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第7話・人さらいの街

「なぁ、本当にソレ、連れていくのか?」

 タンクは足元にいるピンクの魔物を指さす。

 

 昨日の襲撃であまりに疲労していたふたりは、その場で1晩明かすことを決めた。

 魔王軍の将だと言っていたシュクが再び襲ってくることも考えたが大地の割れ目に落ちて助かっているとは思えなかった。

 交互に眠り、夜が明けると魔物はまだ眠っていた。

 その場を立ち去る前に魔物を揺らすと目を擦りながら大あくびをして、ふたりの顔を見比べて、エヴァルスの足元にくっついたのだった。

「ダメだよ、危ないから」

 エヴァルスが言った「危ない」は旅なのかこの魔物なのかは判断し辛いところであるが、しっかりと脛にしがみつく魔物。

「うぱぁぁ」

 まるで懇願するように見上げて瞳を潤ませる魔物に、エヴァルスは折れた。

 だが、相棒のタンクは眉を寄せる。

「魔物だぞ」

「でも、離れないし」

「理由になってない」

 まったくである。

「いいか?オレらは魔王を倒すために旅してるんだろ?それなのに魔物連れていけるわけないだろ」

「でも、この子も襲われてたし。もしかして魔物じゃないかも」

「でもでもばっかだな」

 タンクが焦れるのも無理はない。

 確かにこの魔物はシュクに、つまり魔王軍に襲われていた。

 だからと言ってこの魔物に危険が無いと言い切れるわけじゃ無い。

 得体の知れない生き物、さらにシュクを一撃でふき飛ばすほどの炎を吐き出すことができる能力。

 さらにその炎の源はエヴァルスの紋章から力を得ているようだった。

 タンクが魔物を睨みつけるとその視線を受けてエヴァルスのふくらはぎに隠れる。

「タンク、怖がってるじゃない」

「お前なぁ……本当にソレ連れていくのか?」

 タンクは項垂れながら尋ねる。

 当人にとっては連れていく、という選択自体が理解できない様子だった。

「助けてくれたことに変わらないし。それに……」

 エヴァルスはそれ以上言葉を続けず、足元にいる魔物に視線を落とした。

 その視線を受けて魔物は背筋を伸ばし、額に手をかざしている。

 エヴァルスの目を見たタンクはため息を吐く。

 もし、この魔物が敵対するなら仕留める。

 その覚悟が言葉にせずとも伝わった。

 倒せるかどうかは別にして、であるが。

「わかったよ、責任を持って面倒見るんだぞ」

「やった、ありがとう」

 まるでペットを飼うことを認められた子どものように頬をほころばせるエヴァルス。

 その反応で再び深いため息をこぼすのだった。


 森の中で足を引きずりながら息を上げている男。

 全身にやけどを負い、ずぶ濡れの身体を拭くこともせずに鞘に入れた剣を支えに進んで行く。

(あのケモノを報告せねば……)

