第046話 蒼牙襲来
『恐らく奴は“嫉妬”を司る漆罪魔――レヴィアの手の者だ』
ポルポッドちゃんたちの気配が消えた場所に突如現れた鮫の魔族。ルーシーさん曰く、“嫉妬”を司る漆罪魔の仲間らしい。
「レヴィアって確かルーシーさんによく突っかかってきていたという……」
『ああ。奴め、目障りな私が魔界を去ったというのに、それだけでは不服だったか』
それだけレヴィアにとってルーシーさんは気に食わない存在だった、ということなのかも。でもルーシーさん、過去に一体何をしでかしたの……?
そんなことを考えていると、鮫の魔族の方に動きがあった。
「面倒くせぇ! この辺り一帯、水に沈めてやらぁ!!」
魔族が飛び上がり両手を掲げると、頭上に魔力で作られた巨大な水の塊が。彼の言葉通りならその水の塊で周辺を攻撃されてしまう。
『チッ、短絡的な奴め!』
「と、止めましょう!」
水の塊がどんどん大きくなっていく。あっという間に魔族の身体が見えなくなるほど巨大化していた。
「『デビライズ!!』」
『シン・オブ・プライド!!』
「『クイン・ルシフェリア!!』」
私の身体から閃光が。そして一瞬のうちに姿が変わる。同時に全身に膨大な力が満ちていくのを感じる。
「やめなさい!!」
魔族の前に飛び出ると、彼はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「その姿……。やっと出てきやがったな、ルシフェリア! 待ちくたびれたぜぇ!!」
彼の言葉に呼応し、ルーシーさんの幻影が私の背後に現れる。
「フン、そんなに待たせた覚えはない。お前が短気なだけだろう?」
開口一番、挑発し始めるルーシーさん。恐らく戦いは避けられないけど、それでももう少し穏便に済ます努力はしてほしいところ。
「レヴィアに聞いてた通り、口の減らねぇ女だ」
「フッ、やはり奴の手下か。主に似て騒々しい奴だ」
「手下……?」
手下という言葉を聞いた途端、鮫の魔族の顔が歪んだ。先ほどまではルーシーさんと戦えることに喜びを感じている様子だったのに。彼の顔が一気に怒りの色に染まっていく。
「手下だと……? このスカリオ様が、あいつの手下だと!?」
「違うのか?」
「違う!! 俺はあくまでその方が都合がいいから手を貸してるだけだ!! あいつの下に就いたつもりはねぇッ!!」
部下や手下ではなくあくまで協力者。鮫の魔族改めスカリオはそう語った。
「そうか。まあどちらでも構わん。私たちのやることは変わらんからな。人間界の平和を脅かすつもりなら相手になる。それだけだ」
毅然とした態度で言ってのける元魔王様。その発言を受け、怒りに満ちていたはずのスカリオの表情が少し和らいだ。
「クククク……。人間界の平和、ねぇ。テメェ、本当に人間の味方になっちまったみてぇだなぁ。魔王・ルシフェリアが聞いて呆れるぜ!!」
「勝手に呆れていろ。お前たちがなんと言おうが私の決意は揺るがない」
「そうかよ。なら人間共々、ぶっ殺してやるよォッ!!!!」
言い終えると同時、スカリオの手から巨大な水の塊が放たれた。
スカリオの手から放たれた巨大な水の球。その大きさは見上げれば空を覆うほど巨大で、具体的なサイズ感がまるで掴めなかった。
「こ、こんなのどうしたら……」
『狼狽えるな。この程度ならなんとでもなる』
「本当ですか!?」
『ああ。だから安心しろ』
危機的状況のはずなのに、彼女の異常なほどの落ち着きが私の心を安心させる。
『さぁ、行くぞ舞桜! イメージしろ! あの塊を散らす竜巻を。吹き荒れる暴風を!!』
「は、はい!」
ルーシーさんの指示に従い、巨大な竜巻をイメージする。そして両腕を前方へ突き出し、魔力を込めた。
――ゴォッ!!
