第054話 閉ざされた舞台
マリン・レヴィアの頭上で渦巻く水の塊。ステージを飲み込むほどの大きさへと広がっていく。
「食らいなさい! 渦巻く潮流!!」
マリン・レヴィアの手から放たれる水流の渦が私たちに襲いかかる。……ううん、私たちだけじゃない。ステージ上にいる愛奈さんや立花さんはもちろん、観客席のみんなも対象だ。
『舞桜、スカリオとかいう奴の攻撃を覚えているな?』
『スカリオの……? あっ!』
渦は巻いていなかったけど、スカリオも巨大な水の塊を使って攻撃してきた。確かあの時は竜巻を起こして水を散らせたはず。今回も同じ要領で対処できるかもしれない。
吹き荒れる竜巻を思い浮かべながら両手に力を込めていく。すると両手を中心に空気が渦を巻き始めた。
「は、はぁぁぁっ!!」
手元で渦巻く空気を解き放ち、マリン・レヴィアの渦巻く潮流にぶつける。
「ぐ……ぐ……!」
『もっとパワーを込めて吹き飛ばせ!!』
「は、はい……!」
巨大な水の塊を巨大な竜巻で受け止め、そして散らしていく。会場内に吹き荒れる暴風や降り注ぐ水に、観客たちは悲鳴を上げていた。
「つ、冷たい? これ、本物の水?」
「風も凄かったし、やっぱり夢じゃなくて現実なのか!?」
観客たちの間に動揺が広がっていっている。そんな声が聞こえてくる。
「か、観客のみんなが……」
『気にするな! まだ雨に濡れたようなものだ』
確かに実際の被害はその通りだけど、もし私が今も普通の人間で、観客の立場だったら絶対に不安で、絶対に怖い。きっとずっと震えたり悲鳴を上げてしまっているだろう。
「そんなに観客たちが気になるのー? もっとアタシを見てくれないと……妬けちゃうわねぇ♪」
マリン・レヴィアの軽いのに悪意がこもっている、そんな声が会場に響き渡る。彼女がヒートアップしていっているのを感じる。
――だけど、会場内の空気……ううん、温度は真逆だった。
会場内の温度が一気に下がり、雨のように降り注いでいた水に変化が。一瞬のうちに凍りつき、まるで大きな鱗のような塊に。
それだけじゃない。本来なら重力で落下するはずなのに、その氷たちは空中で静止したままだった。――それは氷たちがマリン・レヴィアの支配下にあることを意味していた。
「風で散らせば防げると思ってたー? このク・ソ・ガ・キ♪」
愉悦に満ちたようなマリン・レヴィアの声。そして彼女の意思に従い、鱗状の氷たちが一斉にこちらへ向かってきた。まるで氷の刃のような攻撃が襲いかかる。
――ザッ! ザッ!
身を守る霊力の膜を。そして頬を、二の腕を、太ももを。氷の刃に次々と切り裂かれる。
「ぐっ……!」
口からは苦痛の声が漏れ出し、傷口からは鮮血が……
流れない。出血はしているけど、その傷口は氷で覆われていた。
「こ、これは……!?」
「だってぇ、出血で早々にくたばられちゃったらぁ……つ・ま・ん・な・い・でしょー?」
――ゾクッ。
狂気に満ちた声。じわじわと相手を追い詰め、いたぶることを楽しんでいるかのような彼女の態度に、寒気が走った。
「り、りっちゃん!?」
そんな私を、さらなる寒気が襲う。
「こ、このくらい、平気や……。愛奈こそケガ、せえへんかったか?」
「私は平気だよ……。で、でもりっちゃんが……!」
いつの間にか意識を取り戻していた愛奈さんたち。それは一安心だけど、マリン・レヴィアの攻撃が立花さんを掠めてしまっていた。これは由々しき事態だ。
「ちぇー。ついでに愛奈も始末できてたら艶美ちゃんも大喜びだったのにー」
軽い口調で、全く悪びれる様子もなく言ってのける“嫉妬”の漆罪魔。
「……なぁーんてね♪ 愛奈とルシフェリア。アンタたち二人は簡単には殺してあーげない♪」
「お前……!!」
お得意の幻影を出すルーシーさん。その声には明らかな怒りがこもっていた。
「ま、愛奈さん! 立花さんを連れて、この会場から逃げてください!!」
これ以上ステージ上にいたら確実に彼女たちを巻き込んでしまう。そんなことは絶対に許されない。艶美さんの身体で二人を傷つけさせるわけにはいかないんだ。絶対に!!
「ハァー? そんなのダメに決まってるでしょー? ……ま、そもそもムリなんだけど♪」
私の決意を打ち砕くように、レヴィアの軽い口調が告げる。だけど無理って……?
「チッ……。舞桜、駄目だ。辺りをよく見てみろ」
「え……?」
舌打ちするルーシーさん。彼女に促され周囲を見回すと、いつの間にか会場の全ての出入り口が氷で閉ざされていた。
「い、いつの間に!?」
「……先程室温が急に下げられた時か」
戦いに集中していて全く気が付かなかった。こうなってしまっては私たちはともかく、生身の人間の立花さんたちではもうどうしようもないだろう。
「逃がさないわぁ。ていうか逃すわけないじゃーん? 愛奈も、愛奈を推すクソどもも、生かしとく価値ないもんねぇ?」
艶美さんが嫉妬していたという愛奈さんだけでなく、彼女を応援していたファンまでも手にかけようとするマリン・レヴィア。
……違う。愛奈さんのファンだけじゃない。ここには立花さん、そして艶美さんのファンだっている。
「……艶美さん。私は最近あなたを知ったばかりの、まだファンとも呼べないただのにわかです」
「……ハァ? 突然何言っちゃってんのー?」
心底呆れたようなマリン・レヴィアの声を、無視して続ける。
「それでも、私はあなたの歌やダンスを観て、頑張る姿に心を打たれたんです!!」
たとえ頑張る道は違っていたとしても。
「だから私は、あなたを止めてみせます。これ以上あなたに、あなたの仲間も、あなたのファンも、傷つけてほしくないから!!」
柄にもなく熱くなってしまった。だけど、そんな私の想いが形になる。
私の身体から溢れ出る力が、燃え盛っていく――
お読みいただきありがとうございました。
続く第55話も投稿しております。よろしければお読みください。




