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第168話 戦いの終わり

 side カイツ


 アレクトの放った言葉。それはあまりにも衝撃的な言葉だった。


「あいつの姉だと? ふざけたこというのも大概にしやがれ!」

「お前が信じようと信じまいとどちらでもいい。だが、テルネが私の妹なのは事実だ。質問。テルネはこんな話し方をしていなかったか?」

「!? その話し方」

「感激。お前の驚く顔を見れてうれしいよ」


 あの話し方。奴があいつの姉かどうかはともかく、それなりに見知った仲ではあるようだ。


「私をお前を絶対に許さない。妹を無残に殺した罪、妹と同じ理想をいだいた罪。ここで清算させる!」


 奴は一気に距離を詰めて鞘のついた刀で斬りかかり、その攻撃を受けとめる。


「ぐ!?」

「お前の存在が目障りで仕方ないよ。妹を殺した外道が弱者の虐げられない世界を作る? そっちこそ、ふざけたことを言うのも大概にしろ!」


 奴は激しい攻撃を続け、俺はそれを防御することしかできなかった。


「右腕から離れろ!」


 何本もの鎖が奴の足下から飛び出すも、奴はその攻撃を後ろに飛んで回避する。


「右腕はテルネという女を殺してない。殺したのはネメシスだ! 矮小なる貴様の恨みは筋違いなんだよ!」

「そのネメシスという女が行動を起こしたのもそいつのせいだろ! 自分の身内1人御しきれず、何も守れないカスが、妹と同じ理想を掲げるなど吐き気がする。あいつがどれだけ苦しい思いをしたのか知らない癖に!」

「ちっ。好き勝手ばかり言いよって!」


 ラルカが何本もの鎖で攻撃するも、全て破壊されてしまった。


「目障りだ。貴様には用がないんだよ」


 奴がそう言うと、ラルカの体がなにかに締め付けられるように歪んでいく。


「がっ……ああっ」


 そして、奴の体に巻き付いてる妙なものを感じる。


「なんだこれは。燃えろ!」


 俺は六聖天の力を使い、ラルカに巻き付いてた何かを燃やした。その際、彼女が被害を受けないように上手く燃やし分けた。


「すまない。助かった」

「大丈夫か。ラルカ」

「問題ない。右腕こそ大丈夫か? 顔色が異様に悪いぞ」


 彼女が心配そうに俺に聞いてくる。自分ではわからないが、今の俺はずいぶんと酷い顔をしているようだ。今頃になって、額を伝う汗に気づく。


「大丈夫だ。問題ないさ」


 俺はラルカの頭を撫で、アレクトの方をにらみつける。


「お前の言うとおりだよ。テルネを殺したのは俺だ。俺が弱いから、何も守れずにすべて失った。だからこそ、今度は大切なものを守ると決めた。夢を潰した彼女に償うために、もう2度と、彼女たちのような人を生み出さないためにも、俺は弱者が虐げられない世界を作ると決めたんだ! その理想は誰にも否定させない!」

「口だけは一丁前だな。その自信がどこまで続くか試させてもらおう」

「望むところだ!」


 俺は一気に距離を詰めて斬りかかろうとするが、奴はそれに対してゆったりと鞘から刀を解き放とうとする。明らかに攻撃できるチャンスだったが、その時に取ったのは後ろに下がることだった。


「おや。無様に攻撃してくると思ったが、さすがに勘が良いな」

「あの刀」


 よくわからないが、明らかにやばい力を感じる。あまりにも異質な力。熾天使(セラフィム)とも何かが違うな。ネメシスが使ってたのと少し似てる感じがするが、一体何なんだ。


「あの力。まさか」

「アリア。何かわかったのか?」

「ちょっと試してみる」


 アリアは次の瞬間にはアレクトの背後に立っていたが、奴は刀を抜こうとせず、簡単に首を刈り取られてしまった。しかし。


「無駄だ。貴様の攻撃は当たらんよ」

「攻撃したかったのはあんたじゃない。別の物だよ」


 彼女が指を鳴らすと、奴の鞘にいくつもの斬撃が入る。


「なに!?」

「なるほどねえ。ジキルの紅い翼に少し似てるね。製作者はカーリー。あの女も面白い物作るね」

「貴様。まさかこの刀の情報を」

「鞘だけだから、能力とかの詳細は得られなかったけどね。けど、どういう経緯で作られたかはある程度理解出来た」

「やるじゃないか。この刀に攻撃を当てたのは褒めてやろう。だが貴様では私に勝てん。魂を見てくるあの女と比べれば、ずいぶんと戦いやすい」


 奴はいつの間にか遠くに現れ、首がなくなった体は煙のように消える。不死というわけではなく、攻撃を受けた際のみワープのような移動を行う。そしてさっきから感じる嫌な気配。どうすべきか考えてると、奴の足下から何本もの鎖が飛び出し、その体を貫いた。


「どんな仕組みかは知らんが、魔封じの鎖で貴様を殺せば、何の問題もないだろ。偉大なる我は対応も早いのだよ」

「偉大? この程度で偉大な存在になれるのなら、だれでも簡単になれそうだな。貴様の攻撃も私には効かんよ」


 いつの間にか奴はまた遠くに移動しており、鎖が当たった奴の体はまた煙のように消えた。ラルカの鎖はあらゆる魔術を封じる。本当に攻撃が当たってたならワープみたいなことはできないはず。つまり、攻撃が当たる前に回避した。これらから導き出される結論は。


「少しずつではあるが、何となくわかってきた」

「本当か? 流石は右腕だな。我はどうすればいい?」

「2人は下がっててくれ。俺がやる。六聖天・第3解放!」


 六聖天の力を発動し、自身の周囲にいくつもの紅い球体を展開する。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 一斉に放つも、奴はその攻撃を全て鞘付きの刀で弾き飛ばした。


