第4話
「我々が盗賊を探し出す……?」
カルハースはきょとんとした。
「いったい何を言ってるんだ。我々は、ダマリを助け出す話をしているのだぞ。盗賊なんてどうでもいい」
「そんなことはない、よく考えてみてくれ!」
とイオアンは熱弁した。
「ダマリ以外の捕まっている囚人には、〈暁の盗賊団〉のメンバーがいるかもしれない……だとしたら連中だって、仲間を助けたいと思っているだろう。声をかければ、協力してくれるんじゃないか?」
「うーむ」
とカルハースは疑わしそうな顔をする。
「そうなのか? そんな簡単に上手くいくのか?」
「お前たちの事情を知ればだ。ある意味〈首なし騎士団〉と盗賊は似たもの同士だ。皇帝の権威を馬鹿にしているという点ではな」
「馬鹿にはしていないさ。ただ面倒なだけだ」
とカルハースが訂正した。
「そして私が疑問なのは、そう簡単に〈暁の盗賊団〉が見つかるのかということだ。総督府が何年もかけて、たいして手がかりが見つからなかったんだ。おそらく相当用心深い連中なのだろう。無理じゃないかね」
「いいや無理じゃないし、ちゃんと理由もある」
とイオアンは言い張った。
「いままで探していたのは『犬』と呼ばれて、市民から嫌われている総督府の密偵たちだ。だから何も掴めなかった。だが、お前たちは違う。皇帝に従わないお前たちは、裏社会の人間ともつながりがあるだろう? そのつてを辿れば、必ずや盗賊団のメンバーを突き止められると思う!」
「確かに、イグマスには『友人』がいるが、総じて彼らは口が固い。そう簡単にペラペラと喋るとは思えんなあ」
「べつに盗賊団のメンバーでなくていい。よく知っている関係者でもいい。とにかく連絡が取れればいいんだ」
「見つからなければ、せっかくの好機を逃すのだぞ」
「確かに脱獄の準備を考えると、調査は明後日ぐらいまでか……」
とイオアンも悩みだした。
「では……こちらも盗賊を探す手助けをしよう」
「君が調べるのか? 役立つのかね」
「私じゃない。私の個人的な密偵にも、盗賊団を調査させる。彼女なら、何かしら手がかりを見つけてくれるはずだ」
「女の密偵なのか?」
「そのぶん警戒されないところが強みでね」
とイオアンは自慢げに頷いた。
「今までも公妃様の個人的な依頼で働いてもらってきた。実績もある。危険な任務には就かせたくなかったが仕方がない。これならどうだ?」
「どうだと言われてもな」
とカルハースはまだ疑わしい顔をしている。
「仮に盗賊団を見つけたとして、彼らが協力するか分からないぞ」
「そうだな。では……こうしよう」
とイオアンが提案した。
「調べるのは一日だけ。明日の夜、互いに結果を持ち寄って、それでどうするかを決める。私は明日、牢獄塔を調べてみるから」
「おお、また訪問してくれるのか!?」
とカルハースが目を輝かした。
「それなら時間も無駄にならないし、いいかもしれん!」
「訪問はしない。二度とあそこには行きたくないんだ。だが、公文書室に行けば図面があると思う。それで牢獄塔の構造は分かるはずだ」
「なるほど図面か……それなら私も同行しよう」
「いや無理だ。大図書館の閲覧は許可制だし、牢獄塔の図面となれば機密扱いだ。特別な人間しか調べられない」
「君だって軍の関係者ではない。許可が降りるのか?」
「私は特別な人間だからな。ただ……」
とイオアンはエルのほうをチラリと見ると、慎重に付け加えた。
「まだ未解決の、重要な問題があると私は思う」
「未解決の問題? 今回の脱獄計画でか?」
「ああ。悩ましい問題だ……」
とイオアンが言い淀んだところで、足音が聞こえた。
お盆を持った〈侍女〉のシアが、また階段を上ってきたところだった。
「今度は何だ?」とイオアンは眉をひそめた。
「新しい飲み物をお持ちしました」
と澄ました表情で、シアはワインのカップを三人に配った。
「長いこと話されて、喉もお乾きになりましょう」
「置いたらすぐに……」
と不機嫌そうな顔をしたイオアンが、
「そうだ、ちょっと待ってくれ! お前に頼みがあるんだ!」
と呼びかけたので、
「な、なんでしょう?」とシアは驚いた。
「この少年に〈フリュネの誘惑〉を案内してやってほしい」
とイオアンがエルを指さし、
指名されたエルは、戸惑ったように口にした。
「俺? 何でさ!?」
「エルは辺境を旅してきたから、高級娼館など縁がなかっただろう。美しい女性は良いものだぞ。カルハース、見学を許してもらえないか?」
「それは構わないが……」
とカルハースが事情をよく飲み込めず頷くと、
イオアンは急いで命じた。
「ではシア、一階まで見せてから、また戻ってきてくれ」
シアは頭を下げ、不審そうなエルと一緒に階段を降りていった。二人の足音が聞こえなくなると、イオアンは声をひそめた。
「エルは元気はないようだが、何かあったのか?」
「君も気づいたかね?」
と驚いたカルハースが、深刻そうに認めた。
「ひと月前、君と別れてから、エルの様子がおかしいのだ」
「おかしい?」
とイオアンが身を乗り出した。
「やはり、私に対してだけではないのか?」
「うむ。エルは深刻な悩みを抱えているような気がする……」
とカルハースが考え込む表情になった。
「口数が減った。あまり笑わない。すぐにカッと怒る。いつも独り言をブツブツと呟く。裸を見せるのを嫌がり、水浴びでも離れる。だが……我々には原因がまったく分からないのだ」
「私と別れてから起きたことか?」
「そうなのだ。イオアン君は何か知らないかね?」
「何とも言えないな……」
とイオアンは惚けたが、思い当る原因がひとつだけあった。だが、それはエルとだけの秘密だった。
「だが、あれでは困るだろう。盗みに長けているエルは、ダマリの救出では不可欠だ。とはいえ、いまの不安定なエルでは信頼できない……」
「うむ。どうにか元気な状態に戻ってほしいのだが……」
と悩むカルハースに、
イオアンが提案した。
「エルと二人きりで話させてくれないか? 何か聞きだせるかもしれない」
「そうしてくれるかね? いまは反発しているが、やはり一番イオアン君を信頼していると思うのだ」
「もうひとつ尋ねたいことがある」
まだ考え込んでいたカルハースが顔を上げた。
「うん? 何だね?」
「どうやって私の居場所を知った?」
「それか。エルが物乞いの少女から聞き出したのだ」
「物乞いの少女? ニナのことか?」
「そうだったかな? 私はよく知らない。ヤヌス神殿の市場にいた女の子だ。彼女が教えてくれたんだ」
「そうか、ニナか……」
そうであれば、ニナは責められない。日頃から連絡を取り合うため、自分の居場所を教えてあるのだ。
階段が軋む音がして、シアとエルが戻ってきた。
「エル、じゅうぶん楽しめたか?」
とカルハースが立ち上がった。
「イオアン君は、お前と話したいことがあるそうだ。私は下の通りで待っているから、気の済むまで話すがいい」
「話って何だよ?」
とエルが警戒するようにイオアンのほうを見た。
「べつに話なんてねえよ」
「まあまあ、いいから」
カルハースは自分から手を差し伸べて、シアと腕を組むと、
「お前も、日頃ため込んでいることがあれば、イオアン君に聞いてもらえ。娼館というのは、すっきりするためにあるんだからな!」
と笑いながら、階段を降りていった。




