19 消えない月
僕達は馬車に揺られていた………。
それも、かなりの速度で。そんな中、Pちゃんは一息ついた。
「ジョー、追っ手は?」
「アルだ。それとカレンの部隊も居る」
「エリック、ご免ね」
馬車を動かしているのはエリックだ。
「気にしないでね、Pちゃん。無職になっても、次の職場は戦場があれば、あるからさ」
エリックらしい発言だな。
「ハハハッ!まあ、皆で動けばいいさ」
ジョーは火の点いたタバコを銜えながら笑っていた。そして、そんなジョーの肩にメイが手を置いた。
「子供の頃を思い出すね❤」
「ああ。子供の頃を思い出すぜ!」
皆は笑っていたけど………今は何が起きているんだ?僕には分からなかった。
「Pちゃん、いったい………?」
「リンク、全てを話すわ。だから黙って着いてきて」
母さんの事………知りたい。
⭐
「ここまでは大丈夫だよ」
僕達は焚き火を囲みながら、夜目のきくエリックの言葉を聞いた。
「アルが向こうに回るとはな。笑えるぜ」
「ジョー、いったいアルと何があったの?」
Pちゃんは辺りを見回す中、ジョーに聞いていたけど、ジョーの顔は少し怒っている様子を見せていた。
「リンクの事で折り合いがつかなくなった」
「僕の事で?」
「ああ。俺達はリンクを異世界アイドルとして生きて欲しいんだ。アルもそうさ。でも、カレンは久しぶりの自爆兵器として使ってでも「青い死神」を倒そうとしている。………リンク、悪いな」
そんな事か………死ぬのは怖くない。でも、こんな時にどんな顔をしたら良いか分からない。
「リンク、サンドイッチを作っておいたから食べなよ」
メイはバスケットを取り出した。
「ありがとう、メイ。でも、君も………」
「いや、食べない。それよりも、アタイはカレンを止めようとしたけど………アイツは狂っちまっている」
「ご免ね、メイ」
「リンクが謝る事じゃないよ。悪いのは国を動かす政治屋とか、軍部の連中なんだからさ」
メイは………優しい目をしていた。
「王様じゃないの?」
皆は首を横に振った………。
「エリック、メイ、首尾は?」
「オレの部隊がジョーの部隊を使って王様を連れ出したよ」
「アタイの部隊は他の人達を連れ出した。正直、ドラが居なかったら失敗していたよ」
ジョーは軽く笑っていたけど。突然、ドコにでもなく。
「おい!ドラ、居んだろ?来いよ、お前が居ないと話が始まんねぇから!」
「皆、コレを吞んで」
振り向くとドラがリュックを持って立っていた?
気配すら感じないなんて………凄いかも。
「ドラ、酒か?」
「そうだよ、ジョー。この手の話しの時には酒が無いと手が震えるんだろ?アルコール中毒になる程の地獄を見てきたから」
リュックを皆の前に置くと、ドラは僕の隣に座って、僕の手を握った?
「全ては100年前に始まったんだ。上級モンスターを倒すには、この世界のアイドルだけでは手が足りない。そこで、戦力を求めて、プロデューサーと言うのを使ってスカウトに行ったんだ。でも、その力が異世界アイドルは上で、何時しか異世界アイドルが主導する様になった。そして、生まれたのが魔王」
優しげな目をドラは僕に向けた?
「つまり、人と言うのが悪い癖を見せたのさ」
「つまり、魔王と呼ばれるほどに異世界アイドルが悪い事をしたんだね?」
「リンクは物わかりの早い子だね。そうだよ」
「じゃあ、その魔王を母さんが倒したんだね?」
「うん!色んなアイドルが居たよ。数は20人。最強の部隊「ルキア親衛隊」の結成さ。リーダーは………アルバート………アルだったんだ」
ドラの目に涙が………。
そんなに悲しい表情をするなよ。
「でもね、魔王を倒す為に、ボク達は魔王と同じ事をした」
「同じ事?」
「術式の名前は「タイム・ボム」。他にも「スーサイド・ボム」………色んなのを使って………アイドル達は死んでいった。異世界アイドルを………同じ国の人間を、同じ国の人間で殺させようとしたんだ」
「そうか………」
重い話しだけど、そこには帰られなかった人達が………。
「リンク、死んでくれた異世界アイドルや、コッチのアイドルは自分達アイドルが許せずに戦ったんだよ」
ドラはきっと目の前で見てきたんだろう………。
「母さんは?」
「皆は魔王の所まで着けなかった。でもね、あの日ルキアは親衛隊のお陰で奴の前に立ったんだ。そして………ルキアとボクと………アルバートが生き残ったんだよ」
「他のアイドルは………」
「ルキアの為に、皆の為に死んだ。でもね!皆はルキアの為に死ねて嬉しかったんだ!………分かる?」
僕は首を横に振った………。
「皆がルキアのファンだったからだよ」
ドラの笑顔が滲む。そんな顔を見ている僕にPちゃんが抱き寄せた?
「リンク、泣くなら私の胸に来なさい」
僕はPちゃんの胸の中で泣いた………。




