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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第3章

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第058話 招喚

「……桜。しっかりしろ、舞桜!」

「……ケホッ、ケホッ。……ハァ………ハァ…………」


 意識が飛びかけたところで引き戻された。先ほどまで息ができなかったはず。でも今は辛うじてできている。


「ハァ……ハァ……。ルー……シーさん…………?」

「大丈夫か? まだくたばっちゃいないな?」


 いつの間にか心の中ではなく、目の前に実体を現していた魔王様。

 それにしても「くたばる」って。急に物騒なワードが飛び出してきたよ……


「咄嗟にデビライズを解除し、見様見真似で水と空気の膜を作り出してみたが……。どうやら間に合ったようだな」

「え、えっと、何がどうなって……?」


 周囲を見回すと、自分たちが今水中にいることがわかった。そしてただ水中にいるのではなく、大きな泡状のものに包まれていることも。


「悪いが詳しく説明している時間はない。レヴィアの奴もすぐに気付くはずだ」

「そ、そうでした! レヴィアは……?」


 まだ完全には状況を飲み込めていないけど、まだマリン・レヴィアとの交戦中なのは間違いなさそうだ。


「生憎だが奴はまだピンピンしている。艶美の生命力はかなり削られているはずなのにな」

「そんな……」


 一度は雷の拳で大打撃を与えたはずなのに。やっぱり水を得た魚のように、水中に入ることで活力を取り戻してしまったのかな?


「……へぇ。さっきの光、てっきりデビライズが解けてもう終わりかと思ってたのにぃ、意外と元気そうねぇ!」

「チッ、やはり気付かれたか!」


 水を震わせ声を届けてくるマリン・レヴィア。そして私たちの無事に気付いた彼女は、猛スピードでこちらへ向かって泳ぎ出した。


「行くぞ舞桜、もう一度デビライズだ! 今度こそ喧しいあいつを止めるぞ!」

「は、はい!」


 ルーシーさんが私の心の中へ戻ると同時に、私の身体が光に包まれる。


「させるかってーの!」


 レヴィアのテンションとは裏腹に、一気に温度が下がる。そして私たちを包む水と空気の膜ごと氷に閉ざされていく。だけど……


 ――パリーンッ!


