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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第3章

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第042話 可愛さの裏に潜むもの

『絵馬を落としたのが昨日配信で観た艶美で、愛奈を蹴落とそうとしている、と』

『はい……』


 信じたくはない。だけど、マスク越しでもわかるほど透き通った綺麗な声。隙間から見えたライトブルーの髪。そして絵馬の内容。私には艶美さん本人としか思えなかった。


『しかしGracie(グレイシー)⭐︎Stella(ステラ)とやらは人間の中ではかなり名の知れた連中なのだろう?』


 人間界というと広すぎるけど、日本の、特に若者の間では有名で大人気なのは間違いないだろう。


「恐らくは。でも、それがどうしたんですか?」

『こう言ってはなんだが、そんな有名な奴が数ある神社のうち、ピンポイントでこの神社を選ぶものか?』

「ぐっ……! く、悔しいけど反論できない……!」


 確かにルーシーさんの言う通りだ。日本には数多くの神社が存在する。当然うちよりも都心に近いところにも。

 それなのにわざわざうちの神社を選ぶ理由なんて思い当たらない。すごく残念だけど。

 そう考えると彼女は本物の艶美さんじゃない。そちらの方が納得がいく。


「でも、偽者だとしたら一体何のために?」

『詳しくは知らんが、人間の中にはアンチ行為というものをする連中もいるのだろう?』

「え、ええ……。風茉さんの時にもありましたしね」


 すごく怖いし、酷い話だと思う。たとえ本人が真面目に頑張っていたとしても、有名になれば避けられないというのだから。


『例えばの話だが、この辺りに住んでいる愛奈のアンチが艶美に罪をなすりつけようとした、とかな』

「そんな……」


 愛奈さんも艶美さんも傷つける悲しい行為だ。偽者の場合でも嫌な気持ちになってくる。


『ただ……お前が本物だと思うのなら、一旦その方向で考えてみるか』

「…………」


 正直どちらのパターンも考えたくはない。だけど、誰かがうちの神社で絵馬に『愛奈を蹴落とせますように』と書いたのは事実だ。


「仮に本物の艶美さんだったとして、どうしてあんな願いを? 『努力の鬼』とまで言われているような人が、他人を蹴落としたいと願うなんて……」

『いや……()()()()()かもしれんぞ』

「えっ……?」


 努力家だからこそ? 私にはよくわからない感覚だ。


『人一倍努力しているからこそ、自身の理想と現実とのギャップを痛感する。そのギャップが自分の中だけで完結するのならまだ良いんだろうが……』

「理想と現実のギャップ…………」

『報われない努力は時に強い負の感情を生む。艶美の場合、その感情の矛先が「天才」と称される愛奈に向いてしまっている、ということなのだろう』


 素人の私からすれば艶美さんだって十分報われているように見える。だけど、ストイックな彼女は現状に満足していない。

 Gracie⭐︎Stellaのセンターとして一番目立ち、最も人気を集めている愛奈さんに嫉妬している、ということなのかな……


 まだファンを名乗れるほど彼女のことは知らない。だけど配信を観て、魅力を感じていた人物の隠された黒い一面を目撃してしまった……かもしれない。


 正直ショックだった。巫女とアイドル――目指すものは全く違う。だけど必死に努力し、報われている姿を見て、少なからず勇気をもらったんだ。

 だからこそ見たくなかった。知りたくなかった。彼女の心の中の黒い部分なんて……


『まあそう落ち込むな。あくまでまだ「かもしれない」だ。本人と決まったわけではない』

「……そう、ですね…………」


 ……そうだ。まだ私の勘違いの可能性がある。むしろその可能性の方が高いんだ。


 ――今は信じよう、艶美さんのことを。




 翌日。学校での話題はまたGracie⭐︎Stellaについてだった。


「今度の日曜の午後、グレステのライブツアーの有料生配信があるんだけどさ、アタシん家で一緒に観よーぜー」

「えっ? トモちゃんのお家って有料配信も観れるの?」


 有料チャンネルを契約するとアーティストのライブ中継が観られたりするらしいし、もしかしてトモちゃんの家も契約しているのかな?


「アタシん家ってかアタシがグレステの有料ファンクラブ会員になってるから、アタシと一緒なら会員限定のネット配信が観れるって感じ」

「そ、そうなんだ」


 ハマったとは言っていたけど、まさか有料会員にまでなっているとは思わなかった。会員になるのにどれくらいお金がかかるのかわからないけど、こういう時の思い切りの良さはトモちゃんらしいかも。


(でも、ライブ視聴のお誘いはどうしよう?)


