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メニュー3 ギゼの石焼ステーキ

 俺がこの世界に転生して半月が経った。


その間俺はずっとウルフ肉を主食としていた。

時に焼いただけ。時にブドウソースをかけて。

食べられそうな香草を見つけて香草焼きも試した。

骨は捨てるとのことだったので、骨をもらって出汁を取ろうと頑張ってみたが全くおいしくない。調味料の無いこの町でスープはなかなかに難易度が高い。

そもそも日本でもウルフ、要は狼の骨から出汁なんて取らないだろう。

もしかしたらあったのかもしれないが俺は知らない。

牛とか豚の代わりになりそうな生物はいないのかな、この世界に。

頭の中に思い出される日本で食べていたあれこれ。

ほんと、日本にいた時は自分が食に関して恵まれているなんて思いもしなかったけどな。いざ離れてみるとどれだけ恵まれていたかがよくわかる。

食に関してだけでもないがな。


家の外にでると、同じような木やら草でできた家が見える。

中にはそれすらもなく、地面に寝転がっているやつもいる。

服は布を巻き、かろうじて大事な部分は隠せている程度。


衣食住。


この世界で、衣食住すべてを満たしている人々は一体どれほどいるのか。

冒険者で、腕利きのやつなんかは自由に過ごしている印象はあるが、それでもいつ命を失ってもおかしくない職業?だ。

この町、そこそこ大きい町だがこの世界基準でみたらどうなんだろうな。

そういう情報が一切入ってこないからよくわからん。


そしてそんなよくわからんことを考えていても腹が減るだけだ。


エール草の採取依頼、そしてウルフの買い取りで徐々にだが蓄えも増えた。

そろそろ、行動範囲を広げる時期か?

さすがにウルフ肉に飽きたというのもあるが、せっかく異世界にきたのだ。

もっといろんな食材を食べてみたい。

露店で売っていて気になる食材は片っ端から試した。

ここらで売っているものはやはり日本の野菜とそこまで変わらない。ちょっと苦みがきついものがあったりするが料理法次第でどうとでもなる。

そんなことをおもいながら俺はいまギルドの依頼掲示板の前に立っている。


「ふむ……」


ランクEのボードには同じく薬草採取、ウルフの討伐、ギゼの討伐などがある。

ギゼは一度だけ出会った。両腕が大きな鎌のようになっている魔獣だった。あれはまさに魔獣と呼ぶにふさわしいだろう。

幸い、向こうは気づかずにどこかにいったがあれは勝てそうにない。


しかし魔獣の肉には興味がある。

ウルフはやはり、魔獣というよりただの肉食動物という分類らしい。

興味がある、が、倒せない。

蓄えで剣を買うか?だが俺は剣術なんてできない。想像してみる。あの大きな鎌を剣で防ぎ、相手を切る。


…………うん、できなくはないだろう。

やってみるか。

さすがに楽観的すぎるか?

だが、挑戦してみないことには始まらないからな。


とはいえ、さすがにあの鎌をもった魔獣相手にナイフ一本は心元なさすぎる。

勇気と無謀は違う。

準備はしっかりと行わないとな。

何事も、下拵えが大事ってな。


というわけで、一旦ギルドを出て武器屋に向かう。


「おい、いらっしゃい」


ドアを開けて中に入ると、あんた武器を売る側じゃなくて使う側だろ言いたくなるほど体格の大きいおっちゃんが出迎えてくれた。


「剣を探しているんだが、如何せん初めてでな。俺が持つんだったらどういうのがいい?」


わからないのでしかたない。ここはプロに聞くべきだろう。


「兄ちゃん駆け出し冒険者か?だったらこの辺りだろうな」


壁にかかってある綺麗な剣ではなく、まるで傘立てに突っ込まれているかのような剣を進められる。

一本10銀貨。それが高いのか安いのかすら俺にはわからない。


「ここらのやつは新人が作ったなまくらだが、使えないことはない。素人はまずここの辺りの剣で使い方を学んで、自分にあった武器を探すんだ。慣れてくることには多少余裕もでてきているはずだから、もっといい武器を買うって感じだな」

