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第179話 ハデスとの決着

 妖精族は様々な物に興味を持ち、好意を持ち、愛する傾向にある。ハデスもその1人だった。彼は生きとし生ける全ての生物を愛し、大切に思い、生き物の姿を見ているだけで、彼の心は満たされていた。

 最初は妖精族たちの友情、愛情による触れ合い、睦み合い、憎しみによる争いでさえ、彼にとっては美しいものに見えていた。生きとし生ける物たちの関係全てが、彼にとって愛おしかった。ときには妖精の友と趣味嗜好について語り合い、酒をお供に夜を明かしたこともあった。


「なあアルテル。この写真を見てくれ。これは人間という生物なんだが、こいつらの生み出す関係は、妖精族に負けず劣らずだ。きっとお前の心を満たしてくれるぜ。俺が保証するよ」

「ほお。それは良いことを聞いたな。人間たちの住む世界、行ってみるとしようか」


 友の情報により、アルフヘイム以外で暮らす生き物たちにも興味を持ち、彼は別世界に住む者たちの触れ合いも観察し、記録するようになった。

 彼にとってそれは最高に幸せな時間であり、それが永遠に続くことを願った。



 しかし、彼はあることに気づいてしまう。それは、生きとし生ける全ての物には、いつか終わりがくるということ。



 初めにその事実を思い知ったのは、人間とのふれあいを見ていた時だった。馬車の暴走によって彼が観察していた人たちが轢き殺され、見るも無惨な肉塊へと変わり果ててしまった。もう彼が望むものを、その者たちが見せることは出来ない。もう二度と、その者たちの触れ合いを見ることは出来ない。彼はその時、初めて死というものがどれほど残酷なものなのかということを知った。


 それからの彼の人生は絶望だった。月日を、年をまたいでいくごとに消えていく触れ合い。老化による疲れ、体へのダメージが、少しずつ目に見えてくる妖精の友。終わりというのは彼にとって最悪の災いであり、それを防ぐために必死に研究を続けた。しかし。


「なせだ。なぜ終わりを防ぐことが出来ないんだあ!」


 どれだけ年月を重ねても、芳しい研究成果はあげられず、時間が経つごとに自身や友、生物たちの老化に絶望するしかなかった。もうどうしょうもないと思われたその時、悪魔の手が差し伸べられる。




 ある時。アルフヘイムがヴァルキュリア家の襲撃を受け、多くの妖精たちが実験のために捕らえられた。彼も捕われの身となってしまい、最初は終わりを防ぐための研究が出来ないこと、二度と外に出られないことに絶望していた。しかし、ヴァルキュリア家が見せた偽熾天使(フラウド・セラフィム)の姿を見た途端、彼の世界は大きく変わった。


「素晴らしい。なんて美しい姿なんだ」


 他の捕らえられた者たちが醜い天使の姿に嫌悪や絶望を感じる中、彼だけはそれを美しいと評した。ヴァルキュリア家の者たちもそんなことを言われるのは予想外だったようで、面食らったように彼を見つめている。しかし、彼にとってそんな視線などどうでも良かった。


 不完全ながらも生物の理を超えた存在。自分の研究が成し遂げたかった終わりを防ぐ存在の究極の材料。彼は窓に貼り付き、食い入るように見ていた。


「うふふふ。これは面白いものが来ましたね」


 そうしていると、1人の悪魔が現れた。長い茶色の髪や黒い水で胸や股付近などの危ない部分は隠れている。手には黒く長い棒を持っている。血のように真っ赤に染まった両目、大人しめな顔ではあるが、恐ろしい何かを秘めている妖しい雰囲気。そして、背中に生えた3対6枚の漆黒の翼。彼は即座に理解した。彼女こそが自分の研究が完成した先にある存在。終わりを防ぐ存在だということを。


「美しい。なんて美しい姿なんだ。これこそが俺が見たかった究極の存在だ!」

「うふふふ。これはまた面白い物が来ましたねえ。あの玩具にここまで魅入られたのは、あなたが初めてですよ」

「教えてくれ! あれはどうやって作るのだ。貴殿の技術や研究を我に見せてくれ!」

「あらあら。ずいぶん変わってますねえ。私、あなたのいた国を攻撃して攫ってるんですよ? 恨みとか抱かないのですか?」

「そんなことはどうでもいい! 確かに美しき関係を結ぶ我が同族たちを攻撃したことは許し難い。しかし、この美しき天使たちを見れば、そんな怒りは簡単に吹き飛んでしまった! さあ、我にあの研究について教えてくれ! 終わりを防ぐために必要なのだ!」

