表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/15

無法地帯

 空港ターミナルには利用客などいない。田辺はここを接収し、自衛隊の拠点のひとつにしている。杉山と三村はVIPルームの個室のひとつに案内された。

「あの大水害は全てを飲み込んだ。あまりに早く・・・三村君の話を誰も信じなかったが、私は高台の避難候補地としてここを視察に訪れていた。君たちは知るまい・・・ここで何が起こったかを・・・」

 田辺は忌まわしい記憶をたどり、時折身震いしながら話した。

「大勢の避難者を受け入れたが、すぐに限界に達した。旅客機の乗客だけで1万人はいた・・・空港は封鎖せざるを得なくなった。ある時、陸自ヘリの一団がやってきて強行着陸した。彼らは陸自駐屯地の弾薬庫を占拠し、無敵になった・・・それが悲劇の始まりだ」

 ここの自衛隊員が何故武装しているのか、杉山と三村にはその理由が見えて来た・・・。

「まさか反乱が?自衛隊員の・・・」

「武器を手にした者が支配する・・・そんな世界に逆戻りだ。奴らは市長に副市長、行政の主だった幹部を射殺し、支配者になろうとした。彼らに対抗できるのもまた自衛隊だ。この争いは一般市民を巻き込み、治安は最悪になった。大勢が死んだ・・・」

 驚くべき事態だ・・・この日本が内戦状態にあるとは思いもよらなかった。杉山は人口の割に生存者が少ない理由を理解した。

「戦闘は収まっているようだが・・・状況は落ち着いたのか?」

「小康状態といったところだ。反乱分子はバリケードの外に潜伏し、集落からの略奪で食いつないでいる」

 三村は運んできた燃料の使い道を悟った。少なくとも救助活動の為ではない・・・。

「燃料はまだ必要になりそうですね。ヘリによる掃討作戦の為に」

 三村の指摘を田辺は否定しなかった。

「そうだ。だから君たちと取引きを続けたい・・・」

 田辺は物々交換よりもっと重要な交渉を持ち掛けた。

「硫黄島基地の500人をここへ移住させてもいい。但し我々と共に戦うなら」

 予想外の展開に2人は声も出ない。

「制圧地域を広げ、反乱分子を完全に排除しなくてはならない。その為にはもっと兵員が必要だ」


「松本駐屯地の陸上自衛隊一士、平田です」

 案内役の現地隊員は自己紹介をして歩き始めた。異様に周囲を警戒し、少しの物音にも怯えている。

 美河たち3人の陸自隊員、そして5人の日本兵が後に続いた。

 車道を歩いているが車通りはなく、人の気配が全くない。

 上空を武装ヘリが飛び去って行く・・・日本兵たちにとってもはや目新しい驚きはなくなっている。搭乗したジェット輸送機も、広大な舗装道路も、モダンな家屋も・・・。

「洗濯乾燥機ほどの感動はありませんな」

 木島は祖国の地を踏んでいるという実感がわかない。

「ここは日本でしょうか?」

 西山には答えようがない。ただ通りかかった家屋をじっと見つめている。外壁に弾痕があるのを彼は見つけた。

 西山はその家に近付き、塀の上から庭を覗き込んだ。空っぽの犬小屋、子供用のブランコ・・・そして腐敗した母子の死体がある。

「何かいましたか?」

「初めての民間人だ」

 木島が覗き込もうとするのを西山は制止した。

「やめておけ。貴様の顔を見ると逃げ出す」

 先頭の平田は立ち止まった。

「この先は危険です。引き返しましょう」

 車が道路を塞ぎ、見張りの自衛隊員が立っている。

 美河は小池にささやいた。

「何か変よ・・・誰もいないなんて」

 小池は美河に促され、平田を呼び止めた。

「これじゃあ視察にならない・・・空港に民間人はいなかった。皆どこへ行った?」

 日本兵の間でも問題が起きていた。

「田口がいません」

 山口の報告に西山は顔色を変えた。

「最後に見た者は?」

 日本兵たちは顔を見合せた。誰にも気づかれず、田口は消えている。

 山口が思い出したように言った。

「田口は長野出身です。朝日村と言っていました。ひょっとしたら・・・」

 西山は小池と平田の押問答の間に割り込んだ。

「朝日村はどこだ?」

 平田は陸尉の階級章をみて西山に敬礼した。

「空港から南西へ5キロです」

「直ぐに案内しろ!」

 

