↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/62

第21話

イオアンが〈フリュネの誘惑〉に着いたのは深夜だった。


ナイト邸から歩くと、かなりの距離があるのだが、まだ酒は残っている。慎重に入口のポーチの階段を昇っていたところで、

「イオアン様!」

と声がした。


物乞いのニナが階段の下で待っていた。調査を頼んでいたことを、イオアンはすっかり忘れていた。


「ずっと待っていたのかい?」

と階段を降りると、

「だって大ニュースだもん!」

とニナが弾んだ声で答えた。


今日もニナは、ぼろぼろの絨毯の上であぐらをかいている。こんな女の子を夜遅くまで待たせて悪かったなと思いながら、イオアンは、

「〈暁の盗賊団〉のことかい?」

と訊ねた。


「もちろんよ、イオアン様が頼んだんでしょ?」

とニナは不思議そうに答えた。

「今日ね、〈暁の盗賊団〉が犯行予告を出したのよ!」


「そうか」


ニナがショックを受けた顔になった。

「……どうして驚かないの?」


「いや驚いてるさ!! びっくりして言葉も出ない。予告が書かれた場所は?」


「北東の城壁よ。地下水路の取水口の近く。人がいない寂しいところだけど、遠くからでも見えるように、大きく真っ赤な字で書かれてた」


「ニナは実際に見に行ったのか」


「もちろんよ、人の噂は当てにならないもの」


「盗みに入る場所は?」


「書いてない。いつも通り」


「どこだろうなあ……ニナはどこに押し入ると思う?」


まさにいま、アルケタ率いる巡察隊の精鋭が、〈鼬〉という密偵から告げられた屋敷に向かって進軍しているのだ――とイオアンは想像した。


「それは分からないけど……」

と言って、ニナが身を乗り出した。

「もっと凄い情報があるの! 骨董屋のお爺さんのところに、変なお客さんが来たんだって。闇エルフの男の人で、ぴかぴかの壺や偉そうな人を描いた絵とか、たくさん持ってきたんだけど、お爺さんが言うには……」


「ニナ、もういいんだ」


「え?」


「調査はいったん中止だ」


「どうして……?」


「必要なくなった」


ニナの目に涙が溢れた。

「私は……役に……立たないから?」


「そうじゃないよ、ニナ!」

とイオアンは慌てた。

「新たな動きがあったんだ。とうとう盗賊たちは捕まるかもしれない……」


驚いたニナが目を見開く。

「そんなわけない。いままでだって……」


「今回は、すぐ近くまで密偵が潜り込んだんだ。だから〈暁の盗賊団〉に関してはしばらく様子を見よう」


「そんな、いままで頑張ったのに……」


「ニナは良くやってるよ……」

しょんぼりしているニナを見ると可哀そうになり、思わずイオアンはニナを抱きしめ、ぼさぼさの髪を撫でた。

「また、公妃様の秘密の仕事があるさ」


「……イオアン様、お酒くさい」


「そうかな」

とイオアンは、ニナから体を離した。

「ごめん、晩餐会があったから」


「ばんさんかい?」


「みんなで集まって食事をしたり、酒を飲むんだ。今夜は雪エルフたちに会ったよ。魔法を使わない魔法の杖のような武器を見せてもらった」


「……私、きらい」


「武器がかい?」


「ううん、雪エルフの人たち。私たちの教えを邪悪だとか言うんだもん」


「私たちの教え? ニナが信じているのは……」


「イオアン様、私もう行くね」

とニナは立ち上がって、丸めた絨毯を脇に抱えた。

「じゃあ、また!」


〈浴場通り〉を駆けていくニナの姿は、やがて暗闇の中に消えていった。見届けたイオアンは〈フリュネの誘惑〉に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。