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本日のおやつ 干しブドウ

閑話みたいなものです。

最近ドライフルーツにはまっているので書きたくなりました。

おやつ感覚で気楽に読んでくださると幸いです。

 ギゼの討伐報告も終わったので、ギルド内に併設されている食堂のような場所へ移動しカイルと向かい合って座る。


「さて、ではカイル先生。魔法の使い方を教えてください」

「教えてくださいってお前……ほんと性格変わりすぎてて恐いっての」

「そんな細かいことはどうでもいいだろ」

「細かくはねぇだろ……」


まぁいいか、と頭をガシガシかき、カイルが改めて向き直る。


「で、使えるようになりたいのは火と水でよかったな」

「ああ、その二つは使えるようになったらいろいろと便利そうだからな」

「便利そうって……まぁ確かに便利だな。俺も、火と水を覚えてから依頼中ずいぶん助けられたし」

「自分で火が出さればその場で肉を焼けるし、解体するときも水で洗いながらできるもんな」

「ん?う~ん、俺とは少し理由が違うが、まぁいいか」


カイルが右の肘をテーブルにつき、人差し指を一本立てる。


カイルがなにかをつぶやくと、その指先に火が灯る。


「おぉ……!」

「いやいや、おぉって言われるほどのもんじゃねぇぞ。さっきも言ったが、下級以下の生活魔法なんて子供でもだせる」

「まあまあ。で、それってどうやってだすんだ?」

「火を出すぞっていう魔法術式を頭の中で思い浮かべて、あとは魔力を操作してぼっ、とやるだけだ」

「なるほどわからん」


火を出すぞっていう魔法術式ってなんだ。

魔法術式ってなんだ。

魔力を操作ってどうやるんだ。

そもそも魔力ってなんだ。


「あ~……それは…………なんかその辺は俺もなんとなく使っているからよくわからんな」

「子供が出すときってどうやってだしているんだ?」

「赤ちゃんがしゃべりだすみたいな感じだな」

「わかるようなわからないような……」


というか、そんな感じで使えるようになるなら、生活魔法すらだせない俺って幼児以下ってことか?


「いや、そもそも生活魔法ぐらいならいくらお前でも使えるだろ?でないと、水とかどうしてたんだよ」

「いやそこはほらあれだ……なんか急に使い方を忘れてな。死んだショックで忘れたのかもしれん」

「ふは!そっか。死んで忘れちまったか。ならしょうがねぇな」


よし、ごまかせた!


「魔導書とかあればわかりやすいんだが、あいにく俺はもってねぇしな」

「どこにいけばある?」

「中級、上級なら王都までいかねぇとないが、下級程度ならもっているやつがいてもおかしくはないな」


よし!とカイルが立ち上がり、食堂にちらほらといる冒険者たちに声をかけて回ってくれた。


だがうまくいかなかったらしい。

最後の一人に声をかけて、がっかりと肩を落として戻ってきた。


「すまん、誰ももってなかったわ」

「いや、別にカイルのせいじゃない。もとはといえば俺がちゃんと覚えてこなかったのが悪いんだからな」

「テン……」


2人の間に少しだけ重い空気が流れる。


き、気まずいな。

カイルは純粋な親切心から俺に魔法を教えるといってくれたのに。


「まぁ、別に今すぐに使いたいってわけじゃないから」


そういって少しでもこの重い空気を払おうと明るく言うと、


「魔法、使いたい、の?」


女性が声をかけてきた。

その声の主が誰かわかると、カイルはバッと顔をあげ、驚きの表情を見せる。


「ミ、ミリアーヌか……?」

「それ以外に、見える、の?」


こちらが座っているとはいえ、ミリアーヌと呼ばれた女性は背が高く、細い。

深い紫紺のローブが体の線に沿って落ち、腰の杖には長年の使用による独特の艶があった。


黒髪が、肩の上で静かに揺れる。

顔立ちが整いすぎていて、一瞬、現実の人間か?と疑うほどだった。


カイルを見ていたミリアーヌの顔が、こちらに向けられる。


切れ長の目が、静かに俺を見る。

観察しているような、品定めしているような、俺が食材を目利きしているような目だなと思った。


「傲慢で、わがままで、これまで誰からも教わろうとしなかった魔法を、なぜ、いまになって、教えてもらおうとする、の?」


馬鹿にしているような声色ではない。

純粋な好奇心からの言葉だろう。


「使えるようになった方がなにかと便利そうだからだな」

「便利?」


ミリアーヌが小首をかしげて復唱する。


「ああ。肉や野菜を焼いたり、洗ったりな。なにかと便利だろう?」


ふふ、とミリアーヌが笑った。

ただ、その笑みは温かく、朗らかなものではなく、冷たさを含んだ笑み。


「私は、この手で、魔法で、もう何人も、殺している、の」


食堂の喧噪が、俺の耳から消えた。


「魔物も、魔獣も、そして人間を。戦場で、あるいは依頼で。あるいは―――やむを得ず、ね」


ミリアーヌの指先が杖の柄に触れた。

撫でるように、確かめるように。


「魔法は、生物の命を奪うために、研ぎ澄まされてきたもの。炎は、建物ごと、人を焼く。水は、簡単に、溺れ死なせる。どんな使い方をしようと、その根っこにあるものは、殺傷、よ」


