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スラム少女と人形騎士 スラムの少女は人形騎士の溺愛に翻弄される  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿
スラムの少女は人形騎士の溺愛に翻弄される

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2/16

酒カスが持ち込んだ依頼

 禁欲の国、ノストリア王国。


 この国は非常に大きな城下町とそれを取り囲むスラム、そして、そこから隔絶された村々で構成される小さな王国だ。


 城下町の中心には王城があり、それをグルリと囲むように今度は貴族の館が、その更に周りには高位の貴族や非常に裕福な商人の住む家がある。


 町の最短部には一般的な町民が住むエリアとなっており、それより外は存在しない。


 大切なものは中心部に集められ、いらないものは端に寄っていく。


 一定以上の富や身分が無ければ城下町に住むことすらできない。


 そこから溢れてしまった貧困者や犯罪者は、いずれも城下町から排除されることになる。


 ドーナツ状にゴミが掻き出される過程で自然と形成されたのがスラムだ。


 スラムは確かに王国の管轄だが、配属された騎士でまともな働きを行う者はおらず無法地帯。


 荒れた秩序の点在する場所で、人か獣かも分からぬ存在がゴミを貪る。


 一度でもスラムに入ってしまえば、誰もそこからは逃れられない。


 理不尽と暴力を一身に受け、死を待つ。


 それがスラムに生まれた者たちの在り方だった。


 しかし、生まれてから今日までをスラムで生きる少女、ライムだけは少し周りと違っていた。


 スラムの掟や在り方を知りながらも心だけは幸福に、豊かにありたくて、日々を一生懸命に生きている。


 腐りきった汚濁の世界でライムは今日もオレンジの瞳を輝かせ、あくせくと体を動かしていた。




「話って何? バステアじーちゃん」


 城下町から比較的近い位置にあるスラムの集会場で、急遽、呼び出されたライムがニッコリ笑って顔を出す。


 ライムは推定十七歳の女性で、天涯孤独だ。


 赤子の頃からスラムにいて、父親はなく母親も七歳の時に病死している。


 痩せた体つきや、パサパサでベタついた髪、荒れた肌にズタボロの衣服は正しく貧困者の姿をしていた。


 しかし、他のスラムの人間と一線を画すのが、彼女の丸く輝くオレンジの瞳だ。


 子どもすら遺体のように濁った目をするスラムで、ライムだけは太陽のような瞳をきらめかせ、真っ直ぐに現実と向き合っていた。


 ライムの瞳の美しさに、思わず白衣の女性は息をのむ。


「凄い。こんなに綺麗な目、ボクはこの国に来て以来初めて見た。生命力に満ち溢れていて、感情が溢れていて。夕焼けみたいな、あるいは宝石みたいな、言葉では表現しきれない美しさだ」


 感嘆する女性は、まじまじとライムの瞳を覗き込む。


 しかし、褒められたはずのライムはかえって気分を害したらしい。


 ギロリと女性を睨むと、それから集会所のリーダーことバステアに視線を向けた。


「ねえ、じーちゃん、この人は誰? 何をしに来たの?」


 尖った犬歯をぎらつかせ、目つきを鋭くしたまま女性を指さす。


 無礼極まりない行動にバステアは眉をひそめたが、女性の方は気にも留めない様子で微笑んだ。


 それが癇に障ったようで、ライムは小さく舌打ちをする。


「やめなさい、ライム。その人は君のお客さんだよ。城下町で魔物に関する研究をしているんだそうだ。国お抱えの偉い研究者様なんだよ」


「やっぱり! 紋章付きの上等な白衣を着てるから、そうだと思った! 何が偉い研究者よ! いつも、いっつも私たちを見下して! ここで偉ぶりたいなら少しは私たちの役に立ってみなさいよ。普段から嫌がらせで泥みたいな配給しかよこさないし、あんなクソみたいな国のゴミ人間の話なんて、私、絶対に聞かないわよ」