 平田の運転する高機動車で彼らは朝日村へ向かった。幸い、朝日村は彼らの勢力圏内で検問に妨げられることもなかった。

「朝日村といっても広いんで・・・どこを探せばいいんです?」

 ハンドルを握る平田は尋ねた。美河はタブレットを手に取って指示した。

「道なりに3キロ進んで・・・その先を右折して」

 西山は美河のタブレットを覗き込んだ。マップ上にマークされた地点に接近するのが分かる・・・。

「何だ?それは」

「これで居場所が分かります。皆さんが着ている制服に発信機を縫い付けていますから」

 木島は戦闘服を配った小池を睨みつけた。小池は慌てて釈明した。

「我々全員に付けられています。自分にも・・・安全の為です」

 一軒の民家の前で車は止まった。田口の居場所を示すマークへは、この家の裏から山へ続くあぜ道の向こうにあった。

 彼らは車を降りると、その家の玄関前で立ち止まった。開かれたドアの向こうに倒れこむ人影・・・異臭からそれが死体であると分かる。

 平田はまるで予期していたかのように、神妙な顔で手を合わせていた。それを見た西山は平田の襟をつかみ、家の中へ引き入れた。

 あらゆるものが散乱し、略奪の目に遭ったことがうかがえる。

 刺殺された遺体は50代くらいの女性だ・・・死後数週間は経っている。

 奥の部屋にもう一人の遺体があった。学生服をはぎ取られた少女・・・暴行を受けたものと容易に想像できた。

 日本兵たちと違い、小池と菊池は口を覆って今にも吐き出しそうだ・・・。

 西山は震える平田を問い詰めた。

「死体を見るのは二度目だ。一度目はお前の案内した町の通りで見つけた。もっと若い親子だった・・・一体誰が殺した?」

 恐怖に怯える平田は涙ぐんで告白した。

「掃討作戦の部隊です・・・自分はこのようなことは反対です・・・しかし従わねば殺されるのです。国家の再建のため・・・」

 美河は思わず平田を怒鳴りつけた。

「何を言ってるの!これは自衛隊員の仕業!?」

 平田は抜け殻のように遺体を呆然と見つめるだけだ・・・日本兵たちは望んで本土に来たことを後悔し始めた。

 木島はため息をついて言った。

「ここが祖国か?あの爺さんの話よりひどいな」

 彼は山口と志村の前で自分の階級章に手を当てた。

「こいつらと同じ軍服はご免だ。二階級特進だろうと」

「全くです。士気は最低だ」

 志村は吐き捨てるように言った。

 西山は美河の前で手を差出した。

「そいつをよこせ。田口を連れ戻す。3人は車で待っていろ」

「私も行きます」

 西山は座り込んでいる小池と菊池を指さした。

「こいつらの顔色が悪い。面倒見てやれ」

 タブレットを受取った西山は平田の手を引っ張った。

「お前は一緒に来い。逃げ出されては困る」

 