 私の身体から放たれる眩い光。そして衝撃波によって、氷は粉々に砕け散った。そして水中を飛び出し、再びステージの上へと上がる。


「チッ、またデビライズしやがったわね。まったく、しつこい女は嫌われるわよぉ?」


 不満そうに。でも冗談めかして言うマリン・レヴィア。対し、ルーシーさんは――


「その言葉、そっくりそのまま返してやる。その喧しい声、いい加減聞き飽きたしな」

「ムッキー! このレヴィアたんの美声に向かって聞き飽きたとは、ホンットに失礼しちゃうわねぇ!」

「美声と言っても今の声は艶美のものだろ。こういうのを美声の無駄遣いと言うのだろうな」


 こんな状況でも幻影を出し、煽るルーシーさん。でも不思議と安心する。いつもの彼女らしさを感じるおかげかもしれない。


「もう一回、アタシの“海龍(ドラゴ)()(エヴォカ)(ツィオーネ)”で沈めてやるわ!!」


 再び水柱が立ち昇り、龍へと姿を変えていく。


『……舞桜。今度こそぶっ倒れる覚悟を決める時だ』

『ッ……!』


 倒れる覚悟――それは私の霊力とルーシーさんの魔力を、限界ギリギリまで使うということ。


 そんなのは嫌だ。また数日寝込んだり、その結果祖父母やトモちゃん、みんなに迷惑や心配をかけてしまうことになるんだから。


 ――だけど、私の答えは決まっている。


『……はい!』


 私は艶美さんを助けたい。助けると決めたんだ。だから、躊躇ってなんかいられない。


『フッ、いい返事だ!』


 ルーシーさんの声は心なしか弾んでいるように感じられた。


『でも、具体的にどうするんですか? やっぱりルミナスパニッシャーを?』

『いや、あれは今回は相性が悪い。水中でのあいつは素早すぎる。外して私たちだけ力尽きるのがオチだ』


 じゃあ一体どうすれば? ルーシーさんには何か策があるのかな……


『雷だ。この程度の水では緩衝しきれんほどの、特大のをお見舞いしてやるのだ』

『ええっ!?』


 それってとてつもなく強力なんじゃ……

 不安が()ぎる。だけど、悩んでいる暇なんてない。なぜなら――


「ルシフェリア!! 今度こそ依代のガキンチョごと溺れ死になさぁい!!」


 マリン・レヴィアの海龍の召喚が放たれたのだから。


『来るぞ! 迷うな、舞桜! 覚悟を決めて、力を集中するんだッ!!』


 ――ビリビリィッ!


 全身を包み込むように、電気が迸る。


『はぁぁぁぁぁぁ…………!!』


 全身に霊力が、魔力が漲っていく。その力がさらに電気を迸らせる。


「無駄だってーの! アンタのへなちょこ電撃なんて、この量の水の前では無力なんだからぁ!」


 私たちの覚悟。私たちの力。それを嘲笑うかのように、水の龍が私の身体を呑み込む。そして先ほどのように、そのまま水の中へと引きずり込まれていく。


 ――でも、これでいいんだ。


『今だ舞桜、イメージしろ! とびっきり強力な落雷を!』


 強力な落雷。その言葉で思い浮かべるのは、ルーシーさんと再会したあの日、霊山に落ちた黒い雷。あれしかない。


『くっ……!』

「キャハハハッ♪ どこ狙ってんの? アタシはこっちだっつーの!」


 水龍に押し流されながらも、なんとか右の掌を天に向けて掲げ、電撃を放つ。その電撃は到底マリン・レヴィアを倒せるようなものじゃない。だってこれは……


 ――ゴロゴロゴロ……


 本命(・・)を呼ぶためのものなんだから。


 直後、私の視界は黒く塗り潰された。そして。


 ――ドゴォォォンッッッ!!!!


