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第175話 神々の侵攻

 王都がヴァルキュリア家の侵攻を受ける少し前。リナーテ、メリナ、メジーマのウェスト支部メンバーは酒場にいた。リナーテは浴びるほどの酒を飲んでふらふらしていた。


「うぃ~、ひっく。ほんと気分悪いわあ。せっかくカイツとデートしようと思ってたのに、バルテリアとかいうユニコーン野郎に連れてかれて帰ってこないしさあ!」


 彼女はジョッキになみなみと注がれた酒を浴びるように飲み干した。


「私たちはここに遊びにきたわけじゃないんだ。デートできないのも仕方ないだろう。後、さっきから酒を飲みすぎだ」

「大丈夫らってえ。今は口うるさいまじめ君もこんなんだしさ~」


 彼女が指さした先には、メジーマが顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏していた。彼は異常なほどに酒に弱く、酒場を包む酒の匂いを嗅いだだけでも酔いつぶれてしまうほどだった。もちろん、彼も自分が酒に弱いことは知っているので、酒場に行くのは全力で拒否していたのだが、リナーテに無理矢理連れてこられ、酒場を出た客が纏っていた酒の残り香が鼻に入ってノックアウトした。


「うひひひひ。ほんと酒弱すぎだよね~。笑える~」

「はあ。お前の性格の悪さはもはや病気の域だな」

「おいメリナ~。だーれが性格悪いってえ? 私くらい性格まっすぐなのも中々いないんだよ~」

「酔うとますますめんどくさくなるな。だから酒場に入るのは嫌だったのに」


 彼女が愚痴をこぼしながら水を一口飲んでいると、何かに気づいたかのように目を見開いた。


「ちっ。めんどくさいことになったな」

「ほよよ? どったのメリポン。もしかして乳が重くて肩こり起こした?」

「リナーテ。悪く思うなよ」

「へっ? それってどうい――ぎゅべ!?」


 メリナはリナーテの首の後ろを手刀で叩いて気絶させる。そしてポケットから水の入った瓶を取り出し、それを操って、メジーマとリナーテを担いだ。


「おいマスター」

「はい! なんでしょうか?」

「水がたっぷり入った樽を3つほど頼む。ついでに警告するが」


 彼女は水の入った瓶を4つ取り出す。それを操って錬成して壁を作り、酒場の内壁に重なった。


「ここから逃げないことをおすすめする。とんでもない敵が侵攻してきてるんでな。この壁は大砲を喰らっても傷1つつかないグレナデンの壁。滅多なことでは壊れないはずだ」






「さい……起きな……い」

「うーん……だれえ……今ちょっとしんどいから体が……重い」

「起きなさい! 馬鹿リナーテええええ!」

「どゅええええ!?」


 リナーテはメジーマの声にたたき起こされた。


「もう。いきなりなんなの~。体重いんだけど」

「ふざけてる暇はりませんよ。すぐに戦闘準備を」

「ほえ? それってどういう」


 その直後に彼女が見たのはえげつない光景だった。自分たちはいつの間にか門の前に立っており、その先には何十体もの偽熾天使(フラウド・セラフィム)があちこちを飛び交いながら襲い掛かってきていたのだ。現在、彼女たちは1体の偽熾天使(フラウド・セラフィム)に襲われており、その攻撃をメリナが水で錬成した盾で受け止めていた。


「やっと起きたか。寝坊助女」


 彼女は自身の盾から何本もの剣を生やし、敵の体を刺し貫いて殺した。


「ふう。これで2体目だな」

「ちょっ!? なんなのこれええ! てかここどこ!?」

「ここは西門付近。偽熾天使(フラウド・セラフィム)が四方の門から攻め込んできたんですよ。メリナ曰く、北門が一番多いようですが」

「なるほど。てか、なんで私はここに?」

「私が運んだんだよ。門の付近に設置させてた水の動物がこいつらの侵攻を発見して、私がここまで運んだ。ついでに私の操る水を飲みこませてアルコールも除去しておいた」

「え? 私たち、何気にめちゃくちゃ気持ち悪いことされてない? てか今気づいたけど、メリナの後ろにある3つの樽は何?」

「こいつは戦うための水だ。こんぐらいないときつそうだったからな。それより目の前の敵に集中しろ。来るぞ」


 何体もの偽熾天使(フラウド・セラフィム)が飛び交う中、その内の1体がメリナたちの前に降り立った。


「あれ? こいつ、前会った時と姿違わない?」


 その姿は先ほどメリナが倒したのとは少しばかり違っていた。白い鎧のようなものが身につけられており、背中の翼も赤黒く染まっている。顔も鬼のような形となっており、まるで悪魔を思わせるようだった。敵は3人を値踏みするかのように見ている。


