第176話 ウェスト支部メンバーVSハデス
壊滅したウェスト支部。多くの団員たちの亡骸が、ボロボロの姿になったリナーテやメジーマ、イドゥン支部長が横たわる中、その中心のような場所にハデスは立っていた。涙を流しながら1人の団員の首を締め付けるという、異常なことをしながら。
「やめて……離して」
「うおおおおん。悲しい。俺は悲しいぞ。楽園へ行く資格を持つものが1人もいないとは。悲しいぞお。失敗作を何百人も殺すのは悲しい。だがこれは仕方のないことなんだ。許せ人間。お前のような失敗作は、楽園創造のために死なねばならないんだ」
「ざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
ぼろぼろの姿になったメリナが果敢に攻めるも、ハデスから飛び出した骨の剣が突き刺さる。
「がっ!?」
「抵抗するな失敗作よ。我は出来るだけ楽に、手早くそなたたちを殺したいのだ。失敗作とはいえ、生き物を殺すのは悲しいのでな」
「ざけんな……言ってること意味不明だし、てめえは何がしたいんだよ!」
「お前がそれを知る必要はない。死ね」
その者から再び、何本もの骨の剣が放たれた。
「昨日どころか、数分前のことのように覚えてるよ。てめえが意味不明な理屈で好き勝手暴れまくったあれをな」
メリナの目は今までにないほど殺気や怒りがこもっており、それがハデスに対する憎しみの強さを表していた。しかしハデスは、それに対して動揺することもなく平然としている。
「ふう。生き物から憎しみの目を向けられるのは辛いな。我は全ての生きとし生ける者を愛してるというのに」
メジーマもまた、憎しみと殺意の籠った目で睨みつける。それに対してもハデスは平然としていた。
「愛してる? ずいぶん勝手なことを言いますね。その愛してる存在をあんなにも殺したのですか?」
「殺した? 我を殺人鬼のように言うのはやめてもらおう。我はあやつらに慈悲を与えたのだ。我が作る楽園で、失敗作共が暮らすのは可哀想だからな」
「言ってることが意味不明ですね。ここまで会話が成り立たないバカは初めて見ましたよ」
「だよねえ。私以上に性格悪そうだし、こんな害虫はさっさと殺すのが世のため人のため!」
リナーテがそう言った瞬間、ハデスの足元に黒い魔法陣が出現した。
「先手必勝。インターナルショック!」
魔法陣から放たれた衝撃波が彼の体内を激流のように流れる。確実に命中しているが、リナーテの表情は暗かった。
「そこそこ当たりだったのに、ちょっとショックかも」
「良い魔術だが、この程度の攻撃など我には効かん」
「ならこいつはどうだ!」
メリナは樽にある水を一部取り出し、それを何本ものナイフに錬成して放つ。しかし。
「無駄だ」
彼が手のひらから紫の波動を放つと、その波動でナイフが止まってしまった。
「馬鹿な女だな。我に物理攻撃が通用しないのは知っておるだろう」
「物質停止。生物以外のあらゆる物質を止められる魔術だろ。だがこれならどうだ!」
彼女が指を鳴らすと、ナイフが形を変え、爆弾へと形を変えた。
「ほお、これは」
「結構練習して、いろいろ出来るようになったんだよ。吹き飛べ!」
彼女の言葉と同時に爆弾が爆発し、火炎と黒煙が辺り一帯を包み込んだ。
「至近距離での爆発。効いてると良いんだが」
「残念ですが、現実はそう甘くないようです」
爆発の煙がやむと、そこにはハデスの姿があった。彼のダメージはそこまで大きいものではなく、骨が少し焼け焦げている程度だった。
「悪くない攻撃だ。俺への対策としても及第点。しかし火力が足りないな」
「くそ。大して効いてないのかよ」
「我も腐っても六神王の1人。舐めてもらっては困る」
「風よ。竜巻となりて身を包み、その体をバラバラにしなさい!」
風が竜巻のように吹きすさんでハデスを包み込む。
「あなたの物質を止める魔術は強力ですが、停止させられるのはあくまで固体か液体のみ。気体である風は止められないでしょう」
風は刃のように襲い掛かるが、それでも表面を傷つけるのみで有効とは言い難い。
「無駄だ。風で攻撃するというのは良い手段だが、これでは我は倒せんぞ!」
魔力を外へと解き放ち、その衝撃波で風が消えてしまった。
「ちっ。面倒ですね。メリナ、連携攻撃で行きますよ」
「了解。リナーテ、サポートしろ」
「OK。アタックコマンド、M8T5!」
彼女がそう言うと、ハデスの足下に紫の魔法陣が浮かび上がる。
「これは良いね。ポイズンエアー!」
