第072話 運命の出会い
26/9/25 誤字を修正しました。
ルーシーさんの服とスマホを買うというミッションを終え、がっつり系のラーメン屋・大次郎へとやってきた。当然ルーシーさんリクエストだ。
いつも混んでいるイメージだったけど、今は14時前。ピーク時を過ぎたためか並ばずに入ることができた。
「へい、らっしゃい!」
男性の野太い声に出迎えられた。40代から50代くらいの、筋骨隆々の男性。恐らく店主だ。以前風茉さんと話していたのと同じ人だし。
入口付近でキョロキョロしていると、20歳くらいの若い女性に声をかけられ、券売機へと案内された。この人はバイトの人かな?
「お客さん、うちは初めてですか?」
「は、はい……」
「では並盛りか小盛りがオススメですよ」
「ありがとうございます」
その後、スープの種類やトッピングについて軽く説明を受けた。どうやらただのラーメンだけでなく、つけ麺や油そばもあるみたい。私たちは無難に醤油味の小盛りを選んだ。
――ただ一人を除いて。
「あの……本当によろしいのですか?」
「構わん」
「あまり大きな声では言えないんですけど、大盛りや特盛り、食べきれないくらいのトッピングをするとうちの店長、相手が誰であろうと鬼のように怒るんですけど……」
「構わん。これで頼む」
店員さんのありがたい助言も全く聞き入れず、特盛りの食券を買うルーシーさん。さらに有料の玉ねぎや生姜、豚増し等も買っていく。
「ちょっ、ルーシーさん! 本当に大丈夫なんですか!?」
「無論だ」
「お残しは店主さんもですけど、私たちも怒りますよ?」
「大丈夫だ。任せておけ」
この自信が一体どこから来るのか。不安で仕方がない。
店員のお姉さんに食券を渡し、四人掛けのテーブル席につく。
私たちの心配をよそに、ラーメンが出来上がるのを今か今かと待っている魔王様。まるでこれからお子様ランチが出てくるかのような浮かれっぷりだ。
「お待たせしましたー」
待つこと数分。ラーメンが到着した。途中、「ニンニク入れますか?」とお姉さんに訊かれたけど、私たちは野菜はそのまま、他はなしにした。――ルーシーさんを除いて。
お店に着く前から宣言していた通り、彼女は『ゼンブマシマシ』と答えていた。これで万が一ルーシーさんが完食できなかったらどうなるんだろう? なんだかすごく不安になってきた。
改めて運ばれてきた丼に視線を向ける。やはりルーシーさんが頼んだものは大きい。私たち三人の丼が一般的なラーメン丼よりも一回り小さいのに対し、彼女の頼んだそれは通常の丼の倍は優に超えるサイズだった。
しかも全部マシマシと答えたため、もやしやトッピングが山のようになっている。
「なるほど。実物を目の前にすると確かにインパクトがあるな」
「本当に大丈夫かい? 野菜でルーシーちゃんの顔が見えないけど……」
ルーシーさんの向かいに座るお祖母ちゃんが心配そうに声をかける。確かにお祖母ちゃんの席からではルーシーさんの顔が見えないかもしれない。それくらい大きなもやしの山がそびえていた。
「案ずるな。この程度私の敵ではない!」
自信満々のルーシーさん。早速「いただきます」と手を合わせている。
「……お嬢さん、言っとくが俺ぁお残しだけは許さねぇからな?」
厨房の中から低めの声で忠告してくる店主さん。やはり彼もルーシーさんが食べ切れるのか心配のようだ。
それも当然だろう。外国人風の、長身とはいえ細身の女性が、こんな大きな丼に入ったラーメンを完食できるとは思えない。
「フッ、その心配は要らん」
そう言うとルーシーさんは初めてのラーメンを食し始めた。私たちもルーシーさんに倣い、手を合わせ「いただきます」の宣言をして食べ始めた。
「……な、なんだこれは……」
しかし、数秒もしないうちに、ルーシーさんの箸が、レンゲが止まった。
「ど、どうしたんですか?」
「もしかして口に合わなかったかい?」
恐る恐る声をかける私たち。万が一ルーシーさんが食べられなかったら非常に申し訳ないことになってしまう。しかし。
――私たちの心配は杞憂でしかなかった。
「う、旨い……!」
「……へ?」
「旨い! 旨いぞ舞桜! これがラーメンッ!! これは期待通り……いや、期待以上だッ!!」
勝手にハイテンションになり、どんどん箸を進めていく魔王様。唖然とする私たち(店主さんたちも含む)なんて気にも留めずにもやしを、チャーシューを、メンマを、ラーメンを頬張り、その度に感嘆の声を上げる。
――ぽかーん。
私たちは食べるのも忘れて、特大のラーメンがルーシーさんの口の中に吸い込まれていくのを見つめていた――
「ふぅ。初めて食したが、非常に美味であった」
私たちが小盛りを平らげるより早く、特盛り・全部マシマシを食べ終えたルーシーさん。その表情は非常に満足そうに見えた。
「……おい」
すると突然、店主のおじさんがルーシーさんに声をかけてきた。一体何事だろう? とヒヤヒヤしながら見守る。
「あんた、名前は?」
「私の名か? 私はルシフェ……いや、ルーシーだ」
「ルーシー……ちゃんか」
突然名前を尋ねてきた店主さんとそれに答えるルーシーさん。一体何が起きているの……?
