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御神先生の秘蔵っ子─出会い編  作者: 蒼良美月
第五楽章 夜想曲ノクターン

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37.男のプライド 

 ──追試になんとかギリギリ合格出来たことで、完全に気が抜けてしまってたわ……

 次は高科先生の授業だ~~楽しみ!


「失礼します~~桜井入ります」

「天野先生もいるう! って? どうされたんですか? 何かお疲れのようで?」


 天野先生にも会えたことは嬉しかったのだが、何だか凄く疲れた様子で、何かあったんだろうか? 心配になり近寄った。


「君の鬼に言って下さい。御神先生、頭おかしいわ。やっぱり」

「ぇ?」

「朝っぱらからハノン1時間のあとソナチネだよ? なんで今更基礎教本を」


 天野先生もだったんですね。

 うん。私は悪くない。関係ない。

 そして私を睨まないでください……


「天野先生も一緒に練習見てくれるんですか?」


 久々に二人に練習見て貰えるなんて!


「違います! 一緒に練習するんです! これから!」


「ぇ?」


 ──ガチャッ


「ごめんごめん遅くなって前のが伸びて」


「よろしくお願いします。高科先生」


「何言ってるの? 一緒にこれから練習だけど?」


「え? あの、つかのことを伺いますが私の実技の授業では?」


「黙れ」

「黙らっしゃい!」


「……あの、それで」


「あ?」

「何?」


 こ、怖い。私悪くないですよねえ?


「これで私、追試になるとかはないですよねえ?」

「アンタの実技教科担当は悪魔先生です!」


 アンタって……天野先生。

 しかも悪魔先生って酷すぎる……


「で、どっちからやれって?」

「ホルストでお願いします」

「ジュピター?」

「はい」


「じゃぁ始めるよ」

「はい、あ! 待って! 録音させて下さい!」


「さ、桜井? もしかして?」

「先生が送って来いって」


「……最悪」

「ピアノ無しの送って下さい」


「いつでもどうぞ」


 桜井? こいつ腕あげた? こんなにパッセージ的確に揃えれたか?


 おいおい高科先生。桜井に音持って行かれてるじゃん。基礎サボってたな。


 高科先生とこうしてバイオリンを一緒に弾ける日が来るだなんて。思っても見なかった!

 楽しいぃいいいいい! 何これ、こんなに楽しいなんて。


 ここは確かもっと豊かに先生が奏でていたような。

 そして次は、そうそう高音部を伸び伸びと。

 静かな眠りから壮大な宇宙へ。


「ありがとうございました!」


 楽しかったぁああ。もっとやりたい!!


 あれ? 高科先生?

 無言で高科先生が部屋を出て行った。

 今日はお疲れなのかしら?



 相変わらず音楽って残酷だよな。


 どんなに練習しても「持ってる奴」とその他大勢の()()()の人間。普通はそんな滅多に「持ってる奴」に逢えるチャンスなんかない。


「持ってる奴」が「持ってる奴」を本気で育てたらこうなるんだな。


 しかも「持ってる奴」がたち悪いことに、純粋で真面目で練習が大好きときたら、こっち側の凡人はどうやって追いつけば良いって話しだよ。


 まぁ高科先生は器用だからねぇ。そんなに心配はないか。バイオリンじゃなくて良かった俺。


 天野は少しばかり、先輩に同情していた。


「もう一回頭からやろうか。桜井じゃあ」

「そうですね。お願いします」


 しかし、こんなに急に音が良くなるか? 元々強烈な世界感を持っていた子だったけれど音が変わってきたような。


 深みが出てきたと言うか? 御神 貴志の音とはまた違う感じ。


 彼の音は前面に強烈に突き刺さるストレート剛速球だ。

 でも、桜井のはなんだろう? 余韻を残す感じ?

 御神先生が官能的なら、桜井のは感動的?


 今までの不安定さとか、ムラが無くなってきたというか、音に自信感が出てきたような。


「天野先生、ここからもう一回お願いしてもいいですか?」


 最初の頃の桜井を思い出すな。全く楽譜が読めなくて、それでも必死に食らいついて。

 でもいつも楽しそうだった。キラキラした目で「音」を心から愛していた。


 俺もあの頃に戻りたいな。

 入賞することや、認められることばかり考えていた頃じゃなくて、好きな音楽をこっそり夜中に聴いていた時代。


 御神先生が桜井に惹かれたは、彼女の持つこの「音」に対する純真さなのかもな。


 ──ガチャリ


「すまない。ちょっと腹の具合がな。もう一度最初から行こうか?」


「あ、高科先生! 大丈夫ですか? 変な物食べたんでしょう? もう先生ったら、大人なんですから気をつけて下さいよ?」


 ──バシッ


「痛いって……」


「はじめますよ~~ 宜しくお願いします天野先生」

「へいへい。どうせ引き立て役ですよ。オケのピアノなんて」


 楽しいい! 楽しすぎるぅ!!


「もう一回やります?」


「嫌ですもう」

「次の授業があります」


「あ! そうだ! 天野先生また勉強を! すっかり忘れてました期末テスト!」


 お前ら、どれだけ人をタダでこき使うんだよ。

 悪魔と悪魔っ子め。








「だから馬鹿なの? 何回言ってるの? ここで代入したら駄目って言ったよね?」


「馬鹿って……教師が」


「担任じゃないし、それに御神先生だって毎回、阿呆って言ってるし。何ら問題ないでしょ? って喋ってないで早くやりなさい!」


 悪魔だ……






 ◇



 その頃、鍵を掛けたレッスン室の一室では、初心者も使う教本を一心不乱に、只管(ひたすら)繰り返す男の姿があった。


 教え子(桜井)に引っ張られるようでは師としてのプライドが許せなかった。




 ◇




 ──ブブブッ、ブブブブッ


「あ、ちょっとやってて桜井」


 珍しく一瞬表示された送信者の名前に驚き、天野は直ぐに部屋を出た。


『送信者─御神先生』


『高科のこと頼んだぞ。怪我しない程度に止めてくれ』


 分かってて仕向けたのか?


 御神 貴志や桜井 花音にあって高科先生にない決定的なもの。


 テクニックだけなら高科先生も変わらない、御神先生はまだしも、桜井よりはテクニックはまだまだ上だ。

 彼の欠点は貪欲さと、音への執着心だ。


 所謂、いいところのお坊ちゃんである高科先生は育ちの良さからか、貪欲さがない。

 野心や貪欲さがなくその分「綺麗な音」は出るが、彼らのような「強烈な印象」が音にない。


 教師としては向いているが、プロの演奏家としてはそれが弱点だろう。


 それを引き出す為に、わざと桜井と一緒に練習させたのか?



 相変わらずやることがえげつないな……

 そして、高科先生なら絶対にこの勝負を降りないことも、ちゃんと分かっていたから仕掛けられた。


 悪魔が……


 天野は笑っていた。



『追伸ー日本公演最終日の協奏曲にピアノソロ入れたから。途中から花音とセッションで。嬉しいだろ? 可愛い教え子と2000人の前でライト当たるぞ? ラ・カンパネラ宜しく! じゃあな友よ』


「はああああ?? 馬鹿なのか! あの男!!」


 最悪過ぎる……



 この日を境に、もう一つレッスン室に鍵がかかり教師に占領されると言う、学園創立以来、前代未聞の自体になるとは、この時は誰もまだ知らなかった。




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魔王の系譜だったのか…… いいぞもっとやれー
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