白い月明かりの下で
白い月と星明りだけが道を照らす深夜。
幼い少女は一人きりでゴミの山に向かい合っていた。
ここは城下町とスラムの境にある掃き溜め。
城下町の人間が、生き物の死骸や産業廃棄物、壊れた魔道具に生きた人間など様々な不用品を一塊に捨てていく場所で、彼らはそこをゴミ山と呼んでいた。
「寒い」
少女がボソリと呟く。
手はかじかんで指先が赤くなり、小さな唇は薄紫になって小刻みに震えている。
着ている服もボロ布を無理やり貼り合わせたようで、今にも崩壊してしまいそうだ
当然、防寒性にも防護性にも優れておらず、ただ、裸よりましだからという理由で身につけられている。
そんな格好の幼女が夜中に外をうろつけば、人買いや変態などに狙われ、どんな目に遭わされるか分かったものではない。
だが、それでも彼女はゴミ山に来なければならなかった。
何か金銭に代えられそうなもの、あるいは食べられたり生活に使用できたりしそうなものを拾って、明日までの命を繋がなければならないからだ。
『どうせ、スラム街の治安の悪さには昼も夜もないもの。ゴミ山に限っては、夜なら威張り散らしてる嫌な大人も、すぐに殴ってくるクソガキもいないし。いっそ、今がちょうどいいのよ』
少女の周りでは犯罪が日常茶飯事。
悲鳴や怒号は喫茶店でいう所のBGMで、毎日誰かしらが死んでいく。
少女を守ろうと必死になって働いていた母だって、少し前に病死してしまった。
死は常に転がっていて、少女のすぐ隣まで来ている。
幼い彼女は確かに非力だ。
だが、そうと分かっていても、なにもせず惨めに死んでいくのだけは嫌だった。
せめて抗いたい。
そう思うから、少女は危険を冒してまで夜にゴミ山にやってきて宝を漁るのだ。
『なるべく小さくて価値がありそうなもの。アイツらにゴミ山を漁ったんだってバレなさそうな、何か』
腐りかけのお菓子でも見つけられれば上等。
少女の胃は、あらゆる食べ物と呼んではいけない食事で鍛えられているから、多少の腐敗くらい余裕だった。
『宝石は高すぎて誰も買い取ってくれないし、持ってるだけで殺されかねない。とりあえず機械でも解体して、パーツを持ち帰ろうかな』
掘り出した魔道具は四角く平べったい通信機器だ。
少女にその魔道具の使い道は分からないが、解体の仕方だけは知っていた。
工具も何も持っていないが近くの廃材を使って器用に壊し、中にある貴重そうな部品だけを抜きとる。
『盗ったってアイツらにばれないように』
手に怪我を負うのもいとわず、少女はゴミ山を混ぜ返して小さな穴をあけ、中に空の魔道具を埋め込んだ。
その姿はまるでリスだ。
『戦果も上々、今日はもう帰ろうかな』
一仕事終え、切り傷だらけの手に治癒魔法をかける。
怪我どころか汚れさえも消えた手を見て、少女は満足そうに微笑んだ。
ふと、見上げた視界にキラリと何かが映りこむ。
興味を引かれて向かうと、そこには小瓶があった。
『中に何か入ってる』
蓋を引っ張り、中身を取り出す。
それは、一枚の折り畳まれた紙きれだった。
『助けてください』
文字の読めない少女は言葉の意味を理解できなかったが、綺麗に並んだ文字がまるで絵画のようで気に入った。
少女は瓶ごと紙を家に持ち帰ると、箱の中に大切に仕舞い込んだ。
言葉の意味を知ったのは、その翌日。
スラムでは珍しく学のある男性に文字を読んでもらった時だった。




