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御神先生の秘蔵っ子  作者: 蒼良美月
第三楽章 乙女の祈り

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22.花のワルツ(1)

 ──何か自分じゃないみたい……

 化粧したの初めてかも。

 アカデミーの先輩達の手によって魔法がかけられた。


 魔法によって今宵私は金平糖の精になる。


「香織、ピンクの口紅と赤どっちが良いかな?」

「どうだろ、でも衣装ピンクよねぇ。頬ピンク使うから少し赤混ぜるか」


「すいません……有り難うございます」


 何かみんな凄いわねぇ。私も化粧とか勉強した方がいいかしら。


 ──服を買ったり化粧品買ったり、お洒落も楽しみなさい。


 先生の言葉を思い出す。

 先生何て言うだろう。

 鏡に映っている自分の姿を見る。


 魔法使いのお姉さん達に、別人のようにして貰った自分を見て、少し恥ずかしい気持ちと、先生に早く見て貰いたい気持ちで複雑だった。


 部屋にある掛け時計を見る。


 16時半。


 今どの辺かなぁ。ちゃんと飛行機、無事到着するかなぁ?


「出来たわよ。良い感じに仕上がってるんじゃない? あ、口紅落ちたら一応これ持ってて、もう残り少ないからあげる。18時までには衣装に着替えてね」


「え? 本当に良いのですか? 本当に何から何まで有り難う御座いました!」


 みんなで作り上げる舞台。こういうの初めてだから何か良いな。

 来年も出れたらいいな……




 ◇



「高科先生~~どうですか?」


「お! 良い! これは貴志もきっと惚れ直すよ? あ、時間来たら込むから着替えておいでそのまま。はい衣装」


「はい。有り難う御座います」




 うわ……これ

 恥ずかしい……

 足見えるし……


 可愛い。うん衣装はね。

 うん衣装は凄く可愛い。


 先生が選んだだけあって、凄い豪華。キラキラしている。

 うん。衣装だけは可愛い。

 リボンでか!


 これ、私で大丈夫なんだろうか……


 鏡に映る姿を確認する。


 首から下はまさに先日バレエ公演でみた「クララ」の姿だった。


 お菓子の国か……

 金平糖の精……


 ヤバい顔が引きつる

 笑顔よね。

 うん……

 考るのやめよう。

 私はクララ! そうクララさん!

 あれ? 金平糖の精?


 まあどっちも同じか?




 ◇



「失礼しま、ぁすぅ」


 そぉっとドアを音をさせないように開けながら、隙間から覗き込む。


「良い! 最高! 可愛い!」

「良いんじゃない? 化けたねぇ」


「ひどぉおおい! 天野先生。やっぱり高科先生優しい! 大好き~~」


 ニヤニヤしてこっちを見る二人の恩師の顔を見る。

 ん?

 何でそんなにニヤニヤしているんだろ?


「浮気か?」


 え?

 今の声って?

 えええええ?


 声がする方角。

 奥の部屋から出てくるドア前に視線を移す。


「先生! ぇ? その服?」


 え? ピンクのシャツ? 

 しかも、スーツは光る素材に金の刺繍??


「また、僕の出番を取られちゃったよ」


 天野先生が少しだけ口を尖らせた。


「此奴、桜井の衣装だけかと思ったら、ちゃっかり自分のまで作ってるんだぞ。どれだけ、やる気なんだよ」


「先生~~~~!」


 思わず走って抱きつこうとしたら、逃げられた。


「阿呆。考えろよ」


「……そうでした」


 高科先生と天野先生が静かに部屋を出て行った。


「良いんじゃない? 可愛い」


 先生が笑った。


「本当ですか?」

「すまなかったな先月は」

「はい、でも今日ちゃんと来てくれたし、また来れないかと思ってちょっと心配でした」


 溢れそうになる涙を我慢する。折角の化粧が崩れてしまうから。


「今日ちゃんと頑張ったら、明日の俺の時間お前にやるよ」


「本当ですか? 明後日帰るんですか?」


「一応その予定、トラブルなければな」


「……」


「今は、クララになることだけに集中しろよ」

「クララにですか?」


「は? お前馬鹿なのか? 何の為のその衣装だよ。お前がクララにならないと、観客が共感するわけないだろ」


 ハッ!


 自分がクララになる!


 楽譜通り間違えないように正確に弾いて、できるだけ観客のみんなに可愛く見て貰えるようにと、日々頑張ってきた。


 でも、自分が主人公クララになる! 

 なんて思ってもみなかった。


「何の為のバレエ公演だよ」


 考えたこともなかった。自分が主人公になって演奏するだなんて。


「先生ってもしかして、毎回その作曲者や主人公になって演奏してたんですか?」


「音楽史なんの為にやっているんだよ。背景や解釈の為だけにやっていると思ってたのか?」


「え? それってみんなですか? 高科先生とかも?」


「さぁ? 他人のことまでは分からんがな。譜を追うだけの音聴いて楽しいか?」


 聴いて楽しい? そうだ。先生が音楽のことを話す時はいつもそうだ。

 演奏する側の思いではなく、向こう側の聴き手を中心にしか考えていない。


 間違えずに弾けたら良い。

 今まで一度たりともそう言えば、言われなかった。


 常に楽しんでもらうように、可愛く思ってもらえるように。一緒に踊りたくなるように。

 先生の軸は常に観客に向いていた。


「別にさぁ決まりなんか音楽にないんだよ。良いって思うから好きになったんじゃないのか?」


 先生の音。先生の音を聴いて先生の音をもっと知りたい。御神 貴志の音の世界を知りたいと。

 それから「御神 音楽」にはまった。


 そうだ。パガニーニやカプリースが最初好きだったんじゃない。

 先生が紡ぐパガニーニの音を好きになったんだ。


「いいよ。間違えても、正調リズムから外れても。ちゃんと追いかけてやるから安心して自由になれ。桜井 花音のクララで勝負して来い」


「はい!」


 私のクララで勝負する。


「もう少しスカート短くても良かったなぁ……」


「先生……」


 その目は何処を見てるんですか……


 腕組みしながら、顎に手をあてて首を傾げながら真面目な顔してブツブツ言うのやめてもらって良いですか……


 一応本番前なんですけど。




◆◆おまけ◆◆

※「くるみ割り人形」のクララと金平糖の精の解釈は各バレエ団によって解釈が異なります。


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