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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第3章

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第055話 叩き込め!

 私の熱い想いに呼応するかのように、溢れ出る力が燃え盛る炎へと変わっていく。そしてマリン・レヴィアの攻撃で凍りついていた頬や腕、脚が氷漬けから解放された。代わりに傷口は開いてしまったけど。


「キャハハ♪ なになに、怒ってんのー? でもでも、そのせいでせっかく止血してあげたとこ、開いちゃってるわよー?」


 マリン・レヴィアも気付いたみたいだ。傷口から鮮血が滴るのを感じる。


 ――だけど今は、そんなことはどうでもいい。


 私の身体から溢れ出てくる炎の力を掌に集中していく。


『レヴィアの属性は水。炎は不利だぞ。どうするつもりだ?』


 ルーシーさんの疑問は至極当然だ。炎でマリン・レヴィアを攻撃しても効果は薄い。でも、氷に対してならどうだろう?


『今、会場の扉は氷で閉ざされています。だからその氷を溶かします』

『観客や愛奈たちを逃がすつもりか?』

『はい』


 マリン・レヴィアは躊躇なく私たち以外の人たちを巻き添えにしてくる。一方私たちも、みんなを巻き込まないように配慮しながら彼女を相手にするのは難しい。だからまずはみんなを逃さないと。


『しかしあいつの能力があればすぐにまた凍らせることが可能だぞ?』


 確かにルーシーさんの言う通りだ。じゃあマリン・レヴィア自身を狙ったら? 直撃しても大きなダメージにはならないかもしれない。

 でも、水の力で消させることができれば、蒸気の煙幕で視界を遮ることはできるんじゃないだろうか。


『ふむ……。奴の隙を作り、会場の壁そのものを破壊してしまうのはアリかもしれんな』


 少し物騒だし、自ら会場を破壊するなんて気が引ける。だけど壁自体を破壊してしまえばもう閉じ込められることはなくなるかも。目眩ましからの壁破壊……いけるかもしれない。


「……いきます! “フレアストリーム“!!」


 両手に集めた炎の力を一気に放出する。放出された炎は火炎放射器のように広がりながらマリン・レヴィアへと向かっていく。


「まさか、属性相性もわかんないようなガキンチョを依代にしてんのー?」


 私の未熟さを嘲笑うマリン・レヴィア。水属性の彼女に対する炎攻撃なんて、魔法の属性についてきちんと理解していれば普通はしないだろう。

 だけど、今は攻撃が目的じゃない。


 私の放ったフレアストリームを水の力でかき消すマリン・レヴィア。そして私の作戦通り蒸気が発生し、白い煙幕に視界を奪われる。恐らくマリン・レヴィアの方も。


「チッ、これが狙いってわけ?」


 彼女の表情は見えない。だけどその声色からは苛立ちを感じた。


『よし、今だ舞桜。会場の壁を破壊……む!?』

『る、ルーシーさん?』


 ステージを離れ、アリーナ席の壁を破壊しに向かおうと思っていたのに。一体どうしたんだろう?


『舞桜、気を付けろ!!』

『え……?』


 ルーシーさんの叫ぶ声が頭の中に響いた。でも――もう遅い。


 クイン・ルシフェリアの背を包む暗色のマント。そのマントを切り裂き、何かが背中や裏腿に突き刺さった。


「ッ……!?」


 不意に襲われた鋭い痛みに、理解が追いつかなかった。一体何が……?


「キャハハ♪ 冷えた蒸気で目眩ましぃ? 結局水には変わりないんだから、アタシに操れないわけないでしょー?」


 愉悦に満ちた“嫉妬”の漆罪魔の笑い声が会場中に響く。私たちの作戦は呆気なく阻止されてしまった。


「むしろアタシの“龍鱗(テンペスタ・)(ディ)氷嵐(・スカーリエ)”のアシストありがとっ♪ ってカンジー?」


 これが戦闘経験の差。私の考えた作戦がずっと裏目に出続けている。――結局私は、スカイ・ベルゼと戦った時から何も成長できていないのかもしれない。


「さっきは偉そうに啖呵切ってたのにぃ、この程度なわけー? こっちはアンタたちをぶっ潰すためにこんな舞台まで用意してんのよ? もうちょっと根性見せてくれなきゃつまんなーい!」


 ……本当に情けない話だ。憧れた艶美さんの身体を好き放題にされ。愛奈さんたちや観客のみんなも危険に晒し続けて。


 こんな私なんかにできることなんて……


『まったく……。いちいち弱気になるのがお前の弱点だぞ』

『……そうですよ。どうせ私はすぐ弱気になる情けないやつですよ……』


 ルーシーさんだってきっともう呆れている。こんな情けない私が依代じゃ、彼女の強さは全然活かせないんだ……


『……やれやれ。こっちだって恥ずかしいんだ。何度も言わせるなよ?』


 ルーシーさんの声が一段柔らかくなった。そんな感じがした。


『誰が何と言おうと私はお前を信じ、力を託すと決めた。だから――』


 優しく、柔らかいのに。どこか力強さも感じる声で、心の中の魔王様は語る。


『この()()()()()()()()()()()お前を信じろ、舞桜』


 それはただの励ましの言葉かもしれない。だけど、彼女の言葉は不思議と私に勇気を与えてくれる。失くしかけていた自信を取り戻させてくれる。


『……ごめんなさい。また弱気になっちゃっていました』

『もういけるな?』

『……はい!』


 私はまだまだ未熟。それは事実だ。判断ミスをしてしまうことだってある。

 でも、まだ何も終わってなんかいない。まだ取り返しがつくんだ。まだ諦めるのは早い。


(諦めるわけには、いかないんだ……!!)




