第27話
朝日がイグマスの倉庫街を照らしている。
船着き場で待っている巡察隊の兵士を見つけると、アルケタは馬を止めた。
兵士の一人に馬を預け、残りの兵士から状況を聞いた。そばにはアルケタ同様、馬を飛ばしてきた副官もいる。
副官は闇エルフで、兵士はドワーフとヒトの二人組である。巡察隊員は正規の兵士ではないので、種族はバラバラだった。もめごとが起こりがちなところを、アルケタの人望でつなぎ合わせているところがあった。
「それで……」
とアルケタは寝不足の頭で理解しようとした。
「その商人の屋敷に、押し入られたのは確かなのか?」
「間違いないと思います」
古参のドワーフが振り返った。ファッシノ河に面して、いくつもの商店と倉庫を兼ねた屋敷が並んでいる。
「ただ、ギイス家の兵士たちがいて、入れないんですよ。あまり面倒を起こすのもどうかと思って、アルケタ様を待ってました」
彼らは兵士たちに対して、引け目を感じているのだ。
「分かった。お前たちも疲れたろう。帰っていいぞ」
朝の船着き場は、積み荷を運ぶドワーフたちで騒がしかった。そして魚臭い。彼らの邪魔にならないように歩きながら、アルケタは副官と話した。
「なんで伯爵は俺を呼んだのかな? 〈鼬〉の情報は思いっきり外れたんだ。伯爵の性格からいって、むしろ俺を避けると思うんだが」
アルケタより五つ上で、表情に乏しい浅黒い顔をした副官は、
「アルケタ様の助けを借りたいのでは?」
と言った。
「でも、とっくに盗賊は逃げてるんだぜ、俺にできることなんてないだろ」
「それもそうですね」
と副官は頷き、それ以上は何も言わなかった。
目指す三階建ての屋敷が見えてきた。他の店と違って、一階の正面の板戸が閉じており、その前で言い争っている男たちがいた。
「これから公妃様に拝謁するんですよ!」
アルケタが近づくと、見覚えのある若者だった。
黒染めのローブに真っ白な顔と癖毛の髪。そうだ、晩餐会で会った雪エルフの祭司だ。叫んでいる祭司を、褐色の肌をした三人の大きな兵士が囲んでいる。南大陸に領地のあるギイス家の兵士たちだろう。
「あ、アルケタ様!」
祭司が跳び上がって、手を振った。
「この人たちに説明してください! イオアン様と一緒に、これから北宮で謁見する予定だと!」
そういうことは、あまり軽々しく叫ばないで欲しいんだけどなあ――と思いながら、アルケタは、
「どうした?」
と男たちの輪に入っていった。
深紅のマントと見事な皮鎧を着こんだアルケタを見ると、
「……あなたには関係ないでしょう」
と兵士が迷惑そうな顔をした。
「俺もそう思うんだが、なぜかギイス伯爵に呼ばれたんでな。この人の言ってることは本当だ。行かせてやれ」
「まだ話が終わってませんので」
「私が話せることは全部話しましたよ!」
と祭司が叫んだ。
「うるせえ! ウサギ野郎!」
と兵士が祭司に怒鳴った。
「それを決めるのは俺たちだ、お前じゃない」
「なるほどなあ」
とアルケタは口元を歪ませた。
「公妃様をお待たせするより、お前たちの話のほうが大切なわけか?」
「そうは言ってませんよ」
と答えて、兵士は屋敷へ顎をしゃくった。
「伯爵様は中にいます。伯爵様をお待たせるのもまずいんじゃないんすか」
「それを決めるのは、この俺だよ!」
と言って、アルケタは兵士の顔を平手打ちにした。
「お前たちの仲間の〈鼬〉のせいで、こっちは一睡もしてない。苛々してんだよ。〈鼬〉はどこだ? きっちり釈明して欲しいんだがな」
兵士は切れた唇を押さえた。
「……そんなこと俺は知りませんよ」
「アルケタ様……」
と副官が後ろから低く声をかけた。
頷いたアルケタは、祭司の肩を掴むと、
「行って下さい」
と小声で通りに押し出した。
祭司が小走りで駆けていくのを見届けると、アルケタと副官は、不満そうな兵士たちの前を通り過ぎ、屋敷の扉を開けた。扉の上に「アグイレロ商会」の看板がある。どこかで聞いた名前だなと思いながら、アルケタは足を踏み入れた。