抑揚のない声で、淡々と紡がれる言葉。

俺は黙って聞くしかなかった。


「あなたが、習いたいと言っているものは、簡単に、人を殺せる力。それは、わかっている、の?」


杖から指先を離し、ミリアーヌはこちらへ手のひらを向けた。なにもない手のひら。

そこに突如、炎が生まれた。

さきほどカイルが見せた火なんか比べ物にならないほど強大な炎。


「これが、なにかを、理解しないまま扱う人間を、私は、好まない、の。なにも知らない子供に、あなたはそのナイフを渡す、の?」


なるほどな。

たしかにそうだ。


「ああ、確かにミリアーヌの言う通りだ。俺だって、なにも知らない子供にナイフを渡したりはしない」


俺の頭にあるのはナイフというより包丁だが。


「だが、それはなんだってそうだ。魔法も、ナイフも、使う人次第だろ?確かに魔法もナイフも簡単に人を殺せる。逆に、人を救うことだってできる」


俺は料理人となって、包丁一本でいろんな人を笑顔にしてきた。


ミリアーヌの静かな瞳が、俺を映し続ける。


「ふふ」


それはどれぐらいだったか。

何分だったか、何秒だったのか。


やけに長く感じる時が過ぎ、ミリアーヌが笑った。


さきほどの冷たい笑みではない、温かな笑み。


「いいわね、あなた。なにがあったか知らないけれど、いまのあなたはとても、良い」


よくわからないが認められたのだろうか。


「一緒に、おいで。私が、教えてあげる、よ」


よくわからないが、認められたらしい。



俺たちのやりとりを聞いて、静まり返っていた食堂を、我関せずとミリアーヌは出ていく。


「あのミリアーヌが人に魔法を教えるなんて……。テン、お前なにしたんだ?」


「そんなの、俺が知りてぇよ」


だが、教えてくれるっていうならありがたい。


俺の勘がいっている。

ミリアーヌっていう人がどういう人かは正直わからないが、間違いなく仕事のできる人だ。

あの杖をみたらわかる。

とても大事に手入れされていた。



道具を大事にする職人に、悪いやつはいない。



 とっとと歩いていくミリアーヌを、俺は慌てて追いかけた。


町の外にでて、ミリアーヌと向き合う。


「簡単な術式は、私たちの、魂に刻まれている、の」


おお、なんだなんだ。

いきなり難解な話が飛び出たぞ。

魂?


「その術式を、あなたは、なぜか忘れている」


眠たげな瞳が、ぼんやりと俺を映している。


「生まれたての、赤子でも、刻まれているものがあなたには、ない。しかも、私が知るテンは、生活魔法程度なら多少使えていた」


すっ、と杖の先が自分に向けられる。


「あなたは、誰、なの?」


心臓が口から飛び出るかと思った。

あなたは誰?ときたか……。

この世界の住人は勘が鋭いと思っていたが、なにかしら魂的ななにかで俺が別人だとわかるってことか?


これは、正直に答えてもいいのか……?

相手は(おそらく)強い魔法使い。

俺が日本から転生してきた人間っていうのももしかしたらわかっているのかもしれない。


冷たい汗が背中を伝う。


しばし、沈黙の時が流れ―――


「でも、あなたが何者であれ、私がすることに、変わりは、ない」


ミリアーヌが杖を下ろす。


「え?」

「いまのあなたは良い、から」


さっきも言われたが、良いってなにがだ?

ミリアーヌが近寄ってきて、手と手が触れそうな距離で止まる。


「手を、だして」


言われた通りに手を出すと、その手を自身の手で絡めてくる。


「ミ、ミリアーヌさん?」

「いまから、あなたに、私の魔力を流す」

「ほう」

「少し、強引なやり方だけど、これで、あなたの魂に刻まれている術式が起きる、はず」

「魂に、刻まれている……」


果たして、俺の、ただの日本人だった俺の魂に術式なんて刻まれているのか?

これでも魔法が使えないってなったら俺はどうしたらいいんだ?


