↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/20

第8話

翌朝、イオアンはイグマスの大図書館にいた。

カルハースに約束した通り、牢獄塔の図面を調べるためである。


公文書室は図書館の奥にあり、そのなかでも古い図面は見つけづらい場所にあった。一時間近く探しているが、牢獄塔の図面は見当たらない。


疲れ切ったイオアンは、書架を背にして座り込んだ。


足元には幾つもの図面と、収納する筒が散乱している。空気は黴臭く淀み、直射日光を避けるため、ほとんどの窓は閉ざされ、図書館は昼間でも暗かった。そばには図面を照らすための魔法のランプがある。


なぜ図面は見つからない――?


イグマスの牢獄塔は、城壁に組み込まれた防衛塔を改築したものだ。工事に図面を残すまでもなかったのかもしれない。


だが、色褪せた防衛塔の図面なら見つけることができた。中央に螺旋階段があり、幾つかの階は城壁への出入り口がある。つまり、そこから兵士が救援にかけつけるかもしれないということか――。


数百年前の羊皮紙を眺めながら、カルハースの仲間を助けだす手順を想像していると、不安で胸が苦しくなってきた。この防衛塔の図面だって、立派な軍事機密なのだ。なぜ調べているのかと問われれば、返事に窮してしまう。


イオアンは深呼吸して、心を静めた。


そして、さらに胃に穴が開きそうなのは、防衛塔の図面を密かに持ち帰ろうとしているからだった。石工でもない自分は図面の意味がよく分からないし、カルハースたちと一緒に見るほうがいい。


それでも心配だ――。

とイオアンはみぞおちのあたりを押さえる。

これは古い図面に過ぎない。図面は図面であって現実じゃない。やはり牢獄塔を下見したほうがいいんじゃないのか?


二階まで昇って、内部の構造を把握するのだ。


各階の独房の数、どれぐらい囚人がいるのか、扉の頑丈さ、鍵の仕組み、管理している獄吏たちの配置、そして出入口と逃走経路――それに脱獄を防ぐための魔法が付呪されているかもしれない。


そして、できることなら、ダマリというオークにも会ってみたかった。


仕方がない、牢獄塔を再訪しよう。

夜の会合まで時間はあるし、下調べをしないで酷い目にあうよりは、先に経験しておいたほうがいい――。


そう決心したものの、なかなか動けないでいるイオアンの耳が、何かを捉えた。


図書館の中に誰かいるのか?

時間が止まったような場所で聞こえる、遠くからの微かな足音――。

普段であれば閲覧者がいてもおかしくない。


タタリオン家の公爵夫妻が、エルフならではの知識と芸術に対する偏愛により、蒐集してきた膨大な書物や巻物、地図や図面などが、ここには収められている。


それを見るために、高名な学者や愛好者、歌の題材を求める吟遊詩人たちが、あちこちの属州から訪れており、すでに蔵書の充実ぶりは、帝都の帝国図書館を超えているという評判だった。


だが大図書館は、〈死者の日〉の前夜祭である今日から閉館していた。一般の者は立ち入ることはできない。緊急の仕事のため、写本室では学僧たちが作業に勤しんでいるが、自分のことは放っておいてくれと命じてある。


だからこそ臆病な自分でも、不安に慄きながら図面を探せていたのだ。それなのに何者かがいる――。


図面のことを知られるのはまずい。

ランプを消してやりすごすか?

この高さなら、下から見つかることはないだろう。


すると遠くから、

「図書館長様ー!」

と叫ぶ男の声が聞こえてきた。


この呼びかけ通り、イオアンは大図書館の館長だった。病弱なイオアンに配慮して、五年ほど前にタタリオン家が任命したのである。


では、あれは大図書館の学僧なのか? 

しかし、聞き覚えのない声だった。とにかく自分がここにいるのを知って、誰かが探しに来たのだ。それに応えなければならない――。


「ここだ!」

とイオアンは短く叫んだ。


下を覗き込むと、窓からの日差しが届かず、底の通路は真っ暗だった。イオアンが目を凝らすとランプが見えた。ゆっくりと近づいてくる。


「降りるから、待っててくれ!」

と叫ぶと、了解したというように、下の通路でランプが上下に揺れた。


古い大聖堂を改装した大図書館は、天井近くまで書架が設置されており、高い足場が組まれている。いまイオアンがいるのは最上層の足場で、高さは四十メートルほど、十階建ての高さに相当する。


両手が塞がる梯子で昇り降りするため、大量の書物を運ぶのに、滑車式の籠が用意されていた。イオアンは防衛塔の図面を筒に入れると、籠で床に下ろした。何の変哲もない筒なので、中身は外から判別できないはずだ。


慎重に梯子を降りたイオアンは、床に着くと驚愕した。


防衛塔の図面が通路に広げられ、魔法のランプが照らしている。膝をついて図面を眺めている男の背中に、イオアンが怒鳴りつけた。

「おいっ、何をしている!」


ゆっくりと男が振り返った。

「ああ、イオアン殿。これはいったい……?」


イオアンはこの男を知っていた。

内務長官ギイス伯爵の懐刀とも呼ばれている、ダリル・サンガリアだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。