「あははははは! なんだかおかしな物が釣れましたねえ。まあ、これも良い暇つぶしになるでしょうし、あなたを仲間に引き入れてあげましょう」


 それから彼は、めきめきと力をつけていき、己の使命のために努力し続けた。そのおかげもあり、彼はヴァルキュリア家の選ばれし存在、六神王の1人として選ばれ、アルテルという名を捨ててハデスとなった。



「我は、貴様らに負けるわけにはいかないのだあああ!」


 ハデスは何本もの骨の槍をダレスに向けて放つが、それらの攻撃は鎖を纏った腕で防がれるか、避けられるかで効果はなかった。


「こんなもの効かないよ!」


 彼女は強烈な一撃を放つも、それは腕で防がれる。


「貴様らはなぜ理解しないのだ。生きとし生ける全ての物にはいつか終わりが訪れる。我はその残酷な結末から救おうとしてるのだぞ! どこに敵対する理由があるのだ!」

「知ったこっちゃないよ。私は終わりがどうとかに興味ないからね。それに、終わりのないものなんて退屈なんだよ!」


 彼女は蹴りも加えた連続攻撃を仕掛けるが、その攻撃は全て防がれてしまい、ダメージにはならなかった。


「やるねえ。私の攻撃を読んでここまで防御するとは。流石は六神王というべきかな」

「鬱陶しい女だ。そろそろ死ね!」


 ハデスが距離を取ると、地面から何本もの骨の槍が飛び出す。しかし、その攻撃は全て避けられて距離を詰められて殴られる。その攻撃はかろうじて防御するも、彼は攻撃を躱されたのが衝撃だった。


「貴様。どうやって死角からの攻撃を」

「残念だけど、その攻撃はもう知ってるからね。躱すのも簡単なのさ!」


 彼女は再び何回もの攻撃を加えようとするも、魔力が衝撃波のように放たれて距離を取らされる。


「ちっ。本当に煩わしい奴だ。貴様も」


 ハデスが行動しようとすると、彼の前方に青い魔法陣が浮かび上がる。


「アタックコマンド、v2e0。アクアハンド!」


 魔法陣から水の腕が出現し、彼の体を掴んだ。


「貴様もな。詠唱女!」


 彼は魔力を衝撃波のようにして水を消し飛ばした。


「3秒も持たないか……けどこれならどう? アタックコマンド、jz4e!」


 その詠唱で白い魔法陣が出現した。


「! その魔術は」

「これは……当たりなのかな? セイントブラスト!」


 魔法陣から放たれた光が、ハデスの体を焼いていく。


「ぐおおおお!? ま、まさか……聖属性の魔術が出るとは!」

「あり。めちゃんこ効いてるじゃん。これはラッキー」


 ハデスは自身の魔術と熾天使(セラフィム)の技術の応用でほぼ不老のようなものとなっている。しかし、それは自然の摂理を無理やり捻じ曲げて手に入れたものであり、今の彼はアンデッドに近い存在となっている。故に、アンデッドを浄化する力を持つ聖属性は最悪の相性なのだ。


