メニュー2 ウルフ肉のステーキ~ブドウソースを添えて~
「さて」
ずっと浸っていてもしかたがない。
まずはやることやらないとな。
そもそも、結局エール草というものがどんなのかわからないまま、町の外に出てしまったわけだが……森はどこだ?
というか、この世界、魔獣とかいう人を襲う化け物がいるようだけど丸腰で大丈夫なのか?
立ち尽くしていると、さきほどの門番が話かけてきた。
「おい、あんた……さっきからずっと立ち尽くしているが大丈夫か?」
心配、というか不信がらせてしまった。
たしかに、外にでるなり立ち尽くしているやつがいたら怪しすぎる。
「あ、ああ、すまない。大丈夫だ。ちょっとな、心機一転頑張ろうと思って」
「そうか。ならいいんだが……まるではじめて町の外にでた子供みたいな反応をするからびっくりしたぜ」
子供ではないが、町の外にでた時の反応については正しいな。
まさに初体験だからな、俺にとったら。
「しかし、まさか丸腰で町の外にいくつもりなのか?」
不信感がなくなり、純粋に心配そうな声色で訪ねてくる。
やはり丸腰はまずいようだ。
「生憎武器がなくてな。少しでも稼ぐためにエール草を取りにいきたいんだ」
「エール草を?森にいくのに丸腰でいくのか?なおさら止めた方がいいぞ」
「ささっといってささっと帰ってこれないか?」
「う~ん……ギゼやブルなどが出てこなかったら大丈夫だが……」
魔獣とやらの名前っぽいのを言ってくれるがピンとこない。
俺が立ち尽くしていると、門番が頭をガシガシとかきながら小さく呟いている。
「あー……ならせめてこれ持って行くか?」
門番は一旦詰め所に戻り、小さなナイフを持って戻ってくる。
小さな、といっても刃渡り20センチほど。ちょっと包丁に似ている。
「いいのか?」
「拾いものだからな。やるよ。ただそれでもギゼには勝てないと思うから牽制だけして逃げてくるのが賢明だ」
「そうかわかった。感謝する」
もっとも、ギゼがなんなのかわからないから逃げようがないけどな。
「いいってことよ。この町の住人に死なれたら俺のいる意味がねぇからな」
ははっと笑う門番に心がときめきかける。
俺にそっちの気はないがやばかった。
「あ、ついでに聞きたいんだが、エール草ってどんなやつだ?」
「なんだお前、知らずに探しにいくのか」
「薬草採取の依頼を受けるのは初めてなんだ。」
「なるほど。初心者か。通りで武器も持っていないわけだ」
やれやれといった様子で門番が腰に下げている袋から草を取り出す。
「これがエール草だ」
取り出されたのは細い草で、タイムに少し似ているものだった。
「そういうやつか。店で聞いたら森へいけって言われて困っていたんだ。」
「そうだろうな。エール草はギルドで集められたあとポーションになって販売されるからな」
なるほど。だから草そのものは売っていないのか。
「初心者なら見本がないと難しいだろう。これ、持っていきな」
門番からそのままエール草を渡される。
「いいのか?」
「ああ。そのままでも一応、多少の治癒効果があるから持ってはいるが、これまで使ったことないからな」
だからしおれているのか……。
「恩にきる」
礼をいい、今度こそ門番と別れて森へと向かう。
途中、ナイフを取りだして眺める。
錆びがひどいし、だいぶ刃こぼれしているな。だが、研いだら一応使えそうだ。
当然砥石なんてものはないので、できる限り平な石を見つけてそれで研ぐ。
多少マシになったか。
サビが少し取れ、太陽の光を反射してきらりと光るナイフに満足して森へと入る。
森、というよりは林に近いそこは、一歩踏み入れるだけで木々が太陽を光を遮り少し薄暗く、そして涼しい。
さきほど炎天下でナイフを研いでいたので涼やかなのは嬉しい限りだ。
鬱蒼としているわけではなく、太陽光もそれなりに入りスポットを浴びている場所もある。
悪くない森だな。
ここなら食用となる葉っぱや木の実、キノコなんかもあるかもしれない。
ただ、キノコに関しては日本の知識など当てにならないのでやめておく方が無難だな。
そういえば、露店を回っている時もキノコ類は全く見かけなかったし、この世界にキノコを食べる習慣はないのかもしれん。
うまいんだがな、キノコ。
いかんいかん、考えていると食べたくなってきた……。
キノコへの想いを断ち切るために耳を澄ますと、風で葉のこすれる音やなにかの鳴き声が聞こえる。
スズメのようにちゅんちゅんという声だったら可愛げもあるが、狼の遠吠えのような鳴き声なので全く可愛くない。
ギャアギャアと濁声で鳴いているのはなんだ?怪鳥の類か?……鶏肉も食いたいな。
まぁそんな怪鳥やらモンスターには遭遇しないことを祈って、いまは薬草だな。
どんな感じで生えているかわからないが、おそらく地面から普通の草と同じように生えているだろう。
生えているよな?異世界だからな、日本の常識がどこまで通用するのか全くわからん。
ただ、さきほどの草原でもそうだが草が地面から生えているのは確認できる。
木の根元に生えている草を軽く触ってみる。
エール草ではない、と思う。
ただの雑草か?
