第082話 魔王様の巫女デビュー!?
神代先輩との戦いから一夜明け、今日は6月5日。外出自粛令は依然続いており、今日も学校はお休みだ。
目覚まし時計に視線を向ける。時刻は6時前。いつもより少し早く目が覚めてしまった。
ルーシーさんは――どうやらまだ私の中で眠っているみたい。私と違ってまだ先輩から受けた傷が残っていたし、ゆっくり休んでいてもらおうかな。
でも、せっかく早起きしたんだから何かしたいところ。読書や自主勉強? それも悪くはない。だけど……
「最近はずっとお祖母ちゃんに心配かけてばかりだったし、少しお手伝いしようかな……」
そうだ、それがいい。この時間ならお祖母ちゃんはもう起きて朝ご飯の支度をしているはずだ。
パジャマからジャージに着替え、洗面所へ。顔を洗い、寝癖を手櫛で直し、軽く身支度を整える。鏡に映る自分の姿を見て昨日の出来事を思い出す。
「私の髪、今度はピンク色になっていたよね……」
今までの変身――魔王スタイルの時はルーシーさんと同じ薄紫色だった。それが今度の巫女スタイルでは桜の花のようなピンク色に。でも今はいつもの私の黒髪に戻っている。
(私の影響が色濃く出ている姿なのに、髪の色は変わるんだね。これはデビライズの影響、なのかな……?)
今は答えが出るはずもなかった。これ以上ここで考えていても仕方がない。身支度も整ったし、台所へ行ってお祖母ちゃんのお手伝いをしよう。
私が台所に行くと、思った通りもうすでに起床していたお祖母ちゃんが朝ご飯の支度を始めていた。
「お祖母ちゃん、おはよう」
「あら、おはよう舞桜。今日は随分早いねぇ」
「うん。目が覚めちゃって。だからたまには私も朝ご飯の準備手伝うよ」
「そうかい? ありがとねぇ」
エプロンを準備して身に着ける。小学生の頃に家庭科の授業で作ったものだから、少し小さく感じる。
「それじゃあ私は鮭を焼くから、舞桜はお味噌汁を作ってくれるかい?」
「うん。任せて」
手をしっかりと洗い、準備に取りかかる。具材はすでにお祖母ちゃんが決めていたらしく、用意はされていた。どうやら大根と人参と白菜のお味噌汁みたい。野菜たちを洗い、それぞれ食べやすい大きさに切っていく。
「舞桜も随分桂剥きが上手くなったじゃないか」
「そ、そうかな? えへへ……」
最近はあまり料理ができていなかったけど、腕が落ちていなくて一安心。
「昔はよく指を切って泣いていたのにねぇ」
「そ、それはもう忘れて!」
小さい頃の失敗はなんとなく気恥ずかしいからやめてほしい。そう思っていると――
「何を忘れて欲しいって?」
「わぁっ!?」
突然背後から声をかけられ、思わず情けない声をあげてしまう。
「る、ルーシーさん!!」
「よう。目が覚め、ソウルダイブを解こうと思ったらお前の部屋じゃなくて少々驚いたぞ」
「驚いたのはこっちですよぉ!!」
包丁を握っている時に突然声をかけるのはやめていただきたい。危うく昔のように指を切ってしまうところだった。……さすがに今はもう泣きはしないけど。
「す、すまん……。ところで何をしているのだ?」
「お祖母ちゃんと一緒に朝ご飯の支度です。今は包丁を使っていて危ないので、ルーシーさんはお茶の間でテレビでも観ながら大人しく待っていてください!」
「包丁……?」
ルーシーさんの視線が少し落ちる。その先にあるのは私の手……に握られた包丁。
「なるほど。刃物で食材を微塵にしようとしていたのだな」
「いや、微塵にはしませんけど……」
ルーシーさんの中で刃物を使うイコール微塵切りなのかな……
「刃物の扱いなら私も得意だぞ! どれ、貸してみろ」
「だ、駄目ですよ! 大体ルーシーさんが扱い慣れている刃物ってブラディウスとかいう魔王剣ですよね!?」
「そうだが……何か問題があるか?」
「大アリですよ!!」
剣の感覚で包丁を振るわれたらたまったものじゃない。この包丁は絶対に死守しなければならない。そう感じた。
ルーシーさんから包丁を死守し、なんとかお味噌汁を完成させた。
「鼻腔をくすぐる味噌の香り……非常に美味そうだ。しかしお前も料理ができるとはな。少々意外だったぞ」
「えー? そんなに意外ですかー?」