「すまなかった! まさか風茉ちゃん以外にこいつをぺろりと平らげちまうお嬢さんがいるとは思わなくてよ……」
「なに、気にするな」
「それで、その……ちゃんと旨かったかい?」
先ほどまでとは打って変わって、少し不安そうな声色の店主さん。
「ああ」
店主さんへ向け、私も初めて見るくらいの満面の笑みを浮かべるルーシーさん。
「すぐにでもおかわりしたいくらいだ。今度は味噌味でな」
「ハハッ、すげぇなぁルーシーちゃんは!」
「フッ……。ご主人のラーメンも大したものだ」
何故か意気投合し、笑い合う元魔王とラーメン屋の店主。このまま肩でも組みそうな勢いだ。
しかし、私たちはルーシーさんに現実を突きつけなければならない。
「あの、ルーシーさん」
「何だ? 今良いところ……」
「ルーシーさん一人で私たち三人よりたくさん食べたので、ラーメンはしばらくお預けです」
「な、何ぃッ!?」
今日は誕生日のお祝いだからいいけど、毎度毎度ラーメン屋で三千円近く食べられたらたまらないもんね……
「くそっ、私の味噌ラーメンがぁぁぁ……」
「まだ頼んでいないのに勝手に自分のものにしないでください!」
名残惜しそうなルーシーさんを引きずり、私たちはラーメン大次郎を後にした。
ラーメンを食べ終え、今日の目的を一通り果たした私たちはその後は何事もなく帰宅した。
「そうじゃ舞桜。せっかくじゃからルーシーちゃんに御守りストラップをプレゼントしてはどうじゃ?」
「御守りストラップ……?」
お祖父ちゃんの提案に首を傾げるルーシーさん。今日初めてスマホを手にしたんだし、ストラップを知らなくても不思議じゃない。
「こういう風にスマホに付ける御守りですよ」
私のスマホに付けているストラップ型の御守りを見せる。
「ふむ……。よくわからんが、舞桜とお揃いか」
「そうなりますね」
「ま、くれるというのなら貰うぞ」
魔王様に御守りというのも変かもしれないけど、せっかくだからプレゼントすることに。
早速ルーシーさんと二人で神社へ向かう。向かうと言ってもすぐ傍だけど。
この時間ならまだ古都音さんや瞬さんがいるはずだ。だけど――
「……やけに静かだな」
「境内にも、授与所や社務所にも、誰もいない……?」
おかしい。まだ日も沈んでいないのに、誰もいないなんて。
「…………」
「ルーシーさん……?」
「まさか魔族が? いや、それにしては気配も痕跡も全く感じない。これは一体……?」
異様な静けさ。聞こえるのは風が木々を揺らす音と手水舎を流れる水の音だけ。
――ううん、もう一つだけあった。
「待て。何か聞こえるぞ」
「この音は……?」
――コツッ、コツッ。
石畳を踏み鳴らす音が、境内に響く。
――ゾワッ。
直後、背筋に突き刺さるような寒気を感じた。
「な、何だ今のは? 魔族とも違う、この気配は……」
どうやらルーシーさんも、異様な気配を感じ取ったらしい。
「その髪色――」
直後、背後から耳に届く、澄んだ清らかな声。
「貴様が例の魔族ね」
振り返り、声のした方へと視線を向ける。そこには――
「か、神代先輩……?」
神楽女学院生徒会長・神代優咲。
私の憧れの先輩が立っていた――
お読みいただきありがとうございました。
続く第73話も投稿しております。よろしければお読みください。




