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第177話 死の翼掲げる熾天使

「これで終わらせてやろう」


 ハデスが手を突き出して紫の波動を放ち、その波動がウェスト支部メンバー全員を包み込む。


「! これは」

「体が、動かねえ」

「にゃーー!? これどうすれば良いのお!」

「落ち着きなさいリナーテ。さっきと同じことをされただけ。もう一度連続攻撃を仕掛けて解除すれば良いだけです。風よ。竜巻となりて敵を切り裂け!」


 風が刃のようにふいて切り裂こうとするも、それは翼によって防がれてしまった。


「悪いが、もう子供だましは通用しないんだ」


 彼が腕を振ると、それに追随するようにメジーマとメリナが建物の壁に叩きつけられた。


「がっ!?」

「ぐっ!? なんですかこれは。あなたの魔術では、生物を動かせないはず」

「我の魔術は熾天使(セラフィム)により進化した。故に、短時間ならこういうことも出来る!」


 彼が腕を振り上げると、メジーマたち2人も上空に飛ばされる。そこから振り下ろすと、2人は隕石のように、地面に叩きつけられた。


「メリナ! メジーマ!」

「あぐ……ああ」

「がっ」


 リナーテが呼びかけるも、反応はかなり弱く、うめき声のような声しか聞こえなかった。


「お前もすぐに後を追わせてやる。何も心配するな」

「生憎だけど、私は2人の後を追いたくないんだよ。まだまだ生きていたいからね! アタックコマンド、g4q1!」


 彼女の詠唱で、空に赤い魔法陣が浮かび上がる。


「動きを止められても、私は関係ないんだよ。ファイアレーザー!」


 魔法陣から炎のビームが何発も放たれるが、それは全て骨の翼で防がれてしまった。


「言ったはずだ。子供騙しは通用しないと」

「知ったこっちゃないね! アタックコマンド、w8d3!」


 その詠唱で金色の魔法陣がハデスの前に出現する。


「くだらん。こんなのは通用しないと」

「そう言うのは、食らってみてからにしな。ゴールデンスプライト!」


 魔法陣から金色の液体がシャワーのように振りかけられる。


「愚かだな。熾天使(セラフィム)の力を持つ我に毒など効かん。こんな攻撃などーー!?」


 何も問題ないと判断して防御すらしなかったが、その直後に鼻に入ってきた香りに驚き、鼻を塞ぐ。


「く、臭いーーー!! 臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い。この液体は何なのだ。いぎゃー!? なんか生暖かくて気持ち悪い! まさか、我にも通用する毒を奴が生み出したというのか!?」


 彼は金色の液体が放つ酷い臭いや生暖かさに悲鳴をあげ、必死に振り払おうと腕を振ったり体を回したりしている。


「お、服が動かせるようになった。ラッキーだね」


 彼女はハデスが絶叫してる間にメリナとメジーマの元に向かう。


「ふたりとも。大丈夫? 生きてますかー! 生きてたら返事をくださーい!」

「生きてるよ……つかうるせえ」

「こんな時にまで……ふざけるとは。とんでもない女ですね」

「良かったあ。生きてた〜。まあ脈を測ってたから知ってたんだけどね〜」

「うるせえなてめえは。それより、あの骨野郎は何してんだ」


 ハデスの方は未だにかけられた液体の臭いなどに悲鳴をあげて暴れていた。


「くそ。いい加減消えろお!!」


 彼はやり過ぎと思えるほどの多量の魔力を解き放ち、液体を全て消し飛ばした。その影響で、彼の周囲の地面が巨大なスプーンですくったかのように抉られた。


「はあ……はあ……はあ。ふざけた魔術を使いおって。やはり失敗作は失敗作。我らのような成功作とは違うというわけか」

「はっ。あんたのような骸骨野郎が成功作なら、私は失敗作で良いよーだ。べろべろべー」


 リナーテは馬鹿にするかのようにあっかんべーの顔をし、ハデスの骨に青筋のようなものが浮かぶ。


「そこの性悪女。貴様は真っ先に殺してやろう。我を愚弄した罪は重いぞ」

「ふっふー。私を殺したいなら、まずは守ってくれるメリナやメジーマを殺すんだね〜」

「……色々と不満はありますが、今は飲み込んで協力してあげますよ。瓦礫よ。舞い踊りて敵を囲め!」


 メジーマの言葉により、周囲にある瓦礫が竜巻のようにハデスの周囲を舞う。


「くだらん。この程度の物など足止めにもならんわ!」


 紫の波動が放たれ、瓦礫の動きが停止してぐしゃぐしゃに潰された。連鎖するように地面から鉄の刃が飛び出す。しかし、その攻撃も紫の波動で止められ、ぐしゃぐしゃに潰されてしまった。