「失敗作風情が……余計なことをするな!」


 彼が骨の剣を放つが、それらはダレスが掴んで止めた。


「させないよ。リナーテちゃん、援護ありがとね〜」

「どういたしまして……さっさと終わらせるよ。アタックコマンド、g4k3!」


 彼女の詠唱で、赤い魔法陣が出現する。


「当たりだね。ブレイズバレット!」


 魔法陣から何十発もの炎の砲弾が放たれる。


「ふん。その程度の攻撃など」


 彼がそれに対してを対処しようとすると、地面から飛び出した魔封じの鎖が襲いかかり、彼の体を縛り上げる。


「ちっ!」


 魔術を封じられ、続いて炎の砲弾が襲いかかる。威力はそこまで高いものでもないが、今の彼にとってはその攻撃もそれなりのダメージになっていた。


「まだまだ行くよお!」


 ダレスが追撃を仕掛けており、背後から殴りかかる。


「くっ!」


 その攻撃は防がれたが、攻撃は終わらない。


「ラッシュブレイク、ツインアームバージョン!」


 ダレスは2本の腕で高速で連続攻撃を仕掛けていく。


「ふふ。骨の軋む良い音だ。どうやらさっきの攻撃がかなり辛かったみたいだね」

「ぐううう!? 鬱陶しい攻撃だ。離れろ!」


 彼の体の一部が骨の剣へと変わり、鎖を断ち切ると共に彼女に攻撃を仕掛ける。何とか躱したものの、肩や腕を少しばかり斬り裂かれた。


「あの骨の剣。魔術で生み出したものではないのか。我の魔封じの鎖が通用しないのは厄介だな」

「やるねえ。流石は六神王といったところかな。ゾクゾクしてくるよ」

「鬱陶しい雑魚どもだ。死ね!」


 何十発もの空気の砲弾が放たれるが、それらは地面から飛び出した鎖が壁となる。鎖はその攻撃で粉々に砕けたが、ダレスには攻撃が届かなかった。


「空気の砲弾か。面白い物使うねえ」

「あれを防がれるとはな。鎖女、我の攻撃が見えているのか」

「見えておらん。だが、代わりに優秀な臣下が教えてくれるのでな」


 ラルカの隣でメジーマが肩を借りながら立っていた。


「なるほど。貴様が余計な入れ知恵をしてるというわけか。まだ生きていたとは驚きだよ」

「騎士団の生命力を……舐めないでください……この程度、どうとでもなるんですよ。それより、よそ見してて良いのですか?」


 ハデスがその言葉で前の方を向くと、鎖の壁と共にダレスの姿が消えていた。彼女はいつのまにか彼の背後に立っていた。そこから顔を蹴り飛ばそうとするも、それは掴んで止められてしまった。


「この程度の奇襲が俺に通じるとでも?」

「思ってないよ。だからこうするのさ!」


 掴まれた足から拳が飛び出し、彼の顔を殴り飛ばした。


「があ!? 貴様、なぜ魔術を――!」


 ダレスの腕には、巻き付かれていたはずの魔封じの鎖が無くなっていたのだ。


「ふふふ。やはり魔術を使えるのは楽しいね」

「馬鹿が。自ら攻撃を防ぐ術を捨てるとはな!」


 彼の手から紫の波動が放たれるも、それらは地面から飛び出した魔封じの鎖が壁となって防ぐ。


「させぬよ。我の力を舐めるな」

「ついでにこれも喰らってもらいますよ……風よ。竜巻となりて敵を切り裂け!」


 風が竜巻のように吹きすさんでハデスを包み込み、その体を切り裂いていく。傷は浅いが、先程よりは確実にダメージを与えられていた。


「ぐううう。小賢しいやつらめ。そろそろ決着をつけてくれるわ!」


 彼から放たれた紫の波動が辺り一帯を包み込むように広がっていく。しかし、ラルカはその攻撃が来る前に全員を魔封じの鎖で防御していた。


「学習も出来ないほどに矮小だとはな。いくら範囲を広げようと、こんなのは我に通じないぞ」

「狙ったのはお前たちではない。この町そのものだ」

「なに!?」


 彼が腕を振り上げると、周りの建物が地面から離れて空中へと浮かんでいく。どの建物も2階建て以上の大きさのものばかりだ。


「すごい! 六神王はこんなことも出来るんだ。びっくりだね」

「言ってる場合ですか……このままでは」

「これで終わりだ。我が楽園の礎となれ!」


 建物が崩れ、ダレスたちよりも1回り大きな瓦礫となって雨のように降り注いだ。



 瓦礫は山のように積みあがっており、まるで災害でも起きたかのような惨状となっていた。ハデスは無事だった建物の屋上に降り立つ。しかし、受けたダメージが大きかったのか、膝をついてしまった。


