第078話 覚醒の“巫女”
私がルーシーさんの深い支配を受けている。そう信じた神代先輩は、私諸共ルーシーさんを滅することに決めたようだった。
先輩の霊術は激しい閃光を放ち、辺り一面を包み込む。
これでもう終わり。もう助からない。
――以前の私なら、きっとそう思って諦めていただろう。
だけど、諦めない。ルーシーさんと交わした約束のために、私はルーシーさんを守るんだから……!
そう決意した私の脳裏に、言葉が響く。
『何があっても、ルーシーのことを信じるんだ』
優しいけど力強い、お父さんの声が。
『どんなに辛くても、諦めないで』
柔らかく優しい、お母さんの声が。そして。
『ルーシーは舞桜に、みんなを守る力をくれただろう?』
『今度はあなたが応える番。ルーシーを支える番よ……!』
お父さん……お母さん…………
そうだ。自信のない私に、いつも力を貸して助けてくれたのはルーシーさんだった。おかげでたくさんの人たちを守ることができたんだ。
だから今度は私が……私がルーシーさんの力になるんだ。ルーシーさんを助けるんだ……!
――キィィィィィンッッッ!!
眩い光の中で、別の光が生まれる。その光は、先輩の霊術が起こした光を吹き払った。
「わ、私の霊術が……かき消された……!? い、一体、何が起こったというの……?」
身体の奥底から湧き上がる清らかな力。デビライズした時に感じる力の高まりとも違う、不思議な感覚。そして異様なほどの身体の軽さ。
先輩だけでなく、私自身も一体何が起こったのか、まだ理解ができていなかった。
『舞桜、お前……一体何をやったのだ……?』
『えっ?』
何をやったと訊かれても、私自身まだピンときていないんだから答えようがない。
ただ、私の中で何かが変わって、先輩の攻撃を防いだことは確かなようだった。
「姿が……変わった……? ルシフェリアのような姿だったはずなのに、これは……」
目を見開き、唖然としたような表情を浮かべる先輩。おおよそ先輩らしくない顔だった。
「髪色が桜色に、それにその衣装……巫女装束……?」
「えっ?」
先輩の言葉と視線に誘導され、自らの姿を確認する。確かに髪の色が桜のようなピンク色に輝き、身体を見てもいつもの露出度MAXビキニアーマーではなく、巫女装束――それもお祖父ちゃんがデザインするような、いわゆるミニスカ巫女装束という装いだった。
「ライブ会場で暴れた魔族も二つの姿を切り替えていたようだけど、それにしてもこれは……」
レヴィアのアイドルのような姿と人魚のような姿のことだろう。彼女の形態変化のような現象が私にも起きた……?
私を含め、この場にいる全員が私に起きた変化をまだ理解しきれていない様子。そんな中、最初に動き出したのは神代先輩だった。
「巫女装束は白峰さんを象徴する姿……。だけど、それだけで魔族の支配下にないと判断するのは早計か」
言い終えると同時に、先輩の手元が青白く光る。先ほど私たちを斬り刻んだ霊力の剣が再び彼女の手の中に。どうやら先輩はまだ戦いを続けるつもりらしい。
『気を付けろ! またあの斬撃が来るぞ!』
『……はい、わかっています!』
一太刀で身体から力が削ぎ落とされるような衝撃。その感覚が思い出される。だけど、震えているわけにはいかない。四肢に力を込め、迎え撃つ。
(先輩の振るう剣を、しっかり見て――)
そう思って身構えていた。先輩の腕を、剣先をじっと見ていた。
――でも、そんな必要はなかった。
(来る……!!)
見えた――ううん、感じた。先輩や剣から放たれる清らかでありながらも凄まじい圧の込められた霊力を。
振るわれた剣は速い。咄嗟に回避するのは不可能なほどに。私は思わず右腕で受け止めようとしてしまった。そのまま腕を斬り落とされてもおかしくないほどの一撃に対して。
――しかし、斬り落とされない。それどころか、痛みすら感じなかった。
「ッ……!? 斬撃が……逸れた!?」
そう。先輩の呪霊裂破刄――その一撃は私の身体はもちろん、身に纏う巫女装束にさえ傷一つ付けることが出来なかった。
「ただのまぐれ? それとも……」
呟きながら連続で剣を振るう先輩。しかし、その全てが私の身体には届かない。
「単に霊力の膜の強度が上がったという訳でもなさそうね……。まさか、私の霊力そのものを受け流している……?」
先輩は攻撃しながら想像を巡らせ、仮説を立てていっているようだった。
「……斬撃以外も試してみましょうか」
先輩の手に握られた剣が変化していく。青白く輝く霊力の球へと変わり、バチバチと稲妻が迸る。
「その姿の本質、見定めさせてもらうわ! “魔滅雷光波”!!」
先輩の掌から一筋の閃光が放たれた。電撃を迸らせながら向かってくる閃光。私はその攻撃に対し、力を込めた右腕を振るった。すると。
逸れた。先ほどの斬撃のように、閃光が私の身体に届くことはなかった。
「なるほど。やはり霊術……いえ、霊力そのものを受け流しているようね」
霊力の受け流し。それが私の新しい力……?
「その大袖に霊力を纏わせ、私の霊術を弾いているのでしょう? 磁石の同じ極が反発し合うように、霊力という同じ種類の力を反発させて、ね」
「…………」
さすがは霊力に精通している陰陽師。私が何をしたのか、私以上に理解しているみたい。素直に感心し、何も返せずにいると、脳内に魔王様の声が響いた。
『霊力の感知に、霊力同士の反発による受け流しか。これがお前の新しい力なのだな』
私の……新しい力……
――ううん、違う。この力は。
『ルーシーさん、それは違います』
『なに?』
そうだ。この力は白峰舞桜だけの力じゃない。
私の霊力と、ルーシーさんの“人間”を変身させる“魔族”の能力が交わることで生まれた新しい力。
『この力は私たち、クイン・ルシフェリアの力です!!』
先輩に認めてもらうんだ。新しく生まれた、私たちの力で。
お読みいただきありがとうございました。
続く第79話も投稿しております。よろしければお読みください。