「なるほど」


思ったよりも丁寧に教えてくれた。

こちらが素人だからと無理に高いのを売りつけるわけでもないところに好感が持てるな。


「ギゼとやらと倒したいんだが、どういう武器がいい?」

「ギゼか……やつらは強いわけではないが、弱くもない。油断すると鎌で切られるからな。兄ちゃん実力はどんなもんなんだ?」

「最近Eランクに上がったばかりだ。ウルフなら倒せる程度だな」

「なら多少の経験は積んでいるのか。一般的に使いやすいこの辺りだな」


わざわざカウンターからでてきて、突っ込まれてある中から一本の剣を引き抜く。

両刃で幅広の、The剣という雰囲気の剣。


「ほう……」


受け取ると、その大きさに違わぬ確かな重み。

ナイフとは全然重みが違うな。当たり前だが。


俺はいま、剣を持っているのか……。


不意に、そんな当たり前の事実に気が付いた。

包丁ならいくらでも触ってきた。

ずっと使っていたナイフも、大きさは包丁みたいなものだ。

だが、いま自分が持っている剣は1メートルぐらい。

長さも重さも、そして用途も全然違う。


剣の柄をぎゅっと握る。


冷たい、と感じた。


包丁というものは、握ればすぐに温まる。

木の柄が手のひらの熱を受け取って。

握るたびに、「ああ、今日もはじまる」と思えた。


だが、これは違う。


金属の柄は冷たいまま。

これは、道具ではない。―――武器だ。


命を奪うためだけの、武器。


切る、ことを目的としたものでも用途が全く違う。


少しだけ、怖いと感じた。

体が震えそうになる直前、不意に日本にいた時のことを思い出した。


初めて包丁を持たされたあの時のことを。

師匠に「握ってみろ」と言われて、恐る恐る柄を掴んだあの日。


「恐いか?」


店主が少し笑いながら、師匠と同じことを聞いてくる。


そうだ。

同じなのだ。

はじめて包丁を握った時も。そして今も。


そのことに気が付いて、少しだけ息が楽になる。


「はじめは誰だって恐いもんだ。こいつでこれから俺は魔獣と戦う。命のやりとりだ。恐いと感じるのは臆病者じゃない。むしろ、なにも感じないやつの方がよほど危ない」


豪快に笑い、店主が自分の背中を叩いてくる。

力強い手だ。


不思議だな。

この店主と話していると師匠のことを思い出す。


「ついでにこれも買っておけ。ギゼの鎌ぐらいなら防げる」


といって一緒に勧められたのは腕につける、いわゆる小手というやつ。

勧められるがままに剣と小手を買い、装備する。

日本で子供の頃にやったゲームをなんとなく思い出した。

ここで装備していくかい?ってやつだな。


「毎度あり。兄ちゃんにカイネの加護があるように願っているぜ」

「ありがとう」


意味はよくわからなかったが無事を願ってくれたのだろう。

準備をしっかりと終えた俺はそのまま冒険者ギルドにいき依頼を見る。


ギゼの討伐。これだ。

依頼書を取り、アインの元へといく。


「あら、テンさん武器買ったんですか?」

「ああ、多少蓄えもできたからな。」

「それでこの依頼を……」


アインが少し不安気な顔をする。


「なにか問題があるのか?」

「いえ、そういうわけではないですけど、テンさん戦えるんですか?」

「得意ではないな。だが、やらないことにははじまらないだろう」


そんなことを言っていたらいつまで経ってもギゼの肉を食えない。


「そうですけど……」


それでもまだ不安げな表情を見せるアイン。

そりゃこれまで碌に依頼を受けてこなかったテンがいきなり魔獣討伐なんて言い出したら不安にもなるだろう。

この男、嫌われてはいただろうが受付嬢的には送り出した相手が死んだら目覚めも悪いだろう。

だが俺はなんとしてでもギゼとやらを討伐してぜひともその肉を食ってみたい。


さて、どういったものか。


俺がどう言って安心させてやろうかと思案していると、


「なら俺が一緒にいってやろうか?」


後ろから声がかかった。


「カイルさん!」

「カイルか」


俺とアインの声が重なる。


「この間の賭けでは儲けさせてもらったからな。礼の代わりだと思ってくれ」