「ぐっ……余計な体力を使わされた……魔力も残り少ない。あれほどの強敵とは思わなかったよ。だからこそ、本当に悲しい。うおおおおおん!」


 彼はわんわんと泣き喚き、悔しそうに地面をたたく。


「あれほどの逸材がいなくなって悲しいいいいぞおおお! もしかしたら、我の楽園に連れていけるかもしれなかったのに! 運命はなんて残酷なんだ。あれほどの逸材を殺すさだめを与えるとは。神とは酷いものだなあ。だが、我は負けぬ! 死の恐怖がない世界を作るために、我はヴァルキュリア家として」


 その言葉を遮るように、彼の首と四肢に雷を纏った矢が刺さる。


「があ!? これ……は」


 彼が矢の飛んできた方を見ると、かなり遠くの方にある高台で、赤いメッシュが所々に入った黒髪の女性、ウルが弓を構えて笑っていた。


「上に登ってくれて助かったわ。おかげで狙いやすいし。てか、油断しすぎ」


 弱った状態に四肢と首を撃ち抜かれたダメージは大きく、ふらついてしまった。それに加え、強力な電撃が彼の体を焼いていく。


「がああああ!? この程度で……我が」

「ならば、この程度の攻撃はどうだい?」


 その声に反応して振り向くと、ダレスの攻撃で首を蹴り飛ばされた。彼女の体はあちこちにダメージを負っており、服もボロボロで頭から血を流していた。左腕は折れたかのように不自然な形に曲がっていたが、それでも闘志は燃え尽きていなかった。


「あがあ!? 馬鹿な……なぜ生きているんだ」

「さあ。なんでだろうね!」


 彼女は腕を4本に増やして連続攻撃を仕掛けていく。その攻撃で骨のヒビは大きくなっていった。


「そらそらそらああ! このまま殴り殺してあげるよ!」

「ぐう。折れた腕も使うとはな。ずいぶんとイカれた女だ」

「そんなの関係ないよ! これほど楽しい戦い。両手を使えなきゃ損じゃないか! おらおらおらおらあ!」

「ふん。調子に乗るなあ!」


 彼から紫の波動が放たれ、彼女の動きを止められてしまった。


「くっ」

「残念だよ。君が我の理念に同意してくれるなら、こんなことにはならなかったのに! 我は悲しいぞ!」


 骨の剣が放たれ、足と胴体を貫かれた。


「ぐ!? 凄いね。まだこれだけの攻撃を出せるなんて」

「最後に聞いておこう。我と共に楽園に来る気は」

「ないよ。くだらないこといちいち聞かないでよ。萎えるじゃないか」

「そうか。ならば死ね」


 腕を上に振り上げると、それについていくように彼女の体が上昇していく。


「あの世で後悔すると良い!」


 そのまま腕を振り下ろすと、地面に叩き落とされた。それは地面を貫通して下の階に叩き落とされるほどの威力だった。しかし。


「がはっ!? まだ……だよ。倒れるわけには……いかない。こんなにも楽しい戦いなんだから!」


 彼女は嬉々とした笑みを浮かべており、戦いを辞める気は毛頭ないようだった。


「ふん。それだけのダメージを負いながら、まだ戦う気があるとは恐れ入ったよ。だが、鎖女の援護がない貴様など」


 再び紫の波動を放とうとした瞬間、背後から何本もの雷を纏った矢が貫いた。


「ぎああ!? しまっ……た」

「何回も矢に貫かれるなんてついてないね!」


 彼女は片足に2本の腕を生やし、その場を跳躍して一気に距離を詰める。


「インパクトブレイク!」


 そのままハデスの首を蹴り、骨にヒビを入れていく。


「がはっ……貴様ああ」

「アーンド、ラッシュブレイクうううう!」


 足に生えてた腕を消し、肩から2本腕を生やし、4本腕で攻撃してハデスの体を砕いていく。


「やめ……やめろ。死にたくない……我は……我は終わりのない世界を……皆の望む世界ためにも」

「あきらめなよ。君の望む世界は訪れない。それにみんななんていうけど、少なくとも私はその世界を望まない! 戦いも命も終わりがあるから楽しいんだ。終わりのない人生なんて退屈すぎて死にたくなるよ。だから、私は君の世界を否定する。どりゃああああああ!」


 最後の一撃で彼の体は粉々に砕け散った。


「馬鹿な……六神王の1人である我が……こんな奴らに」

「楽しかったよ。君との戦いは」

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