26.夢の国(3)
──それにしても何ですか? この王様ツアー。
皆様が並んでいらっしゃる中、違う通路が開かれ即座にアトラクションへと。
流石王子様!
「せんせい。これ付けてくださいな?」
「嫌です」
「何でも言うこと聞いてくれるって言いませんでしたか?」
「無理です」
「泣いていいですか?」
「勘弁してください」
「じゃぁ写真だけ撮っても?」
「……」
やったーーーーー!
世界で一枚しかない貴重過ぎる。
尊すぎるわこれ。
先生がお耳のカチューシャ付けた姿!!
「笑ってください!」
「この状況で笑えるかよ。早くしろよ」
これ以上は神がお怒りになってはいけないので、そろそろ止めておきましょう。
結局、私にと購入してくれた。
「あ、先生! 来てきて!」
「は? また食うのかよ?」
だって一回やって見たかったんだもん。チュロスを食べながら歩くって。しかも先生と一緒にですよ? こんなことあります? 先生と一緒に「夢の国」に来れるだけでも凄いことなのに。
「キャーー見てみて先生! 可愛い!!」
「花音さん。このペースだと夜まで持ちませんよ?」
「あ! 今日って何時まで大丈夫なんですか?」
そうだ、浮かれてたけど肝心なことを聞いてなかった!
「ロンドン行き最終便。閉園したら出るぞ。寮には無理だから由紀に頼んである。明日朝寮に送ってもらえ」
「それって一旦戻ってもう一回先生、空港まで行くってことですよねえ?」
「そりゃそうだろう?」
「一人で帰れますよ? 私。電車だってあるし」
流石に夜ロンドンに向けて発つ人に一回実家まで私を送って帰り、その後直ぐにまた空港には、申し訳なくて。
「阿呆。夜中に一人で帰らせれるはずがないだろ。フライト時間遅いから大丈夫だ」
先生。その顔は駄目です。そんな顔で見られたら抱きつきたくなります。
「ん?」
「……だめですか?」
「卒業するまでは無理」
先生にとって私の存在って何なんだろう?
沢山いる中の生徒?
ファンの一人?
保証人? だから養育者?
「好きでいていいですか?」って問いに、短く答えてくれた「YES」の答え。
でも、それは私が好きでいるだけの話しで、そんなの勝手に何年も元々好きで憧れの存在だった。
「好きでいること」を続けるのは許可が出たけれど、先生が私をどう思っているか? は、一度も聞いていない。
そんな怖いことを聞く勇気なんて、今の私には到底なかった。
こうしてちゃんと来てくれた、そして無理してでも夢を叶えてくれただけで「それなりに」は思ってくれていると信じてみても? 良いですよねえ? 先生?
「何?」
「いえ……」
「何だよ?」
「先生にとって私は……ごめんなさいこんなこと言って」
「結構、俺忙しいんだぞ」
「……」
それはよく分かっているけれど。それでも先生の口からちゃんと聞いてみたかった。
押しつぶされそうな不安と寂しさで……
見えない目標を信じ続けることへの自信がただ欲しかった。
「ちゃんと考えているから」
「それって?」
私の顔を真っ直ぐ見ながら、一呼吸し1秒程の沈黙の後、いつになく真剣な瞳をした。
「条件が二つある」
「はい……」
「先ずはちゃんと卒業すること。もう一つは、ちゃんと独りで立って歩けるようになること」
先生にずっと言われてきた言葉。
──守られる女は要らない。
重すぎる重圧に押し潰されそうになるのを、堪えて行くことに逃げたくなる衝動にかられそうになった時、先生のその笑顔だけを信じて頑張ったけれど。
ただ何か支えになる「言葉」が欲しかった。
そんなものなんて何の約束でも、何でもないにも拘わらず。
お守りにしたかっただけだ。
分かっていた答えだった。
それでも「夢の国」の魔法をと、広がる星空にほんの少しだけ願いを込めた。
「好き?」
聞いてはいけない言葉を口にしてしまった。
その瞬間、先生の顔がほんの少しだけ辛そうな顔になる。
それが答えだろう。
先生はそのあと、無言で微笑んだ。
でも、私の問い掛けにYESともNOとも答えてくれることはなかった。
「せんせい? これ買って~~」
「クマ? そんなにクマが好きなのか?」
「クマって……まぁ間違ってはないですが」
「どれも同じじゃないのか?」
「違います!」
今はこうして先生と一緒にいられる時間を大切にして楽しもう。
「ちゃんと考えているから」その言葉だけで十分だ。
「ねぇあの人って」
「モデルさんだっけ?」
「バカっ。違うわよ俳優さんよ」
「そっか何のドラマだったっけ?」
一瞬、緊張感が。
先生の存在に気付いた? かと思って無意識のうちに隠れるように先生の後ろへと。
でも先生は笑いながら言った。
「その程度なんだよ。クラッシックなんてまだ」
「私はずっと前から知ってたもん!」
「ませた餓鬼だよなぁ?」
「ひどおおい!」
先程、咄嗟に離した手を再び何方からともなく指を絡める。
「今度、ここでやるのも良いかもな」
「え?」
紫紺の空がピンクや黄色、色とりどりの眩い光りに包まれ、幻想的に染まった姿を観ながら柔らかな笑顔で優しく言った時、そっと耳元で先生が囁いた。
「頑張れよ」
今の俺に掛けてやれる言葉はこれしかなかった。
「愛している」たった六文字の言葉で、ほんの一時だけなら安心させてやることはできる。
だが、そんなものただの「媚薬」だ。
その「媚薬」に自分を見失い、取り憑かれたように廃人にしてしまうことだけは絶対に出来ない。
強くなれ──
◇
「何で夢って覚めてしまうんですか?」
「夢の国だから」
「酷すぎます。神様なんですから止めて下さい時間を!」
「無理です。人間です」
「ひどおおいいい」
「そう言いながら、お前これ買い過ぎだろ? これ俺の車無理だぞ?」
箱の中に詰まった「大事な宝物たち」の姿を呆れながら見ている先生に、流石に私もちょっと反省した。
「すいません……こんなに買って貰って」
「いや、そっちじゃなくて。送ってもらうしかないなこれは流石に」
「これは持って帰りたい! あ、こっちも、こっちは高科先生のだし、あ。これは天野先生のだから持って帰らないと。あ! 由紀様の忘れた!!」
「全部郵送!」
「これ、郵送でお願いします」
「あ! 待って先生! これだけは!」
先生とお揃いで買ったキーホルダー!
「ちゃんと付けて下さいよ? 約束ですよ?」
「……」
「約束ですからね?」
「あれ約束じゃなくて、強制だろ」
嫌がる先生に半ば強制的に買った、二つ合わせたらキャラクターがキスしている形になるキーホルダー。
いつかそんな関係になれることを願って──
──ただ、想いは同じでも人は同じ環境で育ち、同じ経験をしてきたわけではない。
同じ天から授かったギフトを持つ者同士だからと言って、同じ結果になるとは限らない。
「御神」の力で有名になった。「御神」があったから世界に出れた。と言われることへの反発から「御神 貴志」として世界に認められることだけを、一心不乱に全てをそれだけに掛けてきた男。
推しの「音」に惚れ込み憧れ、それで初めて「音楽」の楽しさを知り、その推しと一緒に大好きな彼の「音」を堪能出来ることが「夢」である女性。
育ってきた環境の違いからか、想いのベクトルは時に非情にも交わらない対曲線を描くこともある。
第三楽章(完結)
「今話で第三楽章完結となります」
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