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第174話 決戦開始!

 19時頃。カイツ達と離れた他の騎士団メンバーのラルカ、ダレス、ウルは泊まる予定だった宿泊施設……ではなく、城にある部屋に押し込まれていた。全員ぐったりとなって疲れており、今にも倒れそうである。

 なぜこうなったかというと、街を散策してる時に兵士たちに囲まれ、無理矢理連れてこられたからだ。もちろん強行突破しようと思えば可能だったが、流石に王国の兵士に手をだすわけにもいかず、連れてこられるしかなかった。

 紅茶を一口飲み、ウルがため息を吐きながら話す。


「はあ。ラルカの重りはしんどかったし、突然兵士たちに連行されるわでほんとに疲れたわ。どうしてこんなことに」

「うう。初めての王都。もっと色々見たかったのに。なぜ我はこんな目に合うんだあ」

「いやーびっくりしたなあ。まさか兵士たちに連行されるとは思わなかったよ。戦えなかったのが凄く残念だ」


 ダレスは普通に兵士たちと戦おうとしたのだが、同行していたラルカとウルが無理矢理止めた。


「兵士と戦うなんて大問題よ。そんなことしたら王都防衛どころじゃなくなるわ」

「私は殺す気はなかったのに」

「殺す気があっても無くても大問題なのよ。この戦闘狂が!」

「だから戦闘狂じゃないってのにい。ぶ〜」


 ダレスは不貞腐れたように用意されたお菓子をボリボリ食べていた。


「にしても、王は何を考えておるのだ。我らを監禁するようなことをして。おまけに兵士の数があまりにも多すぎるし、みなピリピリしておる。北門付近の雰囲気とまるで違うぞ」

「恐らく、城にいる兵士たちは知ってるのよ。王都がヴァルキュリア家の奴らに襲撃されることを。だからこんなにもピリついてるんだわ」

「しかし、街の雰囲気はいつもと変わらなかったぞ。街の人たちは襲撃されることを知らなかったようだが」

「当然でーすよ。街の人たちはそんなこと知らないのでーすから」


 奇妙な話し方をする声の方を見ると、猫のような口ひげをした男がいた。目は糸のように細く、いかにも胡散臭い雰囲気が飛び出している。服装も無駄にキラキラとしたアクセサリーを着けており、成金のような感じだった。


「誰だお前は。矮小なる者にしては、ずいぶんとハデだな」

「ほお。このわたーしを矮小なる者と言ったのは、あなたが初めてでーすよ。ものを知らないというのは恐ろしいでーすね。わたーしはホーシン・ハシル。選ばれし王族の1人です。あなた方のようなカスとはまるで次元が違う存在。神と呼ぶべき者ですね」


 彼は見せつけるように、王族の紋章が記されたハンカチを取り出した。


「ホーシン。聞いたことがあるわ。確か、王都ぐらいに広い領地を持っており、かなりの権力者だったわよね」

「ほお。そちらの豊満スレンダーな女性は博識でーすね。素晴らしい人だ。よろしければ、このわたーしが愛人にしてあげましょーか?」

「遠慮するわ。あなたとは上手くいきそうにないし。それより、どうしてあなたがここにいるの? 領地からかなり離れているけど」

「そりゃもちろん、ここで兵士やあなた方に守らせてあげるためでーすよ。わたーしの領地にいる兵士は役立たずでーすからね。生き延びるために、ここに逃げ込んだのでーすよ。あ、あんしんしなさーい。仕事はぜんぶ秘書に任せてまーすので」

「なら貴様は、領民を捨てて逃げ込んだということか? なぜそんなことをしたのか、我は理解に苦しむな」

「ふん。低俗な者は理解出来ないでしょーが、わたーしは王族であり、特別な存在なのでーす。王族とは国の象徴であり、守るべき宝。故に、私は生き延びるためにどんなことをしても許されるのでーす。低俗な者たちを救う義務など、わたーしにはありませーん」


