第043話 無数の気配
突然SNSで話題になり始めた謎のマスコット・ポルポッドちゃん。確かに可愛い。だけどSNSでバズるほどなのかな?
この疑問が正しい感覚なのか、単に私の感性が世間とズレているせいで生じているものなのか、正直わからない。
『おい舞桜、バズるとは何だ?』
『えーっと、SNSで話題になる、みたいな意味ですかね』
『なるほどな。こんなヘンテコな奴が人間たちの間で話題になっているのか』
魔族の感覚か、ルーシーさん独自の感覚か。わからないけど、彼女の目にはヘンテコなキャラクターとして映っているみたい。
『確かにちょっと変かもしれませんけど、可愛い……ですよね?』
『そうか? 色鮮やかで目には留まりそうだが……』
どうやらルーシーさんにはあまりピンとこないらしい。そもそも彼女に「可愛い」なんて感覚はあるのかな?
『ふむ、あんなものがなぁ……。人間の感覚はまだまだ理解できん部分も多いな』
『ちなみにルーシーさんはどんなものなら「可愛い」と思うんですか?』
『「可愛い」か。そうだな……』
私の問いに、真剣に悩み始めてしまったみたい。そんなに「可愛い」と感じることが少ないのかな?
『ちなみにグレステのメンバーは可愛く感じます?』
『グレステ? ああ、あの三人組か。そうだな、華やかだとは思うが……。普通はアレを可愛いと言うのか?』
私が肯定するとまたもや彼女は考え込んでしまった。どうやらマスコット的な可愛さも、アイドル的な可愛さも、イマイチピンとこないらしい。ルーシーさんに「可愛い」を理解してもらうのは難しそうだ。
ルーシーさんとの脳内会話もそこそこに、今日も巫女の仕事をこなしていく。悲しいことに今日も境内は静かだ。離れていても手水舎の流れる水音が聞こえるほどに。
『……暇だな』
『そうですけど……仕方がないんです。この時期は閑散期ですから』
都会にある有名な神社ならもう少し参拝客も多いのかもしれないけど、うちは田舎町の神社。閑散期は本当に暇だ。
『何か面白いことは……ん?』
『どうしました?』
ルーシーさんが何かに気付いた様子。一体何だろう?
『いや……気のせいか? 一瞬だが魔力の反応を感じた気がしたのだが……』
『魔力の反応を?』
魔力を感じたということは、どこかに魔族が潜んでいる可能性があるということ。
『でも、私は何も感じませんでしたよ?』
『お前はまだ私ほど魔力の感知に慣れていない。だから微弱なものやほんの一瞬で消えるようなものには気付けないのだろう』
習熟度の差。私の数日程度の経験値とルーシーさんの100年の経験値は段違いだろうし、こればかりは仕方がない。
『……私が感知できなかった理由はわかりました。でも、ルーシーさんでも一瞬しか感じ取れなかったというのはどういうことなんでしょう?』
『考えうる可能性はいくつかあるが……。その前に前提を確認しておくべきか』
『前提?』
私が訊き返すと、ルーシーさんが説明してくれた。
『魔力の感知にはな、対象の魔力の強さと、そいつとの距離が大きく関わるんだ』
『力そのものが強かったり、相手が近くにいると感知しやすい、ということですか?』
『うむ』
大きい音は離れていても聞こえるし、小さい音は近くても聞こえにくい。それと似たイメージかな? そう考えればなんとなくは理解ができた。
『ここまではいいな? それじゃあ本題に入るぞ』
そう言うとルーシーさんは、考えられる可能性を提示し始めた。
一つ目。力は強いものの、物理的距離があまりにも離れている可能性。
二つ目。距離は近いけど、魔力が極めて弱い可能性。
三つ目。「意図的に」魔力の反応を弱め、感知されにくくしている可能性。ルーシーさんも、完全には無理でもある程度ならできるという。
ベルゼたちの気配が事件当日まで感知できなかったのも、恐らくこれが原因とのこと。漫画やアニメで武道の達人が気配を消すイメージに近い……のかな?