反省がいつまで持つかの賭けの時、カイルは唯一最長の一週間以上に賭けていた。

一人勝ちだったらしく、ずいぶんと儲けたらしいとあの時の2人組聞かされた。


「カイルさんが一緒だと安心ですけど……」

「わかっている。俺はあくまで手伝いだ。依頼自体はテンのソロで構わない」

「そういうことでしたら、受理します」


この依頼はソロ限定の依頼だ。

チームとなると報酬とか手続きが色々かわってくるらしい。


「でも本当にいいのか?」

「ああ、気にするな」


二人でギルドを出て、門へと向かう。


「というか、一度お前と話したいと思っていた」

「俺と?」

「ああ。最近のお前は本当に人が変わったようだ」

「その話か。反省したんだ」

「反省した程度で変わるならとっくに変わっているだろう。それこそ、一度死んで生き返ったようだ」


その言葉に少しどきっとする。

この世界の住人は勘が鋭いやつが多いな。

いやもしかたらこんな世界だ。

転生とか異世界転生とか当たり前にあるのかもしれない。聞いてみたら「やっぱりな!そうじゃないかと思ったんだ!」って言って笑ってくれるかもしれない。


「死にかけはしたが死んだわけじゃない」

「わかっている。言っただけだ」


はは、とカイルが笑う。


「俺はいまのお前の方が好きだぞ。とっつきやすい。正直、前までのお前だったらギゼと戦いにいくといっても手を貸そうと思わなかっただろうな。死んだところでなにも思わない」

ひどい言われようだが、周囲の評判を聞くとそんなところだろうな。

この世界は、日本と違い死が身近にある。


「それはそれは、死んだかいがあったというものだ」


俺がそういうと、カイルは一瞬目を丸くして、がしっと俺の肩を組む。


「いまのお前なら大歓迎だ。さあ、とっととギゼと倒しにいくぞ」


どうやら俺はカイルに認められたらしい。

感謝しろよ、前の俺。


カイルと二人で門を抜け、街道を行き森へたどり着く。

が、カイルはそのまま街道から入るのではなく道を逸れて入っていく。


「どうしてこっちから行くんだ?」

「街道沿いに出る魔獣は大概が討伐されているからな。滅多に姿を見せない」


なるほど。

門を出てからこの街道で魔獣に襲われたことがないのはそういう理由があったからか。


「遥か昔はこの辺りにも多くの魔獣がいたらしいが、当時の冒険者たちによって討伐されつくしたと言われている」


異世界歴史は面白いがいまいちピンと来ない。

恐竜がいた時代に強い人間がいたって感じか。

カイルの言う通り、街道から入った森とは違い、荒れた森に足を踏み入れる。

あちらの森は木々の隙間から木漏れ日が入っていたが、こちらの森にはない。

冒険者がよくいく分、自然と手入れされていたのだろう。


「こちらの森はウルフやギゼ、そしてブルなんかも現れる。こんな入口で会うことは滅多にないが、ジンパルドやコカリオンなんかも目撃例がある」

「気をつけよう」


ジンパルドやコカリオンがなにかはわからないがカイルが警戒する相手だ。ギゼとかとはくらべものにならないぐらい強いのだろう。


しばしギゼを探して森の中を歩く。

ウルフはたまに見かけたが、カイルが一緒にいるからか向こうから襲ってくることはなかった。


「で、お前はさっきからなにを取っているんだ?」


俺はギゼや他の魔獣に警戒しつつ、地面に落ちている実を拾ってポケットに入れていた。


「実が落ちているなと思って」

「イイゴの実か?それをどうするんだ?誰かにぶつけるのか?」

「そうそう、嫌がらせにな。ってちゃうわ」

「なにを言っているんだお前は」


ノリ突っ込みという文化はないらしい。

変な動きをした恥ずかしいやつになってしまった。


「中の実を食えないかと思ってな」

「イイゴの実を割るのか?」

「食べれないのか?」

「知らん。食おうと思ったこともない」


ふむ。なんでも試してみるものだな。

イイゴの実と呼ばれている実は大き目の殻に包まれた木の実。クルミに近い形状をしていた。だからこそ、クルミが食えるのではないかと思ったが外れか?