 彼の言い分はウルやラルカにとっては非常に腹立たしく、今にも助走をつけて殴りたいと思わせた。彼はそれを知ってか知らずか、口ひげを触りながら見下すような視線を向けている。


「で。そのビビリのチキン様が一体何の用なんだい?」


 ダレスが放ったその言葉に、彼の額に青筋が浮かんだ。


「そこの醜い男女さーん。今なんて言いましたか?」

「チキン様って言ったんだよ。だってそうじゃん。戦う意志もなく、無様に逃げて籠の中に閉じこもってるんだもん。チキン以外に適切な言葉があるのかい?」

「大した金も権力もないゴミ風情が。言わせておけば!」


 彼が殴りかかろうとしたその瞬間。


「ホーシン。客への暴力は醜いですよ」


 1つの声がそれを止めた。彼が声のした方を向くと、そこには1人の女性が立っていた。

 美しい白のドレスを身に纏い、頭にはティアラが飾られている。凛とした顔立ちに海のような青い瞳。全体的に整えられ、人為的に作ったのかと思えるほどの美しさは見る者を魅了する。


「アクア様。しかしあの男女が」

「客が暴言を吐いたからといって、こちらが暴力で返すのは醜いことです。あなたはそんなにも醜い人なのですか?」


 彼女が睨みつけるような目を向けると、ホーシンはすっかり震え上がってしまった。


「ひいっ! し、失礼しましたーー!」


 彼は脱兎のごとく去っていき、ウルたちはその光景をポカンとして見ていた。


「身内が失礼をしました。申し訳ありません」

「いえ。私達も出過ぎた真似をしましたから」


 姫の対応に、ウルたちは少しばかり驚いていた。ホーシンのように見下すわけではなく、ちゃんと謝罪をしてくれたことが意外だった。


「それにしても、人々を守るヴァルハラ騎士団の方々と出会えて嬉しいですね。あなたがたの活躍は聞いてますよ。人の世界だけでなく、様々な世界の住人を救い、悪を倒している。私にとってあこがれの存在です」


