第081話 魔王の力と巫女の力
神代先輩と戦った日の夜。例によって私たちは二人でお風呂に入っていた。
「――――――ッ!!!!」
声にならない声を上げるルーシーさん。その表情は歪んでいた。
「だ、大丈夫ですか?」
「お、おのれ優咲め、せっかくほぼ癒えていたというのに、私の身体に傷をつけおって……!!」
以前のようにボディソープが傷口に滲みたみたい。傷をつけた先輩への恨み言を漏らしている。
「だから今日は控えましょうと言ったんですよ……」
「ば、馬鹿を言え! 湯浴みをせずに眠りに就くことなどできるか!」
痛みに悶えながらも抗議する元魔王様。こんな時に強がらなくてもいいのに……
「私の霊力で多少は回復して出血は止まったみたいですけど、傷口が完全に塞がったわけじゃないんですよ?」
「それでもあれだけ汗をかき、汚れたというのに湯浴みをせんというのはやはり嫌なのだ!」
「もう、ワガママなんですから……」
その後も度々苦悶の声を漏らしながら身体を、髪を洗うルーシーさん。私も背中や後ろ髪を洗って手伝っていく。
ルーシーさんの全身を洗い流した後、私も髪や身体を洗っていく。ルーシーさんほどじゃないけど、私もかなりのダメージを負わされたはず。だけどルーシーさんのように滲みて悶えるような傷はなく、すんなりと洗い終えることができた。
二人で湯船に浸かりながら、今日の戦いを振り返る。
「いいか、舞桜。今度あいつとやる時はぶっちぎりの力で叩きのめし、私たちの実力をわからせてやるんだからな!!」
「えぇー……。せっかく誤解が解けたんですから、もう戦いたくありませんよ……」
ルーシーさん単独や魔王の姿では手も足も出なかったことをかなり気にしているみたいだ。とは言え先輩とまたぶつかり合うのは私としては避けたいところ。
「ところで舞桜、あの姿――私よりお前の力が全面に出たような姿だったよな?」
「え、ええ。そうですね」
髪の色は変わっていたし、巫女装束も普通のものではなく、まるでお祖父ちゃんがデザインしたようなミニスカ巫女衣装だった。でも今までの魔王のような姿と比べれば明らかに私の力の影響が出ていたと思う。
「ひょっとして今なら変身なしでも魔法……いや霊術だったか。微力でもあの力を使えるようになったりは……?」
「へっ?」
それは考えていなかった。確かに一度試しておいた方がいいかも。
先輩と戦った時のことを思い出しながら、掌に意識を集中させてみる。
――しかし、何も起こらなかった。
「してない……ですね」
「……そうか」
どうやらそう簡単じゃないみたい。神代先輩のように自由自在に霊術を扱えるようになれたら良かったんだけど……
「ということはやはりお前の言っていた通り、あれはお前だけの力ではなく私たちクイン・ルシフェリアの力ということか」
「そういうことになりますかね」
あまり魔族っぽくない姿だし、扱う力もほぼ霊力だからクイン・ルシフェリアという感じがあまりしない。
だけど、デビライズが必須ならクイン・ルシフェリアの形態変化と捉えるべきなんだろうね。
「そこで、だ。私たちクイン・ルシフェリアの二つの形態に、それぞれ名前を付けるべきではないか、と私は思うわけだ」
「名前……ですか」
何だろう、嫌な予感がする。ルーシーさんのことだ。きっとクイン・ルシフェリアのような人前で口にするのが恥ずかしい名前をまた考えるに違いない。瞬時にそう思ってしまった。
「スティーレなんとかはレヴィアと被って癪だしな……。おい舞桜、お前も何か良い案はないのか?」
「そんな、急に言われても……」
私はルーシーさんのように自分のネーミングセンスに自信を持てないよ……
「魔王の姿……ルシフェリアから取ってルシフェリアンスタイル……。巫女の姿……舞桜から取って舞桜スタイル……。うーむ……」
それだとどちらも魔王を指しそうだ。私の名前が魔王と音が似ているばかりに。
「じゃ、じゃあ“魔王スタイル”と“巫女スタイル”でいいんじゃないですか?」
我ながら直球すぎるネーミングだ。こんな名前じゃルーシーさんのセンスには合わないかもしれない。
「シンプル過ぎる気もするが……珍しくお前が考えた案だ。特別に採用してやろうじゃないか」
「……それはどうも」
かくしてクイン・ルシフェリアの二つの形態の呼び名は魔王スタイルと巫女スタイルに決定した。
「あとは……自由に二つの形態を切り替えられるのか、だな」
「え、えっと……そもそも切り替える必要ってあるんですかね?」
「何?」
巫女スタイルも普段の私を考えれば露出度の高い姿。でも魔王スタイルよりはだいぶマシだ。巫女スタイルで魔王スタイルの代わりが務まるのなら、もう魔王スタイルに無理に変身する必要はないはず。
「まだ巫女スタイルの力の全容を把握できていないからな。魔王スタイルの力が必要になる場面もあるかもしれん」
「そ、そうですかね?」
「うむ。とにかく明日以降、いろいろ試してみようじゃないか」
「は、はい……」
どうか巫女スタイルだけで事足りますように。私は心の中で切に願った――
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