平らな石の上にイイゴの実をおき、別の石でカラを砕く。

中から白っぽい実が出てくる。

思った通り、クルミのような見た目だな。

カイルの静止の言葉を無視して、躊躇なく口に放り入れる。

噛むとカリっと小気味の良い音がして、木の実が持つ独特の甘さが広がる。

生だからそこまでうまいってわけではないが、十分食べられるな。

塩気がないのが本当に残念だ。


「本当に食えるのか?」


もう一つ食べている俺にカイルがおそるおそる聞いてくる。

食ってみろよ、と言わんばかりに中身を差し出す。受け取ったカイルが複雑な表情をして、意を決して口に入れる。

パキっと小気味のよい音がしてクルミもといイイゴの実はカイルの胃の中に消えていく。


「はじめて食ったが、案外うまいな……なんというか、不思議な味だ」


木の実を始めて食べた人はそう感じるだろうな。


「軽く炙るともっとうまいぞ」

「そうなのか!?」


もっとうまい、の言葉に反応してカイルも俺と同じくイイゴの実を探す。

二人で黙々と木の実を探しているときにふと気がついた。


「カイルの袋ってなんだ?」

「なんだってどういうことだ?」

「イイゴの実をいれているのに全く膨らんでいるように見えない」

「なんだそんなことか。見るのは別に初めてじゃないだろう。袋に収納魔法をかけてある」

「ああ、なるほど」


なるほどといったものの知らない。

収納魔法をかけておくと、かけられた魔法のレベルに応じて入る量が増えるらしい。小さな袋にしか見えないが、中には結構入るらしい。

便利だな。


「それって高いのか?」

「容量によるな。袋の二倍程度ならそんなに高くない。俺が使っているのは5倍ほどだからそこそこだ」

「なるほど」

「空間魔法が使えたら必要ないが、空間魔法を難しいからな」

「そうだな」


難易度などわからないが空間魔法と聞くとなんだか難しそうな気がする。

それ以前収納魔法と空間魔法ってなにが違うんだ。

ていうかそうだな。この世界にはせっかく魔法っていうものがあるんだから俺ももっと勉強すべきだな。


「おい、テン」


唐突に声を潜めて、カイルが俺を呼ぶ。

おそらくギゼがいたのだろう。

察した俺は身をかがめて、息を殺してカイルに歩み寄る。


「あれが、ギゼだ」


カイルが差した先に、この間みた赤い体表を持ち、両腕が鎌のようになっている魔獣が見えた。

細長い首を伸ばして周囲を見ている。

鎌の生えたダチョウのような感じだ。

ということは味もダチョウににているのか?ダチョウの肉は一度食べたがなかなかうまかったな。ウルフ肉も悪くないがあの肉肉しい感じには少し飽きてきてところだ。

ダチョウ肉は、俺が喰らう。


おもわず舌なめずりをしてしまい、その殺気が伝わったのかギゼがこちらを見る。


「なんか、いまテンから異様な気配を感じたような……」


隣にいるカイルも感じたようだ。いけないいけない。自制しなくては。


「まあいい。どのみちギゼにはもうばれた。隠れる意味がない」


カイルが立ち上がり、背負っている斧を構える。


「まずは戦ってみるか。ウルフ程度なら倒せるんだろう?危なそうだったら俺が手伝う」

「そうだな。死なない程度に頑張ってみるとしよう」


俺も立ち上がり、買ったばかりの剣を抜く。


柄は冷たく、やはり重い。

ギゼも戦闘態勢に入ったのか、一鳴きしてこちらめがけて走ってくる。


「ギゼの鎌は真正面から受け止めるな。お前では力負けする」

「わかった」


どちらにせよ、はじめて魔獣と戦うのだ。

真正面から受け止めるなんて怖いことしたくない。

ダチョウっぽいが走りはそこまで早くなく、飛び跳ねるよう感じで木々の間を跳ねて近寄ってくる。

近寄ってくるとその姿がはっきりと見えてくる。

姿はダチョウに似ているが、皮とかそういうところは少し爬虫類っぽい。

トカゲ、いや蛇か?蛇とダチョウを合体させたような。蛇も鶏肉ににた味わいだったしな。どちらもかわらないだろう。

あと数歩、というところまえ迫ってきたギゼは最後に大きく跳躍して両手の鎌を突きたててくる。

俺とカイルは左右に分かれて避け、すかさず剣を振るいギゼの胴体に傷をつける。


おお、斬れた。


食材を無駄に刻むのは不本意だがそうも言っていられない。