そしていまさらながらなにか手袋のようなものを持ってきたらよかったと後悔した。
もしかしたら素手で触ったらダメな植物があるかもしれない。
そんときはそんときか。ポーションなるものもあるらしいし、なんとかなるだろう。
さすがに触るだけで即死するような植物が生える危険な森ではないだろう。
だがまぁ、こちらは一度死んだ身だ。
現実だと理解しているがどこか夢の続きのような感覚はある。
そのせいか、普段よりも大胆に動けている。
人間気をつけていても死ぬときは死ぬみたいだしな。
微かに覚えている曳かれた時の痛み。
自然と、脇腹辺りを手で撫でる。
やれやれだ……。
ないはずの古傷を思い出しながらどんどん先へと進む。
しかし、この森どこまで続いているんだろう。
なんとなくエール草を探しながら歩いていると、蔦植物からぶら下がる実を発見した。
「あれは……?」
小走りで実へと近づく。
小さい粒が多数集まったブドウのような実だ。
「食えるのか、これは?」
露店ではみた覚えがない。
一粒手に取り、皮をむく。
ブドウらしく薄緑色の果肉が出てきた。
「ますますブドウっぽいな」
匂いを嗅ぐ。
甘い匂いがする。
ペロリと舌で舐めると果汁の甘い味が舌の上に広がる。
ピリピリする感じもない。
食えそう、だな。
一思いに一口で食べる。
甘い果汁が口の中いっぱいに広がり、噛むと果肉の弾力が伝わる。
ブドウよりも実がしっかりしているな。それに甘い。
うん、これは十分うまいぞ。
もし毒があって死んだらそんときはそんときだ。
一房もぎ取り、手ごろな石を見つけて座り、ブドウもどきを食べる。
露店を探したら売っていたのか?それにしても、こんなフルーツがあるのならこれをソースにでもして肉につけたらいいのに。
探したらやっている店があるかもしれないが、焼いただけの肉を出されたトラウマがまだ残っており、探そうという気にはなれなかった。
ブドウもどきの木を見ると、まだ結構房は残っている。
誰かが管理しているわけではないよな……。なら取り放題ってことか?
