第19話
「〈暁の盗賊団〉? でもそれって……」
と話し始めたアヤヤを、イオアンが遮った。
「それが、ギイス伯爵の言っていた新情報と関係しているのか?」
「そう」
とアルケタは頷いた。
「これで、兄上との約束は果たしたぜ」
「ちょっと待て、それだけじゃ良く分からない。どこで待伏せするんだ」
「そんなこと話せるわけないだろう、機密情報なんだから。ただ実のところ俺もまだ知らされてない。あと数時間後に確定みたいなんだ」
「待伏せか……」
イオアンは額に手を当てて考え込んだ。
これで〈暁の盗賊団〉のメンバーがひとりでも捕まったら、脱獄に協力してもらう計画は崩れてしまうのか? それとも総督府への敵意が増して、より協力してくれる確率が高くなるのか? 分からない。どちらにせよ、より盗賊たちは警戒するだろうから、接触するのは難しくなるはずだ――。
「でも、それって……」
とアヤヤが繰り返した。
「いままでも何度もやって、何度も失敗してない? いっつも盗賊たちに裏をかかれているでしょ?」
「確かに、何度も無駄働きをさせられたけど、今回だけは違うかもしれない」
とアルケタが真剣な表情で答えた。
「情報の質が違う」
「情報の質?」
イオアンが顔を上げ、娘たちもじっとアルケタを見つめた。
「ああもう、分かったよ……」
と溜息をついて、アルケタは声をひそめた。
「ここだけの話だからな。絶対に外には漏らさないでくれよ」
「なんだか子供の頃みたい」ドルシアがくすりと笑った。
「ぼんくらな今までの密偵と違い、今回は身分を隠して、盗賊団のメンバー近くまで潜入できたらしいんだ。その男が明日の明け方、盗賊がどこかの屋敷に押し入るらしいと連絡を寄こした。話を聞いた限りじゃ、嘘ではなさそうだ」
「その男には会ったのか?」とイオアンが訊いた。
「いや、誰も顔は知らない。ただ〈鼬〉と呼ばれている。ギイス伯爵としか連絡しないんだ。なんでも伯爵の遠い親戚らしい。一族でも有能な若者らしくて、〈暁の盗賊団〉を探るため、半年かけて近づいたみたいだ」
「どれぐらい動員するつもりだ?」
「五百人ぐらいかな」
「五百人! ずいぶん大がかりだな」
「ああ、そろそろ巡察隊の精鋭が、近衛兵の兵舎に集まっているはずさ。ギイス伯爵は屋敷のまわりを包囲して、連中を一網打尽にするつもりなんだ。今回だけは相当な力を入れているよ。公妃様だけには内密に報告したようだし、それだけ成功すると確信してるんだろう」
「成功して、公妃様のお気が晴れるといいのだけど……」
とシルヴィアが呟くと、アヤヤが訊いた。
「近頃、公妃様って機嫌が悪いの?」
「あら、アヤヤは気づかなくて?」
とシルヴィアが訊き返した。シルヴィアは公妃の侍女をしているので、日頃から北宮の内情に詳しかった。
「たぶん公爵様が遠征で不在だからだと思うけど、どこか御気分が不安定なのよ。急に怒ったり、溜息をついたり……イオアンは理由を知らない?」
「なんで私が?」とイオアン。
「だって、よく呼ばれて、こそこそ話してるじゃない」
「それは、私が大図書館の館長だからだ。いろいろ報告することがあるんだよ。おそらく公妃様は、内外の公務が忙しすぎるんだろう」
「これから、その〈鼬〉さんから連絡が来るの?」
とドルシアが訊いた。
「なんだかワクワクする!」
「ああ、盗賊が押し入る屋敷が確定したら、すぐに移動する。あと数時間後かな。俺も連中を捕まえて、すっきりとスペクリ城に向かえるよ……兄上、何か気になることでもあるのか?」
「あの囚人たちはどうなるのかと思ってな」
「牢獄塔のことか。どうだった?」
「酷いものだったよ、ぎゅうぎゅうに押し込められててな。ここで話せるような状態じゃなかった……」
「俺も話には聞いてる。でも、明日には変わると思うぜ」
「そうなのか?」
「俺だって、あそこにいる全員が盗賊団と関係あるとは思っていない。明日には連中の全貌が分かるんだから、ほとんどの囚人は解放されるよ」
「そうか……」
確かに、ダマリが捕まっている理由は〈暁の盗賊団〉が馬の扱いに巧みな者たちだと、総督府の役人たちが勘違いしているからだ。それが明日、盗賊たちを捕縛して間違いだと分かれば、すべて解決するはずだ。
「……そうだよな」
「どうしたの?」
とドルシアが、イオアンの顔を覗き込んだ。
「急に嬉しそうな顔をして」
「ああ、何だか気分が良くなってきてね」
これで、カルハースたちの無謀な脱獄計画に付き合わなくても済む。もしかしたら明日には、ダマリは青空の下にいるかもしれない。
「アルケタには悪いが、そのワインをもう一杯もらおうか!」
気持ちよくイオアンがワインを呷っていると、
「すみません……」
と背後から声をかけられた。
「イオアン様とアルケタ様に、ぜひ見て頂きたい物があるのです」
振り返ると、雪エルフの若者が立っていた。