そして最後の一つ。ソウルダイブしても完全には隠しきれないほどの膨大な魔力の持ち主の可能性。
もっとも、これは考えにくいみたい。漆罪魔でさえ、普通は感知されない。相当感知能力に優れた者でも、ぼやけてはっきりとは捉えられないらしい。
『まあ、万が一漆罪魔を超えるほどの者が存在し、誰かにソウルダイブしていて、人間界侵略の機を伺っている……なんてことがあったら笑えんがな』
『いやいや、本当に笑えないことを言わないでくださいよ!』
まったく、ルーシーさんの冗談には本当に困っちゃう。どうかこの冗談は冗談のままでありますように。
『ところで、先ほどルーシーさんが感じた反応についてですけど……』
話はルーシーさんが一瞬だけ感じた反応の件に戻る。彼女は4パターンの可能性を提示してくれたけど、実のところどのパターンなのかな?
『微弱な力の持ち主がわざわざ人間界にやって来ているとは考えにくい』
『ということは一つ目と三つ目に挙げたパターンのどちらか、ということですね』
あとはこの二つのうちどちらなのかだけど、こればかりは考えても答えは出ないみたい。いずれもルーシーさんの感知可能な範囲外にいられてはどうしようもないのだから。
『とにかく、もう一度反応をキャッチするまでは何も動きようがないな』
『そうなんですね……』
『魔族が人間界へ来ているのは間違いないんだ。私もいつも以上にアンテナを張っておくさ』
今はルーシーさんの感覚を頼るしかないんだね。私ももう少し役に立てたらいいんだけど……
少々歯痒い気持ちを抱きながら、今日も巫女見習いとして修行を積んでいく。
一夜明け今日は土曜日。今日も神社で巫女の修行という名のお手伝い。平日と同じ時間に起床し、身支度を整える。
でもその前に、心の中の魔王様に朝の挨拶をしておかないとね。
「おはようございます、ルーシーさん」
いつものように声をかける。だけど彼女からの返事はない。
「ルーシーさん?」
最近はルーシーさんも調子が悪い時があった。返事がないと少々不安になってくる。
『うーむ……』
ようやく声が聞こえた。でも何やら唸っているようで私の声がちゃんと届いていない様子。
「ルーシーさん! どうしたんですか?」
『お、おう。すまん、少々妙な感覚がしてな……』
「妙な感覚?」
一体何だろう? 私は特別何も感じないけど……
『昨日感じた微弱な反応。あれに近い反応があるんだが……』
「ほ、本当ですか!? じゃあ魔族が動き出したんですか!?」
もしそうなら、のんびり朝の準備をしている場合じゃない。
『確かに魔族が動き出したんだろうが、なんだか妙なんだ』
「妙?」
先ほどからルーシーさんにしては煮え切らない感じだ。一体どうしたんだろう?
『微弱な反応ではあるのだが、その数が一つや二つじゃない。百や二百じゃきかないほど、多くの反応があるのだ』
「え? そ、それってどういう……」
何百、いや、もしかしたら何千の魔族が人間界に押し寄せているとでもいうの……?
『……わからん。これは街に出向いて確かめる必要がありそうだな』
「これって大勢の魔族が気配を消しながら人間界に潜伏しているかもしれないってことですよね!?」
『まだ何とも言えん。だがその可能性もある。考えたくはないがな…………』
もし本当に、強い力を持った魔族たちが一気に人間界にやって来ていて、そして気配を消しながら人間界に潜んでいるとしたら……
人間界に、かつてないほどの危機が迫っているのかもしれない。
私たちの間に緊張が走る。急いで身支度を整え、私たちは街へと向かった――
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続く第44話も投稿しております。よろしければお読みください。




