第068話 気になる魔王様
ルーシーさん実体化生活2日目。外出自粛要請が解かれていないため、今日も学校はお休み。
でも、お休みだからといってだらだらとは過ごさない。いつも通りの時間に起き、身なりを整え、朝ご飯を食べる。
食べるんだけど――
「なんだ舞桜? 先程からじっとこちらを見ているが」
「あ、いや……」
「言っておくが、この鰈の煮付けはやらんぞ?」
「別にルーシーさんの分のご飯は狙っていませんよ!」
確かにお祖母ちゃんの作る鰈の煮付けは美味しい。味がよく染み込んでいて、白米との相性もピッタリだ。
――でも、今はそうじゃない。
「ルーシーさんの着ている巫女装束のデザイン、昨日着ていたものとは違うデザインですよね?」
「おっ、気が付いたか。これはだな……」
「る、ルーシーちゃん! しーっ! しーっ、じゃ!」
ルーシーさんがにこやかに説明しようとしたところで、お祖父ちゃんのストップが入った。明らかに様子がおかしい。慌てっぷりが怪しすぎる。
そう思ったのはどうやら私だけじゃなかったみたい。
「まーたこのスケベジジイは! ルーシーちゃんが嫌がらないのを良いことに、また別の服を着せて!!」
「しょうがないじゃろ! ルーシーちゃんにずっと同じ服を着てもらうわけにもいかんし!」
「だとしても、せめて雪華や賢志君の服で――」
祖父母のいつもの夫婦のじゃれ合いが始まってしまった。
「爺さんたちは相変わらずだな。しかし、雪華に賢志とは誰のことだ?」
「……私の……お母さんと、お父さんです……」
白峰雪華と白峰賢志。10年前に事故で亡くなった私の両親。
「……亡くなっているんだったか。思い出させてしまったか?」
「いえ……大丈夫ですよ。10年も経ちましたし、もう立ち直っていますから」
「そうか。それなら良いが」
嘘は言っていない。だけど最近、彼らの登場する夢をよく見るようになった。そのことは気になっている。夢の中の両親は、知らないはずのルーシーさんの名前まで知っているみたいだったし。
「…………」
両親が亡くなっていること自体はもう気にしていない。だけど、私の言葉数は減っていた。
「何か気になるのか? それともやはり……」
私の様子を気にかけてくれたのか、ルーシーさんが声をかけてくれた。
「いえ、本当に大丈夫ですから」
「そうか?」
夢のお告げのような、「ルーシーさんを信じろ」というお父さんの言葉。その話をルーシーさん本人にするのはさすがにちょっと気恥ずかしい。それに――
わざわざ口に出さなくたって、私はルーシーさんのことを信じているんだから。
『おはようございます。6月3日火曜日、8時のニュースです』
テレビから聞こえてくるキャスターの声。ただの挨拶なのに、ルーシーさんが反応を示した。
「今日は6月3日なのか」
「そうですけど……。それがどうしたんですか?」
6月3日という日に、何かあるのかな?
「つまり明日は6月4日、ということだろう?」
当たり前すぎる内容の確認。本当にどうしたんだろう?
「3日じゃなくて4日の方に何かあるんですか?」
「ああ。……まあ、アザゼロス暦の6月4日の話だ。人間界の……確か西暦だったか。その6月4日とは違う。気にするな」
こんな風に言われたら、気にするなと言われても無理だ。
「アザゼロス暦の6月4日だとしたら、何があるんですか?」
「…………誕生日だ」
「へ?」
「私の誕生日なんだ」
意外だった。もちろん6月4日生まれなのが、じゃない。誕生日を気にしていることが、だ。
魔王様が誕生日を気にしているなんて、イメージとのギャップがすごい。そのギャップがなんだか可愛らしい。愛しささえ感じる。
「へー! いいじゃないですか、誕生日!」
「いや、だからアザゼロス暦で、の話だ。こちらに来てからまだ2週間ほど。魔界はまだ11月頃のはずだ」
珍しく照れくさそうにするルーシーさん。そんな姿を見せられたら、余計にお祝いしたくなってしまう。
そう思ったのはどうやら私だけじゃなかったみたい。
「ルーシーちゃん、明日誕生日なのかい?」
「いや、だから、西暦ではなくアザゼロス暦の……」
「細かいことはいいじゃろ。せっかくうちに来てくれたんじゃからな」
祖父母も乗り気だ。これにはさすがの魔王様もたじたじ。観念するしかないみたいだった。
「……ハァ。違うと言っているのに」
嘆息するルーシーさん。でも、声色は明るい。
「……仕方がない。そんなに祝いたいと言うのなら、祝われてやろうじゃないか!」
物凄い上から目線。でもその表情はすっかり緩んでいた。
「でも、外出自粛中だよね? どうしよう……」
ルーシーさんの誕生日はお祝いしたい。だけど、街は2日前に魔族の被害を受けたばかり。出歩くのは躊躇われる。
「なーに、別に禁止ではないんじゃ。全く出歩かんなんて無理じゃしな」
「い、いいのかな……?」
「買い物もしないといけないしねぇ」
それは一理あるかも。急に外に出るなと言われても、家に食べ物や日用品がなくなれば出ざるを得ない。
「それに、いざとなったらルーシーちゃんが守ってくれるんじゃろ?」
「フフン。任せておけ!」
両手を腰に当て、得意気に語るルーシーさん。でもそれ、私も一緒に戦うやつですよね!?