 姫は嬉しそうに笑いながらウルの手を握る。


「ウル。あなたは絶対に相手を射抜けるとてつもない弓の名手と聞いてます。素晴らしい人ですね」

「はい。ありがとうございます」

「ラルカ。あなたは人を導く強いカリスマを持ち、鎖でどんな敵も縛れるとか。あなたのようなカリスマ性を身に着けられるよう、私も日々頑張っています」

「ほお。中々分かってる人間ではないか。まことに喜ばしいことだ」

「ラルカ。姫様にそんな無礼な対応を」

「構いませんよ。あなたがたは客人ですし、王都を守ってくれる素晴らしい戦力ですから。それに、そういう風にタメ口で話してくれた方が、私も嬉しいですから」

「意外だねえ。さっきのチキン野郎みたいに見下して敬語を強要してくるかと思ったけど、そんなことないんだね」

「ここは公務の場ではありませんし、敬語ばかり使われるのもしんどいですから」

「面白い人だねえ。それにしても、君がここに来たのはどういう理由なんだい? こんな風に雑談するために来たわけじゃないだろ」

「雑談したいというのも本当ですが、まあそうですね。あなたがたにこれを渡しにきたんです」


 そういって姫はあるものを取り出した。それは城の地図であり、道のような赤い線がひかれている。


「これは?」

「城の見取り図と裏口のルートです。この赤い線を辿っていけば、兵士に見つかることなく行けるでしょう。私も城からお忍びで出るときによく使いましたから」

「これを私たちに?」

「ええ。あなたがたはヴァルハラ騎士団。弱き人々を守る使命を持つあなたたちを、こんなところにとどめて良い理由はありません」

「けど、こんなことをすればあなたも王族の人たちに」

「構いませんよ。私はなすべきことをなすだけです。それに戦いが無事に終われば、父上や王族たちも文句は言えなくなるでしょうから」

「分かったわ。ありがたく使わせてもらうわね」

「その代わりと言ってはなんですが、ちゃんと勝ってくださいよ。あなたがたが勝たなければ、この国は終わりですから」

「もちろんです。私たちは絶対に負けません。城で勝利の報告を待っていてください!」

「ふふ。それは良いですね。あなた方が無事に帰還し、王都に平和が戻るのを楽しみにしています」


 彼女たちは部屋をでて裏口へと向かい、部屋には姫様1人だけが取り残された。


「お願いしますね。民を守るためには、あなたがたの力が必要なのですから」






 ウルたちはアクア姫から貰った地図のおかげで、兵士1人ともすれ違うことなく、無事に裏口から城の外へと脱出することが出来た。


「あのお姫様のおかげで、何とか脱出できたわね」

「私としては、少しくらい兵士と戦っても良かったんだけどなあ」

「相変わらずの戦闘狂ね。それより、これからどうしようかしら。カイツたちと合流したいけど、どこにいるのか分からないし」

「全く。我の右腕はどこでなにしてるのやら」

「お前らの上から飛び降り中だ」


 その声に反応して彼女たちが見上げると、カイツとバルテリアが上空から飛び降りてきたのだ。


「カイツ! 今までどこに行ってたの。というかなんで上から落ちてきたのよ」

「ちょっとした経緯で城に閉じ込められててな。けど、バルテリアが緑色の石を取り出したかと思ったら光に包まれて、いつの間にか城のバルコニーにひとっとびだ」

「ふふふ。便利だろ。俺のワープストーン君は。それにしても、美しき百合の花たちはどうしてこんな場所に?」

「私たちも城に閉じ込められてたのよ。王族を守る戦力だとかよくわからない理由でね」

「なるほど。そっちも大変だったな。アリアやリナーテがどこにいるか分かるか?」

「さあ。そこまでは分からないわね。でも、彼女たちの気配は特に感じなかったし、この城の中にはいないんじゃないかしら。アリアとかここにいたらすぐに分かりそうだし」

「確かにな。とにかく、1度他のメンバーとも合流しよう。色々と話したいことが――!? くそ、このタイミングでかよ。予告通りに攻めてくるなんて思ってなかったが」


 カイツが何かを察したかのように遠くの方を見ると、ウルもその気配に気づいたように同じ方向を見て、バルテリアは黒くて薄い箱型の小さな物体を取り出す。それにはレーダー機能が備わっているようで、上と左右の方向から、赤い点が何百個も中心に向かって移動していた。


「うそでしょ。こんな時に」

「あらら。こっちの防衛準備は全然完了してないってのに。これはまずいかもね」


 3人が何かを察したかのように話しており、ダレスはその会話で何が来たのかを察したが、ラルカは全く分かっていなかった。


「おい右腕。何が来たのだ?」

「ヴァルキュリア家の偽熾天使(フラウド・セラフィム)だ。北門、西門、東門方向からかなりの数が来ている」


 それを聞くと、ラルカの顔が真っ青になった。


「おい……それかなりまずくないか?」

「かなりまずいな。兵士たちもまだ防衛準備が出来てないし、騎士団側も戦力が整ってない」

「ひとまず、北門の守備は俺が行くとしよう。この中で一番早く移動できるのは俺だろうしな。獣は美しき花と合流しながら西門と東門、南門の警備に当たれ」

「了解だ。死ぬなよ」

「誰に言ってんだ。俺は獣ごときに心配されるほど弱くねえんだよ」


 彼はそう言うと、靴の方から炎が噴き出し、北門の方に飛んで行った。


「俺たちも行くぞ」

「了解。ふふふ、笑うべきじゃないんだろうけど、なかなか面白い展開になってきたね。流石はヴァルキュリア家だ。戦いが楽しみになってきちゃったよ」

「ふざけたこと言ってないでさっさと行くわよ」


 カイツ、ラルカ、ウル、ダレスの4人も他の騎士団メンバーと合流するために走っていった。

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