まぁ、元々は使えないものか。

なるようになれ、だ。


ミリアーヌの冷たい指先が、徐々に温かくなっていく。

それと同時に、じわじわと自身の指先からなにかが上がってくる感覚。


腕から胸に、お腹に、足に。

やがては全身を包み込んでいく。


「いま、あなたを包み込んでいるのが、私の魔力」


じんわりと温かい。

そしてどこか心地よい。


「そして―――」


ぐん、と体を包んでいたなにかが強くのしかかってくるような感覚。

途端に、自分の体の奥からなにか熱いものがこみあげてくる。


「こ、これは……!」

「それが、あなたの内に眠る、魔力」


これが俺の魔力……なんだろう、この言いようのない感覚は。

感動しているのか。

恐怖しているのか。


はたまた別の感情か……。


「そのままだと、ずっと垂れ流し。だから、操作する。目を閉じて。お腹に力を入れて。魔力の流れを読み取る、の」


言われた通りに目を閉じ、お腹に力を入れて魔力とやらの流れを読みとろうとしてみる。

すると、確かに感じる。

自分の中に流れるなにかを。


「そう。それが、魔力。まずは、それを、腕に集中させて、みて」


流れを感じたまま、その流れを腕に流れるように強く意識する。


「そう。上手」


褒められた。

なんか、子供を褒めているように感じだが、なんだろう。ちょっとむず痒いな。


「そしてこれが―――」


再びの衝撃。

今度は、頭が殴られたように痛くなる。


そして流れこんでくる幾何学模様のようなもの。

直感でわかった。


これが、魔法術式だと。


「それは、一番単純な、火を出すための術式。頭で、その術式を思い浮かべたまま、魔力を指先へ」


はじめてみる言語を、無理やり理解しようとしているような感じで頭が痛い。


こ、こいつはきついな……。だが……こんなもの!師匠に包丁で殴られた時に比べれば屁でもねぇ!


教わった通りに魚を捌いていただけなのに、急に包丁の背で頭を叩かれた時の衝撃。

一度死んでも忘れられないほど衝撃だったんだな、俺。


だがそのおかげで俺はいま頭痛に耐えることができている。

感謝するぜ、師匠。


「炎よ、灯れ!」


自然と口から零れた詠唱(ことば)

指先から放出されていた魔力が、術式と詠唱を介することで望むべきものへと変わる。


指先に灯る炎。

いや、灯る、という範疇には収まらない。


指先に出現したのは、大気を焼くほどの炎。


え……?

これが、生活魔法?

こりゃ子供が使ったら死ぬわ。


などと考えている場合ではない。

顕現した炎は、術者であるテンの髪をちりちりと焦がしていた。


「え、ちょ、これ、どうしたらいいの?」

「空に、放って」


放つってなんだ。

どうやってだ?

ていうか熱い、熱いって!

ええいもうどうにでもなれ!!


指先に集まっていた炎を、まるで投げるように腕を後ろにやり、そのまま勢いよく空へと突き出した。


動きに合わせ、炎が空へと昇っていく。


いやこれ絶対生活魔法じゃねぇだろ……。


「うん。上出来、よ」

「いや、あの、魔法は簡単に人を殺すからどうのこうの言っていたのはなんだったのでしょうか?」

「いまの、あなたなら大丈夫。そう思っただけ、よ」

「あ、はぁ……それは光栄です……」


と、そのままがくりと膝が崩れ、地面に足をつく。


「あれ?足が……というか、全身に力が……入ら……ない……」


地面に両膝をついた勢いのまま、テンはぶっ倒れた。

意識が朦朧としていく中、


「あれだけの魔力を、放出したのだから、当然、よ」


というミリアーヌの呟きが聞こえた。



それは、先に……言っといてくれよ…………



そしてテンの意識は途切れた。




―――すん



はじめに起きたのは嗅覚だった。


なにか、甘い匂いがする……。


うっすら目を開けると、視界を半分隠す紫紺の双丘が見えた。


「目が、覚め、た?」


ぼんやりとした頭に声が降ってくる。


え、っと俺は……そうだ。ミリアーヌさんに魔法を教わって、炎を放ってそのまま意識を失ったんだ。


「魔力欠乏症。魔法を使いすぎた時に、起きる、よ」

「あの一発で俺は魔力がなくなった、ってことか」

「そういう、こと」


徐々に覚醒してくる意識。

ふと、自分の頭の下にある柔らかな存在に気が付いた。

草原、ではない。

これは……。


がばっと起き上がると、眩暈がして再び倒れそうになる。


「急に、起きたら、だめ、よ」

「い、いや、その……すまない……」


やはり自分は、ミリアーヌに膝枕をしてもらっていたらしい。

まだ後頭部には柔らかな感触が残っている。


「重かっただろう?」

「重力を、軽くしていたから、問題ない、よ」

「そ、そうか。ならよかった……?」


重力を軽くってなんだ?