 水中にいるにも関わらず、私の耳は轟音に(つんざ)かれた。




 ――ゴポッ、ゴポッ、ゴポッ…………


 水面が沸騰し、無数の気泡が湧いては割れる。


『わ、私たち……い、生きている……?』


 確信を持てないほどの衝撃があった。さすがに無茶だったかもしれない。マリン・レヴィアを倒すためとは言え、巻き添え覚悟で自分もいる水中に雷を落とすのは。


 全身に感じる熱。筋肉を無理矢理引き伸ばされるような痛み。四肢がまるで自分のものじゃないように感じるほどの痺れ。それらが同時に襲いかかる。


『あ、当たり前だ……。私もお前も……この程度でくたばるタマじゃ……ないだろう…………?』


 霊力による防御。それがなければきっと二人ともアウトだったと思う。もちろん、それを考慮した上での作戦だったけど。


『と、とりあえず、ステージの上に……戻るぞ……』


 いつの間にか私たちの身体は水面にぷかぷかと浮いていた。ステージまでは近い。

 残り少ない霊力を使って風を起こし、浮き上がる。ゆっくり、ふわふわと風に流されながらステージ上へ。


『レヴィアは……艶美さんは……どうなったんでしょう……?』

『その辺の水面に……浮いたりしていないか?』


 気を抜けばすぐにでも倒れ込みそうなほど、私たちは疲弊していた。だけど、艶美さんの無事を確かめるまでは倒れるわけには……


 ――ガクンッ。


 膝が勝手に折れた。消耗と電撃による痺れが、私の足から力を奪った。膝から崩れ落ちてしまう。


「ぐっ……」

『食いしばれ、舞桜……!』


 そうは言われても、身体が言うことを聞いてくれない。なんとか倒れ込まないよう堪えるのが精一杯だ。すると……


 ――パチ、パチ、パチ、パチ……


 水面の沸騰する音をかき消すように、音が響いた。拍手のような音が。当然、私たちから出ている音じゃない。


 身体を震わせながら顔を上げると、視線の先には――誰かの腕に抱えられる、マリン・レヴィアの姿があった。


「た、タコみたいな腕……?」


 マリン・レヴィアを抱えていた2本の腕にはタコのような吸盤が。そして、腕は他にもあり、それらの先端で拍手をしていた。


「タコの……魔族……?」

「ご無沙汰しております、ルシフェリア殿。依代の貴女はお初にお目にかかります」


 丁寧な物腰の壮年の男性。まるで執事のようだった。タコのように沢山の腕さえなければ、だけど。


「私はレヴィア様に仕えているポルヴォと申します。以後お見知りおきを」


 ポルヴォと名乗った執事風の魔族の男性。マリン・レヴィアを空いている腕で抱え直し、執事らしい最敬礼のポーズを取る。彼の丁寧な姿に、こちらも畏まってしまう。


「ど、どうも。初めまして……」

『……おい、挨拶なんかしている場合か』

「あっ、つい……」


 一瞬だけポルヴォの作る空気に流されそうになってしまったけど、頭の中に響くツッコミで意識を引き戻された。


「レヴィア様をここまで追い詰めるとは。さすがはルシフェリア殿でございますね」

「……御託はいい。とっととレヴィアを艶美の身体から追い出し、魔界へ連れて帰れ」


 背後に幻影を出し、直接ポルヴォに話すルーシーさん。声のトーンは低い。弱々しくても、彼女は本気のようだ。


 空気がピリピリと張り詰めていくのを感じる。


 ――だけど、その空気は一瞬で破壊された。


「ぽぽー!」

「ぽぽぽー!」

「ぽぽー! ぽぽー!」


 気の抜けるような可愛らしい声。最近よく耳にした、あのマスコットの声が耳に届いた。


「ぽ、ポルポッドちゃん!?」

「……そうか。こいつらはお前の差し金だったか」

「ふふふ、お気付きになられましたか」


 偵察のために送り込まれていたポルポッドちゃんたち。観客たちを逃がすために空けた穴から次々と現れ、主であるポルヴォの周りに集まってくる。その数は十や二十じゃきかない。百……ううん、それ以上かもしれない。


「す、すごい数です……!」

「これだけの数の使い魔を同時に操る魔力……。お前、上級魔族か……!」

「ええ。さすがにレヴィア様や貴女のような漆罪魔には劣りますがね」


 ルーシーさんやレヴィアには劣るとはいえ、上級魔族なら強敵には違いない。今の消耗しきった私たちにとっては間違いなく脅威だ。


「ふふふ、ご安心ください。上級とは言え、私は戦闘は苦手でしてね。貴女方の相手をするつもりはありません」


 柔らかい表情と優しい声色。どうやら戦意はないみたい。胸が少し軽くなった気がした。だけど――


「私は、ですがね」


 ニヤリ、と。柔らかく優しい印象が一変。一気に邪悪さを感じる表情に。


 背筋に寒気が走る。邪悪な魔族の気配が強まっていくの感じる。でも、この感覚は……?


 ポルヴォの魔力は彼が現れた時初めて感じた。だけど、今強まっている邪悪な気配は彼のものとは違う。


 ――私はもう、この気配を知っている。


「ハァ……ハァ……。さっすがにさっきの雷はアタシも……死ぬかと思ったわよぉ……!!」


 背筋に感じた寒気が全身へと広がっていく。恐怖だけでなく、会場の空気そのものが冷えていくのを感じる。


「れ、レヴィアが復活した!?」

「ば、馬鹿な! あの一撃を食らってまだ立ち上がれるのか……!?」


 私だけじゃない。ルーシーさんも激しく動揺していた。


「さぁて、ライブも大詰め……」


 再び人型へと変身し、ステージに立つレヴィア。傷や火傷の跡は見えるものの、まだまだ活力を感じる。少なくともボロボロの私たちよりは余力があるように見える。


「アンコールまでぇ、しっかり楽しんで逝きなさぁい♪ キャハハハッ♪」


 愉悦に満ちたマリン・レヴィアの高笑いが、会場に響く――

お読みいただきありがとうございました。

続く第59話も投稿しております。よろしければお読みください。

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