表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二王子は引きこもりたい ~引きこもり王子、うっかり英雄になる~  作者: 水乃ろか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/18

第13話 明らかに、ただ事ではない



 またもや、ヴォルフラム国の『鋼鉄の王女』ことエリザ・ヴォルフラムがやってくるらしい。

 またもや、事前の連絡など一切ない突然すぎる急な来訪。

 またもや、城内はハチの巣を突いたような大騒ぎに陥っていた。

 

「陛下、早急に御召し物のご準備を! 来客の準備は我々で進めておきますゆえ!」

「あ、ああ。わかった!」


 宰相クローニの焦った大声が響き渡る。

 俺は促されるまま、来客用の豪奢な服へと慌ただしく着替えさせられた。


 ……しかし、今度は一体何用だというのか?

 他国へ出向くのに事前の連絡無しなど、常識的に考えてあり得ない。

 護衛とはいえ、強力な軍勢を携えて国境を越えるのだ。

 一歩間違えれば侵略行為と見なされても文句は言えない。

 

 それほどの無礼を承知の上で、わざわざやって来る。

 つまり、そこには『どうしても今すぐ伝えねばならない理由』があるということだ。

 そしてその理由は、十中八九、吉報なんかじゃないだろう。


 そんな事を思いつつ、今日もキリキリと胃が痛み始める。

 ああ、どうか国が滅ぶような知らせではありませんように……

 

 重い足取りで城の正面へと向かい、城の前で宰相たちと整列してエリザ一行の到着を待つ。

 やがて、地響きと共にヴォルフラム国の漆黒の軍勢が姿を現した。

 

 だが、その様子がおかしい。

 行軍の足取りが、異常なほどに速いのだ。


 優雅さや威厳を見せつける暇もないほど、騎士たちは明らかに急いでいる。

 中央を進むあの巨大な漆黒の馬車も、ガタガタと激しく揺れていた。

 あの中に乗っていたら車酔いで吐き気を催すのではないかと思えるほどの荒い走りだ。


 ……明らかに、ただ事ではない。

 

 ゴクリ。

 恐怖と緊張で喉がカラカラに乾き、俺は生唾を飲み込んでエリザを待ち構えた。

 

 横に立つ宰相クローニも、深い(しわ)を眉間に寄せて険しい顔をしている。

 クローニもまた、この異常事態に頭を悩ませているのだろう。

 

 俺は何かしてしまったのだろうか。

 いや、そもそも長年放置していた縁談があるのに、前回の訪問時にもそれについて全く触れなかった。

 

 もしかして、あの不義理がついに限界を突破したのだろうか?

 今回はついに無礼討ちとして、この場で俺の首が飛んだりするのだろうか?

 

 自分の首がポロリと落ちる想像をしてしまう。

 ガタガタと震える膝を必死に押さえつけた。

 いやでも、そんな制裁はさすがに無いと信じたい……

 

 だがやはり、思い当たる節があろうが無かろうが弱小国の王である俺に今出来る事は、ただひたすら『何事もありませんように』と心の中で祈ることだけなのだ。


 やがて、先頭集団である騎士達が到着した。

 馬は呼吸を荒くし、屈強な騎士たちでさえ、分厚い鎧の上からでも分かるほどに肩で激しく息をしている。

 

 「あの、そんなに急いで何があったんですか?」と聞きたくなる衝動を抑え、なんとか平然とした態度を装いつつエリザの馬車が止まるのを待った。

 

 ギャリギャリと、けたたましい車輪の音が近づいて来る。

 馬車を牽く馬たちがヘトヘトに疲労する中、俺たちの目の前で家のように巨大な黒い馬車が急停車した。

 

 バタンッ!!

