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メニュー4 クリームシチュー 実食

クリームシチュー、完成です。

そう、肉を焼いただけで満足してはいけない。

むしろここからが本番なのだ。


といっても……。


「さ、あとは煮詰めていくだけで完成だ」


シチューの中に肉を入れて、野菜も入れた。

あとは特にすることがない。

煮詰めていけば完成だ。


「へ~なんだかふしぎな食べ物だね。こんなの初めてみたよ」

「私も、初めてみました」

「いい匂いだね~」

「はい。お腹が空きます」

「あたしも~」


幼女二人が笑いながら鍋を見つめている。

食を楽しみにする姿に、自然と笑みがこぼれてしまう。

おっといかんいかん。幼女を見て笑みを浮かべるなんて事案だ事案。

それから、約30分ほど煮込み、トロみがついていく過程でまた幼女二人が楽しそうな声を上げた。

このぐらいになれば匂いが周囲にも広がり、家というか住処といった方が正しい場所からわらわらと住人たちがでてくる。


「おぉ、うまそうな匂いがしているから誰がやっているのかと思えばテンか」

「爺か。この場所でうまい匂いを放つやつが俺以外にいるわけねぇだろ」

「はっ!言いよるわ。それで、なにを作っているのだ?」

「シチューだよ、シチュー!」


爺の疑問に答えたのは幼女ノア。

まるで祖父と孫みたいだなと関係ないことを思った。


「昨日だったか?言っただろ。全員にうまいもん食わせてやるってな」


笑っていうと、爺を目をかっぴろげて俺を凝視してくる。


「お、おい、なんだよそんなに見つめるなよ」


俺にそっちの気はないし、あったとしても年の差考えろと言いたい。


「お主、あれは本気だったのか?」

「当たり前だろ。俺が嘘ついたことなんて今まであったか?」

「むしろ、真実を述べた回数の方が少ないだろ」


そうだった……。今でこそみんな普通に接してくれるが、もともとのテンはくそ野郎だった。


「と、とにかく!ほら、みんななんか器と匙持って来いよ。適当に配ってやるから」


おいしそうな匂いに我慢できなかった子供たちがわっとはしゃぎながら家に戻り、大人たちは半信半疑な様子で器を取りに戻る。


「まずは、お前らからだな」


よだれをたらさんばかりに鍋を凝視している幼女二人に、うちからもってきた器にシチューを注いでやる。できるだけ、肉を多めにいれて。


「ほら、熱いうちに食いな。キングギゼのクリームシチューだ」


差し出された器を笑顔で受け取り、ノアとエルミナは一口食べる。


「おいしい!!」


二人同時に叫んで、あとは食べるのに夢中になっている。


「はは、うまいだろ」


口いっぱいにほうばっているからか、顔をあげて無言でうなづく二人。

器を取りに戻った子供たちにもシチューを注いで渡していく。


「おいしい!」


と同じように歓声をあげ夢中で食べる子供たち。

対して、大人たちははじめて見る料理に少し不安気だった。


「ほらよ、爺」


爺のために一杯よそって、差し出す。


「……なんじゃこの匂いは。肉を焼いている時から漂っていたこの香り。お前さん、一体なんの肉を入れたんじゃ」

「キングギゼだ」

「キングギゼじゃと?そんな肉をなぜお前さんが持っている」

「細かいことはいいだろ、どうでも。ほら、そんなことよりもはやく食えよ」


爺との話を切り上げ、ほかの住人たちにも配っていく。