脳裏に不安が過ぎる。祖父母の前でクイン・ルシフェリアの姿になるのは絶対に避けたい。
そもそも変身してもいいのかな? 結局祖父母がどこまで知っているのか、わからないままだし……
「それじゃあ明日、みんなで出かけようかね」
「む? これから行くのではないのか?」
「ほっほっほ。ルーシーちゃんはせっかちじゃのう」
逸るルーシーさん。だけど祖父母は今日ではなく、明日出かけるつもりみたい。
「えーっと、それじゃあ明日お出かけ……でいいんだよね?」
「ええ。今日は準備もあるしねぇ」
「準備?」
お祖母ちゃんは一体何を準備するつもりなんだろう?
少し気になるけど、私はルーシーさんと一緒に部屋へ戻ることにした。
「舞桜、ちょっといいかい?」
だけど、お祖母ちゃんに引き留められた。
「お祖母ちゃん?」
「あっ、ルーシーちゃんは先に舞桜の部屋に戻っていていいからね」
「む? そうか」
ルーシーさんだけ先に戻らせ、私だけを残らせたお祖母ちゃん。どうしたんだろう?
「お祖母ちゃん、どうしたの?」
「実はお祖父さんと話していたんだけどね、ルーシーちゃんにスマホを買ってあげようと思うんだ」
「す、スマホ!? ルーシーさんに!?」
あの魔王様にスマホを渡すなんて不安しかない。妙なサイトやゲームに知らず知らずのうちに課金したりしないか心配だ。
「今後一人で行動することも出てくるじゃろう? だから買ってあげようと話していたんじゃ」
「明日が誕生日だというし、ちょうどいいタイミングだと思ってねぇ」
確かに今後ルーシーさんと離れる機会が増えるなら、スマホを持っていてくれた方が安心できるかもしれない。
「で、でも、ルーシーさんって好奇心旺盛だから、変なサービスを契約したりしないか心配だよ……」
「そこは設定で制限をかけたり、キッズスマホを使ったりとかいろいろあるじゃろ」
「キッズスマホ……」
彼女の外見は20代前半の大人の女性。そんな彼女がキッズスマホを使っている姿はなかなかシュールかもしれない。
……ううん、そもそもキッズスマホなんて受け入れてくれるかな?
「さ、さすがにキッズスマホは……」
ルーシーさんは魔王としてのプライドは高め。子供扱いなんてしたらきっと拗ねる。拗ねている姿は子供っぽいけども。
「そうかい。それじゃあやっぱり、制限でなんとかするしかなさそうだねぇ」
「その辺りの設定はわしらもあまり詳しくないし、舞桜にお願いすることになりそうじゃのう」
「うっ……」
別に私も詳しくはないので自信はない。こういうのはトモちゃんや神主の瞬さん辺りの方が詳しいと思う。
(とは言えトモちゃんにも、瞬さんにもお願いしにくいよね……)
ルーシーさんが魔族だと伏せたままスマホに制限をかけるなんて、傍から見たら変に思われるだろうし。
「調べながら頑張るしかないかぁ……」
不安でいっぱいだけど、これもルーシーさんのため。私は少し重い足取りで彼女のいる部屋へと戻った――
お読みいただきありがとうございました。
次回、第69話は8/27(木)投稿予定です。よろしければまたお読みください。