「マジか。この攻撃も通用しないとはな」

「ぬるいな。本当の攻撃というのを教えてやろう!」


 彼が骨の翼を大きく広げると、そこから骨の剣が何十本も襲い掛かってきた。


「なっ。このお」

「ディフェンスコマンド、t05q!」


 メリナが大量の水で分厚く硬い壁を錬成する。そこにリナーテが詠唱し、白い壁が重なった。骨の剣は白い壁を貫通してメリナが作った壁に突き刺さるが、何とかそこで動きを止めた。


「やるじゃないか。だが」


 ハデスが紫の波動を突き刺さった骨の剣に向けて放つと、勢いの消えた剣が大砲のような勢いを得て、壁を破壊して襲い掛かってきた。


「なに!?」

「ひゃああああ!?」

「くそ。風よ。突風となりて攻撃を逸らせ!」


 メリナたちは咄嗟に横に飛んで何とか攻撃を回避し、メジーマが魔術を使って何本か上に攻撃をずらしたおかげで、事なきを得た。


「なるほど。てめえの魔術で剣に勢いと貫通力をつけ、私とリナーテが作った壁を壊したのか」

「ほお。察しが良いじゃないか。失敗作にしては賢いな」

「失敗作失敗作うるせえんだよ。今すぐその口を――!」


 瞬間、メリナはリナーテたちの足下の地面がほんの少しだけ盛り上がってることに気づいた。注視しなければわからないほどのわずかな膨らみ。


「まずい! 避けろおおお!」


 メリナは樽の中から多量の水を取り出し、それを使ってリナーテたちを吹き飛ばした。


「いぎゃあ!? ちょっとメリナ、いきなり何……を」


 突き飛ばされたリナーテが見たのは、衝撃の光景だった。地面から飛び出した何本もの骨の槍。そして、それに腹と足を貫かれてるメリナの姿だった。


「メリナ!」

「仲間の心配をしてる場合ではないぞ」


 ハデスが紫の波動をリナーテ達に向かって放つが、その攻撃は地面から出現した壁によって防がれた。


「ほお。まだ生きていたのか」

「勝手に……殺してんじゃねえぞ。ボケ」


 メリナは大量の血を流しながらも、辛うじて生き長らえていた。



「メリナ、あんた生きてたの? てか大丈夫なの!?」 

「心配……すんな。こんなものお!」


 メリナは流れる血を刃に錬成して骨の槍を切り裂いた。


「離脱して下さいメリナ! その状態では戦うことなど」

「うるせえよ。カチカチ眼鏡。私は自分の血を自由に操れる。出血だって簡単に抑えれるし、問題ねえんだよ。さっさと行くぞ!」


 彼女が両手を合わせると、樽の中の水が吹き出し、何砲もの大砲と形を変えた。


「無駄だ。そんな攻撃など」


 ハデスが紫の波動を放った。メリナは大砲と自分たちからそれを守るように、樽の水を利用して巨大な壁を作った。


「もうその波動は通用しねえぞ」

「そのようだな。ならこうしよう」


 彼が再び腕を突き出すと、透明な何かが壁を破壊してメリナをふっ飛ばした。


「があ!?」

「メリナ! あんた、一体何を」

「わざわざ教えてやるほど、我は親切ではないのだよ!」


 彼が腕を動かすと、リナーテも何かにぶつかったかのようにふっ飛ばされ、壁に叩きつけられてしまった。


「あが!? なに……これ」

「リナーテ! この」

「これで終わりだ!」


 彼が腕を振り上げて攻撃を仕掛ける。メリナたちには不可視の攻撃だったが、メジーマはしっかりと視認しており、その攻撃を横に飛んで躱した。


「ほお。これを避けるか」

「魔術で風を操ることは多いですからね。わずかな気流の変化も見やすいのですよ!」


 メジーマはハデスが空気の塊を砲弾のように飛ばしてるのを視認しており、それ故に攻撃を躱すことが出来た。


「風よ。我が身を纏う鎧となりなさい!」