「この程度の攻撃が効くとでも?」

「流石にこの攻撃では魔術を使わないか。なら、六聖天 脚部集中!」


 俺は六聖天の力を足に集中させ、一気に距離を詰める。


「速い!?」

「剣舞・龍刃百華!」


 剣を横に1振りし、百に等しい斬撃が奴の体をズタズタに切り裂く。だが攻撃が当たった感触はなく、奴の体からも血は流れていない。


「そこだ!」


 俺は手のひらに小さい紅の刃を生み出し、それを何もない場所に向けて投げつける。すると、アレクトが突然その場に現れ、俺の攻撃を防御する。


「ぐ!? 馬鹿な。私の位置を」

「予想通りだな。お前の魔術は憑依のようなものだろ? 周囲に漂ってる妙なものたちに魂を憑依させて肉体を作り、ワープのような移動をしていた。違うか?」

「妙なものか。クロノス程ではないが、貴様も私のゴーストを認識してるようだな。おまけに、私の魔術を」

「おそらくだが、憑依はお前の身に危険が及べば、自動的に発動できるといったところだろうな。そして、少しばかりインターバルもある。時間として20秒ほどといったところか」

「発動条件も把握してるのか。流石はヴァーユを倒した男というべきかもしれぬな。やはり貴様にはこの刀を抜くのが」


 奴が刀を抜こうとすると、不気味な力が周囲を支配する。


「右腕、この力」

「分かってる。かなりやばいものだな」


 アリアやラルカはこの力に似ているものを知ってるのか、かなりいやそうな顔をしている。ま、こんな不気味な力を目にすれば嫌になるのもわかる。本格的に抜かれるにつれ、その力が空間を支配していく。まるで別の世界に迷い込んだかのような感じがする。あれがどういうものかは気になるが、それは後回しだ。


 奴の刀が最後まで抜かれるかと思った瞬間、その手が止まり、苦々しい顔をする。


「ちっ。もう全部壊されたのか。そこそこ頑丈に仕上げたというのに、こうも速く全滅するとは。もう少し奴と戦いたかったが、これ以上ここにいれないな」

「? なんだ」


 奴は急に刀を鞘に戻し、俺たちに背を向ける。


「待て。どこに行くつもりだ!」

「予定が変わった。これ以上貴様と戦うわけにはいかない。化け物がこっちに向かってくるのでな」

「わけわからんこと言いやがって。逃がすと思ってるのか!」

「ここで殺す!」


 俺とアリアが一気に距離を詰め、俺が奴の体を、アリアが首を切り裂くが、攻撃が当たった実感がなかった。


「やはり逃げるか。奴の気配は」


 さっきやったように気配をたどろうとするも、全く感じられなかった。


「カイツ。お前とは王都で決着をつけてやる。私は六神王が一人、アレクト。真名はマリネ・レイフィード。弱者の醜い強さに国を奪われ、天使たちに家族を奪われた哀れな王女だ」


 それを最後に、奴の言葉は全く聞こえなくなる。この建物にいる気配がないし、上手く逃げられたみたいだ。


「カイツ。あれはどこに消えたの?」

「おそらくだが、奴がゴーストと呼ぶものを遠くに配置してたんだろ。いざというときのための避難先としてな。それより奴の名前だが」


 俺が話そうとすると、突然横の壁が破壊されてクロノスが突っ込んできた。


「な!?」


 アリアはとっさにその攻撃を防御するも、大きくふっ飛ばされてしまった。


「クロノス!」

「カイツ様、大丈夫ですか? 妙な刀を使う女と会いませんでしたか?」

「俺は大丈夫。刀を使う女ならすでに逃亡した。それよりアリアが」

「むう。また逃がしましたか。カーリーといい幽霊女といい、私の戦う相手って、逃げが得意な奴が多いですねえ。嫌になっちゃいますよ」


 彼女がぼやいていると、ふっ飛ばされたアリアが襲い掛かって殴りかかるも、それは黒い盾で防がれる。


「おいサイコパス女。お前の力なら私がどこにいるのかもわかってたよね? 明らかに故意でやったよね?」

「なんの話ですか? 私はあの女を追ってたら間違えてあなたを攻撃してしまったんですよ。許してくださいな。獣ちゃん」

「そんな適当な言葉で許さないし、一発殴らせろ」


 アリアが殴ろうとするのを俺が止める。


「やめろ。今は争ってる場合じゃないだろ。それより奴の名前だ。確かレイフィードと名乗ってたはずだが」

「レイフィードといえば、確か小国の女王だったはずだぞ」


 ラルカがそう言いながらこっちに来た。テルネも同じ名前を持ってたはずだ。最も、彼女はその名前を呼ばれることを嫌ってたから、出すことは1度も無かったが。


「確か、レイフィード王国の第1王女だったな。妹と一緒にクーデターに巻き込まれ、生死不明になっていたはずだ」


 妹。奴の妹がテルネというのはほぼ確定のようだな。それにしても、あいつの言ってた言葉はどういうことなんだ。弱者の醜き強さとはどういうことなんだ。


「カイツ様。これからどうしますか?」

「クロノス、ケルーナやストリゴイの気配は分かるか?」

「いえ。奴らはすでに逃亡しているようです。追うことはできません」

「……なら、ひとまず帰還しよう。ヴァルキュリア家もウリエルもすでにいない。これ以上ここにいても出来ることはないだろう。」


 ケルーナやストリゴイに聞きたいことがあったが、追えないなら仕方ない。今回の戦いでは、碌な戦果をあげられなかったな。捕らえてたハイドも奪われ、倒せたのは有象無象の奴らだけ。得られた情報もごくわずかなもの。負け戦も良いところだ。

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