傷つけられて怒ったのか、ギゼが俺の方を見る。

上下左右から振られる鎌を剣で弾いたり、間に合わない時は小手で受け止めたりする。

これが魔獣との戦いか。

なかなか恐怖を感じるな。

すっかり防戦一方になってしまい、ギゼの殺意に当てられて足もすくむ。


日本で、スーパーや市場にいって買い物をしただけでは得られない体験だな。魔獣と戦うことはないが、漁をしている人たちは似たような経験をしていたのだろう。

改めて、感謝しなければならない。


正直、恐い。


だがここでは、俺が狩る側だ。

相手の命を喰らうのだ。

こちらも、命をかけなければならない。

俺はここに来て改めて感謝している。

命というものに。

他の命を喰らって生きる。

頭ではわかっていたつもりだが、理解していなかった。

食うか食われるか、弱肉強食の世界。


「お前の命に、感謝する」


ギゼが吠え、地面を蹴る。


剣の構え方なんか知らない。

見様見真似だ。

振り下ろされた鎌を小手で受け止め、すぐさま剣を振りあげる。狙いは、腕の関節。

狙い通り、関節に食い込む刃。だが、骨を断つことができずに止まってしまう。


「あぶねぇ!!」


カイルが叫び、こちらに駆け寄ってくるのがわかる。だが、大丈夫だ。

腕の解体の仕方ならわかる。

刃を少し動かし、関節の隙間にねじ込む。

骨通しをつないでいる腱を切り、少し強引に、力まかせに振り上げる。


スムーズに、とはいかないが、鎌の一つを切断することには成功した。

痛みで悲鳴を上げるギゼ。

考えている暇なんかない。

ひるんだギゼの懐に入り込み、ギゼが逃げるよりも先に、俺の剣がギゼの細長い首をきり落とした。


ギゼが地面に倒れ込み、周囲が静かになる。


「ふぅ……」


一つ息を吐き、剣をしまう。


「テン、お前そんなに戦えたのか?俺の斧ならわかるが、そんな剣でギゼの腕を切り落とすなんて」


駆け寄ってきたカインが目を丸くして俺と、剣と、ギゼの間を忙しなく見ている。


「関節を狙ったんだ。骨ごと切るなんて無理だ」

「そんなに器用なやつだったか?」

「一度死んだからな」


そういってやるとカイルは驚き、そして笑った。

鉄板のギャグのようなものを手に入れてしまった。


「このままだと血の臭いでほかの魔獣が来てしまう。魔石を取り出してとっとと引き上げよう」

「ああ」


といって俺はギゼを見下ろし解体順序を考えていた。

時間がかかったら鮮度が落ちてしまうからな。

手早く、そして一気に。

腕と足が邪魔だな。


「なぁカイル。腕と足を切ってくれないか?」

「ん?ああ、いいぜ」


カイルが斧を振り下ろし、骨を砕く音とともに腕と足が切断される。

これで大分解体しやくなったな。

ウルフ同様にお腹を裂き、内蔵をすべて出す。ついでに心臓辺りを切り裂き、魔石を取り出す。これが討伐の証明になるんだったな。

それをショルダーバッグみたいな入れ物に入れて、解体を続ける。


「ウルフを解体したって聞いた時は嘘だろ?と思ったが、本当に解体できるんだな。一体どこで覚えたんだ?」

「ん?あぁ、実はできたんだがな……めんどくさくてしていなかったんだ」

「いやいや、だったらなんで解体屋と喧嘩したんだよ」


その件は思い出そうとしても思い出せないからわからないんだ。

本当に、なんで喧嘩したんだろうな。俺が詳細を聞きたいぐらいだ。


「あの時は、まぁ、イライラしていたからだな」

「よく言うぜ。そんなのいつものことだっただろう」


カインが笑って俺の背中を叩く。

横暴で、常にイライラしていて、喧嘩をふっかける前の俺。

マジでどうしょうもないやつじゃねぇか……。


ダチョウの胴体のようになった体から、肉を一部切り取る。


「なにしてんだ?」

「いまちょっと味見したくて。これ生で食っても大丈夫か?」

「生はやめた方がいいな。下級でも魔獣だ。血肉に魔素が残っているから、生で食べたら毒を食うみたいなもんだ」

「そうなのか……」


こんなに新鮮な肉なのにもったいない。

でもそうだよな。ここは異世界だ。ただの肉に見えてもどんなものなのかわからない。迂闊に手を出すべきではない。


「そんなにここで食いたいなら、焼くか?焼いたら魔素は抜けるから食えるぞ」


よほどがっかりした顔をしていたのだろう。