 興奮で頬を紅潮させ、一気に怒鳴りたてるとガルガルと牙を剥く。


 ライムの態度にバステアは困ったようにため息をつく。


 だが、白衣の女性はぷっと息を吐きだすと、それから「ふふふふ」と笑い始めた。


 よほど楽しくて仕方がないらしい。


 口元を手で押さえ、小刻みに肩を揺らし続ける。


 女性の笑い方は上品だったが、笑う時間が長すぎたようで最終的にはゴホゴホと咳こんでいた。


「え、何? 気持ち悪っ」


 笑い茸でも食べたかのような女性の反応にライムはドン引きし、思わず怒りも忘れて素の感想を漏らす。


 女性はライムの言葉を無視すると、懐から取り出した水筒の中身を一気に飲み下した。


 ふ~っと満足そうに息を吐き出し、目元の涙を拭う。


「いや~、確かに君の言う通り、ボクが仕える国の人間は皆クズかつまらない人形ばかりさ。『禁欲』の力に縛られ、地位を無くすことを恐れて何でもかんでも溜め込んでいる。だから、君みたいに元気いっぱいな子を見るのは久しぶりでね。嬉しいやら、おかしいやら、とにかく堪らなくなったんだ。さて、ボクの名前はマリーだよ。よろしくね、お嬢さん」


 マリーがスルリと自然に、流れるような手つきでライムの方へ手を差し伸べる。


 同時に、破裂寸前の大玉のスイカを二つ括りつけたようなマリーの爆乳がバインと揺れた。


「お、おお……」


 人間、激しく動く物体はつい目で追ってしまうものだ。


 ライムも例に漏れずマリーの巨乳に目を奪われて、感嘆の声を漏らした。


 あからさまなライムの反応にマリーはクスクスと笑みを溢す。


「君みたいに分かりやす過ぎる反応は久々だ。かわいいね、純粋できかん坊なお嬢さん。これからボクたちのする話は、君にとっても決して悪い内容じゃない。だから、聞いてくれるかい?」


