第053話 マリン・レヴィア
会場の方から聞こえた悲鳴のような叫び。もしかしたらレヴィアが動き出してしまったのかもしれない。
――ゾクッ。
「ッ……!?」
「お前も感じたか」
胸がざわつき、背筋に寒気が走る嫌な感覚――邪悪な魔族の気配。その気配がどんどん強まっていく。
「今会場はどうなって……む?」
私を抱えたままライブステージへ向かうルーシーさん。何かに気付いたみたいだけど……
「ど、どうしたんですか?」
「そこの部屋、会場の様子が観れそうだぞ」
ここまで来たら直接会場に乗り込んだ方が早そうな気もするけど……
でも、ひょっとしたらルーシーさんには何か考えがあるのかも。そう思い、モニタールームに立ち寄ることに。
お姫様抱っこ状態から解放され、二人で部屋の中へ。中に入るとすぐに視界に入ったのは……
「スタッフさんたちが倒れている!?」
「途中で誰ともすれ違わなかったのはこれが原因か」
私たちはすぐに駆け寄り、彼らの容態を確認する。
「……大丈夫だ。意識はないようだが、呼吸も鼓動もある」
「よ、良かったぁ……」
ひとまず安心していいんだよね? でも、ルーシーさんの表情は少し険しいままだった。
「だがこれは……」
「ルーシーさん?」
「命に別条はないだろうが、生命力がかなり弱っているように感じる」
「えっ……?」
それって本当に大丈夫なのかな? そもそも生命力が弱っている原因は何なんだろう?
「チッ、まだわからんことばかりだな。仕方がない、今はやはりレヴィアの方を優先するぞ」
気持ちを切り替え、ルームの中を見回すと、沢山の機材、そして沢山のモニターが。思った通りそれらのモニターで会場の様子が確認できた。
音声も聞こえる。恐らくGracie☆Stellaの三人が持つマイクの音を拾っているのだろう。
『デビライズ!!』
『シン・オブ・エンヴィー!!』
まずい。ちょうどデビライズしているところだ。その瞬間、艶美さんが依代であることが完全に確定してしまった。
「…………」
「艶美を止められるのは私たちだけ。そうだろう?」
そうだ。実際に目の当たりにしてしまい、ショックなのは確かだ。だけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「……行きましょう、ルーシーさん」
「いや、待て」
急いでいたはずなのにどうしたんだろう? まだ何か、ここでできることがあるのかな?
『まずは挨拶代わりよん♪ 私の美声でぇ、アンタたち人間どものみにく〜い嫉妬心を呼び覚ましてあ・げ・る♪』
マイクが拾ったレヴィアの声が聞こえる。心底楽しそうな声で、とても恐ろしいことを口にしている。
「耳障りな歌声だな……よし」
マイク越しに聴こえてくるレヴィアの歌声。それを聞いたルーシーさんが何かを思い付いた様子。何だろう、なんだか嫌な予感が……
「あ、あー。テステス。只今マイクのテスト中。只今マイクのテスト中」
「ちょっ!? 何をやっているんですかぁ!?」
突然、モニタールームのマイクを使って会場のスピーカーに音声を飛ばし始める魔王様。
「いや、一度やってみたくてだな。……というのは冗談で、奴の歌声を邪魔するにはこれが最適だと思ってな」
「もう……。そういうことは先に言ってくださいよ……」
時々、本当に突拍子もないことをするから困る。本当に心臓に悪い。
『今の声はルシフェリア!? ムッキー! 来てるならさっさとこっち来なさいってーの! こんな方法で邪魔してくるんじゃないわよぉ!!』
声でルーシーさんだとわかったらしく、レヴィアがモニターの向こうで怒っているのが見える。
「フッ……。言われなくてもすぐに行ってやるさ。お得意の水魔法で首でも洗って待っていろ」
目一杯煽り、マイクの電源を切るルーシーさん。こんなに煽って平気なのかな……
「聞いていたな? というわけでステージに乗り込むぞ、舞桜!」
少し緊張感が削がれてしまったような、でもおかげで肩の力が少し抜けたような、複雑な気持ち。もしかしたらルーシーさんはこれを計算していたり……?
(……なんてことはない、か。ルーシーさんだもんね)
若干失礼なことを思い浮かべながら、私たちはステージへと向かった――
『いよいよこの先だ。覚悟はいいな?』
「はい……!」
ルーシーさんをソウルダイブさせ、ついに会場へと繋がる扉の前へ。ここを開けたらもう後戻りはできない。
だけどもう、後戻りするつもりなんてない。私たちでレヴィアを……艶美さんを止めるんだから。
「『デビライズ!!』」
『シン・オブ・プライド!!』
「『クイン・ルシフェリア』!!」
身体が光に包まれ、魔王の装いへと変わり、全身に力が漲ってくる。戦いの準備は万端だ。
――バァンッ!!
扉を力強く開き、会場へと乱入。円形のステージへと続くランウェイを一歩ずつ踏みしめていく。
私たちの進む先には一人の魔族。艶美さんのようなウェーブロングの髪をした、一見するとアイドルにも見える女性。
だけどアイドル衣装をよく見ると、鱗のようなものが無数に重なり合ってできているみたいだった。――やっぱりもう、艶美さんじゃない。
「来たわねルシフェリア! さっきはよくも、アタシの“嫉妬心の成長”を邪魔してくれたわねぇ!」
「何の話だ? 私はただマイクの調子を確かめただけだが?」
「ムッキー!」
相変わらずのルーシーさん節が炸裂し、レヴィアの怒りがさらに増しているようだった。
『さっきからそんなに煽って大丈夫なんですか!?』
『ああ。むしろ奴は冷静になられた方が厄介だ』
怒ると攻撃が単調になるなんて話を漫画とかで見たことがあるけど、ルーシーさんの意図はそういうことなのかな?
――ざわざわ……
「な、なぁ、これマジのやつなのか? それともなんかの演出?」
「でも、さっき愛奈ちゃんたち吹っ飛んでたぜ? 演出だとしても事故なんじゃ……」
「それよりあっちの子は何? なんだかすごい格好だけど……」
観客たちの声が聞こえる。考えると羞恥心が増すから考えないようにしていたけど、今クイン・ルシフェリアの姿を大勢に見られているんだった……!
『や、やっぱり恥ずかしいです……』
『そんな場合か。数千人の観客たちを人質に取られているようなものなのだぞ』
『ッ……!』
ルーシーさんの言葉を受け、気合を入れ直すため、両手で頬をパチンと叩く。
「キャハハ♪ ルシフェリアったら、そんな弱そうな依代で、このスーパーアイドル・レヴィアたんに勝てると思ってんのー?」
――ゾワッ。
なぜだろう? 恐怖とは別の感覚で寒気がした。
「……スーパーアイドル・レヴィアたんってお前…………。少しは年齢を考えろ、嫉妬ババア」
「バ……!? ムッキー! もう許さないわよ、このじゃりン子がッ!!」
ルーシーさんの言葉に、言葉を荒らげるレヴィア。相当怒っているのだろう。彼女の怒りに呼応するかのように、彼女の魔力が強まっていくのを感じる。
「この“マリン・レヴィア”様を怒らせたこと、後悔しなさいガキンチョがァァァッッッ!!」
レヴィア改めマリン・レヴィアが両手を掲げると、彼女の頭上に渦を巻く巨大な水の塊が。
「食らいなさい! “渦巻く潮流”!!」
ステージを軽く飲み込むほどの水の塊が私たちに襲いかかる――
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続く第54話も投稿しております。よろしければお読みください。