 裂け目に落下したシュクはその下に流れている川に落ちることで運よく命を繋ぐことができた。

 ピンクのケモノを追っていた理由は簡単だった。

 あのケモノが脇を駆け抜けて蜜をこぼしたせいでハチに襲われた。

 そのハチはもちろん駆除したのだが、そんな虚仮にしたことをされて何も無しというわけにもいかない。

 それに見慣れぬケモノ、狩っておいてそんは無い、そんな軽い気持ちで追いかけたらこの様だった。

「兵を束ねる将が単独行動したと思ったら。ずいぶんと男前になったじゃないか」

 笑い声が聞こえて視線を上げるとそこには一目で人間ではない異形の者が10名以上並んでいた。

 シュクを見下ろしニヤニヤとあざけるような笑みを浮かべる集団に顔を歪めながらも目を伏せた。

「申し訳、ございません。イリーさま」

「謝罪など必要ない。ただのヒトにそれだけの傷を負う弱者など、もはや我が軍に必要ない」

 イリーと呼ばれた男は太い腕で剣を振り上げた。

「お待ち、ください」

「命乞いなど見苦しい」

「魔石を、破壊されました。1匹のケモノが吐く炎に、です」

 シュクの言葉に周囲はざわついた。

 イリーのこめかみにピキっと青筋が走る。

「魔石を!?そんなバカなことがあるか」

 魔石は原石であれば他の鉱石と変わらない硬さだが、ひとたび精製した魔石は漏れ出る魔力から硬度が高まり傷付けることは困難になる。

 魔力による防御を突破し、その魔石を破壊するほどの威力。

 それはただのケモノが持っていていい力ではなかった。

「そのケモノは!?」

「ヒトと、一緒におりました……おそらく、南に、向かっております」

 シュクは肩で息をしながら答えていたが、そこで意識を失ってしまう。

「おい、貴様……南、か」

 イリーは地面に転がっているシュクを回収するように命じながら遠くを眺める。

「そのヒトがどんな目に合うか。見ものだな」


 エヴァルスとタンクは森を抜けた。

 幸い魔物には遭遇することなく、街が見えるところまでくることができた。

「うぱ、街に連れていったら驚かれるかな?」

「うぱっ!?」

 ピンクの魔物……うぱは驚いたように目を丸くした。

 名前なんか付けることをタンクは反対したが、呼ぶときに困るとエヴァルスが言い張ったことにより鳴き声の「うぱ」が名前となったのだ。

「どうだろな。堂々と連れて大人しくしてれば?」

 このうぱ、少なくともふたりは似た生き物を見たことが無く、この街に至るまでうぱが攻撃的な行動を取ることは無かった。

 何だったら歩いている最中に枝に躓き、膝をすりむいて泣くことや、木登りを始めて降りられなくなるなどの問題行動が絶えなかった。

 そのような奇行を繰り返し、タンクはすっかり毒気が抜けていた。

「それでも気になるなら背中に背負っておくか?」

 タンクがからかうと、うぱはとてとてとタンクの足元に近寄って蹴り飛ばす。

 もちろん何の痛みも無い。

「うっぱー!」

 両手を振り上げて怒りを顕わにする。

「おーおー、なんか吠えてるなぁ」

 意に介していないタンクの態度に腹を立てて何度も足を踏むうぱだったが、その軽い体重ではじゃれているだけになってしまった。

(仲がいいなぁ)

 最初はうぱのことを危険視していたタンクがのんびり戯れている様子を見ると思わず笑顔になるエヴァルス。

 うぱ本人はちゃんと怒っているのだろうが如何せん力が弱すぎた。

 シュクと戦ったときに吐いた炎の威力は凄まじいものがあったがそれ以外……うぱ本体はただの魔物かそれ以下の力しかない。

「お前そんな弱くてよく生き残って来れたな」

 タンクはうぱの首元を持つとそのまま肩車をする。

「うぱー……」

 いきなり高くなった目線に、目を輝かせるうぱ。

「仕方ないからこうして運ぼう」

「うぱっうぱっ」

 タンクの頭をぱしぱし叩くうぱ。

「へいへい、早く行けば良いんだろー」

(やっぱり仲いいなぁ)

