第051話 魔王の強行
Gracie⭐︎Stellaのライブ会場にやってきた私たち。チケットがなくても会場内に入れるということで、今は物販列に並んでいる。
『……長いな』
『そうですね……』
さすがは人気アイドル。グッズを求めるファンの数も想像以上だった。
『ちゃんと間に合うんだろうな?』
『お、恐らくは……』
正直経験がないのでわからない。チケットを持っている人でもライブ前にグッズを買いたい人はこちらの列に並んでいるみたいだし、大丈夫だと信じたいけど……
そんな私の考えを打ち砕くかのように、スタッフさんの声が響く。
「開演時間が迫っておりまーす! これ以降はチケットをお持ちの方は物販列ではなく入場列にお並びくださーい! ライブ終了後にも時間は設けてありまーす! そちらで――」
私が並んで数分も経たないうちに、チケットを持っている人は物販列には並べなくなってしまった。私の前の人がチケットを持っていても、安心できなくなってしまったかも。
10分……20分……。時間だけが進んでいっているような感覚に陥りそうになる。
『まだか?』
『も、もう少しです』
ゆっくり、少しずつ進んでいく。並び始めて50分ほど経過したところでようやく入口の辺りまで進んだ。
『時間は……12時50分。あと10分です!』
『どこかからステージ側へ行けないか?』
艶美さん、愛菜さん、立花さん。それぞれのグッズや三人セットのグッズがたくさん並んでいる。会場側へ向かうゲートもあるけど、言うまでもなく警備員さんが立っている。他のところにもスタッフさんが何人もいる。
『どうする? やはりデビライズで強行突破するか?』
『…………』
確かにデビライズならこれだけの数のスタッフさんや警備員さんがいても余裕で突破できると思う。でも……
『け、警備員さんに話してみます』
私は会場側に繋がるゲートの方へと向かい、警備員さんに声をかけた。
「チケットを見せてください」
「も、持っていません……」
「ではここを通すわけにはいきません」
当たり前の対応をされてしまった。もちろん警備員さんはしっかりお仕事をしているだけ。何も責めることはできない。でも私だってここで引き下がるわけにはいかない。
「つ、艶美さんが危ないんです!」
「はい?」
全てを正直に話すわけにはいかないけど、これでなんとか……
「お嬢ちゃん、イタズラなら出て行ってもらうよ?」
……なんともなりませんでした。
「ほらほら、グッズを見終わったなら会場の外へ出てね」
まずい。このままじゃ本当に摘み出されてしまう。私が警備員さんとやり取りをしていると、他のファンの声が。
「わーっ、始まったよー!」
「愛奈ちゃーん!」
黄色い声援や少し野太い声援が飛び交う。彼ら、彼女らの手にはスマホが。そう言えば今日のライブは有料会員なら配信で観れるとトモちゃんが言っていた。きっとそれを観ているんだろう。
『は、始まっちゃいました!』
『……仕方がない。行くぞ!』
行く? どこに? どうやって? デビライズ?
そんな考えが私の頭を巡る。しかし、ルーシーさんの行動は私の想像外のものだった。
心がふっと軽くなり、次の瞬間。目の前に大きな黒い影が現れた。
「ちょっ!? ルーシーさん!?」
「お前がデビライズを渋るからな。ならばこうするしかあるまい!」
まさかの実体化をしたルーシーさん。アイドルライブの物販会場に突如魔王の姿の女性が現れ、現場は騒然と――するはずだった。
「愛奈ちゃんかわいいー!」
「キャー! 艶美ちゃんカッコいいー!」
「立花ちゃーん、こっちのカメラ観てー!」
しかし、多くのファンたちはスマホの配信画面に夢中であまりこちらを観ている人はいなかった。――運営側の人たちを除いで。
「な、なんだ君たちは!?」
ステージ側へ続くゲートを守る警備員さんがこちらへ向かってくる。これはまずい。
「悪いが……」
「きゃっ!?」
急に背中と膝裏に腕を回される。そしてそのまま、軽々と私の身体は持ち上げられた。――お姫様抱っこだ。
私を両腕に抱えた魔王様はそのままゲートの方へと走り出す。
「ここは通らせてもらうぞ!」
「る、ルーシーさぁぁぁーーーんッッッ!!!?」
風の魔法で加速し、一気にゲートを通り抜ける。
「さらばだ!」
「ま、待てー!!」
デビライズを渋る私の代わりに、ルーシーさんが強硬手段に出てしまった。
「る、ルーシーさん!! なんでこんな……」
「人命がかかっているんだ。これ以上悠長なことはしていられん」
それはそうだけど、こんな強引な手段を取ったら後が怖いよ……
「恐らくレヴィアは私たちが来ていることに気付いているしな」
「え……?」
どうしてそんなことまでわかるんだろう? ただの想像?
「無数のポルポッドが放たれている理由をずっと考えていた」
「ポルポッドちゃんの?」
そう言えば突然反応が消えた謎だけじゃなく、街に放たれていた理由もわかっていなかった。
「人心に干渉していたようだが、危害を加えている様子はなかった。それは何故か?」
「…………」
私にはまだわかっていない。だからルーシーさんの言葉の続きを静かに待つ。
「監視目的だ。それなら納得がいく」
「監視?」
「ああ」
無数に放たれたポルポッドちゃんたちが監視をしていた? でも一体誰を? まさか……
「もしも既に私の依代がお前だとバレていたら?」
「ここに来ていることも見られている!?」
――サァァァ。一気に血の気が引いていくのを感じた。
「で、でも、それならどうしてレヴィアは私たちを直接狙ってこないんですか?」
「そこまではわからん。アイツの考えていることなど知りたくもないしな」
私たちの正体や私たちが向かって来ていることを把握した上で攻めて来ずに待ち構えているとしたら。その狙いは一体……?
「どの道行けばわかることだ。嫌でもな」
「そ、そうですね……」
どうかとんでもない作戦を考えたりしていませんように。そう強く願う。
「しかし妙だな。ゲートを越えてから誰ともすれ違わんとは」
「確かに。ライブが始まっているとは言え、スタッフさんすら見かけないなんて……」
いくら本番が始まっているとは言え、誰一人見かけないのは違和感がある。
これもレヴィアの仕業なの? それとも私たちが舞台裏とかに詳しくないだけ?
思考を巡らせる私たち。だけど――
「きゃああああああッッッ!!!!」
会場から届く叫びのような声によって、私たちの思考は遮られた――
お読みいただきありがとうございました。
続く第52話も投稿しております。よろしければお読みください。