 タブレット上から田口は100m以内に居ることが分かる。山道を上り、10分も歩くと見晴らしの良い広場で行き止まりになった。

 その一角が墓地になっている・・・少し離れた所に田口は倒れていた。

 体の一部が吹き飛んでいる・・・手榴弾による自決だった。その理由を、木島は墓石のひとつに見つけた。

「陸軍上等兵、田口・・・そうか、奴は二等兵から二階級特進した訳だ」

 遺骨なき戦死者の墓など珍しくはない。田口は自分の墓の前で命を絶ったことになる。

「いつもこうですな・・・若い奴から死んでいく」

 嘆く木島に西山は言った。

「田口は故郷に帰ることができた。ここを死に場所と決めたのなら、意志を尊重しよう」

 西山はここに田口を埋葬することにした。平田も作業に加わったが、状況を全く飲み込めないでいる。

「何故ここに埋めるんです?」

「本人の墓があるから仕方ないだろ」

 山口に冷たくあしらわれ、平田はそれ以上詮索しなかった。

 盛り上がった土の中に田口は消えた。鉄兜が添えられ、全員が敬礼した・・・。

 4人に減った日本兵たち、そして平田は元の民家に戻った。しかし美河たちの姿はない・・・高機動車が無人のまま止まっているだけだった。

 異変に気付いた日本兵たちは痕跡を探した。

「別の車輪の跡があります。靴跡は6人です」

 山口の報告に続いて志村が付け加えた。

「2人を引きずった跡も・・・連れ去られたようです」

 平田は青ざめ、頭を抱えた。

「反乱軍と疑われたのかもしれません。きっと殺されています」

「殺されたら死体があるはずだ。反乱軍とは何だ?」

 西山の殺気立った目に怯え、平田は包み隠さず答えた。

「ここの所、勢力を伸ばしている民兵組織があります。そちらへ寝返る自衛隊員が増えているのです。その裏切者を容赦するなと、上は躍起になっています」

 タイヤ痕を追う日本兵たちを西山は呼び止めた。

「今はこんな便利なものがある」

 タブレットの画面は3人の居場所を示していた。西山に命じられた平田は渋々キーを回してエンジンをかけた。

 高機動車に乗った日本兵たちは、ここで初めてガンケースを開けた。

「変わった銃ですね・・・」

「黙って運転しろ。車を隠す場所を探せ・・・気付かれると困る」

 高機動車は脇道へそれ、雑木林へ向かって姿を消した・・・。


 警察官の居なくなった駐在所・・・「鎮圧部隊」なる10名の陸自隊員がここを占拠している。2台の自衛隊車両が駐車する隣のスペースに、人間が吊るされている。

「反乱分子」の札を首にかけた、5人の住民は既に息絶えている・・・カラスにまとわりつかれながら。

 駐在所の中から叩きつける鈍い音が聞こえる。顔の腫れあがった小池と菊池は、縛られたまま殴打されている。

 美河は仮眠室のベッドで服を脱がされ、縛り付けられている。ベッドのきしむ音と共に、欲望にまみれた全裸の男2人に「性的」拷問を受けながら。

 奥の留置場に囚われた自衛隊員がいる。海自隊員の服装をしたその顔は傷だらけだ。

 囚われの海自隊員は、音もなく忍び寄る人影に気付いた。鋭い銃剣の先端が現れ、彼の目の前を通り過ぎていく・・・二つの影と共に。

 その瞬間、小池たちに警棒を振るう3人は声も出せなかった。目を貫いた銃剣は頭蓋骨を砕いた。もうひとりは喉から首を引き裂かれた。

 表に立つ見張りは頭を撃ち抜かれ、開いたドア越しに100式機関銃の一斉射が4人の隊員に無駄なく撃ち込まれた。

 武装する最後のひとりは心臓に銃剣が刺さったまま、窓を突き破って弾き飛ばされた。8人が殺された3~4秒の間に、2人の隊員が窓の外へ飛び出した。全裸のまま、狂ったように叫びながら・・・。

 狙撃銃で山口は狙いを定めたものの、引き金を引かなかった。弾を無駄にするな・・・西山の指示を思い出したように。

 折角逃げ延びた2人には別の運命が待っていた。田んぼを駆け抜けた彼らは、いつの間にか住民に取り囲まれている。鉈、鍬、鎌・・・あらゆる農具が凶器となり、なぶり殺しにされた。

 余程の恨みを買っていたのか、力を失った者の末路を山口は憐れんだ。

 日本兵たちは淡々と殺害相手の息を確かめている。遅れて入った平田は小池と菊池の縄をほどいた。

 西山は目を背けるように縛り付けられた美河のロープを切った。制服を手渡すと美河はひったくる様に取り、奥へ消えた。

 平田はもう一人、牢に閉じ込められた海自隊員を解放した。彼の視線の先は窓の外にあった・・・吊り上げられた遺体を住民たちが降ろしている。

「次は私の番でした・・・」

 西山は尋問口調で尋ねた。

「貴様は誰だ?何故捕まっていた?」

「海上自衛隊・・・護衛艦『あきづき』所属の一等海曹、吉岡です。避難民受入れの交渉に来たのですが、相手を間違えました・・・もう一人の部下は死にました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