 深い夜空のような瞳は奥が暗すぎて、彼女の心を知ることはできない。


 しかし、悪い目ではないと思った。


 だから、ライムはコクリと頷いた。


「分かった。けど、よろしくはしないから。牛のお姉さん」


 マリーにからかわれたのが悔しかったのだろう。


 ライムは彼女の胸を揶揄すると、それから思い出したように牙を剥いた。




 汚れの染み込んだ、高さの合わないボロボロのテーブル。


 それと全く同じ状態で、体重をかける方向を変えるとガタガタと揺れる不安定な椅子。


 並ぶ四つの内、二つは縁が欠けたティーカップで、ヒビの入ったティーポットにはしけった安物の茶葉が詰め込まれている。


 貧困者の汚らしいお茶会だが、これが集会所における最大限のもてなしだった。


 それを知ってか知らずか、マリーは一口茶を啜る。


「美味しいね。ボクは基本お酒しか飲まないけれど、たまにはお茶も良いものだ」


「寿命を縮める安酒ならいくらでもあるけど、まあ、研究所のお偉い様はそんなの飲まないでしょ。大人しく帰ったらいいのに」


 当然のように一番綺麗なカップを使う姿や品質最悪の茶を褒める笑顔が癪でケッと毒づく。


 しかし、マリーはニヤッと口角を上げると、それから白衣の内ポケットに収納されていた銀色の筒を取り出した。


「ライム君、これは何だと思う?」


「え? さっき飲んでたやつでしょ? 水筒じゃないの?」


「ああ、もちろんこれは水筒だよ。ただし、中身は水じゃない。おまけにこの重い筒は特別製でね、実は魔道具なのさ」


「魔道具?」


 生まれてから今日までスラムを出たことのないライムに魔道具の知識はない。


 スラム内の市で粗悪品の魔道具を見かけたことはあったが、下手に触れて壊しただのなんだのとイチャモンをつけられては困るため、近づいたことすら無かった。


 ライムにとって魔道具は高値で売れるパーツの宝庫だ。


 正規品として作動する物は上等な宝石をいくつか用意しても足りない、超高級品というイメージだった。


 そのためライムは、城下町の人間は水筒にすら大金を払うのかと変に感心してしまった。


 間抜けな様子で水筒を見つめるライムにマリーは得意げな表情を浮かべる。


「こいつはね、あらゆる液体にアルコールを付与して酒にしてくれる名品なのさ。といっても、名酒を作る魔道具じゃないからジュースとか元が美味しいものを入れなきゃ飲めるものは作れない。けれど、ボクはここに水を詰め込んでいる。それも、薬臭い水道水をさ。どうしてかわかるかい?」


「いや、知らないけど」


「ボクが水酒ばかり飲むのは、単純に水が安価だからだよ。泥水を入れても勝手に魔道具が浄化してアルコール水にしてくれるから、水の品質を気にしなくていいってのも実にポイントが高い。まあ、すっごくまずくて普通の人間には飲めたもんじゃないんだけれどね。でも、ボクはそうやって自分の味覚と肝臓を傷めつけてまでも常に酔っぱらっていたいアル中の駄目人間だ。そんなボクが今さら寿命を縮める安酒に臆すると思うかい?」


 マリーはやたらと誇らしげだが、あいにく人間としては終わっている。


「何よ、この酒カス! 怖いんだけど!! というか、それなら水筒はちゃんとしまっておきなよ。ここには貴方みたいなイカれたアル中が大量にいるの。その中身を売れば少ない費用で大金を手にできるだろうし、色んな人間に狙われる。最悪、殺された上で奪われるよ」


 呆れ顔のライムがため息交じりに忠告をする。


 話を聞いたマリーは少しだけ目を見開き、それから優しくライムの頭を撫でた。


 その姿は、まるで幼い妹を褒める姉だ。


「君は大嫌いなボクにも親切にしてくれるんだね。いい子だ、ライム君」


 マリーがまりにも嬉しそうにライムの頭を撫でるから、彼女はすっかり恥ずかしくなって「ふん!」と顔を背けた。


 マリーの手もペシンと叩き落す。


「痛いよ、ライム君」


 マリーが非難がましくライムを見つめ、わざとらしく手の甲を擦る。


 しかし、ライムにマリーへの態度を軟化させるつもりはない。


「失礼なことをするからでしょ。そんなことより、早く要件を言って。それだけ聞いたら私、さっさと家に帰るから」


「初めに脱線したのは君のくせに。まあ、いいか。それよりライム君、残念なお知らせがあるよ。話が終わったら、君はしばらく自由を奪われる。けれど、いいこともある。君はしばらくの間、命が保証されて、おまけに大金まで手にできるんだ」


「なにそれ、どういう意味?」


 マリーの意図が全く読めない。


 ただ、それでも嫌な予感と未知への恐怖にライムの表情は曇った。


「まあ、そんなに不安がらずに。ボクの要件ってのは最近スラムを騒がせている事件のことだよ。内容は、もちろん知っているね」


 当然だ。


 城下町から派遣されたマリーと違って、ライムはスラムに生まれ、そこで生活を送っている。


 いつ自分たちの存在を脅かすともしれない凶悪な事件の噂を知らないはずがなかった。


「最近スラムに化け物が出るって話でしょ。それも真っ黒くて、魔……不死身のやつ」


「そうだよ。その化け物は一般的に魔物と呼ばれていてね、強い殺傷能力と凶暴性を持つ極めて危険な存在だ。出現する場所、時間帯はランダムで、時には建物内にすら現れる。自宅ですら安全を保障されない現状に君はさぞ脅威を感じているはずだ」


 マリーの言う通り、噂通りであれば今すぐこの場所に魔物が発生してもおかしくない。


 ライムは神妙な面持ちで頷いた。


 彼女の真剣な姿にマリーの唇が弧を描く。


「ボクたちはね、スラムに蔓延る魔物を退治するために城から派遣されてきた、いわばヒーローさ。けれど、無欲の騎士団団長で強大すぎる力を持ったユニ君と特別な目を持ったボクでも、簡単には魔物をせん滅できない。内部の協力者が必要だ」