森の入り口からそんなに離れているわけでもないし、いいなこれは。
一房を丸々食べきり、満足したので目的のものを探す。
エール草、エール草……。
しおれている見本と、生えている植物を見比べながら探すこと数分。
「お、これっぽいな」
やがて見本と似たタイムのような植物を見つけ出す。
一本引き抜き、ふと自分が何本取らないといけないのかわからないことに気が付いた。
「しまった……まぁどうせ持てる量に限りがあるんだから持てなくなったらでいいか」
幸い、貴重な草というわけでもないようで、一度見つけてしまえば結構な量見つけることができた。
50束分ほどを左手に持ち、右手にはブドウ。
エール草探しで疲れたのでもう一房失敬したのだ。
これ皮ごと食えるな。
もぐもぐとブドウを食べ、種を吐き出す。
こんなもんでいいだろうと引き返している途中、ついに出会ってしまった。
「ぐるるるる……」
低い唸り声をあげ、こちらを威嚇している、ゲームでいうところの、モンスターとやらに。
現れたモンスターは狼の様な姿をしていた。
世界は変わってもこういう動物はあんまり変わらないものだな。
初遭遇にもかかわらず、落ち着いた心境でブドウを食べる。
その行動に苛ついたのか、狼が一鳴きしてとびかかってくる。
「おっと」
さすがに抱き着いてきたわけではないだろう。
軽く身をひねって狼の抱きつきをかわす。
「どうやらブドウを食べている場合じゃなさそうだな」
どうみても走って逃げきれる相手ではない。
「こいつが門番の言っていたギゼかブルってやつか?」
門番は逃げろと言っていたけど、やはり逃げ切れる相手はないように思える。
「しょうがないな」
狼から目を逸らさないようにブドウとエール草の束を一旦置き、ナイフを構える。
「包丁は武器じゃないが……相手が食材なら別にいいだろう。さすがに狼をさばいたことはないが……」
まぁできなくはないだろう。
血を抜き、毛皮を剥ぎ、内蔵を出す。
肉がどういう感じになっているかわからないけど、牛や豚も四足だ。
さほど、かわらない。
一番の違いは、向こうが敵意を持って俺に向かってくることだが……。
狼は自分を見てなにを考えているかわかったのか、少しだけ後ずさる。
だが後ずさってしまったことがプライドに障ったのか、気を取り直すように一鳴きして再び牙を突き立ててくる。
その口の中に思い切り左手を入れ込む。
口の中を殴った感じだ。
驚いた様子の狼が苦しそうに咽る。
そうだろう。ここまで手を入れられたら噛みつけないだろ。
その隙に、右手に握っていたナイフを首に突き立てる。
血抜きするならここあたりを切ったらいいだろう。
突き立てたナイフをそのまま下に動かし、大きく首を切り裂く。
急所は変わらないようで、切ったところから血を噴きだし、狼が地面に倒れる。
顔にかかった血を服でぬぐい、倒れて暴れる狼から距離を取る。
あんまり暴れると質が悪くなるが……。
この包丁だと止めをさそうとして逆にやられる可能性があるからな。しょうがない。
むやみやたらに暴れる相手に近づくのは危ない。
少し待っていると暴れ疲れたのか、それとも血を流しすぎたのか、狼が大人しくなった。
そろそろか。
狼を見下ろすように立つと、自分の方を力無い目で見てくる。
「すまんな苦しい思いをさせて。いま、楽にしてやる」
今度こそ首を深く切り裂き、狼を絶命させた。
「お前の命、無駄にはしない」
手早く腹を切り裂き、内蔵を取り出して、毛皮を剥ぐ。
一度洗いたいがここには水場がないので我慢する。
袋もなく、どうしようかと考えた結果、剥いだ毛皮に肉を包んで担ぐことにした。
血がつくが仕方がない。
血や脂がついたままだと切れ味が悪くなってしまうので、手ごろな葉っぱで一応拭いておく。
帰ったらこれも洗わないといけないな。
幸い、これ以降は狼に遭遇することなく森を抜けることができた。
街道を歩き、町へと戻ってくる。
「お、おいどうしたんだ!?」
行くとき見送ってくれた門番が、俺の姿がはっきり見えるようになると慌てた様子で駆けよってくる。
「なんでそんなに血まみれなんだ?背負っているウルフはなんだ?怪我したのか?」
めっちゃ聞いてくるやん。
ていうかこの狼、ウルフっていうのか?なんでそこは英語なんだ。
世界が変わっても名づけは共通なのか?