爺はまだ納得いかない様子だったが、器の中を覗き込む。

白く、トロみがついたシチューの中に浮かぶジャガル、タマネル、ニンネル。そしてキングギゼの肉もどっしりと入っている。


一口。


しばらく、誰もなにも言わなかった。


それから、全員、ほぼ同時に声を上げた。


「うまい」「なんだこれは」「もう一杯くれ」


言葉はそれだけ。

だがそれだけで十分だった。


器を置く者は一人もいない。

全員が夢中になって匙を動かしていた。

中には涙を流している者もいる。


ノアやエルミナだけじゃない。

子供も、大人でも。


空腹は辛いのだ。


さて、俺も。

と、自分の器にそそいだクリームシチューを肉と共に一口。


シチュー自体は、日本にいた時の物と遜色ないものができたと思う。

だが、そこにキングギゼの脂が溶け込んで完全に別物になっている。

脂のコクがシチュー全体を包んでいるのに、くどくない。

あの魔獣特有の香りというか言い様のない旨味がここでも生きていた。


肉を噛む。


下拵えで一度焼いた効果がちゃんと出ている。表面に閉じ込めた旨味が、煮込まれることでシチューに溶けだしながら、それでも肉の中にしっかり残っている。

外と中、両方から旨味が主張してくる。


野菜もいい仕事をしていた。

ジャガルがシチューにトロみを足している。ニンネルの甘みが、魔獣肉の野性味を綺麗に中和している。

そしてタマネルの香りが、全体を一つにまとめている。


テンは匙を置いて、少しだけ考える。


足りないものは、ない。

直すべきところも、ない。


これはいまある食材、材料でできる最大限の料理だ、と思う。


だが一つだけ。

心に引っかかっていることがあった。


それは、キングギゼがもっていたあの野生の余韻。

シチューにするとなると、もう少しだけ前に出してもよかったかもしれない。

次があるなら、下拵えの段階で焼き加減をもう一段強くしてみよう。


そんなことを考えている自分に気が付き、薄く笑う。


完成した次の瞬間から、もうつぎのことを考えているなんてな……。

俺は本当に、根っからの料理人らしい。


だがそれも仕方がないことだ。


いつでも腹ペコな子供たちはもちろんのこと、半信半疑だった大人たちも一口食べるとあとは夢中で食べている。

みんながみんな、笑顔で。


ああ、いい光景だな。


ふと日本にいた時のことを思い出す。

あの頃も、俺はこうしてみんな笑顔で食べている様子を見るのが好きだった。

お客さんがうまいうまいと食べて笑顔になってくれるこの瞬間が見れるから。


俺は、料理人であり続けるのだろう。


「テンよ。礼を言う」


いつもはなにかと憎まれ口をたたく爺が、神妙な顔をして俺に向かって頭を下げる。


「どうしたんだよ爺。らしくねぇな」

「こうしてまたみんなが笑顔でおいしいものを食えるとは思ってもみなかった。この光景を見せてくれたのは間違いなくテンのおかげじゃ」


目じりに光るものを貯めて、爺がいう。

爺はここにいるみんなからまるで長老なような扱いを受けていた。

もしかしたら、それは本当なのかもしれない。みんな、なにか事情があってここに住んでいる。それは、爺だって例外じゃない。


「人間って単純なもんでな。どんなに大変でも、しんどくても、あきらめそうになっていたとしても。うまいもん食ったら不思議と元気がでてくるんだよ。そしたら、ずっと抱えていた不安とか心配とか吹っ飛んじまって、やってやんべ!って気になってくるんだよ」