「それで私に声をかけたわけ? でも、なんで?」


 交友関係の広いライムではあるが、彼女は別にスラム内の実力者というわけではない。


 他の人間と同様に拾ってきたスクラップを売買したり、長く伸ばした髪を売ったりして小銭を稼ぐような生き方をしている。


 スラム内の商売を取り仕切る反社会的な勢力や、バステアのように比較的健全にスラムを治める各地のリーダーなど、より優れた能力や力を持つ人間はもっと他にいる。


 なぜ協力を仰ぐべき人間としてライムの名が上がったのか、彼女には疑問だった。


 ライムが首をかしげていると、静かに茶を飲んでいたバステアがスッと手を上げる。


「それは、私がお前を推薦したからだよ、ライム。お二人は、スラム内を自由に歩ける元気な若者を探しておられた。それに、ライムはあの変人、ベルアッテの影響からか、スラム出身にしては随分とマシな言葉を使うからね。服装も態度も何もかもスラムでは中の上か上の下。お二人の望む人間に適すると思ったから、私が推薦したんだ」


 バステアは静かに説明をするが、ライムは眉間にしわを寄せ、納得のいかない表情を浮かべている。


「私、ノストリアの馬鹿どもなんか大嫌いだけど」


「それは、このスラムにいる人間のほとんどがそうだよ」


「それに私、戦えないけど」


「戦闘力は彼らの考慮外だ。ましてやスラムの人間に魔法を望むわけがないだろう。あれは神聖なお方だけが使える力なのだから」


 暖簾に腕押し。


 いくら言葉を紡いでも聞く耳を持たないバステアに、ライムはグギギと歯ぎしりをした。


 どんな理屈をつけられようと、ライムは自分たちを見下し平穏な生活を送っているノストリア王国の人間が気に食わず、一切の協力をしたくない。


 テコでも動かないぞと牙を剥き続けるライムに、マリーが改めて声をかけた。


「バステアさんと喧嘩をしているところ悪いが、ライム君、協力は決定事項だよ。もとより君は、絶対に私たちのお願いを断れない」


「なんで!」


「なんでって、ライム君、すぐに噛みつく元気の良さは嫌いじゃないけれど、もう少し考える癖を身につけた方が良いんじゃないかな。そもそも君は、大好きな故郷が危険にさらされているのに、ボクたちが気に食わないという理由で魔物の被害を無視するような冷酷で残忍な人間なのかい?」


 マリーの目が自然と細まってライムの目を、心臓を覗く。


 心さえ見透かされている気がして、ライムは「やめてよ!」と声を張り上げた。


「私ノストリアも大嫌いだけど、スラムも嫌いなの。こんな汚くて危ない場所、大好きな故郷なんて思うわけないでしょ。貴方たちと違って、私の住処は掃き溜めなんだから!」


 スラムを罵倒するライムの目元には涙が浮かんでいる。


 それをマリーはじっと見つめて、「本当に?」と問いかけた。


 笑い、歪む口元にライムは訳の分からない恐怖を感じ、ブルリと体を震わせる。


 ライムの怯える瞳を、マリーは細めた瞳でじっくりなぞるように鑑賞している。


「ボクはね、バステアさんから君の評判を聞いている。随分と優しい子みたいだね。お腹が空いたと泣く母子にカビパンを分け与えて、自分は泥水で腹を満たしたんだから。薬が買えない老人にスクラップを分けてやって、それから動けない青年の代わりに荷運びの仕事をしてやったんだろう。まるで地獄に現れた天使様じゃないか。そんな君が、本当に、スラムやそこに住む人間をどうでもいいと思っているのかい?」


