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第二王子は引きこもりたい ~引きこもり王子、うっかり英雄になる~  作者: 水乃ろか


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第6話 魔獣狩りたち



「陛下。本日のご報告になります」


 重苦しい空気が染み付いた執務室にて、宰相クローニからの日例報告が始まる。

 だが、今日のクローニの顔色は、いつもの死人のような青白いものではなく至って普通だった。

 

 もしかして、今日は良い報告があったりするのだろうか?

 いつも「金がない」だの「他国の要人が来る」だの、正直クローニの報告は毎回心臓が止まりそうになる。


 俺はわずかな期待を胸に、居住まいを正した。

 

「ここ最近、我が国の西方の『魔王領』……すなわち森林地帯から出没している魔獣の件でございます」


 うっ。期待した俺が馬鹿だった。

 宰相の報告に不安で胃がギュッと縮み上がり、俺は無意識に腹のあたりを押さえた。

 やっぱり良い報告では無さそうだ。

 

 俺は鉱山街の治安か、森林地帯の魔獣から街を守るか。


 現在、兵士を金鉱の街の治安維持に回すか、それとも森林地帯から街を守る防衛に回すのか。

 その二者択一を迫られている状態だ。

 

 金鉱の街を無法地帯にさせるわけにもいかないし、せっかくの外貨獲得のシステムを閉鎖することもできない。

 何せ、我が国には絶望的なまでに金がないのだ。

 やっと確保した貴重な収入源を手放すのは惜しいし、それ以外に金目のものなんて無い。

 

 だが、魔獣が出たというのも見逃せない。

 ここはやはり、民の命に関わる魔獣対策の方を優先せざるを得ないだろう。

 収入は……また別の不労所得のアイデアを考えるとしよう。


 決意を固め、俺は覚悟を決めた顔で宰相を見た。

 

「で、その魔獣がどうした? 数が増えて来たのか?」

「いえいえ! そうではございません!」


 宰相の顔色がパッと明るくなる。

 どことなく、その表情は嬉しそうだ。


「どういうことだ。ああ……もしや、魔獣の数が減って来たということか?」

「いえ、依然として魔獣の数は増えております」


 増えているんかい。

 理不尽な回答にツッコミを入れたくなり、俺は椅子からズッコケそうになるのを必死に堪えた。

 

 ではなぜ、宰相は嬉しそうな顔をしているんだ?

 毎日の激務と心労で、ついにおかしくなってしまったのだろうか。

 

 不憫に思い、つい宰相のことを慈愛に満ちた優しい目で見つめてしまう。

 だが、宰相は俺の視線に気が付くと、興奮を隠しきれない様子で口を開いた。

 

「魔獣の数は増えておりますが……なんと、自ら『魔獣を討伐したい』と名乗り出る者が急増しているのです! すでに彼らは自発的に討伐を始めており、このままであれば、我が国の兵士は金鉱の街の治安維持に専念させてもよろしいかと存じます」


 え? どゆこと?

 理解が追いつかず、俺はポカンと間抜けに口を開けてしまった。

 

 いきなり国のピンチに、無償の救世主が大勢現れたって事か?

 そんな都合の良い話なんてあるわけないだろ。


 俺が困惑していると、宰相が続けて口を開いた。


「魔獣狩りを目的とした、他国からの流れ者たちが続々と集まってきております。戦士や傭兵など、腕の立つ者たちばかりです」

「なぜに、その者らは魔獣狩りをしている? 目的は何だ?」

「はい。私も気になったので、ルシアンテを街へ向かわせ、直接調べさせて参りました」


 そう言って、宰相が懐から手帳を取り出した。

 目を細め、そこに記されたメモを見つつ俺に報告する。


「彼らは皆、『ここでは、あの魔獣たちと戦えると聞いた』と口々に言っておったようです」


 なんでまた?

