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御神先生の秘蔵っ子  作者: 蒼良美月
第五楽章 夜想曲ノクターン

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39/51

39.大人の階段 

 あっと言う間に訪れた冬将軍が居座り、既に気づけば半月。

 今年のカレンダーも残すところ、あと二週間と迫っていた。一年で一番忙しい月。そして一年で一番ドラマが生まれる月。


「やばぁあい! 慣れない化粧をしてたら時間がああ!」


 先生が予約してくれているタクシーの時間まであと10分しかない!

 急いで着替え、走って部屋を出る。


「あ! 鍵掛けるの忘れたあ!」


 ドアを開け、玄関の鍵を握るが、目の前に広がる光景……

 廊下に脱ぎ散らかした部屋着が散乱していることに反省したが、今は目を背け、急ぎドアの鍵を閉めた。


 何とか間に合いタクシーに乗り込んだ私は、何度も鏡で自分の見慣れた普通の顔を見て、少しだけ悲しくなる。


「何か違う。この前のお姉さんがしてくれた化粧と……」


 ほんのちょっとだけ、リップの色を濃い目に引き直した。


 走ったからか? 先生に会える気持ちからか? この化粧のせいか?

 心臓の音がビバーチェのように早く鼓動している。




 ◇




「ありがとう御座いました」


 タクシーの運転手さんにお礼を言って、車から降りる。


「ここ? よねえ?」


 空港近くの大きなホテル。

 世界が見下ろせるんじゃないかと思えるぐらい、高く(そび)える豪華なホテルのエントランスに向かう。


 先生に言われたようにフロントに行き、先生の名刺を見せる。


「桜井様ですね。承っております。此方へどうぞ」


 案内されるがままに後を付いて行く。


「此方にお着替え下さい」


 部屋にいるお姉さんが、洋服ケースを私に渡す。

 どういうこと? お姉さんを見るが何も言わずにっこりと微笑むだけ。

 促されるように隣の部屋に連れて行かれ衣装ケースを開けた。


 え?


 恐る恐る手にしてみる。


 チャイナドレスとは違うが、脚に大きく深いスリットが入っている。

 大人っぽい濃い青色、裾に行くほど紫掛かったマーメードドレスだった。


 濃い青地に無数の銀刺繍と輝くビーズは、夜空に浮かぶ満天の星。淡い紫色に輝く長い裾は、まるで宇宙を散歩しているようだった。


 着替えて出て見ると、お姉さん達に今度は化粧台へと連れて行かれ、髪をアップに結って貰い、私の下手くそな慣れない化粧を丁寧に直してくれる。

 その際に化粧の仕方も教えてくれたことは本当に有難かった。


 魔法使い達の手によって魔法が掛けられた私は、お姉さんに手を取られ部屋の外に出る。


 大理石の廊下をカツンカツンと鳴る高いヒールの音に、恥ずかしい気持ちと、転ばないようにしなければと、慣れないヒールに気をつけながら、手を引かれるがまま案内された場所に歩く。


 レストラン?


 誰も居ない広い部屋に円卓が何個も並び、正面には高級ピアノが視界に入る。


 そして──

 直ぐに、中央の席に座る愛おしい人の姿が飛び込んできた。


「先生!」


 急いで走ろうとしたら、思わずよろけそうになったが、なんとか転ばずにすんだ。


「いきなり転けるとか縁起でもないから止めてください」


「……」


 先生が優しく微笑んだ。


 給仕の方が椅子を引いてくれ、促されるように席に着く。



「誕生日おめでとう」


「え? 何で?」


 その言葉に私は驚いて、先生の顔をまじまじと見た。


「記憶力は昔から良い方なんで。面接時の書類」


 あ! 思い出した! 入学試験の時のだ! あの時いきなり先生が、保護者が居ないと言った私に、自らが保証人と直し名前を書いてくれた。


 何だか遠い昔のように感じてしまう。

 まだあれから一年も経っていないと言うのに。


「このドレスも先生が?」


「チャイナドレスより良いだろ?」


「こういうのがお好みなんですね……」


 若干胸のあたりが余っている用な気もするが……

 こんな大人っぽいドレスを着たのは初めてだったので、恥ずかしい気持ちと、ちょっとだけ嬉しい気持ちで思わず頬が赤くなる。


「本当は夜が良かったんだけどな。夜景見える中が。ごめん」


 先生がちょっとだけ辛そうな顔をしたので、私はその気持ちだけで充分だった。


 給仕の方がやって来て、先生と何やら話しをしている。

 その後直ぐに、冷やされた綺麗なピンク色のシャンパンが運ばれてきた。


「お前のアルコール入ってないから大丈夫」


「ああ、なるほど。ありがとうございます?」


 グラスを手に取るように指差され、軽く乾杯を。


 ──チンッ


「18歳おめでとう」


 先生が優しく甘く微笑む。


 先生が何やらテーブルに置いた。

 美しい濃紺の小箱にキラキラ煌く金色のリボンが掛けられていた。


「これは?」


「来年はちゃんと一緒に見に行くって約束するよ。今年はそれで我慢しろ」


「ぇ? 私にですか?」


「この状況で他に誰が居るんだよ」


 広いレストランに今は、お客さんは私達二人しかいない。

 まさか、貸し切った?

 ……嘘よねぇえ?


「開けていいですか?」


 無言で頷く先生に、小箱を開ける。



「綺麗~~」


 思わず声が出る。


 大きすぎず小さすぎず、一粒のキラキラ光るダイヤモンドのネックレスと、2石ダイヤモンドが連なる豪華なピアスが、ふかふかのマットに鎮座していた。箱の上にある金色の文字。

 これってお高いやつですよねぇ……


「付けても?」


 先生が優しく微笑む。


 キラキラ光るピアスを手に取り、耳に刺す。これだけで大人になれた気がする。


 先生が立ち上がり、ネックレスを手に取り背後にそっと近づいた時、うなじに軽く触れた感触。

 思わず振り向くと、頬に軽く口づけをしてくれた。


 誰もいないとは言え……

 こんな広い空間で……


 手を差し伸べる先生の手に重ねる。


 そのまま真っ直ぐピアノに向かう先生の後を付いて行くと、ピアノの椅子の直ぐ横の椅子を先生が指さした。


「カンパネラで良いのか?」


「え? 弾いてくれるんですか?」


「カンパネラ誕生日の曲に向いてるか? あれ?」


 先生が苦笑いする。


 うん。そうとも言う。素晴らしい曲ではありますが短調の曲です。


 でも、先生の音でラ・カンパネラを聴いてみたかった。


「ラ・カンパネラを聴いてみたいです。御神 貴志で」


 世界一を取った先生のピアノの音を。


 天才音楽家、天才ピアニストと言われた先生が、私の為だけに弾いてくれる演奏会がこれから始まろうとしていた。



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― 新着の感想 ―
おお〜、もう18歳なんですね。 なら卒業も間近かな? (´・ω・`) 神と結ばれる夜も近そうですね〜。 (*´ω`*)
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