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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第3章

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第060話 羨望の覚悟

「つーちゃん、もうやめて……!」


 会場に響く愛奈さんの声。マリン・レヴィア……ううん、艶美さんを止めるための言葉。

 その言葉はマリン・レヴィアの動きを止めた。


 ――だけどそれは、心に響いたからじゃない。


「……今いいところなんだからぁ、水差さないでよねぇ。焦らなくても、アンタのことは八つ裂きにしてあげるんだからさぁ」


 いつものキャピキャピしたものではなく、冷めた口調。興醒めしているような視線が愛奈さんを見つめている。彼女はマリン・レヴィアの標的の一人だったはずなのに。


「艶美、聞いてや。アンタは愛奈が才能だけでアイドルやっとる言うとったけど、ちゃうんや! 愛奈は……!」


 立花さんの言葉には熱がこもっていた。ただ艶美さんを説得するための、上辺だけの言葉じゃない。本当に彼女を“嫉妬”から解放したい。そんな気持ちが込められているように感じた。


「愛奈は、艶美に負けへんくらい、ホンマは努力家なんや! 見えへんとこでずっと、ちゃんと頑張っとったんや!」

「り、りっちゃん……!」


 立花さんの口から明かされる真実。天才と言われている愛奈さんも、艶美さんと同じくらいの努力をしていた……?


「せやけど、愛奈が見せたかったんはちゃう! ホンマに見せたかったんは、泥臭く努力しとるとこやのうて、ステージ上でキラキラしとるとこやったんや!」


 艶美さんに訴えるように語りかける立花さん。だけど……


「……でー? それが何だっての? まさか、今さら勘違いで嫉妬してただけだから刃を納めろとか言っちゃうわけ?」


 レヴィアに支配されている艶美さんには届かない。

 言葉使いはレヴィアのままのはずなのに、その口調は冷めきっていた。


「そ、それは……」

「……いいよ、りっちゃん。ありがとう。あとはあたしが、自分の言葉で伝えるから……」


 一歩前に出て、マリン・レヴィアを見つめる愛奈さん。彼女の眼差しは力強い。だけど、手足はガクガクと震えていた。


「怖い? 化け物になった私が」


 わざと艶美さんの声で、艶美さんの口調を真似て、愛奈さんに問うマリン・レヴィア。


「怖い? 嫉妬心を向けられるのが」


 声も口調も艶美さんなのに、顔だけは愉悦に満ちたマリン・レヴィアだった。口から出ているのは作り物なのに、外見は一切取り繕う気がない。そのギャップがすごく不気味に映る。


「……怖いよ」


 ポツリ。愛奈さんが答えた。


「……怖いよ。一番近くにいたのに……一番大事な仲間を……一番傷つけていたのに……。そのことに全然気付けなかったんだもん……」


 ――ズキッ。


 無自覚のうちに大切な人を傷つけてしまっていたという事実。それは私にも刺さるかもしれない。

 大切だからこそ心配をかけたくない。その想いが、かえって相手を傷つけてしまっているかもしれない。

 そう思うと私も胸が痛み、身体が震えてしまう。


「……そう。嫉妬を向けられるよりも、そっちのが怖いのね。ならもっと嫉妬を向けても平気ってことよね?」


 愛奈さんに氷の刃が向けられる。剣先に冷たい魔力が集まっていくのを感じる。


「一撃じゃ終わらせない。どこから痛めつけてほしい? メンバーのよしみでそれくらいは選ばせてあげるわ」

「…………」


 これが艶美さんの本心だと言わんばかりのマリン・レヴィア。そんな彼女に対し、愛奈さんは沈黙する。


「自分で選べないのなら、私が勝手に選ぶわよ?」


 そう言うと剣先を愛奈さんの右足へ向けた。


(と、止めなくちゃ……!)


 だけど、私が行動を起こす前に愛奈さんが口を開いた。


「……つーちゃんがあたしを憎いならそれでも構わないよ」

「ハァ?」


 愛奈さんの言葉が想像外だったのだろう。艶美さんを演じる仮面が、一瞬だけ剥がれたように感じた。


「憎くて堪らなくて……その気持ちを、あたしにぶつけたいんだよね……?」


 恐怖と同時に、不思議と力強さも感じる、そんな声で。愛奈さんは()()()()に問う。


「だったらちゃんと受け止めるよ……。つーちゃんの気持ち、逃げずにちゃんと受け止めるよ……!」

「あっそ。じゃあ凍らせて粉々に……」


 マリン・レヴィアの殺意を遮るように、愛奈さんは語りかける。その眼差しは目の前の“嫉妬”の漆罪魔ではなく、その奥に封じられている仲間を見据えているようだった。


「その代わり、つーちゃんの意志でやってよ……。誰かに操られたんじゃない、つーちゃんの意志で……! つーちゃんの手で……! つーちゃんの気持ちを、ぶつけてきてよッ……!!」