 それに魔獣というのは、別に我がヴァレンシア王国にだけ出るという珍しいものではないはずだ。


「……魔獣をか? 魔獣を倒したくて、わざわざ我が国まで来たというのか?」


 俺が宰相に問いかけた、その時だった。

 

 バンッ! ドア勢いよく扉が開いた。

 さささっと早足で執務室に入ってきたのは、宰相の息子であり補佐官のルシアンテだ。

 はぁはぁと肩で息をしており、額には大粒の汗が浮かんでいる。

 どうやら全力で走ってきたようだ。


「どうしたルシアンテ、何かあったか?」


 宰相が驚いてルシアンテに問う。


「は、はい! 陛下、申し上げます! 魔獣狩りの連中が続々と街へ集まり……いえ、集まりすぎています! 現在、街の許容人数を完全に超え、飽和状態です!」

「ほう。そんなにいるのか。自ら危険に飛び込むような酔狂な者たちが」


 俺は椅子から立ち上がると、城下町が一望できる窓際まで進んだ。

 窓から眼下の景色を見下ろす。

 そこには確かに、見慣れた領民の服装とは異なる、武装した余所者たちがアリの群れのようにうごめいていた。

 

 ちょっとたくさん居すぎじゃないか……?

 さして大きくもないこの街に、あんな得体の知れない武装集団が大量に集まっているのだ。

 あんな人数が反乱でも起こされたら、俺の国は滅んでしまうかもしれない。

 

 得体の知れない恐怖で背筋がゾワリと粟立ち、無意識に一歩後ずさる。


「ルシアンテ。魔獣狩りが集まって来て、現在どんな問題が起きているか分かるか?」

「は、はい……! まず深刻なのが、狩ってきた魔獣の亡骸です。それが街の外に放置されておりまして、強烈な腐敗臭と衛生管理の面で多大な問題が生じております」


 魔獣の亡骸がか……このままではマズイな。

 早急に対処しないと、魔獣の被害よりも先に疫病で街が滅んでしまう。

 かと言って、せっかく魔獣を倒してくれる人員を規制するわけにもいかないだろうし。

 

「それって、魔獣の肉を食料として食べたり、素材として二次利用できないのか?」

「出来ない事はございません。毛皮や魔石など価値のある部位は、実際、街の道具屋などで買い取っています。ですが、狩られる規模があまりにも多すぎて、民間の商人だけでは資金も保管場所も尽き、完全に買取不能な状態のようです」

「なるほど……では、余った魔獣を『国』で買い取れ。魔獣から食糧や素材を取り、武具を作るなりして他国へ輸出するなりしよう。採算は合うか?」

「国で買い取りですか? 採算については、ええと……少々お待ちください」


 ルシアンテが手元の幾つもの報告書を素早くめくり、指折りで何かを計算し始める。

 数秒後、ルシアンテの目がパッと大きく見開かれた。


「おそらく、国庫の収入としては莫大な黒字になると思います。正確な数字を弾き出す必要はございますが。……しかし陛下、これを国が主導するには問題がすでに幾つかございます」

「幾つか、か。それを述べよ」

「はっ。まず、大量の素材を解体・保管する巨大な施設がありません。それと、素材を適切に取り出すための専門知識を持った人員も、窓口で対応する役人の数も足りません。何より、魔獣狩りたちに『国が買い取る』という情報を知らせるためのお触れを、末端まで浸透させる仕組みが必要です」


 ふむむ。素材の価値は充分にあるが、俺たちの国には魔獣素材を捌くためのインフラが無いのか。

 

 人員不足。それに魔獣を的確に解体できる技術。

 血生臭い作業に対応するための巨大な専用施設。

 素材を周辺国へ売りさばくための流通ルート。

 どれもこれも、システムとして正常に稼働しないと黒字化どころか不良在庫の山を抱えることになる。

 

 うーん。こういうのって、どうしたらいいかなぁ。

 せっかく魔獣問題が解決しそうな上に、新たな資金源になり得る絶好のチャンスなのだ。

 この機会を逃すわけにはいかない。

 

 ……あ。

 その瞬間、前世の記憶が最高の解決策を導き出した。

 導き出したっていうか、思い出したのだ。

 ファンタジー小説やゲームには必ずと言っていいほど存在し、この世界にはまだ存在していない、あの超絶便利な組織の事を。

 

 俺が外に出て働く必要が一切なく、全てを丸投げできる夢のようなシステム。

 名案に胸が躍り、安堵と興奮で俺の口角が自然とニヤリと吊り上がる。

 

 俺は威厳たっぷりに、宰相クローニとルシアンテの二人を真っ直ぐに見据えて言い放った。

 

「よし。では、我が国に『冒険者ギルド』を作るぞ」

 


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