「似たようなのがあちこちにちらほらいるな。恐らく、さっき私が倒した奴の強化体ってところだろ」

「あちこちって。メリナ、どうやって見てるの」

「上空に水で造った鳥を何体か飛ばしてそれで見てるんだ。戦いには支障をきたさないから安心しな!」


 彼女は水の入った瓶を取り出し、その水を刃に変えて飛ばしていく。敵はその攻撃を腕で防御し、刃は皮膚を貫通せずに弾かれてしまった。


「なに!?」

「GIRIIIIIII!」


 敵は一気に突進を仕掛けてきた。


「風よ。我が身を纏う鎧となりなさい!」


 風が鎧のように纏わり付き、メジーマはその突進を受けとめる。しかし、完全に受け止めきることはできず、大きく後ろに下がってしまった。


「メジーマ、大丈夫か!」

「問題ありません。風よ。突風となり、刃となりて敵を切り裂いて吹き飛ばしなさい!」


 彼は強烈な風を吹かして相手を吹き飛ばし、それと同時にいくつもの風の刃で攻撃する。しかし、その攻撃は薄皮を切る程度のダメージで、致命傷とは程遠かった。


「くっ。頑丈な体ですね」

「GIGIGAAAAAI!」


 敵は突然叫び声をあげ、翼から何十本もの羽根を飛ばして攻撃してくる。


「ディフェンスコマンド、u9p1!」


 リナーテが唱えると、彼女たちの周囲を白いキューブが包み込んだ。羽根はキューブに突き刺さって動きを止めた。


「バリアキューブ。それなりに防御力のあるこれなら」


 彼女が安心したのもつかの間、刺さっていた羽根が光を帯び始めた。その脅威にいちはやくメジーマがいちはやく気づいた。


「大地よ。我が仲間たちを包みなさい!」


 彼がそう命令すると、大地が波打つ海のようにうねり、3人を包み込んで球状となる。その直後に羽根が爆発を起こして襲い掛かるが、彼のとっさの判断のおかげで全員無傷で済んだ。


「びっくりしたあ。まさか爆発起こすなんて。あいつめっちゃ強くなってるじゃん!」

「どうやら、元の熾天使と比べ、かなり強化されているようですね」

「みたいだな。ならこれはどうだ!」


 メリナが指を鳴らすと、地面から何本もの槍が飛び出して襲い掛かる。その槍が狙ったのは脇付近であり、完全に不意をついた攻撃だった。しかし、それでも敵の体を貫くことはできず、先端が少し刺さった程度だった。


「GIGIII!?」

「くそ。これでも貫通しないのか。まあ、刺さっただけでも上々だ」


 彼女が再び指を鳴らすと、刺さった槍は粉々に砕け散った。彼女の行動の意味を察したメジーマが動く。


「風よ。旋風となりて敵を包み、その体をバラバラにしなさい!」


 風が竜巻のようにふいて偽熾天使(フラウド・セラフィム)を包み、その体を切り裂いていく。薄皮しか切り裂けない程度のダメージだが、彼の狙いは他にあった。

 先ほど砕けた破片も旋風に巻き込まれて周囲を動き、刺さったことで空いた穴から破片がいくつか侵入し始めていたのだ。


「鉄よ。敵の体をズタズタに引き裂きなさい!」


 破片は敵の体を内部から切り裂いていく。


「外からの攻撃には頑丈でも、内部からの攻撃には弱いようですね。これで終わりです!」


 最後に破片が体内から飛び出し、攻撃は終わった。内部のあちこちがズタズタに切り裂かれ、どう考えても動くことはできないと思っていたが。


「GIGA……GIGIIIIII!」

「馬鹿な!?」


 偽熾天使(フラウド・セラフィム)はそれでも死ぬことなく、彼らに襲い掛かってきた。しかし、その途中で透明の何かにぶつかってしまった。


「GIGI!?」

「ディフェンスコマンド、K9W2。インビジブルシールド。頑丈さもそれなりにあるし、透明だからそんな風に罠も仕掛けられるんだ。ついでに、アタックコマンド、BM4R!」


 リナーテがそう唱えると、偽熾天使(フラウド・セラフィム)の頭上に黄色の魔法陣が出現した。


「ま、そこそこ当たりだね。美味しいところもらってくよお。ブレイクランス!」


 魔法陣から光の槍が何本も飛び出してその肉体を穴だらけにしていく。


「ふふふ。内部をズタズタにされたのが効いたみたいだね。楽に倒せちゃったよ」

「GIG……GIGAAGA」


 偽熾天使(フラウド・セラフィム)は呻き声をあげて倒れ、二度と動かなくなった。


「よっしゃあああ! 1体撃破!」

「喜んでる暇はないぞ。さっさと他の天使共もぶっ殺さないと」

「そうだね。急がなくちゃ。にしても、なんであの天使は1体だけしか来なかったのかな。私ならたくさん出撃させて数で押しつぶすのに」

「確かに気になりますね。一体何の狙いがあるのでしょうか」

「簡単だよ。偽熾天使(フラウド・セラフィム)が優先する命令は、実験に使えそうな素体を多く捕まえることであり、戦うことではない。貴様らは私たちの実験には不適格だと判断されたのだろう。だから天使たちも襲うことをやめたんだ」

「この声……まさか!」


 3人が声のした方を向くと、そこには紫のローブを身に纏った骸骨人間が立っていた。


「おや、死んだと思っていたが生きていたのか。嘆かわしいことだな。俺はまた失敗作共の処分をこの手でしないといけないのか。ああ悲しい。お前たちのような失敗作と生きて再会したことが悲しいよお」

「あんたは……あのときの骸骨野郎!」


 3人の表情は今までにないほどこわばっていた。それもそのはず、ウェスト支部を壊滅させ、多くの仲間を殺したのは、目の前にいる骸骨人間、ハデスだったからだ。一触即発の空気が漂う中、メリナが口を開く。


「私たちはお前に再会できて嬉しいけどな。あの時の借り。100倍にして返してやるよ!」


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