 それは愛奈さんの偽らざる本心。心の叫び。私にはそう感じられた。


「ハァ……くっだらない。アンタもういいわ。いたぶる価値もない」


 心底つまらなそうに吐き捨てる漆罪魔。そして――


「……死ね」


 氷の剣先に集められた魔力が解き放たれた――




 守れなかった。愛奈さんを。


 止められなかった。艶美さんを。


 その現実を直視できず、目を瞑り、顔も逸らしてしまった。


 ――どれだけ頑張っても。やっぱり私は、無力だったんだ。


「うっ、うぅ…………」


 愛奈さんを守れなかった悲しみ。艶美さんを止められなかった悔しさ。自分の努力が無に帰す感覚。様々な想いが私の胸を締め付け、私の瞳を滲ませる。だけど――


『現実をちゃんと見ろ』


 心の中に響く声。私が弱気になった時はいつも鼓舞してくれたはずの声が今は鋭く突き刺さる。そんな感覚だった。


 ルーシーさんの言うことはごもっともだ。これが現実。どれだけ辛くても受け入れなくちゃいけない。頭ではわかっている。


 ――だけど、私には受け止めきれないよ……


 涙が勝手に溢れてくる。もう何も見えないほどぐしゃぐしゃになる。だけど、そんな私の姿を見てもお構いなしに、魔王様は語りかけてくる。


『いいからさっさと現実を見ろ! 愛奈は無事だし、まだ艶美の手は完全には汚れちゃいない!』

「ぐすっ……はへ…………?」


 ――情けない声が出た。


 ぐしゃぐしゃになった顔を両手で拭い、愛奈さんたちがいた方へ視線を向ける。すると……


「なんで……なんで当たんないのよ!? それに、思ったほどの威力も出ないしぃ! 何がどうなってるワケぇ!?」


 狼狽え、取り乱すマリン・レヴィア。そして。


「な、何や……? 攻撃が全然当たってへん……」

「…………つ、つーちゃん?」


 Gracie(グレイシー)Stella(ステラ)の二人も戸惑っているようだった。


『何が起きているのか、はっきりとはわからん。だが……愛奈の想いが、艶美の奴に届いたのかもな……』

『えっ?』


 愛奈さんの想いが、届いた……?


『艶美の意識を完全に取り戻すには至っていない。だが、レヴィアが艶美の“嫉妬”を上手く操れなくなっているように見える』

『嫉妬を……?』


 以前、ベルゼは風茉さんの食欲を“暴食”になるよう下ごしらえをした、と言っていた。実際に彼女を誘導するような言動もしていたと思う。

 レヴィアも同じように艶美さんの“嫉妬”を、自分が操りやすいよう誘導していた可能性はある。その誘導が、愛奈さんの想いのお陰で和らいだのかもしれない。


『だから攻撃が勝手に逸れたり、レヴィアから感じる魔力が弱まっているんですか?』

『恐らくな。もっとも、デビライズした漆罪魔と戦うのはまだ二度目だ。確証は持てん』


 でも、私もそう思う。そうであってほしいと願う。愛奈さんの声が艶美さんに届いたって。僅かでも心を動かしたんだって信じたい。


「ムカつくわね! こうなったら直接、この剣で斬り刻むまでよ!!」


 剣先から氷の刃を飛ばして愛奈さんを仕留めるのは諦め、直接剣で彼女を攻撃するつもりらしい。そうなるとさすがに愛奈さんは避けられないかもしれない。


 一歩。また一歩。じりじりと愛奈さんの方へ歩を進めていく。


『……舞桜、恐らくこれが最後のチャンスだ。レヴィアが愛奈を狙う、一瞬の隙を突くぞ』

『は、はい……!』


 プルプルと震えながらも、なんとか上体を起こす。あとは立ち上がって剣を構え、マリン・レヴィアに斬りかかるだけ。

 でも、今の私にはこの状態から立ち上がる力は――ない。


『踏ん張れ、舞桜……!』

『ぐ、ぐぅ……!』


 駄目だ。足腰に力が入らない。やっぱり落雷のダメージは大きかった。


 私たちに残っているのは僅かな霊力と魔力だけ。デビライズを維持するので精一杯。立ち上がり、魔王の剣でマリン・レヴィアを斬りつけることはできない。


(ん……? 立ち上がって……?)


 確かに、立ち上がる体力はもうない。だけど、変身を維持するくらいの霊力や魔力はまだ残っている。

 それなら、()()()()()()に攻撃すればいいんじゃ……


「さて、千房愛奈。バラッバラになる前にぃ、言い残しとくこととかあるぅ?」

「…………」


 愛奈さんの前で氷の剣を構えるマリン・レヴィア。剣の周囲の空気が冷え、氷の結晶が舞う。もう攻撃態勢。迷っている時間なんてない。


 ――ヒュゥゥゥ……


 空気の渦がブラディウスを包む。


『ルーシーさん! 私のイメージを具現化してくださいッ!!』

『お前、正気……かどうかなど、気にするのは野暮だったな』


 イメージする。風の力で噴出されるブラディウスを。そして、ブラディウスに掴まって加速する自分の姿を。


 ――ボッ!!


 手元で空気が爆発し、怯みそうになるけど、今剣を離すわけにはいかない。剣の柄に掴まったまま一気に加速する。――マリン・レヴィアに向かって。


「あたしの気持ちは変わらないよ。殴るならちゃんと、つーちゃんの意志で殴ってよ……!!」

「あっそ。訊くだけ無駄だったわねぇ」


 つまらなそうに氷の剣を振おうとするマリン・レヴィア。


「そうは……させませんッ……!!」

「ん……? ハ、ハァッ!?」


 さすがに私が剣を構えながら飛んでくるとは思っていなかったんだろう。素で驚いたような声を上げる“嫉妬”を司る漆罪魔。そして。


 ――ザグンッ!!


 魔王剣・ブラディウスが彼女の身体を貫いた――

お読みいただきありがとうございました。

次回、第61話は7/30(木)投稿予定です。よろしければまたお読みください。

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