魔法陣から視界を封じる毒の煙が吐き出され、竜巻の中に包み込まれて肉体を腐食させていく。
「無駄だ。先ほどと同じように対処すれば!」
さっきと同じように魔力を衝撃波のようにして放ち、毒を雲散させて視界が開けた。そこには、風の鎧をまとっているメジーマが目の前にいた。
「はああ!」
彼はハデスの顔を蹴飛ばし、風が追加攻撃のように襲い掛かった。
「くっ。この攻撃は厄介だな」
「まだまだああ!」
彼は連続で攻撃を仕掛け、ハデスはその攻撃を避けたり腕で防いだりしてさばいていく。
「良い身体能力だな。殺さなければならないのが惜しいよ。もしお前が成功作なら、我の楽園に連れて行ってやろうと思ったのに」
「悪いですが、あなたのような外道と共に行く世界など、想像しただけで吐き気がします。それに俺はヴァルハラ騎士団が1人。弱気を守り、強き外道を挫くが使命です!」
彼は勢いのまま強烈な蹴りを入れ、大きくふっ飛ばした。そこを追撃するように何本ものナイフが上空から降り注いだ。
「無駄だ!」
ハデスが手を突き出して紫の波動を放ち、ナイフがすべて止められてしまった。その直後、再びナイフが爆弾へと形を変える。
「吹き飛べ!」
「あいにくだが、同じ手は通用しない」
手を握りつぶすように動かすと、爆弾がそれに続くようにぐしゃぐしゃに潰された。しかしそれで攻撃は終わらない。そこからさらに続くようにメジーマが連続攻撃を仕掛けていく。
「ちっ。面倒なコンビネーションだな。ならば」
紫の波動がメジーマに向かって放たれると、彼の動きが突然止まってしまった。
「これは……服の動きを止めたのですか」
「終わりだ。せめもの慈悲だ。楽に殺してやる」
ハデスが骨の剣を作り出し、それで突き刺そうとした瞬間。
「そう言ってもらえて光栄ですよ。瓦礫よ。敵に集いてその身を貫け!」
周囲に散らばってる瓦礫が一斉に攻撃を仕掛けるが、その攻撃は全て紫の波動に当たった瞬間に止まり、紙のようにぐしゃぐしゃにつぶれてしまった。
「無駄だ。こんな攻撃は我に効かん」
「のようですね。ですが」
「連続攻撃ならどうだ!」
メリナがそう言うと、樽の水から錬成した何本もの鉄の矢が降り注ぐ。
「ちっ。面倒なものを」
再び紫の波動が放たれて矢の動きが止まった直後。
「旋風よ! 竜巻となりて敵を引き裂け!」
竜巻のような風が襲い掛かり、その身を切り裂いていく。
「ぐうう。この」
ハデスがダメージを受ける中、矢の動きが少しずつ動いていたのをメジーマは見逃さなかった。
「あれは。リナーテ、続きなさい!」
「もうやってるよ。アタックコマンド、D7W4!」
リナーテの詠唱で地面全体に黄色の魔法陣が現れた。
「やば。これミスったかもしんない。スメルブラスト!」
彼女が鼻と目を塞ぐように守ると、魔法陣から黄色い煙が放たれた。
「ぐっ!? なんだこの匂い!」
「目に沁みますね。それに鼻も」
「ぐおおおお!? 目が、目があああああ!」
酷く臭い煙のせいで現場は阿鼻叫喚となり、咄嗟に防御したリナーテを除いた全員が涙目になっていた。おまけに現在、メジーマは服の動きを止められてるせいで動けず、防御も出来ないので、被害が深刻だった。
「リナーテ! てめえこの状況でどんな魔術使ってんだ!」
「ごめん! 私の魔術ランダムなんだよ~」
「いえ、この攻撃で正解ですよ。リナーテ」
「それって」
彼女がメジーマの言葉に疑問を持っていると、止まっていた鉄の矢が降り注ぎ始めた。
「しまった。くそ!」
ハデスはその攻撃を回避し、後ろに下がった。
「風よ。旋風となりて醜悪な煙を吹き飛ばせ!」
風に命令を出し、臭い煙を吹き飛ばした。
「やはり、あなたが物質を止めるには、それなりの集中力がいるようですね。それさえ分かればこちらのものです」
「全く。失敗作の割には勘が鋭いし、なかなかに面白い魔術を使う。殺すのが惜しいよ。だがいつまでも貴様らに時間をかけるわけにはいかない。そろそろ本気で行かせてもらおう。死滅を死滅してしろ。我こそは絶命の悪魔。あらゆる命は我が手のひらの上。存分に泣け。喚け。絶望しろ!」
ハデスの魔力が驚異的な高まりを見せ、その衝撃波で黄色い煙が吹き飛んでいった。赤い左目が強い輝きを放ち、ヒビのような模様が腕まで広がる。その背中には4枚の翼のような形をした骨が出現した。
「2人とも。気を引き締めてください。ここからが本番ですよ」
「ああ。分かってる。リナーテ、おふざけの時間は終わりだからな」
「初めからふざけてるつもりもないけど、まあ分かったよ。まじめに行きまーす!」