「ああ、こいつにだけだが襲われてな。あんたがくれたナイフのおかげで助かった」
「そ、そうか……それはよかったが、あんたよくウルフに勝てたな」
「運がよかったんだ」
ウルフが魔獣の中でどれほどのものかわからないので曖昧に答える。
そもそも魔獣なのか?ただの動物な気もするが。
「それにちゃんと解体もしてある。あんた、薬草採取を受けずに討伐依頼を受けた方がよかったんじゃないか?」
「はじめにいっただろう。武器をなくしてしまっていたからな」
「そう言っていたな。ってことはあんた、あのサビたナイフでこんなに綺麗に解体したのか?」
「ああ、ちょっと研いだらよく切れるようになったぞ」
背負っていたウルフを降ろし、ナイフを出す。
血や脂が残ったままなので少し輝きは鈍いが、サビていた時よりは輝いている。
「ど、どうやって研いだんだ……?」
「普通に石でだが」
「石で研いだだけでこんなに綺麗になるものなのか……?」
感心したように門番がナイフを見ている。
「返した方がいいか?」
「いやいや、これはあんたにやったんだ。使えるようになったからって返してもらうわけにはいかない。それにこいつのおかげであんたはウルフを倒せたんだろう?あんたが持っているべきだ」
笑いながら門番はナイフを返してくれる。
この人、ほんといい人だな。
「ああ、本当にこのナイフをくれたおかげで助かった。礼を言う」
「いいってことよ。にしてもさすがにあんた血だらけすぎるな……もう乾いているが、少しでも流していってくれ。その恰好で町を歩いていたら住人が驚く」
「それもそうだな」
俺だって街中を血だらけのやつが歩いていたら二度見するだろう。
案内されるがままに井戸へと連れられ、そこで水を浴びる。
ついでに少しだけウルフも洗い血を流す。
「それにしても本当、綺麗に解体してあるな。本職にしたらどうだ?」
「生憎と本職は別でな」
「それもそうか。こんなに綺麗ならギルドで高く買い取ってもらえるぞ」
「ああ、助かるよ」
買い取ってくれるのか。知らなかった。
いうと変な目で見られるのはわかっているので静かにうなづく。
「エール草もはじめてなのにそんなに取ってくるしな」
「依頼書を確認していなくてな、どれだけ取ってきたらいいかわからなかったんだ」
「なんだそりゃ。あんた、すげぇのにちょっと抜けてるな」
門番が笑いながら背中を叩いてくる。
門番をしているだけあって、なかなか力強い叩きだった。
少し湿っている服を来て、ようやく町の中に入る。
ウルフを背負っているので少しだけ見られるが、このぐらいなら注目を集めるほどではない。
そういうところも異世界だなぁと実感する。
渋谷のスクランブル交差点を血まみれの男が狼を背負って歩いてみろ。
注目の的だ。
一瞬ですげぇバズったりすんのかな。
そんな馬鹿なことを考えながら歩き、一旦自分の家にいき、ギルドカードを持って再び冒険者ギルドへと向かう。
「あら、お帰りなさ……どうしたんですかそれ」
受付をしてくれた女性が驚き、丸い目をしたまま俺が担いでいるウルフを見る。
「ああ、採取途中に襲われてな。依頼を受けてはいないが、買い取ってもらえるか?」
「それは構いませんが……よく倒せましたね。それに綺麗に解体もしてある。これは、どなたが?」
「俺だが……?」
「テンさん解体できたんですか!?」
ウルフを見た時以上に驚き、ますます目が大きく見開かれる。
そんなに驚かれるようなことなのか?