私の両腕を中心に竜巻が発生。魔法によって生み出された竜巻と水の球が激突する。
「ぐ、ぐぐぐ…………ッ!」
『もっとだ! もっと力を込めろ!』
「は、はい……!!」
さらに力を込めると竜巻が水の塊を貫通。直後、風の力で水の塊は散らされ、雨のように地上へと降り注いだ。かなりの量の水だったけど、広範囲に散らばったことで大きな被害は回避。最初の攻撃は無事に凌ぐことができたみたい。
「さすがに口だけじゃねぇらしいな」
スカリオの攻撃はかなりの威力があったはず。その攻撃を凌がれたというのに、彼の表情にはまだまだ余裕が見られた。全力には程遠い、ということなのかも。
「そういうお前はどうだ? まさか今のが全力ではあるまい。万が一全力だとしたら、やはりレヴィアの手下が分相応だと評さねばならんのだが……」
「けっ! 今の一撃を防いだ程度で調子こいてんじゃねぇぞ!」
ルーシーさんも私と同じ考えだったみたい。スカリオには余力がある。まだ真の実力を隠しているはずだ、と。
「“蒼の天球”はほんの小手調べだ。今度はこいつで行くぜぇ!!」
スカリオの両腕・両足、さらに背中にある鰭が光り出す。そして次の瞬間、それぞれの鰭から衝撃波が放たれた。
『……ッ!! 舞桜、避けろッ!!!!』
ルーシーさんの声が頭の中に響く。咄嗟にスカリオの攻撃を避けるため、身を反らせた。でもほんの一瞬だけど、反応が遅れてしまった。
――ガクンッ。
私の――クイン・ルシフェリアの纏う魔王の鎧も、一部ではあるけど掠めてしまった。
衝撃で肩や腕が大きく揺さぶられ、痛みが走る。関節が外れるかと思うほどの衝撃だった。
痛みで顔が歪む。痛めた肩を押さえながら周囲に視線を向けると、道路の舗装は抉られ、街路樹は薙ぎ倒されていた。
「ひっ……!」
恐らく霊力による高い防御力のおかげだろう。私の身体がアスファルトのように斬り裂かれることはなかった。でももし防げていなかったら……? そう考えると途端に背筋に寒気が。
「なるほどなぁ、その力が霊力ってやつか。俺の依代にはねぇ、厄介な力らしい」
厄介な力と言うからには彼にとってマイナスのはず。にも関わらず、彼の口元は僅かに緩んでいた。
「魔界じゃいろんな魔族をぶっ殺してきたけどよぉ、手応えのある奴はほとんどいなかったんだ」
強く、拳を握りしめるスカリオ。見ると彼の口角がさらに上がっていた。
「俺の“鰭の斬撃”でも死なねぇ奴が相手なんてよぉ、嫌でも楽しくなってきちまうよなぁッ!!」
スカリオのボルテージが昂っているようだった。彼から感じる魔力が強まっていくのを肌でヒシヒシと感じる。
直後、彼の身体中にある鰭が輝き、再び衝撃波が襲ってきた。一度見た攻撃だ。先ほどよりも上手く回避できる――はずだった。
鰭の斬撃は先ほどより激しさを増し、何度も何度も衝撃波が飛んでくる。その度に間一髪のところで回避を成功させていく。だけどその一方で周囲の地面や壁などは次々に破壊されていく。
『周囲に気を取られるな! 今は回避に専念しろ!』
「は、はいっ!」
返事をしたものの、周囲への被害は無視できない。どうしても意識がそちらへ向きそうになる。
当然ながらスカリオはその隙を見逃さなかった。
「オラオラオラッ!! 余所見なんかしてる暇、ねぇよなぁ!?」
さらに激しさを増した鰭の斬撃に、私の身体はついに捉えられてしまった。
「ぐぅ……ッ!? ああッ……!!」
太腿に受けたのを皮切りに、身体のあちこちに衝撃波が直撃していく。その度に苦悶の声が漏れてしまう。
「こいつで……トドメだ!!」
鰭の斬撃の衝撃で脳が揺さぶられ、まともに身構えることができない。だけどその声だけは耳に届いていた。
直後、私の腹部に鈍い痛みが走った。それは――
スカリオの必殺の一撃が炸裂したことを意味していた。
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