 突然、乱暴に馬車の扉が開け放たれた。

 

 そのあまりの勢いと大きな音に、俺は心臓が跳ね上がり、ビクッと肩を震わせて飛び上がってしまった。

 情けない姿を晒したと焦ったが、横を見れば宰相クローニも同じように肩をすくめて硬直している。

 

 馬車の扉を開けたのは、護衛の騎士でも侍女でもなくエリザ本人だった。

 騎士の一人が大慌てで馬車に階段を設置する。


 エリザは、パタパタと小走りで階段を降りてきた。

 以前の落ち着いた様子で階段を降りて来た時とは大違いだ。

 だが、俺の目を惹きつけたのはその焦りではなく、エリザの出で立ちだった。

 

 前回の弔問時の重苦しい黒衣とは打って変わり、今日のエリザは絹のように美しい銀色の髪を華やかに後ろで編み込んだ、可憐なお姫様ヘア。

 白銀の生地で仕立てられたドレスは、肩がふんわりと膨らみ、袖口がキュッと締まった、まさにお嬢様といったデザインだ。

 さらには幾層にも重なったスカートが、エリザの圧倒的な美しさと気品をこれでもかと際立たせていた。


 だが、やはり。

 そう、やはりだ。

 俺の視線は、エリザの左目に縦に走る、その傷跡に吸い寄せられていた。


 ……かっこよすぎないか?

 美しいドレスを着た美少女と、生々しい傷跡のアンバランスさ。

 その属性の暴力に、俺のオタク心がまたしても歓喜の声を上げる。

 

 しかし、エリザ本人は傷を気にしているのだろうか?

 俺としては、このギャップが大好物なのだが。

 

 「美少女に傷があるの、大好きなんです」なんて本人に言ったら、変態扱いされないだろうか?


 ――いや、されるだろう。間違いなく。

 そもそも正面切って、大好きだとか、美しいですね、なんて言えるようなタマではない。

 

 ……まあ、前につい本音が漏れて「美しい」と言ってしまったが。

 あのように思った事を言ってしまうという軽率な発言は、二度としないように気をつけなければならないな。


「カスティエ陛下!」


 俺の思考を切り裂くように、エリザ王女の切羽詰まった声が響いた。

 俺はハッと意識を現実に引き戻し、慌ててエリザに向き直る。

 

「エリザ王女、本日はようこそお出で下さいまし――」

「この度は、誠に申し訳ございませんでした!」


 突然の、俺の言葉を遮るエリザの謝罪の言葉。

 目の前にいるエリザは青ざめており、全身から痛々しいほどの悲壮感が漂っている。

 

 ……えっ、何事? なんで謝られたの?

 状況が全く理解できずパニックに陥った俺は、キョロキョロと激しく視線を泳がせることしか出来なかった。

 誰か助けてくれと宰相を見るが、宰相もまた呆然と口を開けているだけだ。


「……エリザ王女。どうか、落ち着いてください。とりあえず、城の中へどうぞ」

「あ……はい。申し訳ございません……」


 俺が努めて穏やかな声で促すと、エリザはハッとして少しだけ落ち着きを取り戻した様子だった。

 だが、エリザが落ち着いたのとは裏腹に、俺の心臓はドクンドクンと激しく脈打っている。


 これは決して、美しいエリザに再会できた喜びによる胸の高鳴りではない。

 あの大国の『鋼鉄の王女』が、なりふり構わず謝罪するほどの事態。

 その恐ろしい真相を知ることへの、純粋な恐怖だ。


 エリザ一行を応接室へと通し、各自が着席する。

 前回訪れた時の空気とはまた違う、ひどく重苦しい雰囲気が部屋全体を支配していた。


 ここは、早速エリザの謝罪の真意を問いただすべきか。

 それとも、エリザたちの雰囲気を少しばかりでも和やかにするべきか。

 

 ……落ち着け。ここは俺の城であり、俺はこの国の王なのだ。

 

 エリザの謝罪した理由が死ぬほど気になる。

 だが、まずは王の余裕を持って対応し、この場を和やかにしなければ。

 

 小さく深呼吸をして、乱れた心を落ち着かせる。

 そしてエリザに向けて、静かに、そして極めて威厳のある声で口を開いた。

 

「エリザ王女。一体、何があったのですか?」


 あ……和ませるつもりが、一番聞きたい心の声がそのまま出ちゃった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