 ルーシーさんの言葉で再度奮起した私。とはいえどうすべきだろう?


『やはりセオリー通り、弱点の雷で攻めるべきだろうな』

『スカリオの時のようにパラライズボディで攻めます?』


 弱点かつ痺れさせる効果のあるパラライズボディなら観客を逃がす隙を作れるかもしれない。


『うーむ……。私は奴を見下してはいるが、奴の実力そのものは認めている。癪だがな』

『あ、ただの煽りとかじゃなく、本気で見下してはいたんですね……』


 本当に嫌いだというのがよく伝わってくる。それでも実力は認めているということはやっぱり強いんだ、レヴィアは。


『パラライズボディはカウンター向きの技だ。遠距離からチクチクと攻めてきているレヴィアの奴に当てるのは難しいだろうな』

『それじゃあどうしたら……』


 スカリオの時にやったようなタックルは最終手段にしたいところ。


『お前はわざわざ自分に岩の手をぶつけていたが、ベルゼの時のように相手に直接叩き込めばいいのではないか?』

『…………』


 言われてみれば確かに! あの時はスカリオの意表を突いて隙を作るのに必死だった。だけどわざわざ痛い思いをせずとも、それで良かったんじゃ……


『ちょっとルーシーさん! 気付いていたならもっと早く言ってくださいよ!!』

『す、すまん。なるべくお前の判断に任せたかったのだ』


 なんだか顔が熱くなってきた。全身に汗もかいている気がする。それくらい恥ずかしい。


『……いいですよ、もう。でも、まずそうな時はちゃんと止めてくださいね?』

『…………善処しよう』


 今の間は何? 少し気になるけど、今は集中しないと。そろそろ艶美さんの身体のことも心配だ。


「……へぇ。もう心がポッキリ逝っちゃったかと思ったけど、まだやる気なんだぁ? いいよいいよ、そうこなくっちゃ♪」


 私の様子から察したんだろう。私が戦意を取り戻したことに気付き、喜びを感じているみたいだった。


「はぁぁぁ……“ジャイアントプレス”!!」


 ――ゴゴゴゴゴ!!


 ステージの床を叩く。直後、地鳴りのような音が轟いた。そして会場の床が隆起し、コンクリートでできた巨人の手が。


「ハッ! こんな攻撃、当たるわけ……」


 案の定巨人の手は躱された。でも想定内。本命はこれからだ。風の力で一気に加速し、マリン・レヴィアの前まで高速で移動。そして。


 ――バチバチィッ!


 両の拳に電気を帯びさせ、マリン・レヴィアに対し連続で繰り出す。


「チッ、あの手は囮ってわけ? けどそんなスピードのパンチじゃアタシには当たんないってーの!」


 雷の拳の連打。でもマリン・レヴィアには当たらない。余裕で見切られてしまう。


 結局、何発繰り出しても一発も当てることはできなかった。一旦退く判断をし、ステージ上に着地。彼女の方もオブジェと化した巨人の手の上に降り、余裕そうな表情で挑発してきた。


「ハァ……ハァ……」

「無駄な攻撃お疲れさま♪」

「無駄……それはどうでしょう?」


 私がまた地面を叩くと今度はマリン・レヴィアが立っていた巨人の手が沈み始めた。同時に。


 ――彼女の背後からもう一つ巨人の手が現れた。


「フッ……レヴィアよ。巨人も手は二つあるんだよ」

「くっ……!」


 ここにきて初めてマリン・レヴィアの顔から余裕が消えた気がした。私の合図で巨人の両の手が彼女の身体を押し潰していく。


「こ、こんなダッサイ攻撃に負けるわけ……」

「いいえ、本命はこっちです!!」


 二つの巨人の手に挟まれ、潰されないよう抵抗するマリン・レヴィア。そんな彼女に渾身の一撃を叩き込む。


「“プラズマナックル”!!」

「がはっ!?」


 雷の力を込めた拳でマリン・レヴィアを全力で殴り飛ばした。そのまま彼女の身体は数十メートル飛んでいき、私が入場してきた扉へ激突した。衝撃で扉を閉ざしていた氷も砕け散る。


「やばっ、やりすぎちゃいました!?」

『いや、あの程度でくたばるレヴィアではないだろう』


 思った以上に吹き飛んでしまい、少々不安になる。艶美さんの身体に傷が残ってしまったらどうしよう……


『それよりも今は観客の避難の方が優先だ。予定はだいぶ狂ったが壁を破壊するぞ!』

『は、はい!』


 だいぶ時間はかかってしまったけど、観客たちを逃がすための穴を開ける。


『これ、弁済とか大丈夫ですかね……?』

『さぁな。人間界のルールに疎い私に訊かれても困る』

『ええっ!?』


 すごく無責任だと思うけど仕方がない。人命と比べたら大事じゃない。それは確かなんだから。


「“ジャイアントナックル”!!」


 巨人の拳で会場の壁を殴り、脱出ルートを確保。あとは避難誘導をするだけ。だけど――


 〜♪


 透き通った綺麗な歌声。聞き覚えのあるその声が会場の空気を一変させた。


「綺麗……」

「ああ、艶美ちゃんの歌だ……」


 私たちとマリン・レヴィアの戦いでパニックに陥っていたはずの観客たち。でも今は艶美さんの歌声に魅了されていた。


 ――ん? 艶美さんの、歌声……?


『マズい! この歌はレヴィアの……!!』


 マリン・レヴィアを殴り飛ばした方へと視線を向ける。するとそこには艶美さんの声で歌うマリン・レヴィアの姿があった――

お読みいただきありがとうございました。

続く第56話も投稿しております。よろしければお読みください。

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