俺もそうだった。

かつて、自殺をしてやろうと考えていた時に出会ったのが俺に料理を教えてくれた人だ。

最後の晩餐にどうだい?と言われて食べさせられた料理。

これまで食べた中で、なによりもうまくて。

お腹いっぱいになったらなんだか不思議と生きる気力も沸いてきて。


「爺ももっと食えよ!生い先短けぇんだからいま食っとかないともうくえねぇぞ!」

「はん!若造がぬかしよるわ!」


爺に大きめの肉を入れてやると、それを一口で食べ、シチューを飲み干していつも笑みを浮かべる。

次々におかわりを要求してくる子供に大人。


みんなこれでもか!というほど食べに食べて食べまくって……。



「ねぇ、テン」


ノアがまだかなりの量が残っているシチューを覗き込みながら言う。


「なんで中身が無くならないの?」

「な、なんでだろうね~?」



それは俺が聞きたいことだった。



「ほう!これがお前さんの作ったシチューとやらか」


その日のうちに、約束通り俺は鍛冶師にシチューを渡す。ついでに、聞くべきことを聞くために。

鍛冶の手を止め、シチューを豪快に一息に飲み干す。


「おお、これはうまいな!この肉はキングギゼか。えらい高級な肉を入れたもんだ」


キングギゼの肉って高級なのか。

その割に、アインはそんなのどうでもいいみたいな扱いだったが……。


「いやそれはいいんだが、この鍋、一体どうなっているんだ?あれだけ住人に配ったっていうのに中身がほとんど減っていねぇんだが……」

「ほう、どれどれ」


自分の作った鍋をじっくりと観察し、時に金づちでたたいたりしている。


「なるほど、こういう風になったのか」


したり顔でうなづき、豪快に笑う。


「なにが、なるほど、なんだ?」

「この鍋に使った金属は魔法金属でな、ソウル=クレイと呼ばれているものじゃ。別名、意思ある鉱石」

「意思ある鉱石?」


石だけに、意思があるってことか?


「そうじゃ。自分がなにに使われて、どういう役割があるのかわかっておる。こいつは大鍋になり、役目は人々に料理を与えることと理解している」

「なんかよくわからんが、すげぇ鉱石ってことか」


自分の役割を理解する鉱石ってすごいじゃないか。

そんな思いから言うと、今度は逆に渋い顔をされた。


「そういうわけでもない。この鉱石、非常に気まぐれでな。理解はしているが、やる気がでないととことん性能を落とす。故に、武器にも防具にもできんで持て余していたのじゃ」


やる気云々を鉱石が持つってどういう現象だよ。さすがはファンタジーだな。

でも確かに、その日の気分によって切れ味が変わったり防御力が変わったら困るな。というか、死に直結する。


「たまたま手に入ったんだが、そういうわけで扱いに困っていてな。さてどうしたものかと思っているときに来たのがお前さんじゃ。大鍋なら多少気まぐれでもさほど問題はないだろうと思ってな」

「あぁ、なんとなく理解できたが……それで、鍋の中身が無くならないのはどういう現象だ?」

「鍋の役割を果たそうと頑張っておるんじゃ。すなわち、中の料理を大勢の人に届けるという役割を」

「それで中身が減らないのか……?」

「わしもこういう変化が起きるとは予想できなかったが、はは!なかなか良い変化を経たようじゃ。それか、お前さんがよほど気に入られたか、じゃな」


簡単にいうと、魔法の力で中身が減りにくい魔法の大鍋になったということか。


「しかし、こうなってくるとほんと銀貨5枚じゃ全然足りないんじゃないか?」

「どういう変化が起こるかわからなかったのだ。良い変化になったからといって追加でもらうのはおかしいじゃろ。だから、銀貨5枚のままでよい。その代わり……」


鍛冶師は一旦言葉を切り、厳めしい顔を崩して笑顔を見せる。


「またうまいもん持って来いよ」

「はは、まかせろ。こんないい鍋もらっちまったんじゃ、もってくるしかねぇからな」

「鉱石はまだ余っているから、今度はフライパンでも作ってやるぞ」

「え、いいのか?」

「もちろんだ。前にも言ったが、武器でも、鍋でも、フライパンでも、価値のわかるやつに使ってもらうのが一番良い」

「ありがとう―――」


と、そこで俺はこの鍛冶師の名前を知らないことに気が付いた。


「そういやあんた、名前はなんていうだ?」

「ん?言ってなかったか?わしはボボじゃ。ドワーフのボボ。よろしくのう」

「そうか。改めて、礼を言う。ボボさん。良い鍋を作ってくれてありがとう」

「はっはっは!礼は不要じゃ。それがワシの仕事じゃからな」


そうして、ボボとは固い握手を交わして鍛冶屋を後にした。


全く、この町にはいいやつが多すぎるな……。

やっと実食できました。

待たせてごめんね、腹ペコ幼女2人。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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