 風が鎧のように纏わり付くと、彼は一気に距離を詰めようとするが。


「我に近接戦を挑むとは愚かだな!」


 ハデスの放つ紫の波動によって動きを止められてしまった。


「終わりだ」

「まだです。俺が動きを止められることに対して策を打ってなかったと思いますか? 2人と距離が離れ、あなたとの距離が近づいた今なら。大地よ! 我が敵と我を包みなさい!」


 大地が波のように激しくうねり、彼らをボールのように包み込んだ。


「これは」

「押し潰せ!」


 球状の大地は押し潰すかのように動いていく。そのせいで近くの建物が地盤沈下を起こしかけたりしており、周りが大きな被害を受けている。


「くっ。これは」

「俺とここで死んでもらいます。命を懸けて悪を滅ぼし正義を為す。それこそがヴァルハラ騎士団の使命!」

「なめるな。この程度で俺が殺せるものかああ!」


 強大な魔力を解き放たれ、メジーマはそのせいで壁に叩きつけられ、巨大な鉄の塊で潰されるかのような痛みが襲い掛かる。しかし、彼はその痛みでも魔術を解除しなかった。


「があ……あなたは、絶対にここで……殺す! 大地よ、敵の首を絞め殺せ!」


 地面が荒れ狂う海のごとくうねり、一部が鎖のように伸び、ハデスの四肢や首を絞めつけていく。


「ぐああ……やるじゃないか。大地がめちゃくちゃに動くせいで平衡感覚が狂いそうだ。お前が失敗作なのが惜しいよ。だが」


 その言葉と不気味な笑みにメジーマが疑問を持った瞬間、骨の槍が包んでいた大地を貫いて彼を貫いた。


「がああ!? まだです……絶対に……離さない」


 彼はそれでも意識を保ち、さらに強く相手の体を締め付けていく。


「素晴らしい意思だ。だが、貴様の抵抗など我には何の意味も為さぬのだ!」


 先ほどよりも数十倍以上の魔力による衝撃波により包んでいた大地が消し飛んだ。メジーマは大きくふっ飛ばされ、何回も地面に体を叩きつけられる。


「がはっ……馬鹿な……こんなでたらめの魔力量があるなんて……ですが、あきらめません……正義を為すためにも」


 彼はそれでもなお抵抗しようとしたが。


「おとなしくしていろ!」


 空から降り注いだ何本もの骨の槍が彼の体を貫く。


「あがあ!? ぐっ……」

「ほお。風を操って急所を避けたか。だが、その状態ではもう動けまい」


 ハデスは自身の存在を誇示するかのように骨の翼を大きく広げた。


「お前たちは我をなめすぎだ。我はヴァルキュリア家の選ばれし存在、六神王の1人であり、悠久の時を生き、豊潤な魔力を持つ妖精族。貴様らとは格が違うのだ!」


 腕を突き出し、再び紫色の波動が放たれる


「……何?」


 かと思いきや、実際には何も起こらなかった。


「なぜだ。なぜ我の魔術が発動しない」


 必死に原因を探していると、自身の足に1本の鎖が絡みついているのを発見した。


「これは」

「不意打ち行っくよー」


 その言葉に振り向くと、ダレスがガントレットを装着した状態で顔を殴り飛ばした。


「ぐうう!?」


 ハデスは大きくふっ飛ばされるも、何とか体勢を立て直す。


「あれ。不意打ちだったとはいえ、思ったよりも吹っ飛んだね。ずいぶん消耗してるみたいだ」

「全く。矮小なる者にも困ったものだな。偉大なる我がいちいち助けてやらないとならないのだから」


 そこに現れたのはダレスとラルカの2人だった。


「あなた……たちは」

「メジーマとやらだったか? 間に合ったようで安心したぞ。あとは我らに任せろ。偉大なる我があっという間にあの骨だらけ野郎を倒してやろう」

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