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第46話

小川を飛び越えたエルヴィラが、遠くを指さした。

「あれが標的だ!」


五十メートルほど先に地面から飛び出した岩がある。腰かけるにはちょうど良さそうな大きさだ。


「これが魂石」

親指よりひと回り大きな紫水晶をエルヴィラが見せた。

「魔物から抽出したものを封じ込めている」


「何を抽出してるんだ?」


「知らない。僕に聞かないでくれ」


バクルスの膨らんだ握りの部分をエルヴィラが押し、金属の蓋をスライドさせた。小さな窪みに魂石を押し込め、カチリと蓋を閉じる。


無言のエルヴィラは、槍のようにバクルスを右脇の下に挟むと、左手でバクルスの先端を支え、先端の開口部の向きを、遠くの岩に定めた。


「その先から魔法の炎でも……?」

近寄ったアルケタが声をかけると、ブゥンと空気が振動したような音が聞こえ、岩の上部が砕け散った。

「……いまのは何だ? 早すぎて見えなかったぞ」


エルヴィラがバクルスを構えたまま答えた。

「この日差しの中じゃ明るすぎて見えないよ。魔法なんかより、もっと小さな光の弾だからね」


深呼吸すると、エルヴィラは立て続けにバクルスから五発放ち、岩の上から白い土埃が舞い上がった。その横顔は汗ひとつかいていない。


「それで、疲れたりしないのか?」

とアルケタが質問した。

「魔法なら、そんな立て続けには放てない。術が強ければ強いほど、魔力を回復するのに時間がかかると聞くけど」


「もちろん、疲れはするさ」

構えを解いたエルヴィラが岩に向かって歩きだした。

「ただし、普通の人間が集中したときに感じる疲れだ。魔力を失った魔術師が感じるような深刻なものじゃない。少し休めばすぐに回復する」


アルケタは草むらを掻き分けながら、エルヴィラと並んで歩いた。

「じゃあ、魔力は魂石に込められているってこと?」


「そうじゃない。そもそも魔法じゃないんだ。だから誰にでも使える。この宇宙にあまねく行きわたる生命力みたいなものだよ。それを光に変えられるのがバクルスという武器で、魂石はその火種みたいなものさ」


「ふうん」とアルケタは難しい顔をして頷いた。


「この力をマナって呼ぶ人もいるみたいだ。こういう話はアルメディオンのほうが説明が上手いんだけどな」


二人は岩に辿り着いた。


岩の上部が大きくえぐれ、粉々に砕け散った破片がまわりの草原を白く覆っていた。焼けた石の独特な臭いがあたりに漂っている。


アルケタはショックを受けた。

「凄いな……」

エルヴィラの技量よりも、バクルスという兵器の火力に。


破壊力はクロスボウ並みか、それ以上だ。甲冑なら貫通するより、そのものを破壊するような衝撃だろう。体ごと吹き飛ばされるのかもしれない。確かに強力な魔法の杖ぐらいの威力がある。そして、それを難なく連射できる能力――。


「君以外でも、こんなふうに撃てるのか?」


「むしろ僕よりも上手いかもな」

アルケタの驚いている顔を見て、エルヴィラは満足そうな笑みをこぼした。

「僕はいつも、この二倍はある特注のバクルスを使っているんだ。今回は力を抑えたから、コントロールするのが難しかった」


「怖ろしい武器だな」


「バクルスが登場したお陰で、騎士の戦い方が変わり、城の作り方まで変わってしまった。そのうち剣の一騎打ちなんて流行らなくなるかもしれないな。でも、お前たちは魔法に慣れているから、同じかもしれない」


「エルヴィラの故郷では、魔術は禁じられているんだっけ?」


「ルラル教の教義で認められていないからな。だから僕らの世界では、古代ドワーフたちの失われた技術を受け継ぎ、発展させてきたみたいだ。歴史は得意じゃないから、詳しく教えられないけど……」


「いや、実感は掴めたよ……」


アルケタは足元に落ちていた岩の破片を拾い上げた。力を入れて握りしめると、容易く砕け散った。


もし敵がバクルスで攻撃してきたら、自分ならどう反撃するだろう? 間違いなく軍団に導入するだけの価値はあるが、いままでなら魔術師だけが扱えた強大な力を、誰もが簡単に持てる時代になったということか……。


それが良いことなのかは分からない。だがバクルスが広まれば、帝国での戦争のあり方が激変するのは間違いなかった。


地面を見つめていたアルケタが顔を上げた。

「今日はありがとう。君の試射を見ていなければ、信じていなかったろう。上の人間にはよく報告しておく」


「そうか……変に驚かせたみたいで悪かったな」


「構わないさ。それで君の頼みは?」


「そんなことより先に!」

とエルヴィラがアルケタの腕を掴んだ。

「昼食を食べようじゃないか。美味しいパイや砂糖菓子とか、せっかくいろいろ持ってきたんだ」


「いや、もう俺は戻らないと」


「頼むよ、僕らルラル教徒は、滅多にイグマスの外に出られないんだ!」

とエルヴィラが懇願した。

「アルケタ、あそこの木陰が涼しくていい感じだよ? 絶品だと僕が保証する。せっかく作ったのにもったいないじゃないか!」


「へえ、君が用意したのか」


「……作ったのは料理人だけど」

エルヴィラがアルケタに背を向けて歩きだした。

「ほら、早くしないと、ぜんぶ僕が食べてしまうぞ!」

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