第067話 変わるもの 変わらないもの
「魔界を平和にし、魔界と人間界の架け橋になるという私の夢は――」
「間違っていると、お前は思うか?」
いつになく真剣な眼差しで私を見つめるルーシーさん。
彼女との間には不思議な縁があると私は思っている。運命と言っても差し支えないかもしれない。
だから、彼女の夢は応援したい。夢が叶う前に再会は果たしてしまったけど、それでも。
――だけど、今の私にはその気持ちを伝えることができなかった。彼女の問いに、即答することができなかった。
彼女の眼差しから逃れるように目を逸らし、伏せてしまった。
「……そうか。素直だな、お前は」
「ごめんなさい……」
彼女の表情が少しだけ緩んだ気がした。だけど、またすぐに引き締まる。
「私は私の夢を諦めるつもりはない。たとえお前に否定されようとも、お前の前で誓った夢は叶えてみせる」
どうしてそこまで? 魔族たちはルーシーさんの夢なんて嘲笑うかのように、人間界へ攻め込んできているのに。私たちの命を狙ってきているというのに。
「初めてお前の心にソウルダイブした時に感じた温もり。そして優しさ……」
私の肩を、彼女の手がぐっと掴む。顔を上げると、彼女の真剣な表情がすぐ近くにあった。
「あの時感じたあの感覚は尊く、素晴らしいもの。私はそう信じている。そして――」
目を閉じ、一拍置くルーシーさん。そして再度目を開け、私の揺れる瞳を見つめながら言う。
「他の魔族だってそんな感覚を抱いていい。抱いてほしい。そう思っているんだ」
「だから、諦めない……?」
「ああ」
私の確認に、彼女はニヤリ、と。いつもの笑顔を浮かべていた。
「ルーシーさん」
「ん?」
彼女は、彼女の想いをちゃんと言葉にして伝えてくれた。
だったら私も、偽らざる今の想いを彼女に伝えたい。そう思った。
「今はまだ、ルーシーさんの夢が正しいかはわかりません……。正直今は、魔族を許せないという気持ちが強いです。でも――」
今度は私が、彼女の瞳をしっかりと見つめながら伝える。
「ルーシーさんが夢を叶えたいと願うなら……願い続けているのなら……私は応援します」
「舞桜……」
彼女の瞳は揺らがない。潤む私とは違って。
「だから、一緒に戦いますよ。ルーシーさん一人じゃ危なっかしいですからね」
精一杯強がり、彼女に微笑みかけたつもり。だけど、どうやら彼女にはお見通しだったみたい。
「無理をするな。震えているぞ?」
「き、気のせいです!」
「フッ、冗談だ。頼もしいよ。ありがとな、舞桜」
柄にもないこと口走ってしまった。
少し経つと、急に恥ずかしさが込み上げてきた。全身が熱くなり、汗が伝う感覚が。
「そんなに汗をかいたら、また湯浴みをせんといかんのではないか?」
「い、いいんです! ていうかさっき入ったばかりじゃないですか! また入りたいんですか?」
まだ、何が正しいのかなんてわからない。
だけど、こんな風に冗談を言い合ったり、一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったり。そんな何気ない時間を、ずっと一緒に過ごしていたい。そう思ったんだ。
――人間の私と、魔族のルーシーさん。二人で一緒に。
「そう言えば夜の間はどうするんですか?」
夜。ルーシーさん実体化生活1日目ももうすぐ終わるという頃。
完全に失念していた。ルーシーさんの寝る場所のことを。
さすがに私のベッドで一緒に寝るわけにはいかないだろう。小さい子とならまだしも、相手は私より大きいルーシーさんだ。どちらかが、もしくは二人ともベッドから落下する未来が見える。
かと言って床で寝てもらうのも申し訳ないし、私も遠慮したい。
祖父母の部屋ももう一人寝るスペースなんてないと思う。
あとは一応客間があるけど……。すぐに使えるお布団はないかもしれない。前もってわかっていれば、日中に干したりもできたんだけどね……
「どうするも何も、お前の中にソウルダイブするだけだが?」
「へっ? そ、そうなんですか?」
若干の呆れが見えるような声で答えるルーシーさん。私、そんなに変なことを訊いたかな?
「確かに以前よりは魔力に満ちている。だが、実体化しているだけでも減りはするし、補給はお前の霊力からしかできないんだ」
「そ、そう言えばそうでした……!」
またまた失念していた。彼女があまりにも自然に我が家の食卓を囲んでいるから忘れがちだけど、あくまで彼女のエネルギー源は私の霊力。どこかのタイミングでソウルダイブして補給する必要がある。
「でも、これ……」
「どうした?」
キョトン顔で私を見つめ、次の言葉を待つルーシーさん。
「なんだかアレみたいですね。ロボット掃除機と充電器みたいな……」
「何?」
ロボット掃除機はバッテリー残量が少なくなると自力で充電器に戻ってくるらしい。ルーシーさんが補給のために私の中に戻ってくる姿はちょっと似ているかも……
「おい誰がロボット掃除機だ」
「ご、ごめんなさい!」
さすがに失礼だったかもしれない。ジト目の魔王様のツッコミが入った。
「いや待て。アレに乗って移動するのはちょっと面白そうか……?」
「いやいやいや……。猫じゃないんですからやめてください。普通に壊れちゃいますから」
「む? そ、そうか……」
なんやかんやルーシーさんなら乗りこなし、「見てくれ舞桜! どうだ、カッコいいだろう!」なんて言いながら登場しそうな気もするけど……
頭を横にブンブン振り、物凄くシュールで失礼な妄想を散らす。
「まあ、そんなわけだから今後もお前の中に厄介になるぞ」
「しょうがないですねぇ」
ルーシーさんが私の中に帰ってきた。慣れた感覚が戻ってくる。
「今日は久しぶりに長時間実体化していたが、やはりお前の中にソウルダイブしている方が落ち着くな」
「そうなんですか?」
私は重めの衣服を身に着けた時のような軽い負担感があるけど、力を受け取っているルーシーさんは逆。非常にリラックスできているみたい。
「うむ! こういうのを人間界では『実家のような安心感』と言うんだろう?」
「ど、どうなんでしょう? ていうかルーシーさん、そんな言葉一体どこで覚えて……」
日に日に人間界の文化にかぶれていく元魔王様。
「……さて、それでは寝るとするか!」
「ちょっと! 誤魔化さないでちゃんと教えてくださいよ! どこで変な言葉覚えているんですかー!?」
今後も彼女がおかしな言葉や文化を身につけていく予感がして、一抹の不安を覚えた――
お読みいただきありがとうございました。
続く第68話も投稿しております。よろしければお読みください。