 艶美さんの黒い部分を見てしまったかもしれない今、心からライブを楽しめるかな? それに……


 休みの日にトモちゃんの家で彼女と二人きり。昔はよく遊びに行っていたけど、最近は全然だ。

 それに、何より今はルーシーさんのことや変身して戦っていることを内緒にしている。長時間二人きりになるのは今は気まずい。


「う、うーん……。最近神社のお手伝いがあまりできていないから、今回は遠慮しておくね」


 結局言い訳をして断ってしまった。ごめんね、トモちゃん。本当は神社の手伝いだけが理由じゃないんだ……


「ちぇー。ま、神社の手伝いじゃしょうがないか。でもたまにはうちにも遊びに来いよー?」

「う、うん……」


 トモちゃんは変わらず優しい。だけど今はこの優しさが苦しい。胸が締めつけられるんだ。


 正体を隠し続ける後ろめたさから解放されたい気持ち。明かして心配をかけるのは避けたい気持ち。相反する二つの気持ちが私を苦しめる。


 トモちゃんの誘いを断った私は、今日も重い足取りで神社へと向かう――




 放課後。いつも通り神社へやって来て、いつも通り巫女装束に袖を通す。


『お前のその姿も見慣れてきたな』

『「見飽きたから他の服を着てみろ」なんて言い出したりしませんよね?』


 一応冗談のつもりで言ってみたものの、ルーシーさんなら本当に言いかねないかも。

 だけど、彼女の反応は予想とはだいぶ違っていた。


『……お前は私を何だと思っているのだ?』


 少し不機嫌そうな声。怒っているというよりは呆れているような声色だ。


『え、えっと、その……。ルーシーさんは日々新しい刺激を求めていそうなので、見飽きるのも早そうだなーと思いまして…………』


 誤魔化すこともできたと思う。でも今は正直に答えてしまった。


『まあそれは否定しないが……』


 そう前置きして彼女は続けた。「否定はしないんだ……」と思ったのは内緒にしておこう。


『巫女装束はお前の正装――つまり私の魔王の装束に相当するものだろう? それを見飽きたなどという理由で変えろとは言わん』


 普段の破天荒な言動とは異なり、こういうところは本当にしっかりしているな、と感心させられる。


(私の巫女装束とあの露出度MAXのビキニアーマーが同じ扱いなのはちょっと納得がいかないけど……)


 そこはもう人間と魔族のセンスの違い。そう思って受け入れるしかなさそうだ。


 着替えを終え、境内へ向かおうとする私。そんな私を呼び止める声が。振り返るとそこには巫女の先輩である古都音さんの姿があった。


「舞桜ちゃん舞桜ちゃん! ちょっとこれ、見てもらえない?」


 そう言って差し出されたのは1台のスマホ。派手なデコレーションはされていないけど、可愛らしいピンク色のカバーに包まれている。


 それにしても、いつになく彼女のテンションが高い気がする。こんな風にスマホを見せてくるのも初めてのことだし。一体どうしたんだろう?


「舞桜ちゃんもこれ、可愛いと思うわよね!?」


 彼女が見せたかったのはスマホ本体やカバーのデザインではない様子。となれば当然、画面に映っているものだ。


「え、えっと……」


 古都音さんの勢いに少し気圧されながらスマホの画面を覗き込むと、そこにはマスコットキャラクターらしきものが映っていた。


 茶色い壺に入ったデフォルメされたタコ。色はイラストでよく見る赤だけでなく、黄色や水色、緑や紫など非常にカラフル。確かにちょっと可愛いかも知れない。


「そ、そうですね。私も可愛いと思います」

「でしょう!? ほらね! イマドキの女子中学生だって可愛いと思うデザインなのよ!」


 神主の瞬さんに対し、力説する古都音さん。だけど瞬さんの反応は渋い。


「イマドキの女子中学生と言っても、舞桜ちゃんだしなぁ……」


 あれ? なんだか今、すごく失礼なことを言われたような……?


「ま、まあ確かに、舞桜ちゃんは流行にはちょっと疎いかもしれないけど……」

(え、えぇー……)


 瞬さんだけでなく、古都音さんまでそういう認識だったと発覚し、人知れずショックを受ける私。


「で、でも、みんなが可愛いと思うものに共感できる感性は持っているはずよ! ねぇ、舞桜ちゃん?」

「えっ!? た、たぶん……? 持っていると……思いたいですけど…………」


 犬や猫を可愛いと思うくらいの感性で良ければ持ち合わせている。だけど、いわゆる「ブサカワ」や「キモカワ」みたいなものに可愛さを感じることができるかは正直自信がない。


「とにかく! この“ポルポッドちゃん”は可愛いの! こういう女の子にウケるものをちゃんと勉強してからモテたいとか言いなさいよね」

「ぐぬぬぬ……」


 古都音さんの言葉に、悔しそうに唸る瞬さん。反論の余地は残っていなかったみたい。


(それにしても瞬さん、モテたかったんですね……)


 てっきり配信者やアイドルみたいな、女性有名人にしか興味がないものと思っていた。


「ところで古都音さん。このポルポッドちゃん? って一体何なんですか?」


 デザインは可愛いと思う。でも初めて見るキャラクターだ。一体どんな子なんだろう?

 気になった私は古都音さんに尋ねてみたけど、彼女からは思わぬ答えが。


「それがね、私も詳しくは知らないの。ただSNSで凄く可愛いってバズってて……」


 気になって調べてみたけどよくわからなかった、とのこと。急に騒がれだしたからネット上でもまだ何のキャラクターなのか、特定できていないのかな……


 突如SNSで話題になり始めた謎のタコ型マスコット・ポルポッドちゃん。この子が招くのは幸福なのか不幸なのか。この時の私はまだ知らない。知る由もなかった――

お読みいただきありがとうございました。

続く第43話も投稿しております。よろしければお読みください。

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