 どれも直近にあった出来事で、ライムは事実を否定できない。


 ただ黙りこくって、指先が白くなるほど握り込んだ両手に力を込めた。


「どうだっていいわよ。私はただ、ちょっと恩を売っただけだもの」


「絶対に返ってこない恩を、ね。まあ、あくまでも君がスラムに興味が無いと言い切るなら、それでもいいさ。今度は君自身の話をしよう。君はここに暮らしていて怖いと思ったことはないのかい? 明日どころか今この時の命すら危ぶまれるスラムが」


「怖いし、嫌いよ。それが何か?」


「いや、別に。ただ、もしもボクたちに協力してくれるなら、まず今日からユニ君が君の家に滞在することになる。スラムで情報を集め、有事の対応にはスラムに住むのが一番いいからね」


 マリーは平然と言ってのけるが、その内容はライムにとって問題だらけだ。


 彼女はギョッと目を丸くした。


「ちょっと待って! 私の家に人が来る!? そんなの駄目よ。汚いし狭いし、私だけで精一杯だもの。それに、二人分のご飯だって無いわ」


「真っ先に心配するのがそれか。やっぱり優しいね、君は。でも、心配は無用だよ。ユニ君には毎日生活雑貨や食料が支給される。それに、君の家も確認したけれど二人くらいなら住めそうだった。ユニ君はよく訓練されているからね、君に欲情なんかしない。それどころか、文句も言わず滞在中は全力で君を守ってくれるはずだ」


「私を守る?」


「そうだよ。君は重要な協力者、つまりは護衛対象だ。魔物は魔法でしか倒せない。そんな危険蔓延るスラムで明日を生きたければユニ君に頼るのが一番手っ取り早い」


 ただ、生き延びること。


 それが単純でありながらも難しい、ライムの大切な目標だ。


 だからこそ、ここで初めて意地っ張りなライムの心がグラつく。


 ライムは少し考え事をして、それから何かを決めたようにキッと鋭い目つきでマリーを睨んだ。


「私、明日の命が保証されるだけじゃ、まだ足りないわ」


 ライムが始めようとしているのは交渉だ。


 険しい目つきには闘志が灯っていて、それが熱く燃えるように渦巻いている。


 マリーは嬉しそうに頬杖を突き、ニヤリと笑った。


「いいね、何が欲しい?」


「大金。それと安全な家が欲しい」


「そうか、それなら、ノストリアの居住地に家を建ててあげよう。当面は暮らしていける程度の金銭用意するし、必要なら職探しも手伝ってあげる。どうかな?」


 スラムで大金を持っていても、見るからに弱々しいライムが持っていたのでは簡単に奪われる。


 家も同様で中に家具がぎっしりと詰まった豪邸に住めば、たちまちそこは強盗の楽園となる。


 ライムは適当な条件を吹っかけて、それから徐々に自分にとって有用な褒美を与えてもらえるよう交渉していくつもりだった。


 ましてや、スラムで生まれた自分がノストリアの城下町に住むことができるなんて考えたことも無かった。


 そのため、マリーの提案にパキリと思考が固まった。


「そんなこと、できるの?」


 絞り出した声は震えている。


 マリーは鷹揚に頷いた。


「できるさ、案外簡単だ」


「だって私、魔法が使えないわ。それは無欲と清貧の正反対にあるから、穢れた存在だからでしょう。だから、スラムにいるんじゃないの?」


「そうだよ。けれど、抜け道もある。ボクもユニ君もかなり地位が高いからね、不可能を可能にできるのさ」


 マリーは鼻歌を口ずさむような口調で上機嫌に語るが、その表情や態度はどこか軽薄で胡散臭い。


 しかし、それでもライムは挑戦してみたいと思った。


『どうせなら、やってやる』


 ライムはコクリと頷くと、無言で手を差し出した。


 意図を察したマリーがニヤッと笑う。


「よろしく、ライム君」


「よろしく、マリー」


 一度だけギュッと力を込めて相手の手を握り、すぐに放す。


 ライムの気合に満ちた眼差しがマリーには好ましかった。

しれっと新連載


毎週土曜の午後六時に更新されます

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