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御神先生の秘蔵っ子  作者: 蒼良美月
第四楽章 人形と夢の目覚め

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34/50

34.君が笑うから─(思慕)

 ──これ制服で行かないほうがいいわよねえ?

 寮に急いで戻った私は、数少ない外出着の中から一番マシなのを手に取り、着替える。


 うん。冬服買おう。


 ヤバッ!

 時間!


 急いで靴に履き替え、指定場所に向かう。

 こんな昼間に、しかも今日は平日。

 皆はまだ授業を受けているのに。


 オーデションを受ける人は、今日は公休日となっていた。

 午後からオリエンテーションがある予定が……


 先生の説明が3分で終わってしまったからだ。

 高科先生がちょっと気の毒にも……


 先生、早っ!


「お邪魔します?」


「おめでとう」


 助手席に座った途端。


 え?

 ちょ、せ、せん、せい。


 ()()は、いきなりの出来事だった。


 こ、こんなところで……

 もし誰かに見られたら。


 ん─


 塞がれた唇に割って入るように奥まで先生が激しくなる。

 頭の中が真っ白になりかけた時、優しく耳元で囁いた。


「もう逃げるなよ」

「……はい」


 いきなりに驚いた私は俯きながら小さな声で答えた。


 何も無かったような顔をして、顔色一つ変えずにサングラスを手にし、綺麗な長い指で髪を掻上げながら瞳を覆い掛ける姿は、ズルいぐらい格好良く見えた。


「好き?」


「……それ今更いるか?」


「言って欲しいもん」

「今度ベッドの中でな?」


「ぇ?」

「籍入れるまで待てってか?」

「⋯⋯」


「待ってやるよ、なら」

「ぇ?」


 それって⋯⋯

 今、籍いれるって言った?

 え?

 え? 本当に?


 え?

 その後のって……


 驚き過ぎて、良く聞き取れなかったけれど……

 それって……


「まあ、取り敢えずは卒業しなさい。今は襲わないって誓います。だから安心しろ」


「襲うって……」


「だから、しないって」


「いや、そうじゃなくてですねぇ……」


「何だよ? ちゃんと待つって言ったろ」


「いや、そうじゃなくて。待たなくても良いといいますか……何と申し上げたら良いのでしょうか……」


「ハハハハッ。阿呆かお前。自分から安売りする女が何処にいるんだよ。卒業するまでは抱きません」


「……ごめんなさい。じゃあ卒業したら良いんですか?」


 先生の顔を見る。

 笑っていた先生の顔が少しだけ真面目な顔に変わる。


()()は重視してないから。焦る必要ないよ。まぁ俺が我慢出来なくなれば、分からんけどな?」


 先生が? 我慢出来なくなることなんてあるの?


「ちゃんと心が大人になるまで待つから」


 先生が優しく頭を撫でた。

 その手が愛しいのと、私が先生の全てを欲しいと想う気持ちが溢れ出す。

 手が離れた瞬間、先生の顔を見上げる。


「運転中」

「……すいません」

「何処でそんなことを覚えてきたのか」


 サングラスを外し、突然覆われるように先生の顔が近づいた。

 軽く触れた唇に(すが)るように、先生の頬に手を添え、自分から再び押しあてた。



 ──プップッーー


 時間切れの合図と共に、先生が逃げていく。


「飯食いに行くぞ」

「……はい」


 微妙な空気に包まれた車内に、私はほんの少し居心地の悪さを感じていた。


「知ってるか? 俺が欲情する瞬間って、お前のゾクゾクした音を聴いた時だよ」


 ちょっとだけ意地悪な顔をして笑う先生に、悔しいけれどその顔が優しすぎて怒れなかった。


「それズルいです……」


「俺、お前に全財産掛けてるんだぞ? 頼むぞソリスト様」


「ぇ? ええぇえええ?」


 笑いながら今サラリと、とんでもないこと言いませんでしたか?


「う、嘘ですよね?」


 何も答えない先生の顔を見て、驚愕した。


「まぁ、転けたら学院の講師に雇って貰うから、お前一人ぐらいなら養ってやるよ」


「う、嘘ですよねえ?」


「良い音を出すことだけに集中すれば良いよ。それ以上は何も考えるな」


「もしかして、それって私、責任重大?」


 驚愕な事実を聞いて、そんな重大な役目を私みたいなド素人で大丈夫なのかと? 不安になる。


「寿司でいいか?」


「へ?」


「嫌なのか?」

「あ、いえ。そのようなことは」


 えっと? 今、寿司より大事な話しをしてませんでした? 私達って?




 ◇





 回らないお寿司屋さん初めて来たかも。

 これ値段って書いてないの?

 店内を見渡すがメニューが何処にも無い。


 これどうやって注文するの?

 先生の顔を見る。


「好きなの言えばいいよ」


「ぇ? へ?」


「食えないのないんだよな?」

「はい。御座いません」


「重乃さん、適当に任せるわ」


「分かりました」



 何ですかこれ!

 目の前に並んだ高級鮮魚の競演。


「食えよ?」

「は、はい。頂きます」


 お、おいしぃいいいい!!

 神が召し上がる食事は、このような美味なるものなのですね!

 このような高貴なものが、この世にあることを知り得ただけで、私はもう本望でございます。


 先生普通に食べてますが、神って寿司も食べるのですね。

 御神 教本に付け足す必要が御座いますね。


「毎回思うけど、何で飯食うときそんな顔になるんだよ?」

「ぇ? 変な顔してますか?」


 は、恥ずかしい……

 顔に出てたなんて。



「ところで先生いつ戻るんですか? って今度何処に?」


「明日。フランスで公演したら、その後少し時間空くと思うから来月かな?」

「クリスマスは?」


「音楽家にクリスマスと年末に休みがあると思うか?」

「そっか……」


 一年で一番忙しい時期ですよね……


「前になんとかするから。それで我慢しろ」

「本当ですか?」

「俺ってそんなに信用ないか?」


 今まで先生が約束破ったことってそういえば……

 一回だけ伸びたことはあったけれど。

 それ以外は全て守ってくれていた?


 う、嘘!

 それって、もしかしてもの凄く貴重なことでは?


 上着の内ポケットから何やら? スマホを取り出して私の目の前に置いた。


 ?

 これって? スケジュール?


「見ても?」


 何も答えることはなかったが、恐る恐る手に取る。


「ぇ? 嘘!!」


 分刻みでぎっしり埋まっているカレンダーを見て固まった。


「先生っていつ寝ているんですか?」


「移動中」


「ぇ? それ以外は?」


「長く記憶がないわ。布団の上で寝たのいつだろ」


「帰って寝ます?」


 ある程度は予想していたが、こんなにも詰め込まれているとは思っても見なかった。

 それなのに、こうしてわざわざ。


 そんな先生を私は裏切った。


「三月まではな。受けた仕事は仕方ないから」

「ごめんなさい……」


「それまで頑張れるか?」

「はい! 今度こそ逃げないって約束します!」


「頼むぞ。勘弁しろよ? 今度やったら本当に切るからな?」


 苦笑いする先生の顔に、私は怒られるかもしれないけれど嬉しかった。

 ちゃんと心配してくれたことに。そんな酷いことはもう二度としない。

 こんなにも大事にしてくれている人に。


「何処か行きたいところあるのか? このあと」

「あ、冬服を少し……あ、でもお休みの日に一人で行くんで大丈夫です!」


「出るぞ」

「はい」



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