へと沈んでいった。
初夏の湿気を帯びた生温かい風が、開け放たれた講義室の窓から吹き込み、机の上のプリントをかさりと揺らす。
「ねえ、聞いた? 文系キャンパスの法学部に、とんでもない美形の一年がいるらしいよ」
看護学科の女子大生のその浮ついた声を聞いた瞬間。 私は、肺の奥底から込み上げる絶望に、声にならない悲鳴を上げた。
五回目。 私は一人で、専務の刺客である黒田を殺そうとした。ホームセンターで買ったナイフを握りしめ、夜の路地裏で待ち伏せた。しかし、ただの女子大生の腕力でプロの暗殺者に敵うはずもなく、いとも容易くナイフを奪われ、首の骨をへし折られて死んだ。
六回目。 何もかも捨てて、湊を無理やり電車に乗せ、誰も知らない遠くの街へ逃げようとした。 けれど、桐生グループの巨大な監視網から逃れられるはずもなく。隣県の寂れた駅のホームで、私たちは二人まとめて、特急電車の前に突き落とされた。
七回目。八回目。十回目。十一回目……。 もう、自分が何度時間を巻き戻したのか、数えるのすらどうでもよくなった。
刺殺、轢死、毒殺、絞殺、そして幾度もの墜落。
警察の裏をかこうとしても、権力の中枢に潜り込もうとしても、すべてが無駄だった。 私が死に、親友が血の海に沈み、そして彼が死ぬ。 どんなに足掻いても、どんなに狂気に身を染めても。あの完璧な王子様の笑顔が、無慈悲な暴力によって理不尽な肉塊へと変わる『結末』だけは、絶対に覆すことができなかった。
私の精神は、ループを繰り返すたびに削り取られ、やがて原型を留めないほどにすり潰されていった。
十五回目だったか、十六回目だったか。 私はもう、学食にいる湊に話しかける気力すら失っていた。 ただ遠くから、女子たちに囲まれて笑う彼を虚ろな目で見つめ、どうせ彼を救えない自分の無力さに絶望し、一人で大学のトイレの個室に籠って自ら手首を切った。
濃密すぎる血の匂いと、繰り返される死の激痛。 両親の顔も、自分が看護学部で何を学んでいたのかも、もう思い出せない。 脳髄にこびりついているのは、防音ガラスの向こう側で死んでいった彼の姿と、血に染まった親友たちの剥げたマニキュアの記憶だけ。
そして迎えた、十数回目のループ。
初夏の湿気を帯びた生温かい風が、開け放たれた講義室の窓から吹き込み、机の上のプリントをかさりと揺らす。
四度目だ。 結菜は、引きつったような呼吸と共に目を覚ました。 アスファルトに全身を打ち据えられた落下の衝撃よりも、無音の防音ガラスの向こうで彼が微笑みながら死んでいったあの光景が、脳髄にこびりついて離れない。
「ねえ、聞いた? 文系キャンパスの法学部に、とんでもない美形の一年が……」
少し離れた席から聞こえてくる、いつもと同じ女子たちの浮ついた声。
私の中で、張り詰めていた最後の糸が、プツリと、完全に『壊れる』音がした。
もう、作戦なんて立てられない。立ち上がる気力もない。 ただ、痛い。心が、痛い。 彼がいない世界を何度も何度も見せつけられ、私はもう、これ以上一歩も歩けなかった。
「……嫌だ、ああああああああっ!!」
突然、私は頭を抱えて狂乱したように絶叫し、机の上の解剖学のテキストをめちゃくちゃに払い落とした。
「えっ!? 結菜、どうしたの!?」
驚くサヤカたちを突き飛ばすようにして、私は講義室を飛び出した。
向かったのは、彼がいる文系キャンパスではない。 もはや思考することすら放棄した私は、パニック状態のまま、最寄りの警察署へと駆け込んでいた。
「お願い、助けて! 堂島専務が、暗殺者を雇って幼馴染を殺そうとしてるの! 黒田って男が、彼を……っ!」
受付のカウンターにすがりつき、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら支離滅裂な叫びを上げ続ける。
だが、警察官たちの顔に浮かんだのは、困惑と、厄介な狂人を見るような冷ややかな目だった。 無理もない。事件は起きていないし、証拠もない。ただの女子大生が、大企業の重役が暗殺者を雇っていると叫んでいるだけなのだ。
『……ご両親ですか。ええ、娘さんが極度のパニック状態で、ひどい幻覚を見ているようでして』
遠くで電話をかける警察官の声が聞こえた後。 私はパトカーに乗せられ、そのまま郊外の精神病院の『閉鎖病棟』へと隔離された。
無機質で、不気味なほど真っ白な天井。 窓にはめられた太い鉄格子から、四角く切り取られた初夏の青空が見える。 拘束衣を着せられた私は、硬いベッドの上に縛り付けられ、虚ろな目で宙を見つめていた。
(……これで、いい)
どうせ私は、彼を救えない。 この真っ白な部屋で、薬漬けになって、彼が死んでいくニュースをただ待っていればいい。 私だけが、あいつを愛していた記憶を持ったまま。 この絶対的な孤独の中で、腐っていくだけだ――。