ためらいがちにカイルが提案してくれた。


「できるのか!?」

「ああ、その程度の火魔法なら使えるからな。」


そういってカイルが枯草を集めてきて、手をかざす。

小さな火が出て枯草が燃え始めた。


「おお、すごいな。」

「いやいや、この程度の火なら子供でも出せるぞ」


ならぜひ俺にもやり方を教えてくれ。

すぐに火は勢いを増して焚火ぐらいの火になる。

そこに石を並べて置き、薄めの石を鉄板がわりにして置き、石焼きにする。

ついでに、とイイゴの実を数個取り出して一緒に焼く。


「いい匂いだな」

「そうだな」


思った通り、鶏肉に近い匂いがする。

炒ったクルミもよい匂いを放ってきた。

ほどほどに焼けたので、包丁で二つに切り分け、一つをカイルに渡す。


「なかなかうまそうな見た目だな」


初、魔獣実食。


がっと肉に食らいつく。

まず感じるのはその歯ごたえ。

魔獣だからか、肉食獣に近いからか、鶏肉のようなのに歯ごたえがある。

親鳥に近いが、それほど硬くもない。

味は少々たんぱくだが、やはり鶏肉に近い味をしている。それとは別に、なにか不思議な、例えることのできない味を感じる。

魔獣がもっているという魔力が関係しているのかもしれない。


まぁ能書きはいい。

これは、うまい。


焼けた脂もいい風味を出している。

炒ったクルミも口に放り込む。

炒ったことで風味と甘味が増し、ギゼの肉とよくあう。


「うん、うまい」

「俺も久しぶりに食ったな」

「あんまり食わないのか?」

「俺はウルフ肉の方が好きだからな。こいつもうまいが少し物足りない」


なるほど。確かに、この世界の肉がはじめに食べたあの肉だとしたら物足りないだろう。肉!って感じのやつにかぶりつくのが主流だからしかたないだろう。


「それよりもこの焼いたイイゴの実がうまい

カイルは肉よりも実の方が気に入ったようだ。


「それはよかった。そういえばウルフの肉ならいま持ってるぞ。食うか?」

「どうやってもっているんだ?」

「乾燥させて軽く焼いたやつだ」


ビーフジャーキーのような感じになってわりとうまい。


「ふ~ん、せっかくだから食う」


鞄からジャーキーを渡す。


「薄いな」

「ああ、厚いと硬くなりすぎるからな」

「ふ~ん」


調理法にはあまり興味がないらしく、ぽいっと口の中に放り込む。


「なんか硬いな」

「噛めば噛むほど旨味が出てくるぞ」


少しぐいぐいと噛んでいたカイルがやがて驚きの表情に変わっていく。


「確かに、なんかうまくなってきた」

「だろ?まだあるぞ」


非常食としてつくったジャーキーを2枚渡すと、すぐにそれを食べきる。


「持ち歩いているってことは日持ちするのか?」

「ああ、そのために作ったからな。結構な日にちは持つと思うぞ」

「あとで作り方を教えてくれ。遠出するときに持っていきたい」

「ああ。いいぞ。今日付き合ってくれた礼だ」

「はは、俺はなにもしていなかったけどな」


倒れたギゼをカイルが見る。


「正直、倒せるわけないと思っていたがすげぇなテン。見直したぜ」

「さすがにちょっと震えたけどな」

「はじめてなんだ。しょうがない。それでも自分一人の力で倒せたんだ。すげぇことだぜ」


カイルが背中をバンバン叩いてくる。門番より強い力に倒れそうになる。


「あ、そうだカイル。ジャーキー作る際、俺にその火魔法の使い方を教えてくれないか?」

「いいけど、お前魔法を取得はめんどくさいっていってなかったか?」

「今日カイルが使ったのをみて便利そうだなと思って」

「便利ってお前、どういう見かただよ……」


主に火を起こすのに、と言ったらますます呆れられてしまった。

だがそれでもカイルは町に戻ったら教えてやる、と言ってくれた。

食の感心が低いこの世界に、はじめは絶望したものだが。

なかなか、この世界も悪くないんじゃないか。

そう思うようになっていた。


それにしても、魔獣を食べた時に感じた不思議な旨味。


あの味が忘れられない。


ギゼの見た目はモン〇ンのイー〇スみたいなやつです。


読んでくださりありがとうございます!

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