「まぁ、見様見真似だが」
「解体なんて汚い仕事、誰がやるか!って言っていたあのテンさんが?」
ちょっとまてよ前のテン。
お前ほんとどれだけ性格悪かったんだよ。
道理で俺に近づいてくるやつがいないわけだ。
「ほんとうにテンさんですか?」
鋭いなこの受付嬢。だがここで中身は別人ですっていっても信じないだろう。
「まぁ色々あってな」
適当に誤魔化す。
「はぁ……なんかほんと、人が変わったみたいですね。でも私は、いまのテンさんの方がいいと思いますよ。できたら、ずっとそのままでいてくださいね」
はじめて受付嬢が笑いかけてくれる。
いいと言われ、少し気恥ずかしくなる。
「善処しよう。とりあえず依頼達成を頼む」
ギルドカードを差し出し、エール草の束を置く。
「ずいぶんいっぱい取ってきましたね。」
「どれぐらい取ってきたらいいのか確認していなかったからな」
「そういえばそうでしたね。すみません、そこは私のミスです」
ぺこりと受付嬢が頭を下げる。
「いや、気にしなくていい。」
そういうとまた驚かれる。
やれやれ、前のこいつはいまの俺に少し感謝すべきだな。
「ふふ、なんか変な感じです、ほんと。エール草の採取依頼、達成ですね。量が多いので二回分達成にしておきます。あと、ウルフの肉と毛皮の買い取りですね。」
「肉って全部か?」
「いえ、別に全部ではなくてもいいですけど。持って帰りますか?」
「今日食べる分だけでいいんだ。頼めるか?」
「いいですよ。その分は買い取り金額から差し引いておきますね」
俺にはわからないが、受付嬢がギルドカードをパソコンのようなものの上におきなにか操作をする。
「はい、達成報酬と買い取り金額を入れておきました。ギルドカードお返ししますね」
「ありがとう」
「テンさんが綺麗に解体してくれているので、肉もすぐにお渡しできます。少しだけギルド内でお待ちください」
そう言い残して受付嬢がウルフをもって奥へと消えていく。
ふむ。
待合場所らしく、テーブルとイスが並んでいる場所の一角、誰もいない席へと座る。
おそらくこいつは性格が悪いとみなされているだろうからな。友人のようなやつはいないだろう。
誰をみてもなにも思い出さないということはそういうことだ。
と思っていたが、ちゃんとした防具を身にまとった冒険者二人が近寄ってきた。
「よう、テン。お前いつからそんな真面目に依頼を受けるやつになったんだ?」
「それとも、仕事を首になって金がなくなったのか?」
笑いながら話かけてくるが、別に嫌らしい感じはしない。
「そんなところだ」
「それにお前がウルフを倒せるなんて知らなかったぞ。遠目でしか見ていないが解体もうまいものじゃないか。」
「解体屋と喧嘩していたのが嘘みたいだな」
喧嘩までしていたのか。俺はここにあまり長居するべきじゃないかもしれないな。
だが二人はそのまま席についてしまう。
話す気満々かよ。
「いや、だがアインも言っていたがほんと人が変わったようだな」
アインって誰だと思ったが、おそらく受付嬢のことだろう。
「しばらく見ていなかったが、なにしてたんだ?」
「仕事を首になったあと自暴自棄になっていてな。死にそうになってから少し反省したんだ」
もっともらしいことを言ってみると、二人は腹を抱えて笑い出した。
周囲で話を聞いていたほかの冒険者たちも笑っている。
「そんなのいつものことだろう!」
「もしかして反省したと見せかけてまた金を借りようと思っているのか?」
やばい、聞けば聞くほど前の俺はくそ野郎だったようだ。
でもあんまり敵意は向けられていないな。
「お前が何日続けられるか賭けるか?」
「もって三日っていうところだろうな」
「なら俺は二日だ」
周囲にも賭けの話は広がっていき、最短で今日の夜。最長でも一週間という結果になった。
嫌われてはいないというよりはこいつの横暴な性格をだれも気に留めていなかったというところか。そのうち勝手にくたばると思われていたようだ。
まぁそれは正解だな。勝手にくたばったからなぜか俺が生まれ変わった?わけだし。
アインという受付嬢に呼ばれ、肉を受け取るとまだ俺の賭けの話で盛り上がっている冒険者たちを横目に、俺はギルドを出た。
前の俺がどんなやつでも、ほかのやつにどう思われていても関係ない。
いま最も大事なことはこいつをうまく調理することだ。
受け取った肉。
そしてズボンのポケットにはいっているブドウ。
この二つが今日の夕食だ。
そうだ。
ウェルダンを通りこして丸焼きにしたような肉じゃない。
きちんと料理された肉を俺は食うんだ!