 いつの間にか意思疎通ができるようになったふたりの様子を微笑みながら見守るエヴァルスだった。


 街に近付くと周囲には樹でできた杭で周囲をぐるりと囲んでいた。

 出入りできる場所は1か所。

 その出入り口も固く閉ざされた扉と門兵がふたり立っていた。

「ずいぶんと物々しいな、エヴァどうする?」

「話しかけるくらいなら平気でしょ」

 タンクの問いにエヴァルスも頷いて答える。

 ふたりにとって比べる場所が王都とコウルしかない。

 そのため街に囲いがあることが珍しかったこともある。

 しかし、ふたりが感じた物々しさはそれが理由では無かった。

 肌にまとわりつくような、じっとりとした空気感。

 王都でもコウルでも感じたことのない雰囲気。

 こうして立っていても始まらないと歩みを進めると案の定門兵が槍を向けてくる。

「何者か」

「王都ニュウスより魔王を倒す旅をしている者です。この街に立ち寄っても?」

「よそ者は入れるなと命じられている」

「仕方ない、別の街に行こうか」

 たったこれだけのやり取りで引き下がる提案をするタンク。

 街に漂う敵意にも似たものに触れてはいけない警報が鳴っていた。

「お待ちなさい、旅のお方」

 立ち去ろうと背中を向けたふたりにかかる声。

 閉ざされていた門扉が開いて奥から恰幅のいい老人が歩いてくる。

 その脇には護衛と思われる屈強な男を何人も従えている。

「どうぞ、中へ」

「オレら、よそ者ですけど?」

 老人の言葉にタンクは皮肉めいた口調で返す。

 そんな態度にも関わらず老人は微笑みを崩さなかった。

「失礼いたしました。命じたのは私です。そのご説明も中で致しましょう」

 手を開くと街の中を差し示す。

 エヴァルスとタンクは顔を動かさず横目だけで確認し合う。

「ありがとうございます。では、ご厄介に」

 エヴァルスが張り付いたような笑顔で答えた。

 神経を緩めることなく、杭塀に囲まれた街に入って行く。

 老人の歩く後ろについていく。

 門からまっすぐに伸びる道。

 左右に規則正しく並んだの窓から住人がよそ者ふたりに視線を送っていた。

「間もなく屋敷です。その時に」

 さすがにここまで露骨に見せ物になっていたら気分が悪いことを理解しているのか、老人は道の途中に振り向きながら言葉を投げた。

 ふたりは曖昧に頷く。

 そこかしこにある違和感を受けながらふたりは屋敷に到着する。

 門で遮られた屋敷。

 排他的な作りをした街。

 中に入ると複数の使用人が控えて老人に頭を下げている。

 玄関にある広間、左右に広がる階段の間にある扉の中に入ると16脚の椅子と机が並ぶ部屋に通された。

「ご挨拶が遅れました。私がこの街の管理を任せられております、ガインと申します」

 老人は部屋奥にある椅子に腰を下ろすと初めて名乗る。

 ふたりはそれぞれ挨拶を返すと、説明を促した。

「この街では今、大規模な誘拐事件が起きていまして」

「誘拐?もしかして子どもがいないのはそれが?」

 この屋敷に向かう道中、大人の姿があったものの、誰ひとり子どもの姿を見なかった。

 エヴァルスの問いにガインは目を伏せてゆっくりと首を振る。

「ええ、近くの山に住み着いた賊がおりましてな。子どもばかりを次々と」

「救い出すことはしないのですか?」

「そうおっしゃいましてもこちらはロクな武器も持っておりません。対して賊どもは武装しており人数も多い。太刀打ちできる理由などございません」

 ガインは顔を伏せたまま目線をふたりに送る。

 もちろんその仕草を気付いていないわけではない。

 タンクはちらりとエヴァルスに視線を向ける。

「ボクらが助けに行きましょう」

 その言葉を聞いてため息をこぼすタンク。

「よろしいのですか」

「こんな話を聞いて放っておけませんから」

「おぉ……こんな僥倖、起こるものではありません。神に感謝せねば」

 ガインは胸の前で手を組んで目を閉じた。

「神じゃなくオレらに感謝しろってんだ」

「なにかおっしゃいましたか?」

「いえ、何も」

「ところでその賊というのは何か要求してきているのですか」

 途中、タンクが溢した不穏な一言をかき消すように尋ねるエヴァルス。

 誘拐をしてくるのであればその理由があるはず。

 しかしガインはゆっくり首を振った。

「それが……賊からはなんの要求も無いのです」

「近くの山、とおっしゃいましたよね。場所の目星は付いているんですか?」

「ええ。地図を」

 脇に控えた男がこの周辺の地図を持ってきた。

「ここがこの街、サクル。このまま南に下ると見えてくるこの山に根城を構えているようです」

 ガインが指し示した場所にはサクル山と記されていた。

「賊の規模はどれほどかわかりますか?」

 ガインはゆっくり首を振る。

「わからないことばかりで申し訳ない限りです」

「……それでしたらもう行っても?まだ日は高い。早く出るに越したことはない」

 タンクは話を打ち切り立ち上がる。

 エヴァルスは頭を下げてタンクの後を追っていく。

 見送りもそこそこに屋敷を出て、街の大通りを歩いていく。

「これから子ども助けに行くから。戻ったら顔で開けてくれよ」

 街の出入り口を守る兵にそう伝えてふたりは街を後にするのだった。

 山への道をしばらく進む。

 地図を見たら山まで1本道、迷う要素はなかった。

「タンク、態度悪すぎ」

「そうか?アイツら何ひとつ本当のこと言ってなかったからさ」

 タンクの物言いに思わず口をつぐむ。

 なんだかうぱも頷いている。

「一言も、一言もだ。連れ去られた子どもを心配する言葉を出さなかった」

 少なくともガイン以下、あの屋敷に居た者は誘拐に関して子どもを思う様子は無かった。

 そのことにエヴァルスも気付いていた。

 まるで助けに行くつもりが無いように。

「ならなんでボクたちを招いたのかな」

「さぁな。ただ、本当に子どもが攫われているんなら助けないわけにいかないだろ」

 タンクの言葉にエヴァルスは大きく頷いた。

「子どもが居なかったのも確かだからね」

「問題は、その賊がどれくらいの数いるのかってところだな」

「そうだね……ん?」

 エヴァルスは足を止める。

 その視線は道の両端に生い茂る木々に向けられる。

「どうした?」

「……ううん、何でもない」

 視線を道に戻すと再び歩き出すのだった。


 サクル山内部の洞穴。

 男が光も無い道を駆けていく。

 入り組んだ道を迷うことなく進んだ先に隻腕の男が欠けた器をあおっていた。

「お頭、この山に向かう奴らがおりましたぜ」

「ほう?街の阿呆どもか」

「いえ、見たことも無いガキふたりでさ」

 報告を受けるとお頭は首を傾げた。

「ガキ……?まぁいい。テメーら、歓迎してやれ!」

『おう!』

 奥に控えた男たちは十余名。

 号令を出したお頭は詰まらなそうに再び器をあおるのだった。

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