まぁ、魔法がある世界なんだ。

そんなこともできるのだろうな。


残念ながらテンには重力魔法を扱う難易度がわからない。

間違っても、膝枕をするために使う魔法ではない。


「ところで、ねぇ、これ、なに?」


ミリアーヌがつまんでいるのは黒く干からびたなにか。


「これ、って……ああ、レーズンか」


森になっているブドウもどきを干したものだ。

非常食としてポケットにいれていたんだが、倒れた時に零れ落ちたのだろう。


「レー、ズン?」

「レーズン、干しブドウだな。森になっている紫色の実があるだろ?あれを干したものだ」

「グレーの実、のこと?」

「そうだな」


あれ、グレーの実っていうのか。最後にプを足してくれたらよかったのに。


「良い、匂いがした、から、食べちゃった」


といいながらつまんでいるレーズンをもう一個口に入れる。


「ああ、別にいいぞ。いっぱいあるしな」


そう。意外なことにあのブドウもどきはなくならなかった。

みんな食べるものだと思っていたが、そうでもなかったらしい。

森にすむ野生生物的な存在は食べているようだが、数が少ないらしく実は一向に減らない。

貴重な甘味ということで、長持ちさせるため大量に干していたのだ。


「魔法を教えてくれたお礼ってことで。つっても、それだけじゃあ安すぎるか?」


問うと、ミリアーヌはふるふると頭を左右に振る。


「これが、いい」

「そんなに気に入ったのなら袋ごと持って行っていいぞ」

「いい、の?」

「ああ、いっぱいあるし、それに魔法を教えてくれた礼だ」

「ありがとう、あなた、やっぱり良い人、ね」


妖艶な美女が見せる、少しだけ子供っぽい笑顔。

少しだけ、心臓が早打つ。


だからだろうか。

俺は、少しだけ格好つけたくなった。


魔法一発放つだけで気絶するような、情けない男だと思われるのは、なんだか癪だったのだ。


「いまはそんなもんだけどな。これからもっとうまいもの食わせてやるよ」

「レーズン、よりも?」

「ああ、レーズンよりも、だ」

「期待、してる、よ?」


眠たげなミリアーヌの瞳が、少しだけ輝く。

その目を見て、俺は笑った。



「ああ、まかせとけ。なんたって俺は、料理人だからな」




 テンと別れたあと、ミリアーヌは一粒、レーズンを口へと運ぶ。

凝縮された甘味に脳が痺れる。


これは、いいもの、ね。


もう一粒。

もう一粒、と口に入れていくうちに、すでに袋の中のレーズンは半分ほど。


軽くなった中身に、少しだけ肩を落とす。


空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。

雲はすべて、テンが吹き飛ばしてしまった。


はじめに放った、上級魔法一発で。


生活魔法を使うのが精いっぱいだったテンが、突如人が変わったかのように魔法を教えてもらい、そして上級魔法を放った。


おもしろい、わ。


昔読んだ魔導書を思い出す。

そこに書かれていたのは、転生。


死んだものの魂を、別の人間に宿すことで死んだものを生き返らせるという魔法。

もちろん、実際に行われたという話も、魔法術式さえも構築されていない。


夢物語のようなもの。


でも、彼、は……ふふ、本当に、おもしろいわね、彼。


自分のことを料理人だと言った。

料理をする人はいるが、まるで職業にように自分のことを料理人だという人はいない。


彼は一体誰、で、どこから来たの、かしら、ね?


レーズンを、また一粒口に運ぶ。


口いっぱいに広がる甘味。


おい、しい、わ。

それ、に。


一粒食べるごとに感じていた。

自身の体に起きている変化を。


やっぱり、魔力が、回復、している。


微量ではあるが、確実に魔力が回復している。

この世界に、魔力が回復するものなどない。

魔力量は増やすことができるが、回復させるには休息をとるしかない。


グレーの実に、こんな効果があるなんて、誰も、知らない。

彼が、手を加えた、から?


このことが人々に知れ渡ったら、テンはたちまち確保されてしまうだろう。

グレーの実も取りつくされてしまう。



これは、彼と、私だけの、秘密……。



「次も、期待している、わよ。料理人、さん」


ミリアーヌは、また一つ。

レーズンを口に入れた。

読んでくださりありがとうございます。

ドライフルーツ、おいしいですよね。


ミリアーヌの喋り方を表現するのに苦戦しました。

年上のお姉さんですけど、ちょっと不思議なテンポで喋る女性という感じです。

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