大通りから数本外れた路地裏、をさらに奥深く入っていった町の隅も隅。
そこの一角に俺の家があった。
ボロボロでいまにも崩れそうな家だが、家は家だ。
電気なんてあるはずもなく、中は暗い。
不思議と虫は湧いていない。この世界にはいないのだろうか。
狭く、二畳ほどの部屋。布団はなく、なにかの毛皮がある程度。
雑多な部屋だったが、片付けたことで多少住みやすくはなった。
まぁそれはどうでもいい。
さっそく肉とブドウを取り出す。
調味料がないのでできることは限られているが、ブドウが手に入ったのは大きい。
さて、まずはソースを作るか。
といっても煮詰めるだけだが。
フライパン替わりにつかっていたであろう鉄の板を火にかける。
コンロのような形状をしているが、ガスとかはない。
火の魔石というやつをはめ込み、それに魔力を通すことで火が付くらしい。
詳しくはわからんがそういうものだと前の俺の知識から知った。
適度に温まるのを待って、皮をむいたブドウを身を崩しながらおいていく。そこに水を入れて軽く混ぜる。
火加減の調整には苦労したが、魔力を注ぐ量で弱火、強火を調整するようだ。
木べらなんかないので、森の中で拾った手ごろな枝で潰しながら混ぜる。
沸々してきたので舐めてみると、思った通りいい甘さが出ている。
もうすこし酸味があっても良かったが、贅沢は言えないな。
水を加えて、味の調整をしながら煮詰めていく。
かろうじて原型を保っているコップのようなものにソースを入れる。
「うん、まあまあだな」
本当はもっと美味しくできるだろうが、今はこんなものだろう。
問題は次だ。
まな板替わりの木の板に、ウルフ肉を置く。
みた感じ、脂が少なくスジっぽい。このスジを切らないと硬くてかみちぎれないだろう。
貰ったナイフで丁寧にスジを断ち切り、棒で叩いて繊維を砕く。
「こんなところか」
次は一番重要な焼くという工程だ。
間違いなく新鮮なので、そこまでしっかり焼かなくてもいいだろう。
焼きすぎるとただ焼いただけの肉になる。
魔力を少し多めに注ぎ、火力を上げる。
熱々に熱された鉄板に肉を置き、一気に焼き上げる。
両面、そして側面を焼いて肉の旨味を中に閉じ込める。
当然手入れもなにもされていない鉄板だったので肉がひっついて苦戦したが、一応なんとか焼ききった。
皿のようなものに肉を置き、上にブドウソースをかける。
「よしよし。料理っぽくなったぞ」
完成した料理を満足気に眺め、いそいそと部屋の中央に移動する。
粗末のテーブルの上に肉を置き、ナイフで食べやすいように切る。
「いただきます」
手を合わせ、命に感謝をして肉を食べる。
見た目通り、脂身が少なく少し硬いが、しっかりとスジギリをしたおかげで噛み切れないことはない。しっかりとした肉の旨味が伝わってくる。そこに交わるブドウソースの甘味。
少し塩気が足りないが、十分うまいと感じるものができた。
これがウルフの肉か。
牛や豚とも違うな。
肉食性だからか?チーターとか肉食動物を食べたらこういう味だったのかもしれないな。
俗にいうとろける~などということは全くなく、肉を喰らう!という感じだった。
硬めの肉を、己の歯で思い切り噛み千切る。
これはこれで悪くない。
あっという間にウルフ肉を食べきり、余ったブドウソースはさらに煮詰めてドロドロにしてジャムのようにしておく。
冷蔵庫はないが、これで少しは日持ちするだろう。
まあなくなったらまた取りにいけばいい。
でもこれだけの果実だ。
運がよかっただけでもしかしたらすぐになくなってしまうかもしれないな。
腹もいっぱいになったので寝床(のような場所)に寝転がる。
藁のようなものが敷いてあるが痛いことに変わりはない。
ここも、もっと別のしっかりとした寝床にしたいな。
そう思いながら、満腹になったのと、慣れないことをして疲れていた体はあっという間に眠りに落ちた。
メニュー1つで一話と考えていたら文字数が1万近くになってしまいました……。
長くなってしまいましたが、読んでくださりありがとうございます。