さすがにお祖母ちゃんには及ばないけど、それなりには自信があったのでこの評価は少々不服だ。
そうこうしているうちにお祖父ちゃんも起きてきた。
「今日は舞桜もルーシーちゃんも早いのう」
「フッ、朝食を食べ損なってはもったいないからな!」
なぜか少し得意げな表情を浮かべるルーシーさん。腹ペコキャラがすっかり板についてきましたね……
みんなで「いただきます」の挨拶をして、朝食に手を付け始める。
「ほう……。婆さんの味噌汁も美味であったが、舞桜のもなかなか美味いではないか」
「そ、そうですか? なら良かったです」
どうやらルーシーさんの口にも合ったようで一安心。
「この鮭も焼き加減、塩加減共に良い塩梅で非常に美味い。白米がよく進む。さすが婆さんだな」
確かに美味しい。脂っこいものが苦手な私だけど、この鮭の脂はちょうどいい。焼く時に程良く落とされているみたい。
「ほっほっほ。ルーシーちゃんもすっかり和食を気に入ったようじゃな」
「うむ! だがせっかく人間界へ来たのだ。もっといろいろな食物を口にしてみたいのも事実……」
……やっぱりもう完全に腹ペコキャラですね、ルーシーさん。
「しかし魔王とは言え、一応私は居候の身。ワガママばかりも言っていられない、か」
(あっ、ワガママを言っている自覚はあったんですね……)
腕を組み、唸るルーシーさん。その姿を見るに見かねたのか、お祖父ちゃんが口を開く。
「そんなこと、別に気にしなくてもいいんじゃよ。しかしどうしても気になるというのじゃったら――」
少し饒舌になるお祖父ちゃん。何だろう、嫌な予感がする。
「ルーシーちゃんも、うちの神社で巫女をやってみんかのう?」
「む?」
「ええっ!?」
お祖父ちゃんの一言により、今日は二人で巫女見習いのお仕事をすることに決定してしまった。
「ちゃんと正規の巫女装束を用意してくださいねぇ?」
「そ、そんな殺生な!」
お祖父ちゃんの「ルーシーさんにまたミニスカ巫女装束を着せよう」という魂胆。それはお祖母ちゃんの一言で呆気なく阻止されたのであった。
(でも、ルーシーさんの巫女見習い、かぁ……)
不安で少々気が重いまま、私は神社へ出かけるための身支度を整え始めた――
「――というわけで、今日からうちで巫女見習いとして働くことになった、留学生のルーシーちゃんじゃ」
「何が『というわけ』ですか辰巳さん!」
数日ぶりの巫女見習いの修行withルーシーさん。まずは先輩巫女の古都音さんと神主の瞬さんにルーシーさんを紹介したんだけど、間髪入れずにツッコミが。もちろん入れたのは古都音さんだ。
「留学生を受け入れているなんてお話も聞いていませんし、しかも巫女見習いとして今日から働く? もっとしっかり説明してください!!」
「そうは言ってものう……これ以上説明のしようがないんじゃ」
まあ魔王だとか、元々は私の心の中に居候していたとか、言えるはずないもんね……
「まあまあ、いいじゃないか古都音さん」
「瞬……あんた、このルーシー……さん? が美人だからそんなこと言ってるんじゃないでしょうね?」
「い、嫌だなぁ、そんなわけないじゃないか」
そう話す瞬さんの視線は泳いでいた。この二人、別に付き合っているわけじゃないはずだけど、度々浮気がバレた男の人とそれを問い詰める彼女のように見えるのは私の気のせいかな?
「……なぁ、この格好は絶対にしないといかんのか?」
二人の痴話喧嘩のようなやり取りなど気にも留めずに、巫女装束に対して文句を言い始める元魔王様。
「ミニスカ巫女……と言ったか。あちらの方が身軽で動きやすいのだが」
その言葉を聞いた瞬間、社務所の空気が凍りついた。
「ま、まさかルーシーさん、あの服を着たんですか?」
恐る恐るといった様子で尋ねる古都音さん。「うむ!」と即座に首肯するルーシーさん。直後。
「何をやっているんですか、辰巳さん!!」
お祖母ちゃんの代わりにお祖父ちゃんを叱る古都音さんの声が、白峰神社中に響き渡った――
お読みいただきありがとうございました。
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